いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

原油の09年需要予測

2008年12月06日 18時55分59秒 | 経済関連
供給能力が足りないからだ、とか言っていた人たちは、どう説明をつけてくれるのか、非常に興味がありますね。


Bloombergcojp 日本

12月5日(ブルームバーグ):国際エネルギー機関(IEA)は、世界経済の減速を理由に、2009年の世界石油需要見通しを下方修正した。
IEAは、来年の世界石油需要見通しを11月時点での予想から日量17 万バレル引き下げ8637万バレルとした。

=====

今年の中国の原油輸入量は、1~10月で前年同期比約10%増だそうです。累積で約1.5億トンですので、ざっと1350万トンくらいは増加したわけです。
で、今年の原油価格高騰時には、OPECで増産という話が出されましたが、サウジ以外は反対し、価格下落となって以降は逆に150万バレルの減産になってしまいました。

中国の輸入量が「10%も」増加したのに?(笑)
また減産?

おかしいですね。
「需要が増加しているからこそ、原油は高騰するんだ」という理屈を言っていた人たちは、今年の需要量が昨年とほぼ同じか、増加しているということについて、どのように説明するのでしょう?

上のIEAの見通しとかデータが誤りが多すぎるのだ、ということなら、それはそれでいいでしょう。信頼のできない、いい加減な数値やデータを出す機関なのだな、と思えばいいだけですので。

そこそこ信頼できる、ということなら、07年より増加率は鈍化し、08年はほぼ同じ水準の日量8619万バレル、という数字も、そういう水準の数字なのだな、ということが判るでしょう。

需要が同じか僅かに増大し、供給は「減産」によって減らされたのだから、普通に起こり得る現象というのは何か、ということなんですよ(笑)。

ええ、ええ、そうですね、「価格上昇」なのですね。


ところが現実には、大幅に下落していってるわけです。それは何故か?
供給に見合う需要がないから、ということでしょうね。供給側は生産調整してまで価格を上げようとしているにも関わらず、原油価格は大幅に下落している、ということです。「中国の輸入量が増えた」のに、です。

中国やその他新興国が買っているからだ、ドルが安くなったからだ、米国の在庫が減ったからだ、とか色々と言っていたわけですが、今の原油価格下落を説明できる要因が一つでもありますか?(笑)


来年は、11月時点の予測が8654万バレル、その後僅か1ヶ月で8637万バレルという下方修正だそうです。ここ数年は伸びがほぼ止まる、ということですかね。まあしょうがないでしょうな。

需要がほぼ同じくらいで、供給が減っている(OPEC生産だけ見れば)のに価格が下落するとなると、それはどういった需給バランスで価格が決まっているのか、ということですわな。謎なんですよ。
あくまで需給だ、と主張していた人たちならば、きっとうまく説明できることでしょう(笑)。


少し離れますが、幾つか疑問があるのですね。

・元からある産油国以外に巨額投資をして新たな油田を見つけるのは、どうしてなんでしょう?

例えば日量100万バレル分をアップさせるとして、サウジの設備増強には100億円、別な何処かの国の海底油田なら1兆円が必要、という時、誰がどう考えても100億円で済ます方がお得だ。なのに、どういうわけか、非OPEC国以外の国に多額投資をして新たな油田開発をするんですね。安い方がいいじゃないか、と思うのが甘いのでしょうか?

持ち主(例えば産油国)が嫌がるから、とか、拒否するから、といったことなのでしょうか?
それとも、既存の産油国の油田に必要な投資額と、新たな油田開発に投資するのがあまり変わらないから、ということなのでしょうか。ちょっとよく判らないんですがね。


・産油国自身が何故巨額投資を行わないのか?

普通の企業であると、例えばある「おもちゃ」がバカ売れで、需要が大きく上回っており、長期的にその需要は毎年増大していく、という予測が立っているものとしましょう。そのおもちゃは特定の企業にしか作れません。

こういう時、おもちゃを作る企業は、生産体制をこれまで1日100個体制だったものを、大幅に生産体制を強化・向上させ1000個体制にする、といった設備投資を行うことが多いんじゃないのかな、ということですね。どうして生産体制を強化するかというと、儲かるから、ということでしょう。いや、儲けたい、ということか。
折角売れるチャンスがあるのだから、100個だけ売るよりも1000個売って利益を多くしたい、と思うのが人情ってものでは(笑)。

なのに、どうしてなのか判らないのだけれど、不動産とかホテルとか金融とか、そういう多角化に巨額投資をして、元からある油田や設備にはあまり投資していないんですよね。新たな油田を自国内に発見する、ということも、あんまりやらないわけです。今後「価格は上昇していく、需要量は増加していく」という確かな見込みがあるのであれば、それは儲けられるチャンスがやって来るのだから、生産体制を強化しようとするのが「経済原則」なんじゃないでしょうかね、という話です。

あれだ、大麻を栽培して捕まっていたような大学生なんかも、そういう点でいうとおんなじだよね。1本の苗木を栽培するよりも、10本とか100本とか多く栽培できる生産体制に強化しようとするのが、誘引というかインセンティブが働くということでしょう。


それならば、資金を持つ産油国は自国内の新規生産能力増強の為に、設備投資を行いたい、と考えるのが普通なのでは?なのに、どうしてなのか判らないけれども、長期戦略として「原油生産」に投資するよりも、全然別な分野とか異業種に多額の投資を行っているわけですよ。それは儲からないと考えているから、なのではありませんか?(笑)

ヒマワリの種を生産する為にヒマワリを植えて育てようとするのと、大麻を栽培して育てようとするのと、捕まった大学生たちは選択できたわけだけれども、誰も「ヒマワリの種を生産するので、育てていました」という人はいない(多分、だけど。聞いたわけではないから、不正確)。つまり、ついつい儲かる方を選択してしまう、ということなんですよ。

ならば、原油生産設備に巨額投資をしない理由というのは、普通に考えると長期的展望としては「儲からないから」ということくらいしかないのでは。


まあ、色々と謎といいますか、判らないことだらけでございます。




情報が錯綜しているみたいですけど

2008年12月04日 21時14分41秒 | 外交問題
ムンバイ・テロの続報みたいなことらしいですが、今度は空港が襲われるかも、という秘密情報がもたらされたらしい。

テロ情報で空港警備強化 インド - MSN産経ニュース

PTI通信によると、インド国内の主要空港を狙ったテロが近く起きるとの秘密情報があり、治安当局はニューデリーとバンガロール、チェンナイの3空港で3日夜から警備を強化した。

=====


なんと言いますか、絶妙のタイミングではございませんか。きっと偶然に過ぎないでしょうけど。


昨日書いた記事に「空港を狙う方が確実だ」とか書いたのですが、まさかそれを真に受けたのではありますまいね?(笑)
わたくしはテロリストではありませんから。ただ一般論として、ホテルの部屋とかを隈なく調べるのは手間がかかって大変だけど、一箇所に固まっている「場所」は誰がどう考えても判りやすいよね、という話をしただけです。


それにしても、急に秘密情報が来ました、って、それはどうなんだろうね?
いや、きっとCIAみたいな機関(インドにあるかどうかは知らない)が、秘密情報を手に入れました!、みたいに懸命にやっているんだろうけどさ。

まさか秘密情報の情報源とかが、ウチみたいなマイナー寂びれブログ記事だったら、笑えるけど。まあ、間違ってもそんなことはないだろうから、一般人なんぞは知らないような秘密組織が仕入れてくれたんだろう。


そうかといって、ウチのブログで妄想しているレベルとあんまり違わない、ってのも、それはそれで虚しいような気もする。

ホントに確度の高い情報源なの?
どっから来た情報?
外国の機関からの情報提供?

