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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

韓国の世界文学全集  

2010-02-09 15:13:53 | 韓国の文化・芸能・スポーツ関係の情報
 以前脱北した元北朝鮮住民の手記に、他の国では「一般常識レベルの教育を受けてこなかった」という記述があり、たとえば、ということでモーツァルト(だったかな?)のような有名な音楽家の名も知らなかった」とのことでした。
 また、あるブログで、日本では誰でも知っている世界文学を韓国人は知っているのか、というソボクな疑問を見たことがあります。
 一方、どんな部門でも<日本の常識=世界の常識>とは当然限らないわけで、今回は韓国で刊行されている世界文学全集の作品リストからそのあたりのことを探ってみます。

 ポイントはつまり、
①日本と韓国でどれくらい<世界の名作小説>が重なっているか?
②韓国で特に重要視されている小説作品にはどのようなものがあり、またそれはなぜか?
③日本の作品では、何が収録されているか?
④日本人がほとんど知らないような作品はあるか?

 ・・・ということです。

 2009年12月の「週刊韓国」のニュースによると、近年韓国では世界文学全集がブームなのだそうです。
 韓国の世界文学全集市場では1998年刊行を開始したミヌム社(민음사.民音社?)の全集がシェアの8割を占めていてほとんど独走状態だったのですが、最近数社が相次いで刊行を始めて活況を呈しているとのことです。

 このニュース自体についての考察は後回しにするとして、ここでは上記のテーマに沿って、1980~90年代の文学全集の典型で、また<韓国らしさ>がよく表れているとしてイルシン(日新?)書籍の世界文学全集のリストを見てみましょう。
 ぬわんと! 100冊以上全部掲載。

1.ヘミングウェイ\t:誰がために鐘は鳴る
2.E.ブロンテ:嵐が丘
3.ブルフィンチ:ギリシア・ローマ神話
4.フロベール:ボヴァリー夫人
5.マルロー:人間の条件
6.ルイーゼ・リンザー:生の真中で
7.スタインベック:怒りの葡萄
8.C.ブロンテ:ジェーン・エア
9.ゲオルギウ:二十五時
10.ヘミングウェイ:武器よさらば
11.林語堂:生活の発見 ※新版ではカフカ:城
12.カフカ\t:変身
13.ヘッセ\t:知と愛
14~15.モーム:人間の絆①②
16.スタンダール:赤と黒
17.ハーディ:テス
18.トルストイ:復活
19~20.ミッチェル:風と共に去りぬ①②
21.レマルク:凱旋門
22~24.トルストイ:戦争と平和①②③
25.メルヴィル:白鯨
26.ドストエフスキー:罪と罰
27~28.トルストイ:アンナ・カレーニナ
29.パステルナーク:ドクトル・ジバゴ
30~31.ドストエフスキー:カラマーゾフの兄弟①②
32.O.ヘンリー:最後の一葉
33.ロレンス:チャタレー夫人の恋人
34.ゲーテ:ファウスト
35.ボッカチオ:デカメロン
36.スタインベック:エデンの東
37.ダンテ\t:神曲
38~40.ロマン・ロラン:ジャン・クリストフ①②③
41.クラウゼヴィッツ:戦争論 ※新版では夏目漱石:こころ
42.ジッド\t:狭き門・田園交響楽・背徳者
43~45.ユゴー:レ・ミゼラブル①②③
46.モーパッサン:女の一生/首飾り(他)
47.三浦綾子:氷点
48.三浦綾子:続・氷点
49.ヘッセ\t:デミアン/クヌルプ
50.カミュ:ペスト/異邦人
51~53.パール・バック:大地
54.アンネ・フランク\t:アンネの日記
55.モーム\t:月と六ペンス
56.ゾラ:ナナ
57.ゾラ:居酒屋
58.バルザック:谷間の百合/ゴリオ爺さん
59~60.トーマス・マン:魔の山
61~62.ドストエフスキー:悪霊①②
63~64.ドストエフスキー:白痴①②
65~66.セルバンテス:ドン・キホーテ①②
67.ドストエフスキー:未成年
68~70.デュマ:モンテクリスト伯①②③
71.サン・テグジュペリ:人間の土地
72~73.G.グラス:ブリキの太鼓①②
74~75.デュマ:三銃士①②
76.ディケンズ:クリスマス・キャロル
77.ヘッセ\t:シッダルタ ※新版ではヘッセ:車輪の下
78.シェークスピア:ハムレット/リア王(他)
79~80.シェンキェヴィッチ:クォ・ヴァディス
81.オーウェル:動物農場/1984年
82.ワイルド:ドリアン・グレイの肖像
83.オースティン:傲慢と偏見
84.川端康成:雪国/千羽鶴
85.ホメロス:イリアス
86.ホメロス:オデュッセイア
87.ミルトン:失楽園
88.ヴァスコンセロス:私のライムオレンジ(日本題「わんぱく天使」)
89.レマルク:西部戦線異状なし
90.ホーソン:緋文字
91~93.:アラビアン・ナイト①②③
94.リルケ\t:マルタの手記(他)
95.デュマ・フィス:椿姫
96.E.フロム:愛するということ
97.ボーヴォワール:他人の血
98.カミュ\t:転落/追放と王国
99.トゥルゲーネフ:初恋/父と子
100.魯迅:阿Q正伝/狂人日記
101~102.ドライザー:アメリカの悲劇
103.ゴーリキー:母
105~106.\tソルジェニーツィン\t:ガン病棟①②


