ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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興味深かった日韓の映画製作の比較についての講演 ・・・映画産業のあり方が作品にも影響するということ

2015-02-25 23:34:20 | 韓国映画(&その他の映画)
 2月23日韓国文化院の講演会を聴きに行きました。<韓日文化比較>シリーズの第2回で「最近の韓国と日本の映画製作の傾向の比較-両国の協力やコラボレーションを考える」という標題。
講師は金容範さんという数多くの韓国の映画・ドラマ等の日本配給・宣伝・製作業務に携わってこられた方です。(肩書は、㈱博報堂C&Eコンテンツ事業部 エグゼクティブプロデューサー。)
 20年以上前からいろいろ韓国映画を観てきた私ヌルボのような韓国映画ファンでも、業界の方から直接このような話を聞く機会はなかったこともあり、興味深い内容でした。
 講演の骨子は①原作の取り入れ方 ②製作・投資システム ③テレビとの付き合い方 ④映画配給 の4項目について日韓それぞれの特徴を比較したものです。
 以下、スクリーンの説明画面の文言を中心に、金容範さんの言葉、さらに私ヌルボの感想等を整理してみました。

①原作の取り入れ方
[日本]
・原作が企画の出発点になる場合が多い。 
  直木賞・本屋大賞の受賞作、人気漫画等。
  最近の例:「風に立つライオン」「マエストロ!」「娚の一生」「悼む人」「ソロモンの偽証」等々・
   cf.黒澤明の時代は原作ナシ。シナリオがオリジナル。
・セリフがストーリー構造を説明する傾向がある。原作を尊重。・・・・韓国人からみるとテンポが遅い。
・映像的な想像力より、原作の文学的(漫画的)な表現を重視する傾向がある。
・何らかのメッセージを伝えようとする。観客を教えようとする。

   cf.「国際市場」のユン・ジェギュン監督の言葉「観客に何かを教えようとはしなかった。」

    ※ヌルボ注:この監督の発言は主に進歩陣営からの「時代意識を反映していない」「軍事独裁体制に対する批判がない」等の非難に対する言葉です。→コチラの記事参照。
[韓国]
・ほとんどオリジナルの脚本。原作があるにしても、アイディアにすぎない。

   ・・・・KOFIC(韓国映画振興委員会)やコンテンツ振興院でシナリオ募集もしているそうです。
   ex. 「鳴梁」「国際市場」「10人の泥棒たち」「7番房の奇跡」「王になった男」「弁護人」、「TSUNAMI -ツナミ-」「グエムル」「王の男」「ブラザーフッド」「シルミド」等、興行ランキング上位の作品はほとんど原作はナシ。「王の男」だけは小説があるが、内容的には別物。
・原作の人気が興行のカギを握ることはない。


②製作・投資システム
[日本]
・製作委員会方式
・・・・テレビ局・出版社・配給会社・DVQ会社・代理店等から成る製作委員会が共同出資・配給協力。製作プロダクションが制作を受注する。
・製作プロダクションは力が弱く、テレビやインターネット等々へのIP(著作権)の権利がなく、成功報酬も少ない。

[韓国]
・2000年頃から映画に投資するコンテンツファンドが登場。
・政府(文化観光部)からの韓国ベンチャーへの投資(母体ファンド)の運用も。

  ※2007~08年資金が大量に入って質の低い作品も作られたとか。
・ファンドには厳しいシナリオのチェック機能(投資審議委員会)がある。
   ・・・・ファンドマネージャーの判断能力が向上。複数の会社の参加でリスクヘッジ(リスクの回避・軽減)が図られる。
・約30社のベンチャーキャピタルがファンドを運営している。1つが10億円ほどの規模の資金を持つ。
・プロデューサーの力が強く、成功報酬も高い。IPの権利取得が可能。

   ・・・・プロデューサー(製作)と、ファンド(資金提供)と、配給会社が同レベルということか?


