ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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ハン・ビヤさん、旅立ちに際して「ピナイダ、ピナイダ」と祈る

2013-04-29 23:51:34 | 韓国の小説・詩・エッセイ
 1つ前の記事で、「風の娘、わが地に立つ」という本を紹介しました。
 韓国の著名な「奥地旅行家」のハン・ビヤさんが世界旅行を終えた後の1999年3~4月韓国縦断徒歩旅行をした際の旅行記です。

 3月3日に全羅南道のタンクッ村(マウル)をスタートするのですが、旅行記のその日の記事はいきなり次のような文章(?)で始まっています。

 비나이다 비나이다  
 꺼질세라 바위틈에
 향불을 피워놓고
 ・・・・


 このような、短い詩句のようなものが、全8連で計53行連なっているのです。

 ところが、1行目の비나이다 비나이다(ピナイダ ピナイダ)からして意味わからず。
 第2連に천지신명님 전에 비나이다(天地神明様の 御前に ピナイダ)とか바다신께 비나이다(海の神に ピナイダ)とあるので、ピナイダが「お祈りします」の意味ということは見当がつくし、つまりはこれからの旅の無事を神々に祈る言葉なのだなとはわかるのですが・・・。
 とは思うものの、辞書でいろいろ引いてみても見つからず。結局ハングルサークルの先生に教わりました。
 すると「~나이다」というのは文語体の上称の平叙形終結語尾ということで、비나이다は빌다(祈る)+나이다。あたらめて「朝鮮語辞典」を見てみたら、ちゃんとありました。말씀 올리나이다(申し上げます)という用例付き。プライム韓日辞典にはもっと詳しく説明が書かれていました。
 うーむ、いかんなー。一応上級のハシクレなのに初めて知ったとはハズカシイ。文字通りハシクレです。しかしこの表現が載ってるテキスト、あるのかな?

 さて、この53行の告祀(고사.コサ)=神への祈願の儀式の文言ですが、あらかじめハン・ビヤさんが用意してきたというもので、音読するとなかなかリズムがあっておもしろい上、内容的にも興味深いので、この記事の末尾に訳文付きで全部載せておきます。(彼女が「リッパ」と見られる理由も垣間見られます。)

 この告祀文に続けて、状況説明が記されています。海岸に下りた彼女は風を受けない岩の陰でローソクを立てて火を点け、香を焚いて海に向かい3回、陸に向かい3回拝礼、次に東西南北にも各々3回拝礼。恭しく四方に酒を供え、用意してきた上記の「비나리(ピナリ)」を読んだとのことです。
 彼女はカトリック(天主教)の信者ですが、「郷に入れば郷に従え」で、この韓国で昔からやってきた風習なので、前からこの儀式をやることに決めていたとか。山人が高い山に登る時や漁師が遠くに船出する時には山祭(산제)海祭(바닷제)を執り行うように、私は昔から旅人が遠い旅に出る際に祠や辻でやってきたように、自分なりの「道祭(길제)」をやるのだ、というわけです。

 さて、告祀といえば思い浮かぶのがブタの頭。韓国映画やドラマによくその場面が出てくるのでご存知の方も多いと思います。祈願する人がその前で拝む時に、万ウォン札をブタの口に挟むんですね。(ハン・ビヤさんはそこまではしなかった。)

 「ピナイダ」とか」「告祀」で検索すると、いろいろヒットしました。
 今の韓国社会でよくやるのはTV番組等のヒット祈願です。
 たとえば、→コチラの記事は「私の娘ソヨン」の告祀のようすを紹介しつつ告祀を説明。
 また→コチラはドラマ「学校2013」の告祀現場の動画です。

 <UTRAVEL>の記事(→コチラ)では、告祀の作法を写真入りで説明しています。
 
 そして→コチラは豊漁祈願の告祀。(済州島の霊登歓迎祭)の動画。

 新しく開店した店の開業式でもやったりしているのは、以前ドラマで見ました。
 しかし、プロ野球でもやっていたとは今回検索してみるまで知りませんでした。それも球場で、ですよ。
 →コチラは今年3月釜山の社稷(サジク)野球場で催されたロッテ・ジャイアンツの優勝祈願の動画。「비나이다~ V3!」と表題がつけられています。

