※前の記事は→コチラです。
センター試験で韓国語が行われるようになったのは2002年から。その第1回から現在までの過去問や、受験生の総数・平均点は油谷幸利先生のサイトで見ることができます。
それによると第1回の平均点は165.40、第2回が170.96。この高得点は、母語話者や民族学校で韓国語を習得した受験者の比率が高いことに起因する、ということを記しました。
他の外国語とのバランスを取るため、その高得点をいかに下げるかが問題作成部会の大きな継続課題でした。
大学入試センターのサイト内に、各科目の試験についての「高等学校教科担当教員の意見・評価」と「問題作成部会の見解」が公開されています。2011年の韓国語の問題について、その「高等学校教科担当教員の意見・評価」の中の次のようなくだりが目にとまりました。
その平均点を「下げる」ためのいろいろな「工夫」が見受けられ、かつ、出題者もそのような「工夫」をせざるを得ないと言っている。その「工夫」には、「外国語としての韓国語」の問題ではなく、「国語としての韓国語」の問題が含まれているように思われる。すなわち、韓国語母語者及び民族学校経験者をターゲットにした「特殊」な問題が出題されたと思われる。
つまり、高得点で当然のはずの韓国語母語者及び民族学校経験者が間違えやすいを意図的に出題したということです。
そんな問題が、あるんですねー。
まあ考えてみたら、日本人が苦手な日本語の問題もありそうだし・・・。たとえば次のような。
[例題1]次の「ん」の中で、発音が同じものはどれとどれか?
①かんどう(感動) ②てんぼう(展望) ③こんごう(混合) ④はんのう(反応)
[例題2]次の中で、他の3つと違う意味の「ために」はどれか?
①君のミスを直すために苦労をする。 ②将来のためにがんばった。③初心者のために本を書いた。④無理な目的のために失敗した。
これらは韓国語学習者ならわかりそう。以下、正解は範囲指定すると現れます。[例題1]が①と④。ともにnの発音。②はm、③はng。[例題2]は④。④が原因で他は目的。ちょっと引っかけ。 日本語の難問は日本語教育能力検定試験の問題にいっぱいあります。たとえば・・・
[例題3]「複合要素の関係」の観点から見て、他と性質の異なるものを1つ選べ。
①川下り ②気配り ③影踏み ④魚釣り ⑤水遣り
この正解は①。②~⑤はすべて「~を~する」の形の「目的語+他動詞」。「川を」は目的語ではない。
本題に戻ります。
2011年の問題中、正答率が極端に低かった(50~70%に集中)のが第1問。これを韓国人留学生24 名=K、在日韓国・朝鮮人生徒(民族学校経験者)14名=JK、日本人高校3年生(年6単位履修者)2名=Jを対象としてモニタリング調査を行った、とのことです。
その結果は次の通りです。
A 問1
J=正答 1・誤答 1
K=正答15・誤答 9
JK=正答 3・誤答11
*Kの正答率=62.5%、JKの正答率=21.4%
A 問2
J=正答 2・誤答 0
K=正答19・誤答 5
JK=正答 8・誤答 6
*Kの正答率=79.2%、JKの正答率=57.1%
問1は③が正解。「総務課(총무과)」の「課(과)」が濃音になることは知っているはずの在日の生徒(民族学校経験者)も、「17課」の「課」は平音になることまでは知らなかった人が多かったということか? ④と答えた人が正答の倍の6人もいたのは、④「결과(結果)」だけが平音と思ったため? しかし、韓国人留学生も4割近くの人が間違えたとはオドロキ! ふだん無意識で発音しているので、かえってわからないということかな?