★以下は私ヌルボの感想と分析です。
①おおよそは、日本人にとっての<世界名作>とダブっている。
 アンネ・フランクやクラウゼヴィッツやE.フロムは別ジャンルだろうと日本の多くの読書人は思うでしょうが・・・。

②ただ、以下のような特徴が見受けられる。
A.社会主義に対して否定的な作品が多い。

例:ゲオルギウ「二十五時」、パステルナーク「ドクトル・ジバゴ」、オーウェル「動物農場/1984年」、ソルジェニーツィン「ガン病棟」
※ゲオルギウはルーマニアの作家。第二次大戦終結まもない頃の世界的ベストセラー「二十五時」はヌルボも数十年前角川文庫版で読み、大きな衝撃を受けました。

B.キリスト教関係の作品が多い。
例:ルイーゼ・リンザー「生の真中で」、林語堂「生活の発見」、三浦綾子「氷点」、シェンキェヴィッチ「クオ・ヴァディス」
 ご存知の方も多いと思いますが、三浦綾子は韓国ではとてもよく読まれてきた作家です。

③日本の作家の作品は、少しは入っています。
 上記の三浦綾子「氷点」の他は川端康成「雪国」と夏目漱石「こころ」。
他の全集等を見ると、まず定番といえるのが川端康成「雪国」のようです。「文学思想」2004年3月号の<世界名作小説100選>のリストを紹介したブログにも「雪国」が入っていました。あと、村上春樹「ノルウェイの森」も。

④日本人にあまりなじみがない作家では、ドイツの女性作家ルイーゼ・リンザー、ブラジルの作家ヴァスコンセロスあたりでしょうか。
 「私のライムオレンジの木」は韓国ではなぜかロングセラーになっていて、広く知られている小説です。ヌルボは、イ・ヒジェ(이희재)による漫画版を持っています。(下の画像)
      

 過去ヴァスコンセロスの作品が日本で刊行されていないか、いろいろ探索したところ、1974年に角川から「わんぱく天使」の題で出たのがこの「私のライムオレンジの木」のことだったんですね。77年には文庫にもなっています。現在復刊ドットコムで復刊リクエスト受付中。韓国に縁のある人のコメントもいくつかあります。

 ★おまけで韓国語学習者の皆さんへ。人名と書名のハングル表記な~るほど!
・マーガレット・ミッチェル(마거릿 미첼)「風と共に去りぬ」が「바람과 함께 사라지다」とわかりやすいのは、日本題から訳したからではないでしょうか?(推測)
・エミリー・ブロンテ(에밀리 브론테)「嵐が丘」は「폭풍의 언덕」、つまり「暴風の丘」。少しニュアンスが違う感じですが・・・。
・J.スタインベック(죤 스타인벡)「怒りの葡萄」は「분노의 포도(憤怒の葡萄)」
・ヘミングウェイ(헤밍웨이)「武器よさらば」は「무기여 잘 있거라」。<アンニョン>じゃなく、<チャルイッコラ>ねー。
・モーム(S.모옴)「人間の絆」は「인간의 굴레」。
・スタンダール(스탕달)「赤と黒」は「적과 흑」。音読みでわかるのかなあ? カフカの「城」は「」1文字だし・・・。
・ロレンス(D.H.로렌스)「チャタレー夫人の恋人」は「채털리부인의 사랑」。灰皿は재떨이。
・ゾラ(졸라)「居酒屋」は「목로주점」。えっ、<木壚酒店>と書くのか!?
・カミュは카뮈、デュマは뒤마とつづる。
・サン・テグジュペリは생텍쥐페리とつづる。
・G.グラス「ブリキの太鼓」は「양철북」。つまり洋鉄タイコ。
・川端康成「雪国」は「설국」で「千羽鶴」は「천우학」と、どちらも音読み。


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