何となく、胡散臭いような。


自分だったら、どうすると思う?
6日という過去の因縁がある日だとして、その日を狙って計画していたのなら、最初からその日を実行日に選ぶだろう。成功する蓋然性は高くなることが予想されるからだ。しょっぱなが一番無防備状態なんだもの。

26日にやって、次は6日、というような連発する計画であると、警戒態勢がとられてしまう可能性が高くなるのは目にみえており、街中に警官たちがうじゃうじゃ出るというのも容易に想像がつくので、6日の実行は厳しくなるだろう、ということが事前に推測されてしまうからである。なので、普通の感覚なら、26日は諦めて、6日の本番に賭けるだろうと思う。

実際、26日のテロ実行は、案外といい加減な行動パターンだったにも関わらず、難なく成功できたでしょ?しょっぱなのテロを防ぐのは、「完全な事前情報」とか「捜査で犯人グループ割り出し」のような完璧な場合だけ。普通は、テロを全て封じることなど無理。日本でもわけの判らん爆弾製造のバカみたいなのが数ヶ月前に捕まっていたけれども、こういう人間が内部に生まれてくること自体は、完全に防ぐことはできない。本気で実行されたら、できてしまうよ。
しかし、2回目以降になると、警戒されてしまうので、実行困難となっていく。「9.11」テロだって、初回だからできただけで、それ以後似たようなテロは実行することが極めて困難になったでしょ?現実にも起きてないわけですよ。そういうようなものだ、ということ。

そうなると、もし6日が本当のターゲットだったとするなら、まずそちらを最優先することを考える。事前にやるとしても、全然別の場所を狙うだろう。例えば、インドではなく近隣国とか、もっと全然違う米英以外の先進国とか、そういう場所を狙うだろう。それは本当の狙いを隠すには丁度良い、というターゲットでなければならないだろう。今のところ、そういう感じには外見的には見えないけれどもね。


ま、警戒しておくに越した事は無いので、阻止の為の警備強化はやるべきでしょう。



ところで、テロがネットや電子機器を利用している、というのは、当たり前の話では。テロが何故やりやすくなったかというと、実行コストが下がったから、ということに他ならない。大昔なら、複雑な暗号式無線装置必要だったのが、今では暗号化されたデジタル式携帯電話の水準でも十分に間に合う、という程度の秘密保持水準ということかな。昔の映画なんかで、「女スパイの身元が割れる」というような場合、壁の本棚に隠された裏扉の向こうには、そうした無線装置が据えつけられていたりしたじゃありませんか(笑)。そういうイメージということ。

けど、現代は、というと、テロだろうと一般人だろうと、みんな携帯電話を持ち・通話し・ネットに接続していても、誰も疑わない。女スパイが暗号式モールスとかを必死にトントン送信していたり、デカい機器の前で無線マイクに喋ったりしていたら、これはどう見ても「怪しい」し「ひょっとしてスパイ?」くらいは思うだろう。普通の人には不必要な、かつ不釣合いなものだからね。現代は携帯電話で話している人間を見ても、誰も「怪しい」「テロ組織の人間ではないか」などと疑ったりはしない。

コストが下がったのですから、テロ活動がやりやすくなるに決まってます。

昔の国家が運営する秘密情報組織のネットワークと、テロのネットワークは対抗可能となってきた、ということさ。情報取得のスピードやコストも、かつての「権威機関」―たとえばCIAとかMI6とかのような―にかなり追いつける水準となった、ということだろうね。核兵器や爆弾なんかの知識拡散などが、その典型的なものでは。
できるだけ極秘に連絡をとるとか情報のやり取りをするとしても、昔なら相当時間と労力をかけていたのに、今だとメールで即解決、みたいな。


とか何とか言っても、テロになったことがないから、本当は何も判らないんですけどね。




ムンバイ・テロ事件に思うこと

2008年12月03日 23時01分43秒 | 外交問題
先日インドのムンバイで発生したテロだが、これについて言えば米国を直接標的としたものとは違っていた。インドはパキスタンに非難を出していたが、アフガンに大勢いるらしいテロとの関連などは不明のままだ。
犯行声明は「デカン・ムジャヒディン」というマイナー組織から出されたもので、インド国内の過激派組織ではないかと見られている。
今年起きたパキスタンの「マリオット・ホテル」爆破テロと、今回のタージマハルホテルやトライデントホテル襲撃という高級ホテルを標的とする点では、「外国人狙い」ということで言えば似てなくもない。

が、周到に計画された犯行だ、という割りには、そうでもないように思える。

もし本当に英米人を狙うとしたら、自分がテロの立場にある時、どうすると思うか?
街中を、銃を乱射しながら走りまわるか?
タクシーに乗って、手榴弾をばら撒く?
ホテルの調理場に向かって銃を乱射する?

何の為に?

これまで判明した死亡者数をみると、英米人は少ない方だ。それ以外の外国人の死亡者数の方が断然多いのである。イスラエル人が最も多いようだが、これはユダヤ人施設などが狙われたせいなのかもしれない。イスラム教徒が不当に扱われている、という主張を全世界に知らしめようとするなら、ユダヤ人をいくら憎んでも解決されない。インドはイスラエルではないからだ。

それに、心底ユダヤ人を憎んでいたなら、ユダヤ人施設に立て籠もるというのも、あまり意味がない。即座に全員殺すからだ。死をも恐れない「自爆的テロ」なのであれば、迷わず全員殺す。ユダヤ人を憎んでいるのでしょう?自分が死んでもいいから、1人でも多く殺すはずなのだ。

インド国内のテログループで、インドに来ている英米人を最も多く殺そうと思うなら、英米人の多く集うオフィスとか空港を狙う方が確実だ。米国か英国路線の発着便ならば、かなりの数が多分その国の人間だろうと思われる。大型機ならば、数十~百人といった数がいるだろう。ロビーに固まって存在しているのだし。探す手間もいらない。
空港警備の警官たちがいるとしても、人数的にも武装のレベルも上回れるのだから、そこにメンバーを集中しておけば済む話だ。急襲されたら、警官といえども即座に撃ち殺されるだろう。だって、まさか自動小銃や手榴弾で襲ってくるとは思ってないのだから。拳銃を抜く間もなく、終わるだろう。

それをわざわざ大型ホテルにわずか数人で乗り込んで、人体改めを客の1人ひとりとか一部屋毎に行っていこう、というのがどれほど困難な作業か。警護がつくほどでもない、ちょっとした要人(どこかの知事クラスとか政府役人とか)を狙ったわけでもない。ホテルに来ることさえ判っていれば、ホテルのフロント係をちょいと脅して締め上げれば、部屋を割り出すことだって直ぐにできる。

つまり、そういったことを一切やらず、ただ「外国人が居そうな場所」目がけて走り回り、「オイ、英米人はいるか」と呼びかけ、行き当たりばったりの「出たとこ勝負」みたいに乱射してみました、というだけだ。こういうのを「周到な計画」とは多分呼ばない。単に殺害人数を多くしたいなら、列車爆破の方がはるかに簡単。しかも大惨事。インドでは異常なくらいの過密乗車だったと思うし。

インド人は殺したくないが、英米人とユダヤ人だけはたくさん殺したい、ということなら、もっと狙いを絞ってそういう場所を襲撃するはず。街中で適当に銃撃をやったりする必要性はない。

この事件から判ることというのは、単なるデモ効果だけ。
「こんな風にテロが起こせるんですよ」ということを、示威的に世界中に知らせたことは確かだ。「思いっきり目立つようにやりました」、「人々を怖がらせる為にやりました」ということは言える。インド国内のイスラム教との地位向上とか、カシミール地方の独立云々を求めるなら、それは体制側に向けて行われるべきものだ(実際、これまでインド国内ではそうしたテロが発生してきた。犠牲になったのはヒンズー教徒のインド人だ)。今回のように外国人やユダヤ人を何人殺したとしても、変わりようがない。もしあるとすれば、英米がインドに対して「独立させろ」と強硬に求めることを期待する、というようなことくらいだ。

