ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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映画「7番房の奇跡」を観て仕入れた、韓国語や韓国社会についての雑知識いろいろ

2014-03-04 19:54:59 | 韓国映画(&その他の映画)
       「セーラームーン」のオープニング曲「ムーンライト伝説」(韓国版)


 韓国では観客動員1281万人を記録した映画「7番房の奇跡」は、歴代の韓国映画でも「グエムル 漢江の怪物」「10人の泥棒たち」に次いで第3位にまで上がるほどの大ヒット作。

 ところが、日本では1月25日に公開されたものの、映画の認知度からして(たぶん)低いまま、現在東京での上映館はシネマート新宿だけで、それも20:50~の1回のみ。
 それでも、<ぴあシネマ生活>の平均評点は88点とトップクラスの高得点。あと、個人的には横浜のシネマジャック&ベティで4月5~18日に上映されることはこの映画のファンにとっては良いニュースでしょう。

 私ヌルボ、昨日ようやくこの映画を観てきました。
 実はこの種の映画は「少し苦手」レベルなんですけどね。「この種」というのは、観客の涙腺を過度にシゲキする要素がいろいろそろっている、ということ。本作品に即していえば、善良な知的障碍者、冤罪、100%の父娘愛で、その女の子がとてもかわいい、その父娘を取り巻く人たちの気持ちが云々・・・。

 ・・・ということで、あまり気が乗らない一方で、一応韓国オタクとしてはこれだけの大ヒット作は観ておかなければ、という気持ちもあり、そんな葛藤の末(←大げさすぎる)やっと観に行った次第。

 で、映画自体についてはほぼ予測通り。
 今回はその内容に関わることはほとんどスルーすることにして、例によって暗がりの中で大学ノートにメモしたもろもろの中からいくつかあまり役にも立たないネタをいくつか挙げることにします。

字幕翻訳者は小寺由香さん。韓国映画だからといって「いつも」根本理恵さんというわけではありません。<Movie.Walker>によると、これまで「高地戦」等6作品の字幕を担当されています。後述のように、この「7番房の奇跡」では日本語に訳しにくい箇所がいくつかあって苦心されたのでは、と思いました。
 ※私ヌルボ、以前「おばあちゃんの家の家」の字幕で、たしか「몸이 안 아파요?」が「身体が痛くない?」と訳されていて疑問に思ったことがありました。中級(or初級?)の学習者なら「身体の具合は悪くないですか?」とわかるはずなのに・・・。後で字幕翻訳者を見ると古田由紀子とあるではないですか。英語翻訳者!(仏語も?)の・・・。つまり英語から重訳してたということ。→コチラのブログ記事には、これも彼女が字幕を担当したドイツ映画(!)の「善き人のためのソナタ」の字幕の問題点も書かれていたゾ。ま、これって彼女の問題というよりも、その言語専門の人を起用しなかったことに問題あり、ということでしょうが・・・。

主人公のヨング(リュ・スンリョン)が7番房に収監された最初の日、同じ房の面々が紹介される場面で、各々の罪状も字幕(ハングル&日本語)で表示されます。「密輸(밀수)」「スリ(소매치기)」「賭博(도박)」「詐欺(사기)」なんかはいいとして(?)、気になったその1は「当たり屋」。韓国語では何というのかと思ったら「자해공갈(自害恐喝)」なんですね。(→コチラのブログ記事にもありました。)
 そして気になったその2は「姦通(간통)」。昔は日本にもあったこの罪名を、今の若い人たちは知ってるのかしら?
 この罪がまだあるんですね、韓国には。しかし違憲論も強くなってきて、最近何かと話題のあの憲法裁判所でも90年、93年、01年、08年の4回にわたって審査されたそうですがいずれも合憲と判断されました。ただ、→コチラの実にくわしい記事によると、08年は裁判官9人のうち5人が違憲または憲法不合致の意見を出したそうです。(違憲とするには6人必要。)
 また、韓国ヤフーのネット投票(→コチラ)の結果は姦通罪に対し48.8%が「合憲」、48.6%が「違憲」と真っ二つ。男性女性で分かれた、というわけでもないか・・・。

