1月9日の記事で今里に移転した大阪の古書店・日之出書房のことを書きました。
今回、そこで何冊か購入した書籍中の目玉というべき本が「朝鮮風土歌集」です。ガラス戸棚中に並んでいた貴重書中の1冊ですが、ページをめくって内容を見て即決しました。
【装丁は浅川兄弟の兄・伯教(のりたか)、題字は尾上柴舟。】
内容を簡単にいうと、明治~昭和の有名・無名の歌人たちが詠んだ朝鮮関係の短歌を分類・集成したもので、その総数は4452首に及びます。
「朝鮮関係」とは、本書の凡例(下画像)にあるようにある通り、朝鮮在住者から旅行者等に至るまでと、対象をかなり広範に設定しています。
【作品の出典の歌集や雑誌等を紹介している点はいいのですが・・・。】
作品は全387ページで、ページごとにほぼ10~13首ずつ載せています。
著名な歌人の名も多く見受けられます。
テキトーに拾ってみると・・・
[朝鮮馬] から山に駒をとどめて歌ひけむ高木ふしこそ世に似ざりけれ 佐々木信綱
[碧蹄館] 勝鬨に山もうごきし古へを語りがほなり一本けやき 大町桂月
[朝鮮] 韓にしていかでか死なむわれ死なばをのこの歌ぞまた廢れなむ 與謝野寛
[鴨緑江] ありなれの川橋渡るもののふのかげにともなふ弓張の月 山縣有朋
[朝鮮] この國の野の上の土のいろ赤しさむざむとして草枯れにけり 島木赤彦
[扶餘] 寂しさは千年過ぎし石の塔はるけくも寂しうつつ心に 淺川伯教
[扶餘] 軍倉のあとより出づるき米瓦の片に百濟をしのぶ 石井柏亭
[京城] 街上を電車は走る然れども岩山をつたふ水はりてみゆ 平福百穂
これ以外にも、夏目漱石・土岐善麿・若山牧水・尾上柴舟・小泉苳三等々の作品があります。
ただ、残念な点は作歌の年が書かれていないこと。與謝野鉄幹のような明治期の作品も、序文を寄せている川田順をはじめこの歌集刊行当時の現役歌人たちの作品もごちゃまぜになっていること。したがって、何か時代を追って考察するとなると、調べ作業に手間がかかりそうです。
また上の凡例には出典の歌集や雑誌等が数多く記されていますが、個々の歌の出所は書かれていないので、これも調べるとなるとタイヘン。
なお、「凡例」には「本書に、朝鮮人の創作せる作品をも加えへたることはある意味に於て歌史上のエポツクであると思ふ」とあります。
その「朝鮮人の創作せる作品」は13人19首。この数や、彼らの作品自体をどうみるかはむずかしいところです。
[鴨緑江] ありなれの岸邊に蒔きし高梁は赤く實りて穂先揃へる 尹孤雲
・・・上の山縣有朋の歌にもある「ありなれ」という言葉については考察の要あり、ですね。
この本の発行は1935(昭和10)年。発行所は眞人社です。
眞人社は1923年7月市山盛雄、細井魚袋が京城に興した短歌結社で、月刊で短歌誌「眞人」を発行。その後編集・発行は東京に移しましたが、「朝鮮郷土芸術を根底とし之れが紹介に努めてゐる」とこの本の巻末にある発行所の紹介に記されています。
本書は、この眞人社の創立十二周年記念出版であることが、附記に記されています。
巻頭の川田順や細井魚袋の序を読むと、編纂の中心人物は市山盛雄だったことがわかります。
この歌集の構成は、全体を風土篇、植物篇、動物篇、慶尚南道篇等の各道篇、雑篇に大別し、各篇ごとに小さな項目を立ててそれにしたがって各作品を分類しています。
【「風土篇」には赭土(あかつち)、擔軍(チゲorチゲクン)、「植物篇」にはパカチ(瓢箪)等の興味深い項目があります。】
【各道篇には現在も有名な刊行ポイントも多いが、そうではない所もあります。】
ところで、この歌集の内容で短歌と直接は関係ないものの、興味深くまた貴重なのが巻末に39ページ附録として併載されている「朝鮮地方色語解註篇」です。
このタイトルでは何なのかよくわかりませんが、要するに朝鮮の代表的な名所・風俗・言葉等についての用語辞典です。
これをみると、現地の日本人たちが朝鮮のどんなことに関心を寄せていたか、それらをどう見ていたか、あるいは朝鮮語の中のどんな言葉をどうアレンジして用いていたか等についての一端がうかがわれます。
その具体例をあげるとさらに長くなるので、今回はここで終わりにしておきます。
【「朝鮮地方色語解註篇」の最初のページ。「飴鋏の音」は「さびしい響きを持っている」のか・・・。】