パキスタン国内のISIからの支援を受けたテロ組織との繋がり云々とも言われていたりするが(名指しされたラシュカレ・タイバは関連を否定したらしいが)、仮にそうだとして、パキスタンを苦しい立場に追い込むのに、それを安易と行うというのもちょっと解せないのだ。自分がその立場ならば、絶対に身元が割れないように行わせると考えるだろう。時代劇で、裏で糸を引いているのが加賀屋さん(あくまで架空の話です)なのに、捕まって「どこの手の者だ?」と問われ、「へい、加賀屋です」って、そりゃただの間抜けじゃないですか。たとえその組織の人間だとしても、普通は全くの別組織の身元を用意しておくのが当たり前では。
「さてはお前、CIAだな?」「ええ、そうです」じゃ、映画も作れないよー。


要するに全体的にお粗末な作戦だったように思えるのです。
若年男子の、ひょっとすると特徴的とも思えるような純粋性、理想主義的な部分や染まり易さということを利用するなら、事件を唆すことができるかもしれません。まるで「何とかギャング」っぽい派手な行動も判るような気がします。


この事件は、事件の存在そのものを認知させる、ということが最大の目的であったのなら、全てがよく理解できるのですよ。狙ったのがインド人じゃないこと、デカン何とかみたいな未知の名前の組織だったこと、やたらと目立つ派手めな行動をするグループだったこと、パキスタンに圧力となったこと、インド・パキスタン・アフガンという地域に焦点化させることに成功したこと、世界中の目を「テロ」に向けさせることができたこと、というようなことかな。

その背後にいるのが、インドの反体制勢力なのか、パキスタンの情報組織なのか、友達の友達のテロ組織なのか、はたまた「テロの脅威」が薄れると困る誰かなのか、それはよく判りませんが。



アフガニスタン問題に日本はどう対処するか

2008年12月03日 21時03分06秒 | 外交問題
現在のアフガンにおける紛争に米軍やNATO軍が「対テロ戦争」として深く関与しているが、終わりの見えない戦いとなっている。日本が積極的に協力すべきだ、という要求はしつこく行われているが、それは望ましい選択とは思われない。前にも書いたが、「戦争は他の者に任せるがいい」という言葉を、再度送りたい。まずは、よく考えることだ。


1)宗教的争いは昔からずっとある

アフガン問題に限らずイラクでもそうであったが、スンニ派とシーア派のような争いや所謂イスラム原理主義的な急進派の存在を今すぐになくすことはできないだろう。まして、日本が紛争に直接関与したからといっても、どうにか解決の糸口を見つけられるわけじゃない。基本的には、当事者たちの中でどうにかしてもらうより他にはないのである。対立が激化している時に、外部からの介入で物事が収まるほどには簡単なことではないだろう。


欧州がオスマントルコ軍の攻勢に晒されていた15世紀、「ドラキュラ」のモデルとして知られるワラキア公”串刺し”ヴラドや、絶望的なベオグラード包囲戦を戦って勝利に導いたトランシルバニア公ヤーノシュなどが活躍を見せるものの、コンスタンティノープルが陥落させられ、キリスト教徒にとっては危機的状況に見舞われていた。
その後も勢力拡大を続けるオスマン帝国は、16世紀に入るとフェリペ2世(*1)のいたウィーンまで攻め込み、包囲戦にまで及んだ。この当時、宗教改革によってルター派が広がりつつあったことや長らく続いていたイタリアを巡る紛争があり、この権益を狙うフランスはイスラム勢力であるオスマン帝国と同盟を結んだ。神聖ローマ帝国への対抗という為には、手段を選ばないということ(因みにスコットランドはイングランドとの関係上、フランスと通じる道を選んだ)。つまり、キリスト教世界の中では、カトリックの中でも教皇派、神聖ローマ帝国派、更にはルター派が加わり対立しており、外部の宗教勢力として当時最強と目されるオスマン帝国というイスラム勢力による介入という構図だった。17世紀に神聖同盟がオスマン帝国を破るまで、オスマン帝国の脅威は続いていた。

(*1):異端裁判で新教徒やユダヤ教徒などから恐れられた。奥さんは言わずと知れた「ブラッディ・メアリー」(異端者の処刑弾圧で大量流血w)のイングランド女王メアリーでエリザベス1世のお母さん(←訂正、本当はお姉さん、コメントもらいました。2010年10月9日)。メアリーの父は(”狂人”アンと再婚する為の)離婚問題が発端で教皇に破門されたヘンリー8世。

宗教的対立や国の勢力争いを軸として、そこに外部の軍事力が介入するという構図は、現代での紛争とさして違いがないように思われる。この時代には、旧ユーゴ及びバルカン半島一帯や黒海沿岸(*2)などがオスマン帝国の勢力圏内となっておりトルコ軍の軍団にはこれら属国の戦力は投入されていたであろう。後のクリミア戦争(ナイチンゲールが有名になったw)の舞台となったクリミア半島には、バックにオスマン帝国がついたクリミア・ハン国がおり、リヴォニア戦争ではモスクワまで攻め込み、焼き打ちした(ロシアの歴史では、モスクワまで攻め込まれた例は少ないので珍しい)。19世紀のクリミア戦争では、膨張政策を続けるロシア帝国と英仏オスマン連合軍とが激突した。ロシア帝国は17世紀からの拡大を何百年にも渡って継続し、南下政策も現代とあまり違いがない。それを阻止しようとするのも、やはり数百年来の出来事でしかない。今年のグルジアでの紛争も、そうした拡大と阻止という流れの中では、「これまでと同じ」ということである。

(*2):スルタンの「ハーレム」というと、美女という印象が真っ先に思い浮かぶwだろうと思うが、ロシアやウクライナ美女が集められたらしいですから。ロシアは「奴隷狩り」に来る武装勢力(=今でいうテロ組織?)に手を焼いていたらしい。


現代におけるイスラム勢力の問題というのは、昔のキリスト教徒の争いとあまり違いがないように思われるのである。ある種の超大国の軍事力介入を招くのも、よく似ている。結局のところ、異教徒から見ると、何が争いの根本原因となっているのかは、中々見え難いのではないかと思う。当事者以外の人間には理解が難しいのだ。ただ言えることは、「争いはよくありません、殺傷行為はやめなさい」ということくらいではないか。


2)アフガニスタンは西欧の利害激突の地

これまでよく知らなかったが、アフガニスタンの歴史を見ると面白いことが判る。
アフガニスタン - Wikipedia

歴史的には、19世紀の対英戦争から始まって、未だにそれを引きずっているのではないかと思える。
・1838~42、第一次アフガン戦争:カブールまで侵攻するもゲリラ勃発、撤退時に英軍全滅
・1878~81、第二次アフガン戦争:各都市攻略し英国の保護化、ゲリラに手を焼き英軍撤退
・1919、第三次アフガン戦争:アフガン軍がインドまで攻め込み、独立

19世紀の英軍はかなり高い水準の軍事力を有していたと言ってよいだろう。なので、一時的に勝利するだけなら、アフガンくらいは簡単に攻略できた。対ロシアという「英国の都合」によって、要地であるアフガンに先鞭をつけておきたかった、ということだ。ロシアといえばロマノフ朝エカテリーナ2世を思い出すが(*3)、18世紀以降大国として大きく飛躍した。その後も黒海、カスピ海沿岸や中央アジアなどへの勢力拡大と、相応の軍事力を持つ列強の一つとなっていった。
その為、英国のインド支配という権益を守るには、アフガンという地が重要な場所になっていた。インドまでの経路を考えると、北側の山脈地帯であるチベットを「越える」ことはできないので、インドに出る為にはアフガン~パキスタンを通ってくる必要があり、要地としての重要性は当たり前ということになる。