問1より多少マシとはいえ、問2の誤答も多いですね。正解は①。「憲法」「刑法」「民法」等の「法(법)」は濃音化をしますが、「司法(사법)」の法は平音。「司法(사법)」も「とても(제법)」も「学習語彙の範囲とは言いづらい」と高校の韓国語の先生方は指摘しています。
ハングル表記では見分けのつかない濃音化の問題は、KやJKにとって間違いなく苦手な問題ですね。
B 問1
J= 2・誤答 0
K=2・誤答 4
JK=10・誤答 4
*Kの正答率=100%、JKの正答率=71.4%
B 問2
J=正答 2・誤答 0
K=正答23・誤答 1
JK=正答 6・誤答 8
*Kの正答率=95.8%、JKの正答率=42.9%
B 問3
J=正答 2・誤答 0
K=正答22・誤答 2
JK=正答 3・誤答 11
*Kの正答率=91.7%、JKの正答率=21. 4%
正解は問1が④、問2が②、問3が③。ハングルは表音文字とはいっても、同じ発音でも表記が異なる単語もあったり、パッチムによる音変化もあったりで、表記についての正誤問題はネタにこと欠くことはないでしょう。
このBの問題については、韓国人留学生(K)と在日の生徒(JK)との間に大きな差がついています。日本人の中級以上の学習者も基本的に在日の生徒と同様だと思います。はっきり言って、私ヌルボも苦手な分野です。
C 問1
J=正答 0・誤答 2
K=正答17・誤答 7
JK=正答 4・誤答10
*Kの正答率=70.8%、JKの正答率= 28.6%
C 問2
J=正答 1・誤答 1
K=正答12・誤答12
JK=正答 4・誤答10
Kの正答率=50.0%、JKの正答率=28.6%
C 問3
J=正答 1・誤答 1
K=正答12・誤答12
JK=正答 4・誤答10
*Kの正答率= 50.0%、JKの正答率= 28.6%
正答は、問1が①、問2が①、問3が③。韓国人学生にしては正答率が低いことに驚く人もいるかも。問2・問3は正答が半分だけですからねー。しかし、正答率の低さの理由はわかりやすいです。一言でいえば「漢字が苦手」。問1がまだマシなのは、「親」とか「沈」とか、なじみのある漢字が含まれているから、かな? ※「沈(シム)」は、歌手沈守峰(심수봉.シム・スボン)のように、姓のひとつにある。
在日生徒の正答率も3割以下という低さ。これは高校教員側の指摘に「問1の「a.浸水(침수)」と「c.親密(친밀)」、問2の「a.溪谷(계곡)」と「b.啓蒙(계몽)」、問3の「a.衰退(쇠퇴)」と「b.連鎖(연쇄)」は「学習語彙の範囲を超えている」というレベルの高さがその理由。3つの選択肢中2つを確実に知っていれば正答率は50%ですが、この数字は1つわかるのがやっとというレベルです。中級レベル(ハングル検定準2~3級)の人でも「衰」や「啓」の読みはわからない人が大半なのではないでしょうか? 私ヌルボがわからなかったから言うのではないとは必ずしも言えないですが・・・???。
なるほど、平均点を下げるために「ここまでやるか」という感じですね。いずれにしろ、高校の授業で韓国語をゼロから学習してきた受験生にとっては難しすぎることには変わりないですが・・・。
高校教員側のこのような指摘や意見に対して、問題作成部会の見解はと見ると、「高等学校教科担当教員からの批判は、至極当然と言わざるを得ず、平均点の不均衡を是正する方向で作題しようとしてきた従来の作成部会の方針は根本的に再考する必要があろう」とほとんど全面的に首肯しています。そしてさらに、「この状況を抜本的に打開するためには、試験の制度的な改革が必要」であるとし、作成部会としても「今後様々な方法を模索するより一層の努力が求められる」が、それとともに「関係各位による検討・改善を促したい」という言葉で締めくくっているのは高校教員側とのナレアイ的雰囲気が感じられないでもありません。
