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「派遣労働」は何が問題か

2009年01月14日 13時55分39秒 | 社会全般
経済界のお偉いさんたちというのは、要するに何も考えていない、ということが明らかになっただけである。唯一あるのは、自らの強欲のみ。今後、各企業ごと、派遣会社ごとで、切られた従業員の数を一覧表にして、公表したらいいよ。リストラされた正社員の数も出したらいい。どこかの新聞か雑誌で特集を組んでみたらいいと思うよ。

阿漕な企業の製品は、今後ボイコットするということで、不買運動を続けるといいんじゃないかなあ(笑)。労働者運動の人たちは、雇用がどうの、とか言わないで、「社員を○○人切り捨てた××という会社が作っている製品です」という商品”宣伝”でもやってあげたらいいですよ。


参考記事:

派遣は悪か?

続・派遣は悪か?


以前に書いた通りですよ。
派遣自体は、必ずしも悪いというわけではない。労働力の不均衡というか、アンバランスを改善する効果は期待できるだろう。けれども、仕組みそのものが悪くなくても、運用に問題があれば、色々と問題が発生してくるだろう。

また例で考えてみる。
今、ある企業があって、生産物を製造している。価格100の製品を1000個作る。賃金はWで労働者数がNとしよう。

①「生産量が減らない」なんてことはない

現実世界では本の理屈通りにはならない。これまで1000個生産しているなら、次の期にも1000個生産するってことにはならない。経済学の理屈に出てくるのが、生産量が変わらずに価格が変動する、というのがあるが、普通はそんな場合ばかりではありません。製品が売れなくなれば、需要が600個とかに減少してしまうことはあります。今の自動車業界みたいなもんですね。

価格が高すぎるからだ、という意見はあるかもしれません。これまでの価格100ではなく、50に下がれば需要量は1000のままですよ、ということであるとしても、製造原価が80とかであるなら売れば売るほど赤字が拡大していくので、誰も50でなんか売ろうとしません。つまり供給側の受け入れられる価格というのは下限があるのであって、単純に「需給で決まる」とかいうことにはならないでしょう。製造原価を下回ってまで供給するくらいなら、売らない方がマシに決まっているじゃありませんか。製造原価80である時、価格50で1個売るとマイナスが30ですが、10個売ればマイナス300ですから(笑)。それなら、何もせずに売らない方がよい、ということになります。赤字でも処分したい、という場合には、在庫の保管費用がかかるとか、とりあえず目先の金が必要ということで、新たには製造しないが抱えている在庫だけ金に換えたい、みたいな場合でしょうね。


②「雇用量を維持したまま賃金が下がる」とは限らない

価格が伸縮自在であって50に下がると賃金がWからwに変化し、生産量1000と雇用量はNのままでいいですよ、ということが数字の上では成立するとしても、現実にはそうした変化は起こらない。今のような状況になると、企業側が価格を90に下げても需要量が1000から600に落ちているので、600個分の生産力だけを残そうとする為に雇用量Nを削ろうとするわけなんですよ。賃金Wをいくら引き下げようとしても、例えばこれまで月給30万円だった人をいきなり15万円とかにできないでしょう?
価格50なら1000個売れるという時の賃金wに変更しようとしても、現実世界でそれが受け入れられることはほぼないわけなんですよ。特にwの大きさが生存を下回る賃金であると、誰も受け入れられなくなってしまいます。
家賃3万円と食費2万円が最低限必要であるとして、賃金の大きさが1万円となってしまう場合、これを受け入れられますか?

そういう調節は普通は有り得ない、ということなんですよ。リーマン破綻後に高給取りが大勢辞めていったように、賃金が大幅に下がる場合には労働者が引下げを受け入れられず他へ行く、ということが起こるわけです。そうなると、必要な雇用量を維持することができなくなる場合には賃金を引き上げざるを得ない、ということになります。この時労働者が見るのは他企業の賃金です。

恐らく、価格が下がれば需要量は維持でき(不変)、そうなると賃金が下がって調節される、なんてのは、極めて狭い範囲での調節能しか持たないでありましょう。価格が100から95へ、賃金はW→0.95×Wへ、というような場合でしょうね。つまり賃金の5%カット、ということですわな。こうすると、雇用量はNのままですね、という話だ。けれどもそれは、1000個売れなけりゃならないわけで、商売というのはそんなに甘くは無い、ということでしょうね。価格が50なら1000個売れますよ、というのも、原価が80である限り、誰もそんな価格では売らない。下限値を下回る価格設定というのは、原則有り得ない。また賃金低下率がある限界を超えていると、働いてもいいという労働者はいなくなる。だから、賃金の引下げ幅にも、自ずと限度がある。


