→ 朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の呼称 ①「北朝鮮」と「韓国」以外にあるの?
→ 朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の呼称 ②ホントに厄介な「北」の呼び方
→ 朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の呼称 ③韓国では、「北韓」の語が定着するまで何と言っていた?
6月2日以来約100日ぶりの続き記事です。
今回は、朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国のそれぞれが、自国と相手国のことを何と呼ぶかについてです。実はこの最終回が本論です。(今までは長~い前書きだった!?)
ちょっと長くなりそうなので、先にこのシリーズを始めたキッカケについて書いておきます。
それは、ドキュメンタリー映画「ワンダーランド北朝鮮」を観たこと。より正確には、その韓国題が「북녘의 내 형제 자매들(北の方の私の兄弟・姉妹たち)」いうことを知ったから。
そして、関連して思い出したのが3年前に読んだ「リ・ジョンエのソウル滞留記」。総連系の在日朝鮮人リ・ジョンエさんの実体験を描いた漫画です。
ソウルの街頭行動で統一旗を振る彼女(左画像)は、「북한(プッカン.「北側(북쪽.プクチョク)」)」という言葉を使わず、いつも「北側(북쪽.プクチョク)」と言っていることに気づきました。右画像は彼女が金剛山ツアーで北朝鮮に行った時の現地事務所。「「北側」の方たちは皆私が総連同胞ということを知ると、弾圧を受けている状況をわがことのように心配し憤ってくれました。」
先回りして結論まで書いてしまうと、韓国の進歩系の人、親北朝鮮の人の中には、このように韓国で一般的に用いられている「北韓」という呼称を避けている人が相当数いるようだ、ということです。
大韓民国では自国のことはもちろん「한국(ハングク.韓国)」と呼び、北朝鮮のことは先に書いたように「북한(プッカン.北韓)」と呼びます。
※google翻訳やexcite翻訳では、<북한>→<北朝鮮>、<北朝鮮>→<북한>と変換されるので、場合によっては要注意。
※韓国では、南と北を併称する場合に、「남한(ナマン.南韓)」と「북한(プッカン.北韓)」という言い方をすることもあります。
※国号というものではありませんが、「以北(이북.イブク)」という言葉もあります。光復後南北に分断された休戦ライン北側の地域のことで、以北五道といえば黄海道・平安南道・平安北道・咸鏡南道・咸鏡北道を指し、韓国では今もそれぞれ知事が任命されています。また北朝鮮出身者による食堂に→「以北ソンマンドゥ」といった店名がつけられたりもしています。
一方、朝鮮民主主義人民共和国では自国を「조선(チョソン.朝鮮)」といいます。また→先の先の記事
で書いたように、「共和国」という言葉が用いられることもあります。
※最近読んだ脱北者関係の本(韓国語)で、「北朝鮮の人は「조국」という言葉を「祖国」ではなく「朝鮮国」の略語「朝国」という意味で使っている」という脱北者の言葉を読んだ記憶があります。1ヵ月以上前から書名等再確認中です。
そして、北朝鮮では韓国のことを「남조선(ナムチョソン.南朝鮮)」と呼んでいます。しかし、南と北を併称する場合に、「北朝鮮」と「南朝鮮」という言い方をしない点は韓国と異なります。
※つまり、「北朝鮮」という言葉は韓国でも北朝鮮でも使われないということです。
ちなみに、この「南朝鮮」という言葉を使ったらどうなるか? 少し古い事例ですが、1997年に金大中系の野党・新政治国民会議所属の李錫玄(イ・ソッキョン)議員が米国訪問中に「韓國(南朝鮮) 國會議員 李錫玄」と記された名刺を使用したことで与党・新韓国党の追及を受けた<名刺波紋>がありました。李錫玄議員は、国際化時代に合わせて7大言語で名刺を作って外国で使用したものの1つで、中国人のためのものと説明し、新韓国党の主張は「幼稚で滑稽なこじつけ」と反論しましたが、結局新政治国民会議を離党することになりました。(その後金大中の大統領選当選後に復党。現在は与党・共に民主党所属。)
今は状況はかなり変わってきましたが、それでも韓国では「南朝鮮」という言葉は依然として公公然と使える言葉ではありません。
ところが、近年韓国で北朝鮮の呼称についてまた変化が見られます。反共軍事政権当時ふつうに用いられていた「北傀」に代わって「北韓」が定着したのは約20年前の金大中政権頃からでした。
しかし、その後この「北韓」に対しても批判的な主張が出てきました。南北の統一を志向する<進歩系>の立場からのものです。