ヨングの娘の名前がイェスン(パク・シネ)。彼女が教会に入ってきたのに気がついた牧師様、思わず「イェスン!」と叫ぶと、ちょうど牧師様の言葉を唱和していた信徒たちも「イェスン」。つまりイエス様と似ている音なので誤解して・・・、とここらへんはわかりやすい。
 しかし、イェスン(子役カル・ソウォン)が房長[=牢名主?](オ・ダルス)の囚人服の胸の番号を見ながら「天使様!」というのは字幕の考えどころかな? 「1004」という数字も「天使」も同音同字の「천사(チョンサ)」というのがミソ。後の方の場面で、房長がある所に落書きするのですが、そこで天使の翼が描かれていたのもこれに関連してます。

監房内で囚人たちが花札をやってる場面。この前観た「執行者」では囚人とベテラン刑務官が朝鮮将棋をやってました。あ、これは監房ではなかったか。
 で、花札の大写しにされる一瞬の場面を見ると、たしか手書き(!)の花札だったような・・・。細かな絵柄をよく描いたものです。
 その昔、ヌルボは高校生が消しゴムにボール紙を被せて実に丁寧に作った麻雀牌1セットを見たことがありました。1索なんかも色ボールペンを駆使して細かく正確に描かれていました。禁じられた所でもゲームをやりたいという執念はたいしたものだなー。

これまた囚人たちの暇つぶしなんでしょうが、しりとり(끝말 잇기)をやっていました。
 ところが、「いかにも」という言葉が次々と飛び出し笑わせるわけです。

 「히로뽕(ヒロポン)!」・・・昔、同級生だったひろこちゃんがヒロポンと呼ばれてたなー(笑)。
→「뽕브라(ポンブラ)」・・・字幕ではブラジャーだけだったような。正確には胸を大きく見せるブラジャー
 これについては、衝撃的なCM動画がYouTubeにありました。向学心旺盛な方等はぜひご覧ください。→コチラ
→「라와바리(ラワバリ)!」・・・これに対しては「나라와바리(ナワバリ)の間違いだろう」との指摘が出ます。
 韓国語ではナ行とラ行の発音や表記がややこしいのです。日本等では「ラララ♪」と歌うところでも「ナナナ♪」と歌ってますね。
 それから、このナワバリという言葉は、他の場面でも何度か出てきました。韓国のヤクザ(조폭(チョポク.組暴))社会では今もふつうに使われているようです。※関連過去記事→コチラ
→「리발사(リパルサ)」・・・理髪師。これもふつうは「이발사(イパルサ)」なんだけどなー。北朝鮮ではリパルサ。しかし韓国の李さんも李(イ)さんばかりではなく、李(リ)さんもいないではないし、これも境界は(ヌルボは)判然としません。
→사시미(サシミ)・・・日本語そのまま。「생선회(センソンフェ)」とのニュアンスの違いは、んー、宿題。

これも言葉に関することですが、房長はなんと字が書けないのです。で少女イェスンや囚人仲間に教わるのです。韓国の識字率のことも以前→コチラ等で書きました。つまり、韓国社会で読み書きのできない人は少ないとはいえ決してめずらしい存在ではないということです。とくに地方の年配女性に多いのですが、この房長のような男性もいるということでしょうか。
 字幕で少し気になったのは、今の日本では差別語とされる「文盲」という言葉を用いていたこと。どこかでチェックが入らなかったのかな?