(*3):対オスマン帝国との戦争、ポーランド、ウクライナ獲得など。個人的には、「味方になって欲しい軍人」の第一シードとして、アレクサンドル・スヴォーロフを挙げたい(エカテリーナ2世から爵位授与さる)。まさかヒマラヤ越えはできないだろうが、アルプス越えは達成したのだった。さすがロシア人(寒冷耐久力がハンパじゃないのかな。ロシアのイメージを漢字一文字で表すとすれば「耐」で間違いなし。仏軍は寒さに耐えられなかったけど。ラテン系w)。部下にはなりたくないね。「上司にいたらいいな」という軍人なら、断然シャルンホルストを推す。


その後の英国の地位低下(世界に対する軍事力、経済力の影響力低下)などもあって、第二次大戦前の1930年代にはドイツが積極的に関与していた。これも対ロシア戦略の一環ということであり、ドイツにしてみると英露(インド圏とロシア圏)の中間地帯ということで、戦略的価値のある国ということだったのだろう。ルフトハンザがカブールに定期便を就航させていた、とのことだ。しかし、ドイツが敗戦国となってかつての後ろ盾を失い、インドやパキスタンが独立していくと、昔の英露のハザマから、今度は冷戦下の米露のハザマに置かれることとなったのだ。アフガンにしてみると「誰が付くか」ということが変わるだけで、本質的にはこうした強国の論理や都合に振り回されてしまう、ということがあるのではないかと思われる。

ソ連の影響下ということもあったかもしれないが、70年代からは政情不安定となりクーデターが勃発するようになる。
73年に無血クーデターで国王追放し共和制、78年には軍事クーデター、翌79年にソ連侵攻で親ソ政権樹立、ということになる。ロシアにしてみると、「100年の計」といった感があるかもしれない。かつて英国が恐れていた事態が、100年を経て実現されてしまった、ということか。

こうなると、今度は米国が「反政府ゲリラを支援」して親ソ政権の打倒工作をする、ということが行われていった、ということだ。映画「ランボー」にあった通り、ということだなw。このソ連影響下という時代も長くは続かず、10年で撤退ということになってしまった。そして今は、ロシアの影響という問題以上に、イスラム過激派勢力の方がもっと大きな問題に育ってしまった、ということだ。米国がかつて支援したゲリラ勢力とは、今で言うタリバンのような勢力だったのに。
メアリーの宗教弾圧に苦しめられていたイングランドの新教徒たちを支援したり保護したのはカトリックのスコットランドであったが、反イングランド勢力であれば味方する、というのと同じようなものなのだ(メアリー死後には、新教徒弾圧に切り替えた)。

90年代にはタリバンが勢力を拡大し、遂には全土をほぼ掌握するようになっていった。


3)イスラム勢力の関与

ソ連に対抗する為にムジャーヒディーンと呼ばれる聖戦を戦う人間たちが、イスラム国の盟主とも言うべきサウジアラビアをはじめとするイスラム諸国から参加していったことが、アフガンの事情をより一層複雑にしているだろう。これに加えて、カトリックvs新教徒に類する、宗派的対立がある。

アフガンの内部問題として、スンニ派のパシュトゥン人(45%)と、シーア派のタジク人(32%)やハザラ人(モンゴル系、12%)という対立軸がある。スンニ派が主にタリバン勢力で、これに対抗したのが北部同盟のような勢力であった。
隣国のパキスタンにはパシュトゥン人が数千万人規模で住んでおり、同じスンニ派のパシュトゥン人に対する支援を続けてきた。これには、シーア派勢力が強いイランとの争いなども若干影響しているかもしれないが、反シーア派の立場をとっているのだろうと思われる。対インド抗争という点においても、「後顧の憂い」を消すという意味では、アフガンが重要ということになる。
また、サウジアラビアもスンニ派への支援を行ってきたので、米国と立場を同じくしていたのである。つまり、元々アフガンのゲリラ勢力に支援をしていたのは、米国、パキスタン、サウジ、だったのである。


これはオスマン帝国がキリスト教国のどこと同盟したり共闘するか、というようなもので、カトリックと新教徒の争いなどあまり関係がないのと同じなのだ。米国やNATO諸国の事情ということでしかない。また、周辺国にとっても、パキスタンにはパキスタンの事情というものがあるのであり、サウジにはイスラム世界での立場や事情というものがある。


4)何故「反米」なのか?

イスラム教徒だから、という理由には、簡単に納得がいかない。過激思想があるとして、それが「反米」となるという理由があまり明確には判らないのである。サウジをはじめとする湾岸諸国は、反西欧でもなければ反米でもなさそうに見える。イスラム教徒なのに、だ。サウジはかなり厳格な教義ということらしいのだが、反米とは思われない。
過激派はかつて日本や西側諸国でも多数見られていたが、必ずしも反米という旗印のようなものが明確ではなかったし、標的となるのは米国というわけでもなかった。なのに、現在のテロたちは、何故米国だけを特別に狙うのだろうか?あの「9.11」テロというのは、酷いものであったのは間違いないが、テログループが米国にテロを行うことで「世界中をイスラム世界にできる」というような目的が達成されると考えていたとも思われないのである。革命を志向するというだけなら今に始まったことではなく、共産主義のような思想や活動の方がはるかに革命主義的だったのでは。

過激派ということでいえば、「テロ銀座」みたいな巣窟は、シリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナなど、事欠かない。なのに、米国だけを標的としているなんてことは、あんまり聞いたことがない。シリアやリビアだって、反米国家の代表格みたいに言われてきたけれど、攻め込まれてないしw。交戦したり、空爆したり、幾度もやりあってきたのにね。

例えば、イランやベネズエラなんかだと、元々米国がチョッカイを出してきた国ということであって、それ故に反米なのではないかとさえ思えるのだが。聞いたわけじゃないから判らんけど。フセイン政権のイラクだって、対イランという策略で米国が肩入れして、イラン・イラク戦争に発展したようなものだ。これもスンニ派のフセイン政権と対抗するシーア派という構図ではあった。これはアフガン国内のシーア派とスンニ派に争わせているのと、あまり違いがないように思える。うまくいかなくなったイラクについては、イラク戦争という強硬手段でフセイン政権を終わらせて、今度はシーア派メインのマリキ暫定政権を誕生させた。アフガンのスンニ派に支援してきて、これが思わしくなくなると、今度はシーア派のカルザイ政権を誕生させたのも似たようなものではないだろうか。

要するに、介入を繰り返し、散々利用するだけ利用した挙句に裏切る、騙す、始末する、武力で殺戮する、といった、悪逆非道があるからこそ「反米」を招いているのではないか。政治的目的があって、革命だのクーデターだのといった政権転覆を目論むことなどは世界中のどこにでもあったし、民族間の紛争や虐殺もあったけれども、そうしたテロは「倒すべき相手側」(=通常は政権側だ)に向けられるものの、基本的に無関係な国外の特定国には向けられないのでは。無関係な相手ではないからこそ、テロの標的となるのではないか。「やられたら、やり返す」という論理はテロ側にこそあるもので、米国が殴ったから殴り返されたということだったのでは。反体制側勢力が、無関係な国外の米英をいくら殴ろうとも体制転覆はできないのだから。

日本の明治維新もそういう意味では似ていて、英国のバックアップがあって軍事力を強化した薩長が倒幕に成功したが、これも反体制勢力が政権転覆のクーデターに成功したようなものだ。ここで薩長が英国まで出かけて行って、テロをいくら頑張ってやろうとも徳川幕府は倒せませんよ。英国くんだりまでテロをしに行く意味がないのだ。