その代表として、円光大のイ・ジェボン教授が2005年に書いた南北の呼称についての記事(→コチラ)の要点を紹介します。(※イ・ジェボン教授は、親北・反米的な主張を重ねている、いわゆる「親北」(従北?)人物です。)
・歴史的には「朝鮮」は「古朝鮮」に始まり、「韓国」は三韓(馬韓、辰韓、弁韓)に由来する。つまり「朝鮮」はウリナラ(われわれの国)の最古の名前であり、「韓国」はその次に古い名前だが、それら長い伝統と深い意味を持つ国号が南北の対立のためにその崇高さと美しさが損なわれている。
・南北の和解・協力の前提として、相手方の国名を正しく呼ぶべきだ。
ではどう呼ぶか? 以下、6つのペアについて考えてみよう。
①大韓民国 - 朝鮮民主主義人民共和国
・・・・正式名称だが、長すぎる。
②韓国 - 朝鮮
・・・・ともに自国でそのように呼んでいるという点で、相手方を尊重し、平和統一をめざしている点で評価できる。ただ、共通の文字がないので、お互いが他人という印象を与え、本来的に1つの国という観点からは不適当である。 ※南のメディアで北を「朝鮮」と表記しているのは[全国言論労働組合連盟]で発行する週刊誌「メディア・オヌル」が唯一の例外とみられる。
③韓国 - 北韓
④朝鮮 - 南朝鮮
・・・・③④とも強く拒否する。ともに相手の存在を認めない、不公平で非対称的なペアだ。偏見や歪みを煽り、吸収統一を志向する冷戦的で暴力的な呼称である。南で「南朝鮮」という言葉を、また北で「北韓」という言葉を極度に嫌う理由がここにある。
⑤南韓 - 北韓
⑥北朝鮮 - 南朝鮮
・・・・この⑤と⑥が望ましい。均衡のとれた呼称で、共通の文字である「韓」や「朝鮮」を介して互いに、同じ血筋であることを明示する一方、分断の痛みを露呈することで、統一への願いを持つように導くからである。しかし韓国では⑤は使えるが、⑥を使うとパルゲンイ(アカ)と罵倒されたり、容共利敵行為で処罰されそうだ。
・今、「南朝鮮」という言葉の使用にそれほど抵抗感があるなら、相手が極度に嫌う「北韓」という呼称も使わないようにすべきだ。
・あえて「北韓」という呼称にこ固執するなら、私たち自身を「韓国」とせず「南韓」と呼ぼう。
・どうしても南側を「韓国」と呼ぶなら、北を「朝鮮」と呼ぼう。
・・・ということですが、ここで私ヌルボがイ・ジェボン教授に問いたいのは、北の政府あるいは国民がこの意見に同意してくれると思うのか?ということ。あるいは、その前に「相手方を尊重し」、「対等の立場での統一をめざす」という観点が北朝鮮の政府に受け入れられると思うのか?ということ。
あるいはさらに、北朝鮮の人々は(イ・ジェボン教授のように)熱い民族意識を持って統一を願っていると思うのか?ということ。
私ヌルボの見るところでは、答えはすべて「否」です。最近の南北間の他の案件でも同様ですが、全体的に韓国の政府や多くの国民の側からの「片思い的民族感情」ばかりが先行しているように思えます。(「<住民>はいるが<市民>はいない」北朝鮮で、そんな民衆レベルの民族意識の高揚は起こりえず、また北朝鮮政府も民衆が独自の<意思>を持つことを恐れるのでは?)
いずれにしても、韓国の<進歩系>=統一志向の人たちにとっては北朝鮮の呼称は難しいところです。単に「北韓」はふつう(「南韓」ではなく)「韓国」とペアだし、すると「韓国主導の一方的な吸収統一」につながりそうだし・・・。
ということで、「北韓」を使わないとなると、どうするか?
結局は単に「北側(북쪽.プクチョク)」とか「北の方(북녘.プンニョク)」という言い方をするしかありません。
と、ここで冒頭のあたりで書いた「ワンダーランド北朝鮮」の韓国題につながるというわけです。
ウィキペディアの→<朝鮮民主主義人民共和国>の項目を見ると、<朝鮮民主主義人民共和国>の「韓国における呼称」についての説明文中に次のように記されています。
韓国では朝鮮の南北について「南韓・北韓」という呼び方が一般的であり、自国のことを「南朝鮮」と呼ぶ者は、ごく一部の民族民主(NL)系人士に限られる。また、政治色を無くした「南側・北側」が特に南北交流の場で使われることもある。
実はこの説明文中「特に南北交流の場で」の部分は最近までありませんでした。したがって多少は改善されましたが、韓国の一般国民の間での使用状況をみると、この「政治色を無くした」という部分は誤りです。上述のように、「南側・北側」という言葉を使う場合は、その人は(韓国主導ではない)統一を志向しているという「政治的立場」を示しています。つまりは<進歩系>の人ということです。(<親北左翼>と言った方がわかりやすいですが、そう書くとなんか批判的なキモチが前面に出てしまうので・・・。って、もう出てる?)