この映画の主人公イ・ヨングは、上記のように知的障碍者です。率直に言って、リュ・スンリョンの演じ方はちょっと不自然さを感じました。何か韓国の人たちのイメージには合っていても、実際の障碍者とは少しずれているようで・・・。
 以前から気になっているのは、韓国映画や漫画等で描かれる彼らのイメージと、「パボ(馬鹿)」という言葉です。たとえばカンプルの漫画(後に映画化)「パボ」、去年公開された、北朝鮮のスパイが「町内のパボ」になりすまして・・・という設定の「隠密に偉大に」等。
 この件については、→コチラの過去記事で書いたことがありました。
 また、Kポップでも「바보같이(馬鹿みたいに)」という言葉が歌詞にある歌を本気で探すと何十曲かにはなりそう。BIGBANGの「Fool 바보」、Epik Highの「바보」、Lunaの「바보」等はタイトルからして「바보」だし、k.will & ChaKunの「Even if u play」やWAXの「잊지 말아요」等々、これはキリがないな。
 日本でもふつうに「ばかみたい」「ばからしい」と使うし、そんなに気にする言葉でもないと言われるとそうかもしれませんが・・・。うーむ。

この映画での監房のようすや管理体制等々についてはかなりファンタジーめいたところがあるようなので、目くじら立ててもしょうがない、ということで書きませんが、日韓の冤罪のイメージの差異について感じていることを少々。
 日本のウィキペディアには「冤罪事件及び冤罪と疑われている主な事件」というとても有用な項目があって、有名な帝銀事件や松川事件、現在も問題になっている名張毒ぶどう酒事件や袴田事件等々のほか、ほとんど知られていない事件まで多数あげられています。
 韓国では同様の冤罪事件がどれほどあるのかと思って少し韓国サイトを見てみたことがあります。すると、韓国では冤罪という言葉は皆無ではないものの、全然一般的ではないようなのです。漢字の音読みは원죄ですが、これだとふつう(キリスト教の)原罪の意味で使われます。<NAVER辞典>で「冤罪」を引くと「억울하게 뒤집어쓴 죄(不当に被った罪)」とあるだけで、短い単語はありません。
 また、不当な裁判、無実の罪といえば、保導連盟事件(1950)、第一次人民革命党事件(1965年)、第二次人民革命党事件(1975年)のような時の権力による政治的弾圧事件をまず思い浮かべる人が多いようです。
 ※昨年内乱陰謀罪で逮捕され、先月の第1審判決で懲役12年を宣告された韓国統合進歩党・李石基議員の事件もそのようにみる人たちが相当数いるようです。
 では、一般社会での冤罪はというと、これはけっこうふつうに(?)あった(orある)ようで・・・。
 <映画生活>のこの映画に対するレビューの中で、ドリさん
という方が韓国の司法制度の改革について興味深いことを書いていらっしゃったのでほぼそのままコピペさせていただきます。

 本作品の主人公であるイ・ヨングの裁判当時の状況は、大法院(日本の最高裁)の調査によれば「刑事裁判は、裕福な人とそうでない人、社会的地位の高い人とそうでない人との間で、全く同様に正義にかない、公正に行われていると思うか」という質問に対して、回答者の83.7%が「そう思わない」と答えるほど、韓国国民の刑事司法制度に対する信頼は地に落ちていました。
 韓国政府及び国会は、信頼を回復させるべく、1998年以降死刑制度を凍結させ、2007年には弁護士の立会いや取調べ時の録音・録画を明文化した刑事訴訟法の改正を行い、2008年1月から国民参与裁判制度(英米の陪審制に近い裁判制度)の導入を行いました。
 弁護士の卵としてイェスンが模擬国民参与裁判でヨングの名誉回復を図るべく奮闘する姿は、韓国の刑事司法制度の改革の歩みとも重なります。本作品が韓国で絶大な支持を受けた理由のひとつだと思います。