③テレビとの付き合い方
[日本]
・映画とテレビは共存関係
・テレビ局が企画・製作も主導する。
・ドラマの映画化、映画のドラマ化が自然に行われている。

[韓国]
・映画とテレビはほとんど接点がない。
・映画とテレビは異なる文化

   ・・・・代表的な映画俳優(ソン・ガンホ、ソル・ギョング等)はほとんどテレビには出ない。


④映画配給
[日本]
・プラットフォーム・リリース
・・・・拠点のメイン映画館で先に上映し、観客動員数等を見て上映館を順次増やしていく。
・ブロックブッキング・・・特定の配給会社の作品だけを観客の入りの多少に関わらず、系列館すべてで一定期間上映する日本独自の方式。
  ※ヌルボ注:シネコンの急増で状況が大きく変わる中、現在ブロックブッキングという興行形態を維持しているのは東宝と東映の邦画チェーンのみで、松竹は1999年撤退している。なおアメリカでは、1948年の最高裁判決(パラマウント判決)でハリウッドメジャー5社に劇場チェーンの売却が命じられ、製作配給と劇場興業が分離されることとなった。
<特徴>
・多様な映画が上映機会を得られない。
・ヒット作でも上映館を増やすのは容易ではない。
・映画館での収入とDVDの販売収入はほぼ同じ。映画館収入の伸びに限界がある。

[韓国]
・ワイド・リリース
・・・・プラットフォーム・リリース方式と異なり、一度に多くの劇場で同時に公開する方式。
・フリーブッキング・・・・映画館側が上映する映画を自由に選択し、観客の入り具合によって上映期間を定めるシステム。
・シネコンチェーンは、それぞれの系列配給会社から分離して運営の自立が図られる。
   ・・・・主要配給会社はCJエンタテインメント、ショーボックス、ロッテエンタテインメント、NEW(ネクスト・エンタテインメント・ワールドの4社だが、シネコンチェーンはCJエンタ→ CGV、ロッテエンタテインメント→ロッテシネマ、ショーボックス→メガボックスと分離・自立。(NEWはシネコンなし。)
<特徴>
・映画コンテンツの収入の95%は映画館の興行収入。
・売れる映画に偏りやすい体質があり、配給機会の格差を生んでいる。

   ・・・・スクリーン数は、日本の3000に対し、韓国は2080スクリーン。アメリカは2万で、中国も最近2万を超えた。昨年の大ヒット作で観客動員歴代1位の「鳴梁」(1700万人動員)は1500スクリーンで上映。この数字は日本ではありえない。
・製作表現が大型スクリーン向き。刺激的、意外性の反転&感動等。
   ・・・・「映画は映画館エンタテインメント」という文化が定着。
     日本映画が「テレビ画面向き」であるのに対して韓国映画は「映画館向き」。(「韓国映画はぜひ映画館で観てください」と金容範さん。)


◎結論・提言
[日本に対して]
・オリジナル脚本作りに力を!
・文学から自立した映画に。
・・・・すでに経験値は高い。ex.宮崎駿のアニメ。

[韓国に対して]
・ヒット狙いの商業映画回避!
・製作、配給に均等な機会を!
・中国の映画界との協力

   ・・・・韓国映画も中国市場へ向かっていて、中韓合作「猟奇的な2番目の彼女」が作られたり、「怪しい彼女」をリメイクした韓中合作映画「重返20歳」が興行収入60億円を超える大ヒットとなった。
 「最後の晩餐」も中韓合作映画史上最高の大ヒットを飛ばした。ホ・ジノ監督(「八月のクリスマス」等)でチャン・ツィイー、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン等が出演した中国映画「危険な関係」は「興行的にはイマイチだったが個人的には大好き♡」(金容範さん)
 ※ヌルボの付記:2014年12月27日の<もっとコリア!>の記事(→コチラ)によると、「中国最大のドラマ制作会社の華策影視が最近韓国の映画配給会社NEWの株式15%を535億ウォンで買い取った」とのことです。講演会後のQ&Aでもありましたが、中国との関係強化については懸念される点も大きいですね。
・製作においての極東アジアのコラボレーションの必要
   ex.韓国映画の「オールドボーイ」(原作:土屋ガロン)・「カンナさん大成功です!」(原作:鈴木由美子)・「白夜行」(原作:東野圭吾)の原作は日本。
    ・・・・「カンナさん大成功です!」は韓国では「美女はつらいよ」のタイトルで、主人公の名もハンナだったが、日本側が邦題を原作漫画と同じにするよう求めたとのことです。ヌルボが観た「オールドボーイ」をはじめとする日本の小説や漫画を原作とする韓国映画は、たしかに原作とはかなりの「隔たり」がありました。
   ex. 「国際市場」で主演のファン・ジョンミンは20代~70代を演じる。老人時代は特殊メイクだが、20代は日本のグラフィックチームによるCGで若く見えるようにした、とのことです。