③需要が大幅に減少する時に働く調節

上記①と②に述べたように、需要が大幅に落ち込むと生産量が必要なくなるので、1000個分の生産力は過剰ということになる。価格がいくら下がっていっても、原価割れにはできない。そうなると、価格をギリギリの80とした時には、需要量(=生産量)が700個、賃金はWから0.9Wへ下げた(10%カット)としても、雇用量がNでは多すぎる、ということになるのです。この時、雇用量を削減する為にリストラや派遣労働者を切るということが行われてしまう、ということになります。

ここ暫くの需要動向を見れば、大体基準となる水準が700個くらいで、雇用量はそれに応じた雇用量N0もあればいい、ということであるなら、たまたま人気が出て需要が増加して1000個になったとしても、300個分の生産能力は「臨時的」なものであるので「N-N0」分の労働力を派遣で賄いたい、ということがあってもそれはそれでも有り得る話でしょう。

しかし、多くの製造業を中心とする企業では、生産能力として必要な雇用量がN0よりも少ない正規雇用 nで手当てし、残りの「N0-n」分を最初から非正規雇用で賄っているわけです。で、需要が伸びてきても、正規雇用 nを変えずに非正規雇用を増加させ、Nまで増やしてきたのです。つまり大体基準となる700個を生産する雇用は本来N0分だけ必要なはずが、ここの時点で既に正規nとそれより安い非正規とで分けてあるのであり、生産量の増加分はほぼ非正規を増やすことで対応してきたのだ、ということに大きな問題があったのです。


④どうして企業はこんなことをするのか?

元を辿れば強欲だから、です(笑)。株価を上げて欲しければ、「外人に買わせろ」「株主にたっぷり配当しないから外人は買いたがらないんだ」と文句を言われてきたわけです。特に輸出系企業は「外で商売」をしているわけで、製品の買い手が外人主体、株主も外人主体、利害一致も外人主体、ということで、猫も杓子も何でもかんでも「ガイジン重視」に傾いたというわけです。それが間違いの始まりでしょう。

根本的には派遣労働者の賃金が「安いはずだ」という企業側の思惑とか、派遣会社の搾取とか、そういった様々な悪い部分が出てしまっているのです。常用雇用ではないという労働力なのですから、その分だけ上乗せされる部分というのが出ても当然なのですけれどもね。賃金体系とか、考え方に大きな問題があるものと思います。大体、ある仕事に精通していて数多くの経験を積んでいるような人たちならば、仕事師集団みたいにして現場を渡り歩くというようなことの意味はあるのですが、新兵みたいな「ひよっ子」クラスを大量に「派遣労働力」としてプールしておくというのは、そもそもオカシイわけです。


⑤派遣労働は禁止すべきか

偽装請負とかに見られるように、企業側は阿漕な手をいくらでも考え出して実践してくるので、脱法をものともしないような体質が大企業全体に滲み込んでいる傾向はあるのではないかと思います。これは労働問題に限らず、もっと広い範囲で見られてきたことです。談合や闇カルテル、様々な隠蔽工作とか、暴利な金利とか、要するに企業というものは「金の為なら、どんな汚い手でも使う」ということですね。大企業だから信用できる、とか、そういうことではないでしょうね。

なので、性善説に立つということはまず諦めるべき。そもそも企業は政府や労働者や人々を騙そうとするものだ、ということを前提として考えるべきでしょう。

ルールはできるだけシンプルなものが良いでしょう。
基本的には、労働力の調節能を企業側から奪うことは、あまり望ましくはないでしょう。社会的責任を果たせ、みたいな大義名分なんて経団連幹部とか経営陣のボンクラ頭には届きませんよ。そんな生ぬるいスローガンには、一ミリの効果もありませんぜ。調節はしてもいいですよ、ただしそのコストは負担せよ、ということになっていればいいのです。切られる派遣労働者たちは「明日から生きていけない、食べることができない」という状態になることが問題なので、それを防げる仕組みになってさえいればいいわけです。企業側がどんなに内部留保を積み上げてきたからといって、それを哀れな労働者に使え、なんて言ったって、全く無意味ですから。

なので、企業側から強制的に徴収するべき。
保険制度というのは、その為にあるのではありませんか?
派遣労働者にも保険制度がきちんとあれば、切られたって「次が見つかるまで」生きていくことができるわけです。そういう制度になっていないことが問題で、企業側が労働力を調節することをできなくすると解決するというわけではない。

そもそも労働保険というのは、そういう制度になっているではありませんか。雇用主が半分以上を負担、労働者も一部負担、国もごく一部負担、ということで、関係者たちが揃うようになっているわけですよ。これが派遣労働者には与えられていないということになるから、問題なわけで。