5)日本はどうするのか

これまでのアフガンの歴史的経緯を見る限り、今後もどこかの国々の利害衝突の場として、紛争が続くであろう。それが解消されていくとすれば、アフガン国内の勢力が安定的かつ長期間に渡り継続できるような政治体制が必要であろう。宗教的抗争についても、どうにかカタを付けてもらうよりない。が、その見通しは全く立たない。

仮に今のカルザイ政権がどうにか維持され、その後にも継続的にシーア派が国内を統治でき、スンニ派の抵抗勢力を欧米戦力が排除できたとしよう。それは何をもたらすか?
民族浄化のようなことと何が違うのだろうか?
体制側が反体制側を殲滅排除するか、外部の軍事組織が行うか、という違いくらいしかないのでは。日本がこれに介入していく利益というのは、何もない。

以前にも触れたが、アフガンに直接アプローチするのは、かなり難しいのではないかと考える。パキスタンとの関係をまず構築し、イスラムの中で安定化を図る道筋を目指してもらうくらいしかないのではないか。

日本が果たす役割とは


キリスト教徒同士の戦争にイスラム教の軍事大国が介入していっても、問題を解決させることなど難しい、ということだ。もっと言えば、イングランドとスコットランドの争いに、フランスやスペインやバチカンなどがいくら介入したとしても、内部的にどうにかしてもらえない限り、問題解消になど至らなかったのではありませんか、ということだ。

それとも、英国が統一されたのは、軍事大国の軍事介入のお陰であった、ということでしょうか?(笑)
まさか、そうだとは言いますまい。



こっそり書くと

2008年12月02日 16時44分37秒 | 俺のそれ
これは、割と典型的な方法なのではないだろうか。

はてなブックマーク - 「決まり文句に開き直る」メソッドはおもしろい - 女教師ブログ


特に、目新しさというものはないような。
昔から、落語とか漫才のようなお笑いでは、一般的な手法なのでは。

よくある古典的なのは、訪問先で

「これ、つまらないものですが…」
→「ええ、本当につまらないものですね」
→「つまらないものなら、持ってくんな!」

みたいな。


刑事が追い詰めた犯人に向かって
刑事:「そんなことをして一体何になるんだ!」
犯人:「金」


刑事が逃走する犯人に向かって
刑事:「待てー!」
犯人:「待つわけないじゃん、待つなら逃げないしw」


女性教師が生徒の言い訳に対して
教師:「ウソをつきなさい」
生徒:「うん、だからウソをついたよ」


婚約者の親が彼氏に向かって
彼女の親:「ふつつかものですが、どうぞ宜しくおね…」
彼氏:「本当にふつつかものですねww」


同級生の称賛に対して
同級生:「○○君って、ホントに凄ーい」
本人:「(いやーそれほどでも、とは言わず)うん、その通り、凄いよ」


とか。
あんまり思いつかないけど。
要するに、定型句で、それの答えもしくは答え方や反応などが決まっているものについては、それに反するような場合が笑える、ということかな、と。特に、謙遜や謙譲が求められているとか、それに類することとかでは。



さよなら、ボツネタ

2008年12月02日 13時41分06秒 | 俺のそれ
これまで毎日読ませてもらっていたボツネタさんが、本当に本当の終わりとなってしまいました。とても残念です。

もうカムバックすることはないのでしょうか。

昔から、これがホントのシリーズ最終編、みたいに映画とかアニメとか出しておきながらも、復活するとかリターンズになる(笑)とか、帰ってきたナントカとか、そういうことがあったように思うわけですが、これと同じく復活をしてくれる日がくるのではないか、それとも、新たな「シモネタ」とかの名前でやったりするんじゃないだろうか、などと想像したりもするわけですが、どうなんでしょうか。


今となっては、何という名のJさんだったかは覚えてませんが(笑、ホントは知ってるよ)、どうぞお元気でお仕事に励んで下さいませ。
いよいよ恐怖の「裁判員制度」がスタートしますし、大変な時期を迎えていると思いますが、ご活躍を陰ながらお祈り申し上げます。


例の逮捕者が出た事件の日のコメント欄は、私も目にしましたよ。何てバカなことを書く人がいるのだろう、と思ったわけですが、それが東大法学部卒の人だったらしくて、一層驚かされました。

何というか、勉強って何なのだろうな、とか、頭のいい人たちの考えることって、やっぱ理解に苦しむな、とか、そういう色々のことを思いました。
「頭がいい」ということは、凡人が考えずに済むようなこととか考えもつかないこととかを、きっと考えることができてしまうので、逆に不幸に感じるとか自分の中で苦しむとか、そういうことがあるのかもしれないな、などと思ったりもしました。


人間って、やっぱり難しい。


ところで、誰からも望まれておらず賛同者が殆どいない裁判員制度は、どうしても強行されるということみたいですね。
誰が一番やりたいのかな?
サイバンインコ?(笑)←くだらない、金の無駄



日本、海外派兵す~その3

2008年12月01日 16時35分13秒 | 俺のそれ


イケダの操縦するジュウハクは、サポート部隊からちょっと離れてしまっていたが、トルコ軍の救援もあってゲリラからは逃げ切れたのだった。そして、ようやく特機の支援部隊近くまで後退してきていた。

田中1佐から、新たな指示が来た。
増援部隊はそっちに向かっている、距離約8km、ジュウハクの射撃を開始、目標地点はこちらで誘導する、とのことだった。イケダはハッチを開き、最大連射を開始したのだった。1分間に15発の射撃ができ、誘導地点を線状に指定できたので、路上攻撃は割と簡単なのだった。装甲車の移動速度が速い為迫撃砲が遅れて着弾していたが、他の兵員輸送トラックなどは簡単に停車に追い込めた。とりあえず接近を阻止することさえできれば、特機の部隊を撤収できるだろう、と田中は考えていた。
バードからの映像でとりあえず兵力の大半はこの場に止めておけたが、装甲車だけは未だ向かってきていた。特機のサポート車両は殆ど無防備に近いので、装甲車相手ではさすがに歯が立たなかった。警護の2個中隊が何とか食い止めてくれることを期待するしかないか、…こればかりは人間の行う戦闘だから、特機にはどうしようもないからな…田中には、この装甲車を止める手立てが思いつかなかった。


田中は秀太、イチロー、ユキヒロに撤退を命じた。
残党はごく僅かであったし、今回の作戦では十分な戦果が得られたと判断されたからだった。特機の支援部隊はガンタンク、サンゼロやスネークのピックアップして、ジュウハクのいる地点まで戻ってきた。ジュウハクは敵の増援部隊を止めるために、射撃を続けていた。装甲車は依然としてこちらに向かっており、ジュウハクでの攻撃は困難な範囲内に迫ってきていた。

サンゼロはまだ動かせるのか?と田中が確認すると、遅い速度なら動けます、主砲はもう狙っては撃てません、真正面でなら射撃可能ではないかと思います、というサポートからの返事であった。なら、こいつを囮に使おう、イチロー、悪いな、また囮役で、と田中はニタリと笑いを浮かべた。

サンゼロを道路上に、装甲車に対峙させるように配置、他の部隊は全員隠れて、中隊が持ってる対戦車ロケット弾で装甲車を攻撃せよ、と田中は命じた。


いよいよ装甲車が戦闘距離に近づいてきた。
サンゼロは敵装甲車方向に主砲を放ったが、当たらなかった。地面を掘っただけだった。すると敵装甲車は進路を変えながら、サンゼロ目がけて主砲を撃ってきた。車体下部に命中し、完全に移動不能となってしまった。それでも装甲車は砲撃を止めず、サンゼロを攻撃してきた。敵の装甲車がサンゼロへの攻撃に夢中になっている頃、中隊所属のロケット弾の射手は肩に発射器を担いでいたのだった。白煙を上げて発射された誘導弾は、装甲車の車体後部にヒット、直ぐに動きを止めた。装甲車はサンゼロをいたぶった罪により、破壊されたようなものだとイチローは思った。