 最近の韓国では裁判に関係する映画が次々と作られています。「トガニ」「折れた矢」や、最近では「弁護人」「もうひとつの約束」等々。それらの共通点といえば、地位や財産や権力を有する社会的強者が裁判を牛耳っているという認識。それは上の引用文中の裁判不信が83.7%という(日本人にすれば)驚くべき数字にも表れているということです。(また、今その信頼度が目に見えて上がっているようにも思えないし。) そのような強者に対して、弱者が裁判を通じて闘うというのがこれらの裁判映画の基本構図といえるのではないでしょうか?
 もしかしたら、今このような映画が多く作られるのは、強者によって判決が左右されるようなことの多かった裁判が「正義」にのっとって行われるようになっていく過程にあることの表れなのかも・・・。
 すると、国民世論優先の「国民情緒法」はどうなんだ?との声も聞こえてきそうだし、また、国際社会で韓国人団体等がロビー活動によって議会等を自分たちの都合のいいように動かそうとしているのは、韓国社会の悪しき習慣そのままじゃないか?という見方もあながち的外れでもなさそうですが・・・。
 ※蛇足みたいに付記しておきますが、私ヌルボ、決して日本の裁判が誇るに足るほど「「正義」にのっとって行われる」とは思っていません。個人の地位や金によって左右される度合いは韓国より低いでしょうが、政・官・財と法曹界が癒着して、大企業に有利な判決が出された事例は山ほどあります。明らかな冤罪もあります。途上国によくあるような露骨な賄賂は横行していないにしても、それで問題がないわけではないことは言わずもがなです。

「セーラームーン」がこの映画の中でずいぶん大きく扱われています。
 「달의 요정 세일러문(月の妖精 セーラームーン)」という韓国題で放映(KBS2TV)されたのが1997年4月。、女の子だけでなく男の子にも人気で、「♪미안해 솔직하지 못한 내가(ごめんね素直になれない私)」始まるオープニング曲は、本作を見たことがない人でも皆わかるほど有名だったとか。
 つまり「7番房の奇跡」の過去部分は90年代、そして現在部分は今、という設定なんですね。成長したイェスンの年齢にも合うし。
 このアニメについては、ヌルボがちょくちょく利用している韓国サイト<エンハウィキ・ミラー>の項目にやっぱりありました。それどころか、そのオタク度はホントにハンパじゃないです。自動翻訳で見てみてください。。→コチラ
 たとえば「元々は2月25日から放映予定だったが、日野レイが神社の巫女だった点が問題とされ、その部分を解決するのに放映日程が遅れた」なんてことが書かれています。(どうやって調べたんだろ?)
 記事の最初の方で読者を引きつけようというコンタンで、YouTubeにあった韓国版のオープニング曲を載せておきました。むふふ。

 うーむ、思いのほか長くなってしまった・・・って、いつものことか。

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2 コメント

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国情院の証拠偽造事件 (ヌルボ)
2014-03-09 17:25:59
ヌミョン(陋名)というのは、私もなんとなく一般的な用法にとどまる言葉かなと思ってスルーしてしまいましたが、今韓国サイトをいろいろ見てみたら、新聞記事等でもふつうに用いられるようですね。

国情院がスパイ事件の裁判に偽造文書を証拠提出してしまった件について、今朝の「毎日新聞」にも載っていましたが、これについても韓国紙では「ヌミョン スダ(濡れ衣を着せられる)」とか「ヌミョン ポッタ(疑いが晴れる)」等の表現が多数ありました。
今まで知らなかった表現です。ご指摘ありがとうございました。
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冤罪の韓国語 (yohnishi)
2014-03-08 23:59:15
 冤罪の韓国語に最も近いのは「ヌミョン(陋名)」ではないでしょうか。日本語ですと、一般名詞としての「濡れ衣」と法律専門用語の「冤罪」に分かれますが、韓国語ではその区分がないということなのでしょう。
 たぶん、韓国語の法律用語の大半は日本語から入ってきていると思いますが「冤罪」をそのまま韓国語読みするとご指摘のように「原罪」と区別できないので、採用されなかったのでしょう。
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