 事後の質疑応答も興味深ったのですが、それについては差しさわりもあるかもしれない(?)ので省略します。
 聞いてみて私ヌルボが思ったのは、記事のタイトルにも書いたように、映画産業のあり方が作品にも影響しているんだな、ということ。具体的には、手堅い儲けを念頭において作られた映画は、質的にもそれ相応のものになってしまうということ。60年代後半以降の映画興行の極端な退潮という背景を考えれば業界としてやむをえない対応策だったかもしれませんが・・・。
 50年代頃の全盛期の日本映画の質の高さはやはり作り手の「作りたい!」という情熱が最初にあって、それが作品にそのまま表現されていたからで、それはまたそんな作品を生むようなシステムになっていたということでしょう。しかし映画産業の斜陽化以降は作品自体のことよりもまず採算を優先して考えるようになってしまって今に至っている感じですね。そんな中、金容範さんの「オリジナル脚本作りに力を!」という提言はヌルボとしても日頃思っていたことで、まさに同感!でした。
 話をいろいろ聞くと、韓国のシステムにも問題はあるにしろ、日本に比べると質の高い映画が作られる条件はそろっているように思われました。

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4 コメント

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私も同感です~ (まだん)
2015-03-08 16:16:23
とても興味深いお話でした。日本はオリジナル脚本にもっと挑戦して欲しい―金容範さんに私も同感です!コミックやドラマや小説でヒットしたものは映画化前にしてすでに観客動員が見込めるので、どうしてもそういう傾向になるのでしょうが、ぜひ挑戦してほしいです。
それにしてもやっぱり日本は映画館の入場料が高いです…(>_<)若い人にもっと気軽に手の届く料金だといいのですが。いつの間にか夫婦割も無くなってたし。
来週は、ヌルボさんが2014年ベストテン次点にあげていた「私の少女」見てきます。(^-^)
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問題は・・・ (ヌルボ)
2015-03-11 10:25:10
作り手にいくら情熱があっても、金を出す側は大損はしたくないですからねー。やはりオリジナル脚本の作品がたくさん作られるような環境をいかにして整えるかが課題だと思います。
返信する
はじめまして (ひろとも)
2016-08-01 15:22:08
はじめまして。
『ひろともなんですけど。ライジング』というブログを運営しています”ひろとも”と言います。
今回、ヌルボ・イルボさんのこちらの記事を紹介させていただき、リンクを貼らせていただきました。
わたしも韓国映画を観るたびに、そのレベルの高さに驚き、邦画もがんばってほしいと思っています。
お互いに切磋琢磨をして、質の良い作品が観られるようになると幸せですね。
返信する
「邦画がやばい・・・」 (ヌルボ)
2016-08-01 20:24:04
ひろともさんの記事を拝読しました。
ホントに同感!

まず作り手の「ぜひこの作品を観てほしい!」という思いがあって、興行成績は後からついてくるものでしょう。ついてこない場合も当然あって、それは覚悟の上。どうも今の多くの日本映画は順序が逆ですね。
邦画も、1950年代頃の名作の数々は監督が作りたいものを作ってましたからねー。

ひろともさんが記事中で挙げていた韓国映画は私も薦めたいものばかりですね。中島哲也・内田けんじ・園子温等の監督作品も好きです。入江悠監督の映画はまだ観てないので、今度観ることにします。

※その他のブログ記事も10件ほど見てみました。YouTubeのホラーとかプロ野球の名場面とか。「急に無視をされだした学生たちへ 」は独特の語り口がおもしろいですね(笑)。
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