今回、そこで何冊か購入した書籍中の目玉というべき本が「朝鮮風土歌集」です。ガラス戸棚中に並んでいた貴重書中の1冊ですが、ページをめくって内容を見て即決しました。
【装丁は浅川兄弟の兄・伯教(のりたか)、題字は尾上柴舟。】
内容を簡単にいうと、明治~昭和の有名・無名の歌人たちが詠んだ朝鮮関係の短歌を分類・集成したもので、その総数は4452首に及びます。
「朝鮮関係」とは、本書の凡例(下画像)にあるようにある通り、朝鮮在住者から旅行者等に至るまでと、対象をかなり広範に設定しています。
【作品の出典の歌集や雑誌等を紹介している点はいいのですが・・・。】
作品は全387ページで、ページごとにほぼ10~13首ずつ載せています。
著名な歌人の名も多く見受けられます。
テキトーに拾ってみると・・・
[朝鮮馬] から山に駒をとどめて歌ひけむ高木ふしこそ世に似ざりけれ 佐々木信綱
[碧蹄館] 勝鬨に山もうごきし古へを語りがほなり一本けやき 大町桂月
[朝鮮] 韓にしていかでか死なむわれ死なばをのこの歌ぞまた廢れなむ 與謝野寛
[鴨緑江] ありなれの川橋渡るもののふのかげにともなふ弓張の月 山縣有朋
[朝鮮] この國の野の上の土のいろ赤しさむざむとして草枯れにけり 島木赤彦
[扶餘] 寂しさは千年過ぎし石の塔はるけくも寂しうつつ心に 淺川伯教
[扶餘] 軍倉のあとより出づるき米瓦の片に百濟をしのぶ 石井柏亭
[京城] 街上を電車は走る然れども岩山をつたふ水はりてみゆ 平福百穂
これ以外にも、夏目漱石・土岐善麿・若山牧水・尾上柴舟・小泉苳三等々の作品があります。
ただ、残念な点は作歌の年が書かれていないこと。與謝野鉄幹のような明治期の作品も、序文を寄せている川田順をはじめこの歌集刊行当時の現役歌人たちの作品もごちゃまぜになっていること。したがって、何か時代を追って考察するとなると、調べ作業に手間がかかりそうです。
また上の凡例には出典の歌集や雑誌等が数多く記されていますが、個々の歌の出所は書かれていないので、これも調べるとなるとタイヘン。
なお、「凡例」には「本書に、朝鮮人の創作せる作品をも加えへたることはある意味に於て歌史上のエポツクであると思ふ」とあります。
その「朝鮮人の創作せる作品」は13人19首。この数や、彼らの作品自体をどうみるかはむずかしいところです。
[鴨緑江] ありなれの岸邊に蒔きし高梁は赤く實りて穂先揃へる 尹孤雲
・・・上の山縣有朋の歌にもある「ありなれ」という言葉については考察の要あり、ですね。
この本の発行は1935(昭和10)年。発行所は眞人社です。
眞人社は1923年7月市山盛雄、細井魚袋が京城に興した短歌結社で、月刊で短歌誌「眞人」を発行。その後編集・発行は東京に移しましたが、「朝鮮郷土芸術を根底とし之れが紹介に努めてゐる」とこの本の巻末にある発行所の紹介に記されています。
本書は、この眞人社の創立十二周年記念出版であることが、附記に記されています。
巻頭の川田順や細井魚袋の序を読むと、編纂の中心人物は市山盛雄だったことがわかります。
この歌集の構成は、全体を風土篇、植物篇、動物篇、慶尚南道篇等の各道篇、雑篇に大別し、各篇ごとに小さな項目を立ててそれにしたがって各作品を分類しています。
【「風土篇」には赭土(あかつち)、擔軍(チゲorチゲクン)、「植物篇」にはパカチ(瓢箪)等の興味深い項目があります。】
【各道篇には現在も有名な刊行ポイントも多いが、そうではない所もあります。】
ところで、この歌集の内容で短歌と直接は関係ないものの、興味深くまた貴重なのが巻末に39ページ附録として併載されている「朝鮮地方色語解註篇」です。
このタイトルでは何なのかよくわかりませんが、要するに朝鮮の代表的な名所・風俗・言葉等についての用語辞典です。
これをみると、現地の日本人たちが朝鮮のどんなことに関心を寄せていたか、それらをどう見ていたか、あるいは朝鮮語の中のどんな言葉をどうアレンジして用いていたか等についての一端がうかがわれます。
その具体例をあげるとさらに長くなるので、今回はここで終わりにしておきます。
【「朝鮮地方色語解註篇」の最初のページ。「飴鋏の音」は「さびしい響きを持っている」のか・・・。】
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