ま、そう言わざるをえないでしょうね。前回の記事でも記しましたが、テスト問題の難易度というよりも、センター試験の中で英語以外の言語をどう位置づけるか、という制度自体の問題が根っこにあるわけですから・・・。
センター試験で韓国語が行われるようになったのは2002年から。その第1回から現在までの過去問や、受験生の総数・平均点は油谷幸利先生のサイトで見ることができます。
それによると第1回の平均点は165.40、第2回が170.96。この高得点は、母語話者や民族学校で韓国語を習得した受験者の比率が高いことに起因する、ということを記しました。
他の外国語とのバランスを取るため、その高得点をいかに下げるかが問題作成部会の大きな継続課題でした。
大学入試センターのサイト内に、各科目の試験についての「高等学校教科担当教員の意見・評価」と「問題作成部会の見解」が公開されています。2011年の韓国語の問題について、その「高等学校教科担当教員の意見・評価」の中の次のようなくだりが目にとまりました。
その平均点を「下げる」ためのいろいろな「工夫」が見受けられ、かつ、出題者もそのような「工夫」をせざるを得ないと言っている。その「工夫」には、「外国語としての韓国語」の問題ではなく、「国語としての韓国語」の問題が含まれているように思われる。すなわち、韓国語母語者及び民族学校経験者をターゲットにした「特殊」な問題が出題されたと思われる。
つまり、高得点で当然のはずの韓国語母語者及び民族学校経験者が間違えやすいを意図的に出題したということです。
そんな問題が、あるんですねー。
まあ考えてみたら、日本人が苦手な日本語の問題もありそうだし・・・。たとえば次のような。
[例題1]次の「ん」の中で、発音が同じものはどれとどれか?
①かんどう(感動) ②てんぼう(展望) ③こんごう(混合) ④はんのう(反応)
[例題2]次の中で、他の3つと違う意味の「ために」はどれか?
①君のミスを直すために苦労をする。 ②将来のためにがんばった。③初心者のために本を書いた。④無理な目的のために失敗した。
これらは韓国語学習者ならわかりそう。以下、正解は範囲指定すると現れます。[例題1]が①と④。ともにnの発音。②はm、③はng。[例題2]は④。④が原因で他は目的。ちょっと引っかけ。 日本語の難問は日本語教育能力検定試験の問題にいっぱいあります。たとえば・・・
[例題3]「複合要素の関係」の観点から見て、他と性質の異なるものを1つ選べ。
①川下り ②気配り ③影踏み ④魚釣り ⑤水遣り
この正解は①。②~⑤はすべて「~を~する」の形の「目的語+他動詞」。「川を」は目的語ではない。
本題に戻ります。
2011年の問題中、正答率が極端に低かった(50~70%に集中)のが第1問。これを韓国人留学生24 名=K、在日韓国・朝鮮人生徒(民族学校経験者)14名=JK、日本人高校3年生(年6単位履修者)2名=Jを対象としてモニタリング調査を行った、とのことです。
その結果は次の通りです。
A 問1
J=正答 1・誤答 1
K=正答15・誤答 9
JK=正答 3・誤答11
*Kの正答率=62.5%、JKの正答率=21.4%
A 問2
J=正答 2・誤答 0
K=正答19・誤答 5
JK=正答 8・誤答 6
*Kの正答率=79.2%、JKの正答率=57.1%
問1は③が正解。「総務課(총무과)」の「課(과)」が濃音になることは知っているはずの在日の生徒(民族学校経験者)も、「17課」の「課」は平音になることまでは知らなかった人が多かったということか? ④と答えた人が正答の倍の6人もいたのは、④「결과(結果)」だけが平音と思ったため? しかし、韓国人留学生も4割近くの人が間違えたとはオドロキ! ふだん無意識で発音しているので、かえってわからないということかな?