→ 朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の呼称 ②ホントに厄介な「北」の呼び方
→ 朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の呼称 ③韓国では、「北韓」の語が定着するまで何と言っていた?
6月2日以来約100日ぶりの続き記事です。
今回は、朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国のそれぞれが、自国と相手国のことを何と呼ぶかについてです。実はこの最終回が本論です。(今までは長~い前書きだった!?)
ちょっと長くなりそうなので、先にこのシリーズを始めたキッカケについて書いておきます。
それは、ドキュメンタリー映画「ワンダーランド北朝鮮」を観たこと。より正確には、その韓国題が「북녘의 내 형제 자매들(北の方の私の兄弟・姉妹たち)」いうことを知ったから。
そして、関連して思い出したのが3年前に読んだ「リ・ジョンエのソウル滞留記」。総連系の在日朝鮮人リ・ジョンエさんの実体験を描いた漫画です。
先回りして結論まで書いてしまうと、韓国の進歩系の人、親北朝鮮の人の中には、このように韓国で一般的に用いられている「北韓」という呼称を避けている人が相当数いるようだ、ということです。
大韓民国では自国のことはもちろん「한국(ハングク.韓国)」と呼び、北朝鮮のことは先に書いたように「북한(プッカン.北韓)」と呼びます。
※google翻訳やexcite翻訳では、<북한>→<北朝鮮>、<北朝鮮>→<북한>と変換されるので、場合によっては要注意。
※韓国では、南と北を併称する場合に、「남한(ナマン.南韓)」と「북한(プッカン.北韓)」という言い方をすることもあります。
※国号というものではありませんが、「以北(이북.イブク)」という言葉もあります。光復後南北に分断された休戦ライン北側の地域のことで、以北五道といえば黄海道・平安南道・平安北道・咸鏡南道・咸鏡北道を指し、韓国では今もそれぞれ知事が任命されています。また北朝鮮出身者による食堂に→「以北ソンマンドゥ」といった店名がつけられたりもしています。
一方、朝鮮民主主義人民共和国では自国を「조선(チョソン.朝鮮)」といいます。また→先の先の記事
で書いたように、「共和国」という言葉が用いられることもあります。
※最近読んだ脱北者関係の本(韓国語)で、「北朝鮮の人は「조국」という言葉を「祖国」ではなく「朝鮮国」の略語「朝国」という意味で使っている」という脱北者の言葉を読んだ記憶があります。1ヵ月以上前から書名等再確認中です。
そして、北朝鮮では韓国のことを「남조선(ナムチョソン.南朝鮮)」と呼んでいます。しかし、南と北を併称する場合に、「北朝鮮」と「南朝鮮」という言い方をしない点は韓国と異なります。
※つまり、「北朝鮮」という言葉は韓国でも北朝鮮でも使われないということです。
ちなみに、この「南朝鮮」という言葉を使ったらどうなるか? 少し古い事例ですが、1997年に金大中系の野党・新政治国民会議所属の李錫玄(イ・ソッキョン)議員が米国訪問中に「韓國(南朝鮮) 國會議員 李錫玄」と記された名刺を使用したことで与党・新韓国党の追及を受けた<名刺波紋>がありました。李錫玄議員は、国際化時代に合わせて7大言語で名刺を作って外国で使用したものの1つで、中国人のためのものと説明し、新韓国党の主張は「幼稚で滑稽なこじつけ」と反論しましたが、結局新政治国民会議を離党することになりました。(その後金大中の大統領選当選後に復党。現在は与党・共に民主党所属。)
今は状況はかなり変わってきましたが、それでも韓国では「南朝鮮」という言葉は依然として公公然と使える言葉ではありません。
ところが、近年韓国で北朝鮮の呼称についてまた変化が見られます。反共軍事政権当時ふつうに用いられていた「北傀」に代わって「北韓」が定着したのは約20年前の金大中政権頃からでした。
しかし、その後この「北韓」に対しても批判的な主張が出てきました。南北の統一を志向する<進歩系>の立場からのものです。
その代表として、円光大のイ・ジェボン教授が2005年に書いた南北の呼称についての記事(→コチラ)の要点を紹介します。(※イ・ジェボン教授は、親北・反米的な主張を重ねている、いわゆる「親北」(従北?)人物です。)