 ブタの頭を最初に見た時にはずいぶんとグロテスクだなと思いましたが、何度も見ていると全然抵抗感がなくなってしまうものですね。

 ハン・ビヤさんの本に戻ります。
 告祀を終えて、海岸からタンクッ塔の所まで上った彼女。右手の方を臨み見ると、海に突き出た岬の形が翼の形に見えたとか。海に入ろうとするカメの姿にも見えるとも・・・。で、ハン・ビヤさん、神様が告祀に応えてくれた!と受けとめて喜んでいます。
 その挿絵が下の画像。
 Google Earthで机上の旅をしてみると、ほぼこの場所&アングルだなというポイントが見つかったので並べておきます。

       
         【右上が北の方角。Google Earthの画像右下がタンクッの集落。】

 私ヌルボ、この旅行記はまだやっと全羅北道に入ったあたりを読んでいるので、いずれもっと読み進んだ時点でおもしろそうなネタがあったら記事にします。

[ハン・ビヤさんの告祀文] 
비나이다 비나이다.(お祈りします お祈りします。)
꺼질세라 바위틈에(消えないように 岩の間に)
향불을 피워놓고(お香を 焚いて)
꺼질세라 바위틈에(消えないように 岩の間に)
촛불을 밝혀놓고(ロウソクを 灯して)
동서남북 사방에다(東西南北 四方に)
각각 삼배 정히 하고(各々参拝 たしかに行い)

천지신명님 전에 비나이다.(天地神明の 御前に お祈りします。)
일월성신님 전에 비나이다.(日月星辰の 御前に お祈りします。)
바다신께 비나이다.(海の神に お祈りします。)
땅신께 비나이다.(地の神に お祈りします。)
산신께 비나이다.(山の神に お祈りします。)
강신께 비나이다.(川の神に お祈りします。)

이제부터 지나가는(今から 通って行く)
고을고을 터줏대감,(郡郡の 土地の主様、)
마을신께 비나이다.(村の神に お祈りします。)
모두에게 비나이다.(皆に お祈りします。)
간절하게 비나이다.(切に お祈りします。)

58년 무술녕 생(58年 戊戌の年 生まれ)
청주 한씨 집안의 딸(清州韓氏の 家の娘)
한남희, 홍복란의 세째 딸이(ハン・ナミ、ホン・ボンナンの3番目の娘が)
6년간 세계일주(6年間 世界一周)
무사히 끝마치고(無事に 終わって)
마지막 마무리고(最後の 仕上げに)
우리땅을 제 두 발로(わが地を わが両足で)
땅 끝에서 땅 끝까지(地の果てから 地の果てまで)
걸어가려 하옵나니(歩いて行こうと しております)

부디 예뻐 봐주시어(どうぞかわいく 見守り下さり)
기특하다 봐주시어(奇特であると 見守り下さり)
가는 길을 흔쾌하게(行く道を 気持ちよく)
허락하여주시기를(許されることを)
비나이다 비나이다.(お祈りします お祈りします。)
정성 다해 비나이다.(心を込めて お祈りします。)

마음병도 나지 않고(心の病も 罹らずに)
가지각색 인연 만나(種々様々な 縁を結び)
가지각색 일을 겪어(種々様々なことにふれ)
보고 듣고 배우면서(見て聞いて 学びつつ)
그렇게 느낀 것을(そうして感じた 物事を)
마음속에 고이 담아(心にきちんと 取り込んで)

알릴 것은 잘 알리고(知らせることは よく知らせ)
실천할 건 살천하여(実践することは 実践し)
저에게도 득이 되고(自分にも 得になり)
남에게도 득이 되고(他人にとっても 得になり)
세상에도 득이 되게(世間にも 得になるように)
굽어 살펴주옵소서.(ご照覧 あらんことを。)

비나이다 비나이다. (お祈りします お祈りします。)
이 땅의 모든 신께(この地のすべての神に)
위에서 아뢴 갓을(上で申し上げたことを)
간절하게 비나이다. (お祈りします お祈りします。)
정성 다해 비나이다. (お祈りします お祈りします。)

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