10

その後、ベースまで戻った特機部隊その他は、○○谷での作戦を終了してトルコ軍と伴に同地域から撤退した。
今後もZ国での戦闘は続くであろう。この戦争は、自分が生きてる間には、終わりがないのではないかな、と田中1佐は思った。


特機システムは、十分実戦でも使える、との結論に達した。しかし、課題もいくつか見えてきていた。

○通信システムに大きく依存するので、この妨害などに遭うと情報が著しく不足したり操作不能などに陥り、戦闘不能状態となるであろう。強力な通信・データ転送システムの維持が必須である。
○距離的な壁が存在し、タイムラグを生じることによる反応の遅さや不正確さという問題がある。
○高速で移動する高い防御力を持つ戦力に対しては、歯が立たない。しかし、そうした正規戦力の多くは、航空戦力や誘導ミサイルなどの攻撃目標となり易いので、まずはそちらで対処するということになるだろう。
○非正規的な戦力に対し隠密的に攻撃する、という点においては、有効性があるだろう。
○人的被害が最小化できる。特に少子化の進んだ日本では有効性が高い。
○オペレーターの能力、習熟度などに依存する部分がまだ大きい。映像などから瞬時の判断や操作を行うので、その為の能力開発訓練が必要である。


こうして陸上自衛隊初の海外派兵は終わったのだった。
次からは、テストケースなどではなくなり、常に実戦ということになるのだった。



日本、海外派兵す~その2

2008年12月01日 16時32分43秒 | 俺のそれ


凧はそれぞれ配置についていた。いくつか壁に取り付く際に、隊員が操作をしくじって、あまり役に立たない場所に設置してしまったものもいくつかあったのだが。衛星、バード、凧、そして車載のカメラ類、これらの協働によって、戦場の死角が消されるのだ。兵士が物陰に隠れる、ということの意味がほぼなくなる。こちらからは全てお見通しだからだった。

ジュウハクは既に特機指揮車を追い越して、もう少し前方に進出していた。陸自の2個中隊とトルコ軍3個中隊は、バックアップ車両群と通信支援車両群の周囲に展開し警戒態勢を整えていた。撤収する際の安全確保には余念がなかった。ベースまでの後方には、残りのトルコ軍が展開しているはずだった。

薄暗い朝靄の中を、スネーク型ロボットの「蛇」が音も無く草むらを進んでいた。
ここまでは順調だった。その後方約300mには、秀太の操縦するガンタンクが起伏を避けながら、静かに進んでいた。残り200m程度で監視所に到達する。監視所の奥には、岩盤の中にくりぬかれたトーチカが左右にあり、その奥には戦車などの大型車両の出入りが可能な鉄扉があった。

蛇は鉄扉の近くまで進むことが目標であった。誰にも気付かれずに、切り立った岩盤に沿って、滑るように進んでいった。


田中1佐は、若者たちに呼びかけた。
準備はいいか?―OK、快調ですよ、大佐、とイチローが言った。イチローは何故か、田中のことを「大佐」と呼ぶのだった。田中はそれを禁止することはしなかった。
田中は画面に映る監視所の兵員たちを観察していた。既に蛇や凧のカメラ映像から、敵の人数がコンピュータによってカウントされていた。射撃可能を示すランプがグリーンに点灯していた。田中は、オレの指示があるまで撃つな、近づくのが先だ、と秀太に命じた。

秀太のガンタンク5台は、秀太が先頭車両をまず操作し、後方に4台が約50m間隔で追ってきていた。田中は秀太に、先頭車両を待機させ、別の2台を2時方向に迂回して配置させるように命じていた。イチローのサンゼロは更に後方約1kmに待機していた。午前5時24分、それぞれが配置についた。

田中は、各人戦闘よーい、、、いいか?シュウタ?いくぞ!射撃開始!!と命じたのだった。
戦端は開かれた。
秀太のガンタンクは、モニター画面に標的としてマークされた兵士たちに次々と射撃した。秀太の得意の射撃ボタン連打。レバーを巧みに操作しながら、車体の姿勢をコントロールしていた。
監視所の兵士達はどこから飛んでくるのかまるで分らないままに、複数方向から放たれた銃弾に倒れていった。10秒にも満たない時間で、バースト射撃の弾丸が兵士達全員を正確に射抜いた。

よし、ここからが本番だぞ、と田中は戒めた。複数のモニター画面にはサーチアラームが激しく点灯していた。トーチカ付近から、兵士達がバラバラと外に向かって展開してきたのだった。

カメラには建物の陰に隠れる兵士達が並んで映し出されていた。彼らには、一体どこに敵がいるのかさえ、まるで見えていなかった。小隊長と思しき兵士が、部下の兵士たちに散開を指示し、それぞれ持ち場へと散っていった。敵を探そうと試みているのだろうが、ガンタンクは小さい上に、人間の姿かたちをしていない為に直ぐには発見されにくかった。火点が発見されなければ、中々見つけられない。

田中は秀太に、展開した兵士達を捕らえられる位置にいるガンタンクに射撃させた。秀太のガンタンクはノロノロとキャタピラを回しながら前進し、散開した兵士たちに銃弾を浴びせていった。兵士たちの恐怖に歪んだ顔。どこから撃たれているかまるで分らないというのは、これほど恐ろしいものなのか。ガンタンクの自動全自動照準システムは、カメラ映像と完璧に連動している為、目標を外すということが、基本的に殆どないのだった。3発の弾丸が兵士の体に着実にヒットし、肉を切り裂き骨を砕いた。

秀太は、田中に言ってきた。
隊長、操作とモニター映像とのタイムラグが大きいです、約1秒強、遅れて反応しています、これでは正確な操作が難しいですよ、と文句を言ってきた。そうだった、ここと戦場ではかなり距離があるので、通信や電気回路の遅れがどうしても出てしまうからだった。絶対的な遅れは、光速の物理的制約を受けてしまう、ということを実感させるには十分だった。田中は、反応の鈍さはお前の腕でカバーしてくれ、と秀太を宥めた。


散開している兵士たちは片付いた。
サンゼロもジュウハクも未だ出番がないので、イチローなんかは、ねえ、まだ?オレの出番はまだ?と、田中に催促を繰り返していた。けれど、実際にそんな相手ではないので、必要性があまりなかったのだった。ここから奥の建物群の向こう側に、兵士たちの一団がいるのが、モニターに捉えられていた。対戦車ロケット弾や携帯式対空ミサイルを持つ複数の兵士たちがいた。ここを抜けなければ、トーチカ付近には到達できないのだった。

秀太のガンタンクは建物の壁際に沿ってゆっくり進んでいたが、サポートの隊員が操作する1台が突然爆発したのだった。迂回させておいた2台のうちの1台だった。恐らく地雷にやられたのだろう。田中は、心の中でチッと舌打ちした。もっと慎重にルートを選べばよかったか、順調に行き過ぎて油断したな、と少し後悔した。敵軍に、こちらの居場所を感づかれてしまうのは、一番まずい。爆発したガンタンクの方向へと兵士達が向かう姿が、モニターに映し出されていた。

田中は、残った一台には待機させ、射撃範囲に入った敵は全部撃て、と命じ、ロケット弾などを装備している敵の方に秀太のガンタンクで攻撃を継続させるように指示した。秀太のガンタンクは射撃範囲の敵を幾人か倒したものの、建物の向こう側には車体本体が到達できなければ、撃てない場所だった。