⑥派遣労働者の保険を整備せよ

ということで、派遣労働力を利用する企業からは、給与の一部を保険料として強制徴収します。派遣会社は、派遣先を見つけられないということに落ち度があるわけで、残りを派遣会社が保険料負担とします。派遣労働者は負担しません。派遣先さえ見つけてもらえれば、労働者はそこに行くわけですからね。どれくらいの保険料を徴収すべきかは判りかねますが、労働力調節を頻繁に行う必要性があるのであれば、移動のコストが嵩むので、その分多く負担してもらうことになりますね。所謂従来の正規雇用者と派遣労働者との比率から保険料の徴収率を変えた方がいいでしょうね。派遣比率の低い企業というのは常用雇用者が多いわけで、そうすると雇用形態としてはそちらが望ましい、ということですからね。

算出式の例を書いてみます。

・企業側:

派遣労働者賃金×0.02×派遣労働者数/常用労働者数×業種係数

※業種係数:これは業種ごとに常用雇用の比率が高い業種や、利益率の高い(=内部留保として積み上げている)業種などで係数を作成し、若干は調節すべきかな、ということで入れてあります。

賃金が20万円、派遣労働者が100人、常用労働者が400人、業種は自動車業界で係数が4とします。すると、
20万円×0.02×100/400×4=4000円
となります。これが派遣労働者の次の派遣先が用意されるまでの収入原資となります。

・派遣会社:

派遣手数料収入×0.005×登録労働者数/実働派遣労働者数

月毎にそれぞれ計算して保険料を出せるのではないでしょうか。登録者数と実働人数の乖離が大きい派遣会社ほど、回転率が悪いので(労働者に新たな派遣先を用意していない、ということ)、それだけ待機する確率が高くなってしまうでしょう。そういう派遣会社は保険料が高くなります、ということ。直ぐに次を用意する派遣会社ほど、登録人数と派遣先で実際に勤務している実働人数との差が小さくなるので、保険料率は低くなっていきます。登録人数ばかり多くして派遣先が少ないというのは効率が悪いだけなので、その分保険料を多く払うべきです。


このようにして、派遣を使う企業と派遣会社が「派遣労働者が切られてしまった場合」の補償を分担しておけば、派遣切り騒動のようなことにはなりません。賃金水準に応じて、次が見つかるまでの間の収入が確保され、労働者はきちんと生きていくことができます。企業の事情は個別に違いますので、どうしても雇用調節の必要な企業が出てきてしまうのは防げないわけですから、その「保険」ということです。リスクを分担するのは、派遣労働力を使う企業と派遣先を見つける義務がある派遣会社、ということです。


⑦派遣労働者の賃金体系についても工夫があるべき

企業側としては、優秀な労働者には長くいて欲しい、というような希望があったりするのではないかと思います。どうしても、という人については常用雇用にしてもらえるといいと思いますけれども、そこまで踏み切れない場合なんかもあるかもしれません。派遣労働者も企業も「望んではいないのに」次の派遣先に強制的に移動させられてしまう、というような場合があるかもしれません。そういうのはもっと緩和していった方がいいのではないかと思います。あれだ、病院のベットが期間毎で診療報酬が変わるということで、短期入院扱いにする為に患者があちこちを回転させられてしまう、みたいな話と似ているかな。

もし自分が企業側である時、派遣労働者の中に「この人は優秀な人なので、できるだけ長くいてもらいたいな」と考える人がいるとすれば、ちょっとくらい他の派遣の人よりも賃金を多く払ってもいいと考えるのではないかな、と思います。そうすると、そういう「いい派遣労働者」であれば、賃金に上乗せしていく金額を増やせるようにした方がいいと思います。派遣先で頑張れば、賃金が上がっていくということがあると、派遣労働者だって嬉しいでしょう。
なので、例えば3ヶ月毎に上乗せ分を増加させるというシステムになっている方がいい。派遣労働者は実質的に常用労働者たちと同じ仕事をしながら、賃上げにはなっていかないしボーナスだって特別もらえるわけじゃない。失職のリスクばかりが高くて、メリットがまるでないのだ(判っていてなっているんじゃないか、みたいな意見は論外)。

経験年数などや能力によって、賃金のクラス分けもきちんと公開情報として出すべきではないか。職種別で能力の高い人は多く貰える、という制度であるべきだ。


⑧訓練の場を用意するかコストを負担させるべき

今回の製造業を中心とする派遣切りの嵐の一方では、求人の多いサービス業界などはあるわけです。こういう不一致がある時には、どうしてもこれまで製造業だけをやってきた人は他の業種には自信がないので移り難い、といった問題が出てくるでしょう。業種間において移動の障壁があるから、ということですね。

確かに派遣労働者というのは、どちらかと言えば熟練者には意味があるかもしれないけれども、そうではない労働者にとっては技能が上がるということでもなく、賃金が高いわけでもないので、有利な部分は殆どない。

要するに「捨て駒」として、企業が自由に消耗してゆくというだけ。
これを改めさせる必要がある。