ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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集英社の全集「戦争×文学」中の朝鮮関係の作品 : 金在南「暗やみの夕顔」等

2011-08-06 23:54:36 | 韓国・朝鮮に関係のある本
       

 集英社が創業85周年記念企画として、この6月から「戦争×文学」(20巻+別巻)の刊行を開始しています。
 「朝日新聞」の紹介記事にもあるように、浅田次郎、奥泉光ら戦後生まれの作家や研究者だけで編集したもので、内容も、日本が関わった戦争だけでなく、朝鮮戦争やベトナム戦争、そして今月(8月)配本の第4巻『9・11 変容する戦争』では、9.11とそれに続く戦争をも含み、さらに『イマジネーションの戦争』と題した巻では、最近注目の故・伊藤計劃や、モブ・ノリオ、三崎亜記、星野智幸等の作品も収録しています。
※全巻の収録作品は→コチラで。

 さて、本ブログの趣旨に則って、朝鮮・韓国関係の巻及び作品をリストアップしてみました。

第1巻『朝鮮戦争』(2012年6月発売)
 敗戦からわずか五年、隣国で勃発した戦争に日本人作家は何を見、在日作家は、民族の悲劇をいかに描いたか。(解説=川村湊・成田龍一)
金石範『鴉の死』・張赫宙『眼』・北杜夫『浮漂』・日野啓三『無人地帯』・中野重治『司書の死』・松本清張『黒地の絵』・金達寿『孫令監』・下村千秋『痛恨街道』・田中小実昌『上陸』・佐多稲子『車輪の音』・小林勝『架橋』・野呂邦暢『壁の絵』・佐木隆三『奇蹟の市』 
◎詩歌 近藤芳美(短歌)・吉田漱(短歌)・谷川雁『丸太の天国』・江島寛『突堤のうた』・鈴木しづ子(俳句)

第17巻『帝国日本と朝鮮・樺太』(2012年9月発売)
 皇民化を強いられ、戦争に巻きこまれていく朝鮮の人々、朝鮮を故郷とする日本の子ら。日本支配の深い傷を見る。(解説=川村湊)
中島敦『巡査の居る風景』・張赫宙『岩本志願兵』・鄭人沢『かえりみはせじ』・金史良『草深し』・田中英光『碧空見えぬ』・梶山季之『族譜』・湯浅克衛『カンナニ』・小林勝『フォード・一九二七年』・李淳木『冬の橋』・森崎和江『土塀』・後藤明生『一通の長い母親の手紙』・冬木憑『和人』・譲原昌子『朝鮮ヤキ』・吉田知子『豊原』・渡辺毅『ぼくたちの<日露>戦争』・李恢成『砧をうつ女』

 上掲の2巻を見ると、読んだ作品は『鴉の死』『カンナニ』等6編。未読どころか題名も知らない作品、それどころか譲原昌子・鄭人沢・下村千秋・李淳木・冬木憑といった作家については名前さえ知りませんでした。おそらくほとんどは川村湊先生の選定によるものでしょうが、さすが専門家です。

 この全集では、『日清日露の戦争』の巻の岩井志麻子『依って件の如し』のように、現代作家の作品も交じっているので、歴史資料・文学史資料として読む場合には注意が必要かも・・・。
 上記の2巻の場合は皆朝鮮や樺太になんらかの関係がある作家のようですが・・・。(吉田知子が樺太の豊原から引き揚げてきた人とは知りませんでした。)

 その他の巻では第6巻『日清日露の戦争』に収録されている木村毅『兎と妓生と』が朝鮮関係のようです。ネット検索しても、レアな作品のようで、内容等はよくわかりません。

 今日は原爆投下から66年目ということで、とくにこの全集中から1編紹介します。
 この6月に第8巻『アジア太平洋戦争』とともに最初に発売された第19巻『ヒロシマ・ナガサキ』。この中に収められている金在南『暗やみの夕顔』という作品です。

 金在南は『鳳仙花のうた』で知られる在日作家ですが、私ヌルボが彼の作品を読んだのはこの『暗やみの夕顔』が初めて。
 戦後20年経った釜山の、長屋に住まう新聞記者の青年の視点で叙述されています。隣に日本帰りの老婆が越してきたのですが、毎夜何やらけものじみた呻り声が・・・、というやや謎めいた形で進められる物語の焦点は、子どもの頃長崎で被爆して心身に重大な傷害を負ってしまった娘の無惨な状況。その描写自体問題を含んでいるようにも思えるし、また一種耽美的な(?)要素も感じられないでもない、非常に強い印象を受ける作品でした。

 金在南の『鳳仙花のうた』は「<在日>文学全集」(勉誠出版)にも収録されていますが、図書館でその巻の自筆年譜を読んだら、実に波瀾万丈。朝鮮戦争の時に地主の息子という理由でパルチザンに死刑に処せられる直前で助けられた等々、そのままドラマになりそうな人生を歩んできた作家なんですね。その話を書いたらさらに長くなるので、今回はここまで。

※現在神保町シアターで特集企画「戦争と文学」を上映中です。8月26日(金)まで。詳細は→コチラ
 私ヌルボのオススメは鈴木清順監督の『春婦傳』。谷口善吉監督『曉の脱走』と比べてみるのもいいでしょう。『春婦傳』の方は田村泰次郎の原作通り日本人兵士と朝鮮人慰安婦との愛情を描いています。
 名場面との定評のあるのが木下惠介監督『陸軍』のラスト、よく検閲をパスしたものです。
コメント
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