イケダ、5発お見舞いしてやれ、と田中は命じた。後方に待機していたジュウハクは、ハッチを開いて5連射した。距離は約7km、兵士たちには、真上から落ちてくる迫撃砲弾の音は聞こえていなかった。モニター画面上に映された着弾予定地点に向かって、迫撃砲弾は小さなフィンでクルクルと回転しながら正確に着弾したのだった。コンクリート片や木材などがあたり一帯に飛び散り、もうもうと白煙に包まれた。ここに展開していた兵士達の半分以上は、その場に倒れていた。カメラ切り替え、と秀太はユキヒロに向かって叫んだのだった。赤外線カメラの映像が2つと光学式カメラの映像が別モニターに映し出された。ジュウハクの射撃に慌てた兵士達がバラバラと走り出したところを、秀太のガンタンクが着実に撃ち抜いていった。
一方、地雷で破壊されたガンタンクの方にも兵士達が接近していたが、残った1台が茂みに隠れたまま待機しており、このガンタンクの射撃が着実に敵兵力を削っていった。敵兵士たちは、時々めくら撃ちをしてくることもあったが、まるで見当違いな方向に弾が飛んでいくだけだった。

秀太のガンタンクは、いよいよトーチカの手前付近まで到達した。
トーチカからは、重機関銃がその銃身の一部を突き出していた。このトーチカを突破するのは、中々大変だな、と田中は思っていた。ここで終わりでは話にならない、どうにかおびき出すしかないな、と心の中でつぶやいた。
よし、イチロー、トーチカの隙間を狙って撃てるか?と、田中は確認した。ハイ、大佐、蛇からの画像を下さい、と即答してきた。モニターがいくつか切り替えられ、トーチカのズーム画像がモニターに出された。射撃開始、と田中が命じた。イチローのサンゼロは、全速前進で一気にトーチカ正面に現れたと同時に、30mm機関砲が火を吹いた。イチローは待ちくたびれて、それまでの鬱憤を晴らすかのように、機関砲の射撃のボタンを押したのだった。トーチカの僅かな隙間にサンゼロのレーザービームが自動制御で照射され、それと同時に超音速の弾丸がトーチカに飛び込んでいった。恐らく、突然現れた敵車両に慌てたもう一方のトーチカからは、重機関銃が発射された。イチローのサンゼロの車体や砲塔に当たってはいたが、その程度の弾丸には耐えられるのだった。重機関銃の音が一瞬止み、次は対戦車ロケットか対戦車砲が発射されるということだろう、と田中もイチローも思った。

イチローのサンゼロは、クルリと砲塔を回転させると、レーザービームが正確に照射された。トーチカ内にいた兵士の1人は、そのビームをまともに見たかもしれないが、次の瞬間にはこの世からは消えてしまったであろう。先のトーチカと同じく、30mm機関砲の弾丸が飛び込んでいったのだった。蛇や凧の画像がなければ、これほど素早く射撃を繰り返すことはできないし、ズーム画像は寸分狂いなく弾丸を叩き込むには必要な情報であった。




トーチカを完全に沈黙させた後、秀太のガンタンクは壁際をノロノロと前進した。扉の向こうから敵が出てくるのを待たねばならなかった。ここから先は、バードのカメラからは拾えない、窪んだ地点になるのだった。恐らく、敵はイチローのサンゼロの存在を知っただろう。これに対抗する為の手を講じてくるはずだ、と田中1佐は考えていた。秀太のガンタンクが発見されていたかどうかは定かではなかった。

扉の正面付近からイチローのサンゼロを少し後退させ、直線的な攻撃を受けない範囲に待機させた。更に、残りのガンタンク2台は、秀太のガンタンクの後方約200mm地点に待機させた。迂回させた地雷原の1台はそのままにしておいた。


敵の動きがなく、約30分ほど経過しただろうか。
遂に扉が開いた。
旧型だが、ロシア製の戦車のご登場だった。先頭には前世紀のポンコツと目されるT-90、続いて今世紀に出されたという重装甲戦闘車3両が、キャタピラを鳴らしながら出てきたのだった。イチローは、こんなの敵うわけないじゃん、と愚痴をこぼした。確かに30mm機関砲では対抗できるわけがなかった。

田中は、とりあえず後退しつつ戦車隊をおびき出せとイチローに言った。その後、後退しつつ機関砲を撃ったが、全て弾かれてしまった。T-90はちょっと怒ったように主砲を発射したが、サンゼロの脇を際どく外して峡谷の壁面を激しく砕いた。よし今だ、スモークで敵の前進スピードを殺せ、その後で戦車に当てなくてもいいけど、機関砲で周りの建物目がけて適当に射撃しろ、と田中1佐はイチローに命じた。イチローは、ハイ、ハイ、大佐殿、と悪態をついてから、スモーク弾を発射し戦車群の進路を煙だらけにした。それに続いて、命令通りに機関砲を目くら撃ちした。辺り一帯は煙と機関砲で刈り取られたブロックの破片などが白煙を上げて飛び散り、30mm貫徹弾とともに戦車にカンカンと鈍い音を立てて激しく降り注いだ。戦車隊は攻撃に備えるのと視界不良の為、殆ど停車状態となった。味方同士の車両が激突する危険性もあるので、それは止むを得ないことだった。

田中は間髪入れず、イケダに対戦車砲弾発射を命じた。
ジュウハクから放たれた迫撃弾は、T-90の上面に向かって真っ逆さまに落ちていった。機関部と砲塔の上面に誘導された砲弾がヒットすると、激しい火花と煙を上げて炎上した。後方にいた重装甲戦闘車の対空機関砲兼用砲塔が索敵の為に回転していたが、どこから攻撃されたのかは彼らには判っていなかった。イケダは次々と対戦車砲弾を発射、T-90の後ろにいた重装甲戦闘車を炎上させた。その後方約200m地点にいた残りの重装甲戦闘車は微速後退を始め、最後尾の戦闘車は扉方向に向かって転回し逃げ戻ろうとしているようだった。ジュウハクが発射した対戦車砲弾は3両目の重装甲戦闘車の上部を確実に捉えたが、4両目の戦闘車は間一髪で扉のあるくぼみ地点に逃げ込んだのだった。その場で再び旋回して、砲塔を正面に向けて停止した。


あいつが正面にいる限り、内部に攻撃するのは難しくなる…どうするか…、と田中は思案した。が、今はとりあえず状況整理だな、と思いなおして、蛇は侵入できたのか、と尋ねた。するとユキヒロから、もう3つ入ってますよ、と答えが返ってきた。よし、上出来だ、でかしたぞユキヒロ、と田中は称賛した。ガンタンクが入るまで待機しててくれ、とユキヒロに言い終えると、秀太に、ガンタンクを突撃させてくれ、と言ったのだった。秀太は思わず、ハア?と聞き返したが、田中の指示は、イチローのサンゼロをおとりに使って戦闘車の注意を引いている間に、秀太のガンタンクを戦闘車に下面にぶつける、というものだった。ガンタンクは敵側に回収されるのを防ぐ為に、自爆装置がついており、これを爆破させれば戦闘車を潰せるのではないか、ということだった。しかし、まともに近づこうとすると敵に察知されて攻撃されるかもしれないので、サンゼロをおとりに使えというのだ。

しかし、サンゼロが果たして重装甲戦闘車の主砲に耐えられるか?向こうの主砲は40mmの長銃身機関砲だ。当たれば、サンゼロは大破するだろう。後は、イチローと秀太のテクニックに期待するしかない…