・歴史的には「朝鮮」は「古朝鮮」に始まり、「韓国」は三韓(馬韓、辰韓、弁韓)に由来する。つまり「朝鮮」はウリナラ(われわれの国)の最古の名前であり、「韓国」はその次に古い名前だが、それら長い伝統と深い意味を持つ国号が南北の対立のためにその崇高さと美しさが損なわれている。
・南北の和解・協力の前提として、相手方の国名を正しく呼ぶべきだ。
ではどう呼ぶか? 以下、6つのペアについて考えてみよう。
①大韓民国 - 朝鮮民主主義人民共和国
・・・・正式名称だが、長すぎる。
②韓国 - 朝鮮
・・・・ともに自国でそのように呼んでいるという点で、相手方を尊重し、平和統一をめざしている点で評価できる。ただ、共通の文字がないので、お互いが他人という印象を与え、本来的に1つの国という観点からは不適当である。 ※南のメディアで北を「朝鮮」と表記しているのは[全国言論労働組合連盟]で発行する週刊誌「メディア・オヌル」が唯一の例外とみられる。
③韓国 - 北韓
④朝鮮 - 南朝鮮
・・・・③④とも強く拒否する。ともに相手の存在を認めない、不公平で非対称的なペアだ。偏見や歪みを煽り、吸収統一を志向する冷戦的で暴力的な呼称である。南で「南朝鮮」という言葉を、また北で「北韓」という言葉を極度に嫌う理由がここにある。
⑤南韓 - 北韓
⑥北朝鮮 - 南朝鮮
・・・・この⑤と⑥が望ましい。均衡のとれた呼称で、共通の文字である「韓」や「朝鮮」を介して互いに、同じ血筋であることを明示する一方、分断の痛みを露呈することで、統一への願いを持つように導くからである。しかし韓国では⑤は使えるが、⑥を使うとパルゲンイ(アカ)と罵倒されたり、容共利敵行為で処罰されそうだ。
・今、「南朝鮮」という言葉の使用にそれほど抵抗感があるなら、相手が極度に嫌う「北韓」という呼称も使わないようにすべきだ。
・あえて「北韓」という呼称にこ固執するなら、私たち自身を「韓国」とせず「南韓」と呼ぼう。
・どうしても南側を「韓国」と呼ぶなら、北を「朝鮮」と呼ぼう。
・・・ということですが、ここで私ヌルボがイ・ジェボン教授に問いたいのは、北の政府あるいは国民がこの意見に同意してくれると思うのか?ということ。あるいは、その前に「相手方を尊重し」、「対等の立場での統一をめざす」という観点が北朝鮮の政府に受け入れられると思うのか?ということ。
あるいはさらに、北朝鮮の人々は(イ・ジェボン教授のように)熱い民族意識を持って統一を願っていると思うのか?ということ。
私ヌルボの見るところでは、答えはすべて「否」です。最近の南北間の他の案件でも同様ですが、全体的に韓国の政府や多くの国民の側からの「片思い的民族感情」ばかりが先行しているように思えます。(「<住民>はいるが<市民>はいない」北朝鮮で、そんな民衆レベルの民族意識の高揚は起こりえず、また北朝鮮政府も民衆が独自の<意思>を持つことを恐れるのでは?)
いずれにしても、韓国の<進歩系>=統一志向の人たちにとっては北朝鮮の呼称は難しいところです。単に「北韓」はふつう(「南韓」ではなく)「韓国」とペアだし、すると「韓国主導の一方的な吸収統一」につながりそうだし・・・。
ということで、「北韓」を使わないとなると、どうするか?
結局は単に「北側(북쪽.プクチョク)」とか「北の方(북녘.プンニョク)」という言い方をするしかありません。
と、ここで冒頭のあたりで書いた「ワンダーランド北朝鮮」の韓国題につながるというわけです。
ウィキペディアの→<朝鮮民主主義人民共和国>の項目を見ると、<朝鮮民主主義人民共和国>の「韓国における呼称」についての説明文中に次のように記されています。
韓国では朝鮮の南北について「南韓・北韓」という呼び方が一般的であり、自国のことを「南朝鮮」と呼ぶ者は、ごく一部の民族民主(NL)系人士に限られる。また、政治色を無くした「南側・北側」が特に南北交流の場で使われることもある。
実はこの説明文中「特に南北交流の場で」の部分は最近までありませんでした。したがって多少は改善されましたが、韓国の一般国民の間での使用状況をみると、この「政治色を無くした」という部分は誤りです。上述のように、「南側・北側」という言葉を使う場合は、その人は(韓国主導ではない)統一を志向しているという「政治的立場」を示しています。つまりは<進歩系>の人ということです。(<親北左翼>と言った方がわかりやすいですが、そう書くとなんか批判的なキモチが前面に出てしまうので・・・。って、もう出てる?)