問1より多少マシとはいえ、問2の誤答も多いですね。正解は①。「憲法」「刑法」「民法」等の「法(법)」は濃音化をしますが、「司法(사법)」の法は平音。「司法(사법)」も「とても(제법)」も「学習語彙の範囲とは言いづらい」と高校の韓国語の先生方は指摘しています。
ハングル表記では見分けのつかない濃音化の問題は、KやJKにとって間違いなく苦手な問題ですね。
B 問1
J= 2・誤答 0
K=2・誤答 4
JK=10・誤答 4
*Kの正答率=100%、JKの正答率=71.4%
B 問2
J=正答 2・誤答 0
K=正答23・誤答 1
JK=正答 6・誤答 8
*Kの正答率=95.8%、JKの正答率=42.9%
B 問3
J=正答 2・誤答 0
K=正答22・誤答 2
JK=正答 3・誤答 11
*Kの正答率=91.7%、JKの正答率=21. 4%
正解は問1が④、問2が②、問3が③。ハングルは表音文字とはいっても、同じ発音でも表記が異なる単語もあったり、パッチムによる音変化もあったりで、表記についての正誤問題はネタにこと欠くことはないでしょう。
このBの問題については、韓国人留学生(K)と在日の生徒(JK)との間に大きな差がついています。日本人の中級以上の学習者も基本的に在日の生徒と同様だと思います。はっきり言って、私ヌルボも苦手な分野です。
C 問1
J=正答 0・誤答 2
K=正答17・誤答 7
JK=正答 4・誤答10
*Kの正答率=70.8%、JKの正答率= 28.6%
C 問2
J=正答 1・誤答 1
K=正答12・誤答12
JK=正答 4・誤答10
Kの正答率=50.0%、JKの正答率=28.6%
C 問3
J=正答 1・誤答 1
K=正答12・誤答12
JK=正答 4・誤答10
*Kの正答率= 50.0%、JKの正答率= 28.6%
正答は、問1が①、問2が①、問3が③。韓国人学生にしては正答率が低いことに驚く人もいるかも。問2・問3は正答が半分だけですからねー。しかし、正答率の低さの理由はわかりやすいです。一言でいえば「漢字が苦手」。問1がまだマシなのは、「親」とか「沈」とか、なじみのある漢字が含まれているから、かな? ※「沈(シム)」は、歌手沈守峰(심수봉.シム・スボン)のように、姓のひとつにある。
在日生徒の正答率も3割以下という低さ。これは高校教員側の指摘に「問1の「a.浸水(침수)」と「c.親密(친밀)」、問2の「a.溪谷(계곡)」と「b.啓蒙(계몽)」、問3の「a.衰退(쇠퇴)」と「b.連鎖(연쇄)」は「学習語彙の範囲を超えている」というレベルの高さがその理由。3つの選択肢中2つを確実に知っていれば正答率は50%ですが、この数字は1つわかるのがやっとというレベルです。中級レベル(ハングル検定準2~3級)の人でも「衰」や「啓」の読みはわからない人が大半なのではないでしょうか? 私ヌルボがわからなかったから言うのではないとは必ずしも言えないですが・・・???。
なるほど、平均点を下げるために「ここまでやるか」という感じですね。いずれにしろ、高校の授業で韓国語をゼロから学習してきた受験生にとっては難しすぎることには変わりないですが・・・。
高校教員側のこのような指摘や意見に対して、問題作成部会の見解はと見ると、「高等学校教科担当教員からの批判は、至極当然と言わざるを得ず、平均点の不均衡を是正する方向で作題しようとしてきた従来の作成部会の方針は根本的に再考する必要があろう」とほとんど全面的に首肯しています。そしてさらに、「この状況を抜本的に打開するためには、試験の制度的な改革が必要」であるとし、作成部会としても「今後様々な方法を模索するより一層の努力が求められる」が、それとともに「関係各位による検討・改善を促したい」という言葉で締めくくっているのは高校教員側とのナレアイ的雰囲気が感じられないでもありません。
ま、そう言わざるをえないでしょうね。前回の記事でも記しましたが、テスト問題の難易度というよりも、センター試験の中で英語以外の言語をどう位置づけるか、という制度自体の問題が根っこにあるわけですから・・・。