田中はガンタンク3台が高速前進できる配置につくと、イチローに命令を出した。重装甲戦闘車の目の先をうろついてやれ。
イチローは、やられるかもしれんな、と腹をくくり、目一杯時間を稼ぐことに集中した。敵戦闘車の主砲の直撃弾を食らわないよう、サンゼロを巧みに操った。時折サンゼロ目がけて機関砲を撃ってくるものの、サンゼロには当たらなかった。
よし、秀太、全速前進だ、と田中は叫んだ。
3台のガンタンクは縦に並んで前進を開始。目立たぬように壁際や瓦礫の陰などを利用しつつ、敵戦闘車を目指した。
しかし予想外なことに、扉の向こうから敵兵が再び出てくるようだった。蛇から送られたモニター映像には、残っていた敵兵が大量に映っており、アラームがけたたましく点灯していた。重装甲戦闘車よりも前方に敵兵が展開することになれば、ガンタンクは近づけなくなってしまう。田中は焦った。

戦闘車よりも前に敵兵を出すな、絶対に出すな、いいか、秀太、3台のうち1台が到達できればいいんだ、判ってるな?残りで敵兵を殲滅せよ、いいな?と田中は大声で秀太に確認した。
秀太は、ガンタンクの操作に大忙しで、ヘイヘイと生返事をしただけだった。

ユキヒロ、蛇から攻撃できるか?と田中が尋ねると、うーん、一つだけならできるかも、とユキヒロは答えた。それでいい、とりあえず、1人でもいいから出口付近から出られないように小細工をしてやれ、と田中は指示した。ユキヒロの操る蛇は巨大な鉄扉の近くにやってくる兵士目がけて、ニードル弾で攻撃を開始したのだった。




秀太のガンタンクは重装甲戦闘車まで、あと50mほどに迫っていた。他のガンタンク2台は、そこから少し遅れて約100mほど後ろにいた。蛇のニードル弾はあっという間に使い果たした。敵兵は10人以上倒れていたが、敵側はそんなことにはおかまいなく、扉を出ていったのだった。向こうも必死なのだ。秀太のガンタンクはやむなく敵兵に機関銃掃射を浴びせて、倒すより他なかった。重装甲戦闘車がガンタンクの存在に気付かずにいてくれることを祈るだけだった。

が、敵兵が重装甲戦闘車のそばに駆け寄ってくる度に倒されていくのに気付いたのか、何かを探すような感じで砲塔が動いていた。秀太は、ヤバいよ、見つかっちゃうよ、と田中1佐に懇願するように言った。あともう少しなのに。あと50mだけ駆け抜ければ、到達できるのに。
田中は、できるだけ接近するんだ、それしかない、とだけ伝えた。重装甲戦闘車が前進をはじめそうな気配だった。
ひょっとして、場所を変えるつもりか?総反撃でもやるということか?田中は、敵側の意志を図りかねていた。敵兵士たちの部隊が重装甲戦闘車の周りに到達してしまった。後は、向こうが動き出して、反撃にでようということなんだろう。


更に、悪い知らせが飛び込んできた。
ジュウハクの北側約20kmに敵の装甲車が現れた、という監視衛星からの情報だった。隠蔽してあった部隊と装甲車があったのだ。恐らく峡谷方向に向かって、進撃してくるに違いない。そうなれば、峡谷で挟み撃ちされる、ということになってしまう。トルコ軍は道路に沿って展開しているが、ベースまでは距離があるし、ジュウハクのいる地点からベースまで後退するのは間に合わないだろう。峡谷の入り口手前に展開している特機のサポート部隊と警護部隊は、敵の増援部隊を撃破しない限りベースには戻ってこれない。

田中1佐は、支援部隊がこんなに早く危機に晒されるとは思っていなかった。周辺の安全状況は確認済みだと思っていたのに、と後悔していた。田中はイケダに指示を出した。全速でベース方向に後退せよ、途中、敵部隊との距離を見てジュウハクの射撃をさせる、ということだった。イケダはサポート部隊のいる地点に向けて移動を開始した。が、僅か数分後に、敵ゲリラの待ち伏せに遭ってしまった。警備に当たっていたトルコ軍が急襲され、逃げるジュウハクに向けて対戦車ロケット弾を撃ってきたのだった。バードのカメラは、敵ゲリラたちが木々の陰から次々と湧き出てくる様を映していた。イケダは完全にパニくってしまい、ワナワナと手が震えていた。ジュウハクの至近距離にロケット弾が着弾し、激しく土煙を上げた。ジュウハクは敵から逃げ惑うのに必死になりすぎて、方向感覚をも見失い、後退するはずが、逆に遠ざかってしまっていた。

田中は、大声で怒鳴った。
イケダ、しっかりしろ!、冷静に操作すれば必ずうまくいく、我を失うな、イケダ!聞えるか!…
イケダの耳には、途切れ途切れにしか田中1佐の声が届いてはいなかった。複数のモニター映像と、敵の識別時に出されるアラーム点灯、いくつものモニターに点滅するランプに慌ててしまって、完全にパニックに陥っていた。正しく判断したり操作したりができなくなっていた。すると、横にいたサポート係の女性スタッフが、いきなりイケダの横っ面にビンタを食らわせたのだった。イケダさん、しっかりして下さい、ジュウハクを操作できるのはイケダさんしかいないんですよ、ジュウハクが戻れなければ特機の支援チームは全滅しかねないんですよ、しっかりして下さい!!
イケダはジンジンする頬の痛みで、ようやく我に返った。


秀太のガンタンクは湧き出る敵兵に弾丸をばら撒くのに必死だった。
重装甲戦闘車が移動を開始して歩兵部隊と共に展開すれば、いずれガンタンクは発見され撃破されてしまうかもしれないな。ガンタンクはただの機関銃を搭載した、移動できるおもちゃの自動車みたいなものでしかないんだから。強力な戦車なんかとは違うんだから。撃たれてしまうと、軽く破壊されてしまうような、弱々しいおもちゃだからね…。クソッ、もうダメかな、この作戦はうまくできなかったかもしれない…

イチローの声が秀太の耳に飛び込んできた。
大佐、このままでは作戦失敗となります、今サンゼロが出れば足止めできるでしょう、けど主砲をモロに食らって動けなくなるかもしれませんが、でも出ますから、秀太、いいか、聞えてるだろ、イチニのサンだから、な、判るだろ?秀太なら、な?

モニターにはサンゼロが30mm機関砲を重装甲戦闘車の方向に射撃しながら、姿を現した。敵の主砲の射界に入ってしまっていた。けれども、怯むことなく車体を左右に振りながら、砲塔だけは扉方向に向け続け、射撃を止めなかった。敵兵の前進は止まり、30mmの弾丸が周囲の空気さえも切り裂いていった。重装甲戦闘車も主砲で応戦してきた。主砲の周りは熱でモニター映像が歪んでいるように見えた。そしてサンゼロの車体の一部が、敵機関砲に削り取られていった。砲塔部の左半分は大きく削れ、機関砲の照準装置は全く動かなくなってしまった。主砲がむき出しで見えるようになってしまっていたが、それでも運良く炎上は免れていたのだった。

このサンゼロの犠牲のお陰で、秀太のガンタンクは重装甲戦闘車の下面付近に到達できたのだった。非常に近い場所だと、彼らの死角に入る為に発見されにくくなるだろう。昔の大戦時の、戦車の下に地雷を置きに行った兵士みたいなものだ、と秀太は思った。イチロー、ありがとよ、お陰でここに辿りつけたぜ、さよならガンタンク、今回限りでゴメンね、……食らえ、自爆装置!
重装甲戦闘車の下部で巨大な火柱が起こり、戦闘車の車体の一部が浮き上がった。次の瞬間、戦闘車の内部で爆発が起こり、主砲が上に向かって吹き飛んだ。完璧に戦闘車を沈黙させた。

(字数がオーバーしたので、つづく…)