ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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「貧困のため」よりも大きな理由は? 韓国の海外養子、赤ちゃんポストをめぐる事情①

2016-09-18 08:39:39 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
今年3月、韓国で「Twinsters ~双子物語~(트윈스터즈)」というドキュメンタリー映画が公開されました。
 英・仏・米・韓国合作のキュメンタリーで、内容は次の通りです。

 昨年あたりからいろいろ報じられているのでご存知の方も多いと思います。
 フランス国籍でロンドン在住のデザイナーの勉強をしているアナイス・ボルディエさん(画像右、だっけな?)が「あなたとそっくりのアジア系女優が動画に出てる」と教えられたのがそもそもの始まり。相手のサマンサ・フッターマンさんも1987年11月9日と自分と同じ誕生日でした。アナイスさんはロサンゼルス在住の俳優というサマンサさんとFacebookで連絡を取ります。すると2人は釜山生まれで、すぐ養子の斡旋業者によって別々に引き取られていった双子だったことが判明しました。
 2013年5月、ロンドンで26年ぶりの再会した2人は遺伝子検査を受け、100%一卵性双生児であることが明らかになります。その後この物語の映画化のためクラウドファンディングで資金を調達し、サマンサさん自身が監督となって完成したのがこの作品です。

 このドキュメンタリーの韓国版予告編を貼っておきます。

 ※日本での劇場公開はありませんが、Netflixで「双子物語」のタイトルで配信されています。(→コチラ
 [2018年9月13日の追記] この記事を書く以前に、アナイスさん・サマンサさんの共著「他人のふたご」(太田出版.2016/2)の翻訳本が刊行されていることを知りました。上述のことが当人たちによって詳しく書かれている本です。図書館で読んでみましたが、とてもスリリングで一気読みしました。

 ・・・と、いろいろ書くとさも自分も観たように思われるかもしれませんが、実は観てません。しかし梗概を読むだけでも感動する話ではありませんか!
 私ヌルボ、それにケチをつける気持ちは全然ありません。ただ、いろいろと考えざるをえない要素があるのも事実です。

 たとえば先週9月8日、「朝鮮日報」に「子犬まで海外養子に出す韓国」と題した記事が掲載されていました。ソチラの方が本記事のキッカケです。(原文は下画像または→コチラ。)
 ニューヨーク在住の歯科医師の女性による寄稿です。
 記事の要点は、近年韓国から外国に送られる犬たちに関すること。ひどい環境に置かれていた補身湯(犬鍋)用の犬を韓国や外国の動物保護活動団体が救い、主にアメリカやカナダの家庭に送っているのだそうです。筆者は「気になるのはなぜ韓国人はこんなことも責任を負わないのかという点だ」と問題提起し、韓国内で養子先を見つけるキャンペーンをすべきだと主張しています。
 私ヌルボがその記事で注目したのは、犬ではなく韓国人の海外養子について記されている以下の部分です。

 私は13歳の時家族と一緒にアメリカに来てミネソタ州で育った。当時ミネソタ州にはアメリカ人家庭の養子となった韓国の子供たちがとても多くいて、私も時々養子と思われたりした。・・・・
  1998年、金大中大統領は、海外養子に対して公式謝罪したことがある。・・・・
  6・25戦争の後は、深刻な経済的困難のため、海外養子がやむを得ない選択だっただろう。以後70〜80年代には未婚のカップルの赤ちゃんを他国に送ったりして海外養子の流れは続いた。このように海外に養子に行った子供たちが総計17万人を越えるが、世界1位だという。しかし、今経済的困難は理由にならない。韓国はすでに世界10位圏の経済大国ではないか。

 先のドキュメントの事例を考えると、たしかにほとんど奇跡に近い幸運であることは間違いないとしても、上記のように韓国人入養児(←韓国での用語)の数が「総計17万人を越えて世界1位」という点に着目すれば、そんな偶然の海外養子の双子同士の出会いが韓国人だったということは確率的には高いということになります。

 韓国では、ソウル五輪の頃から国内外で「児童輸出国」という批判に直面してきて、その後(とくに21世紀に入ってから)諸施策がとられるようになってきました。たとえば国内に4団体あるという海外養子斡旋団体が、最初から外国にではなくまず国内での養子斡旋を優先するとか、シングルマザーへの支援を強化するとか・・・。その成果(?)か、2009年の「ハンギョレ」の記事(→コチラ.韓国語)によると、1998年には年間2443人だった海外養子の数は2008年には1250人に減り、グアテマラ・中国・ロシア・エチオピアに続いて5位に後退しています。
 その後2011年に養子縁組特例法が制定され(翌年施行)、それまで養子縁組機関の判断でマッチングし委託していたのが、赤ちゃんを養子に出す場合には出生届を義務化し、裁判所が養子縁組を最終決定するようにしました。そして2013年韓国はようやく児童の基本権を最重視するハーグ国際養子縁組条約に加盟しました。(91番目の加盟国) しかし「中央日報(日本語版)」の記事(→コチラ)が指摘するように課題は依然多く、また新たな問題も生じているようです。

 そこで、もう1つのドキュメンタリー映画を紹介・・・となるのですが、とりあえずここで一区切り。

 <嫌韓>に直結しやすいネタですが、そういうつもりはありませんのでご承知おきを。(蛇足ではありますが・・・。)

 ★韓国の海外養子(入養児)については、本ブログでも2度映画関連でけっこう詳しく書いたことがありました。「冬の小鳥」の記事(→コチラ)と、「はちみつ色のユン」の記事(→コチラ)です。

 ★参考:<日刊サイゾー>の記事「実は“児童輸出大国”だった!? 韓国で「海外養子」が多いワケ」コチラ



 ★昨年10月の「中央日報(日本語版)」(→コチラ)では、中央日報系のTV局JTBCのトークバラエティ番組「非頂上会談」出演者のイタリア人モンディさんが、イタリアから母国訪問に来韓した海外養子の通訳&案内をしたこととともに、「特に先進国の政府は養子縁組の成功談を広報することよりも、子供たちを養子縁組させる必要性そのものをできるだけなくす努力をしなければならないと思う。困難な状況のために養子縁組させる必要ができれば、海外よりも同じ国で養子縁組をさせるのが理想的な解決策であろう」と正論を記しています。
 そうそう。フランスで大臣になった女性とか、スポーツで注目されている人とか「成功事例」はしばしば韓国で報道されたりしていますが、その反対の事例もかなりあるのでは? 韓国をはじめとするメディアはそれをむしろ探るべきでしょう。

コメント
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