ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

横須賀の老舗古書店・港文堂で、韓国関係の本をさがす

2013-05-10 23:58:08 | 韓国・朝鮮に関係のある本
 昨日は暑くもなく寒くもない心地よい日和の上、ヒマな1日だったので、久しぶりにスクーター(原付)で遠乗り。横浜→横須賀の約30㎞、法定速度内で1時間ちょっと。10年ほど前に和歌山→横浜を丸2日で走破(笑)したことを思えば、なんてことないです。海とか新緑の山とかを眺めながらタラタラ走行していると、以前読んだ漫画・芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』に描かれた風景が思い起こされます。

 で、目的地は横須賀のどこかというと、安浦町。最寄駅が京浜安浦駅から県立大学駅に改称してからもう9年になります。「安浦に行く」などと言うとニヤリと笑うような御仁はどんどん減りつつあるのでしょう、たぶん。

 私ヌルボの行先は、老舗古書店の港文堂。品揃え(量&質)では県下でもトップクラスだと思います。ところが、80年頃に逗子から藤沢、さらに横浜へと引越しして、ほとんど行く機会がありませんでした。ということで、もしかしたら30年ぶりくらいかも・・・。
 他の多くの商店街同様、米が浜通りも寂しくなっていたし、港文堂も外見は年数分老朽化した感は否めませんでしたが、中へ入ってみると充実度は変わりなく、ほっとしました。

      
      【店内は、古書愛好家の目を引きそうな本がいっぱい!】

 おもしろそうな本をあれもこれも買っていてはきりがないので、しばらく前から韓国・朝鮮関係の本と、戦時下の詩歌集、それも入手しにくく、かつ安価なものに絞って購入することにしています。
で、今回の収穫は、以下の3冊。

        
   【表紙の写真は「ミス・京城の微笑」とあります。一瞬高峰秀子かと思いました。】

 積まれていた昔の雑誌の山からたまたま発見。昭和26年9月発行の「毎日情報 9月号」です。毎日新聞社がこういう雑誌を発行していたんですね。朝鮮戦争勃発の1年3ヵ月後です。作家・張赫宙(ちょう・かくちゅう)が空路釜山に行った際の現地報告を15ページにわたり冒頭に掲載しているのでぜひ読んでみようと思った次第。
 張赫宙は、この翌年の1952年に朝鮮戦争を描いた小説「嗚呼朝鮮」を書きました。これは私ヌルボ、数年前に読みました。その後、彼は野口赫宙の名で書くようになります。

         
   【30年以上前の本にしては、紙がやや黄ばんでいるものの、キレイ。】

 許集(編・訳)「韓国発禁詩集」(二月社)は、1978年10月発行。古書としてさほどめずらしい本ではなく、市立図書館等にもありますが、許集というよくわからない編者の22ページに及ぶあとがきも含め、きちんと読み直してみようと思いました。

         
   【[現地篇]と[銃後篇]合わせて約800首の短歌を収めています。】

 実は私ヌルボ、このブログを立ち上げた時、<戦時下の短歌・俳句・詩>についてのブログも同時に始めるつねりでした。しかしこの<韓国文化の海へ>だけで手いっぱいになってしまい、今に至っています。
 戦時中、多くの無名の兵士たちが、前線で数多くの俳句、短歌や詩を作り、書き残していることは、世界の短詩文学史上稀有のことだと思います。「銃後」の人々の作品についても同様。
 ところが、戦後は当時の文学作品は総じて戦争賛美とみなされたりして文学史のテキストでも無視されてきました。しかし、中には著名な歌人・俳人・詩人たちの作品より心をうつ作品が数多く埋もれています。
 このことについて書くと長いので、ここでは出征する夫との別れを詠んだ女性の歌1首だけ紹介しておきます。

  みかへりてしばし動かぬ夫(つま)はもよ天地も消えよ此の須臾(しゅゆ)の間に  
          沼上千鶴子(1941年5月刊「戦線の夫を想ふ歌」より)


 さて、上記の「支那事変歌集」(三省堂版.1938年)について。「支那事変歌集」には、別にアララギ編の岩波書店版もありますが、この三省堂版は昭和13年4月、読売新聞社の依頼を受けて齋藤茂吉と佐佐木信綱が隔月で選んだものです。[現地篇]166首と[銃後篇]636首が収められています。
 この機会に、朝鮮からの投稿歌を拾ってみました。全部で11首ありました。その中で、「朝鮮」ということに意味のありそうなものをあげてみます。

  朝鮮の民等聲あげ兵を送る見て佇(た)つ吾の心迫りぬ   
          京城府  安蘇潔

  鼕々(とうとう)と太鼓が鳴れば鮮人らも出征兵士送ると集ひ來
          朝鮮全州府  芦田定藏

  鮮童の手に手に振れる日のみ旗ますらをの心つよくうつらし
          安東  樽井壽々代


 ・・・たまたま数日前に読んだ金聖珉「緑旗聯盟」の最後も、主人公の陸士出の朝鮮人青年が京城駅から万歳三唱とともに出征していく場面でした。
 ただ、その登場人物の置かれていた状況は複雑なものがあります。日本人兵士の出征についても各々いろんな物語があったでしょうが、この3首は表面的な写生にとどまっているのが残念。「鮮人」のようすを心強く共感をもって受けとめているようではあります。

  輝ける戦果のニュースに感激の作業をつづく夜の工場に 
          朝鮮咸鏡南道  白岩三男


 ・・・咸鏡南道の工場といえば、興南の朝鮮窒素肥料株式会社が思い浮かびます。→コチラの記事であらましを知ることができます。また→コチラには、さらに詳しい連載記事があります。

     小學校にて 
  握り来て手の汗つける一錢を獻金すとて出だせる鮮童
          朝鮮忠清南道  高尾九州男


 ・・・上記の「緑旗聯盟」には、資産家である主人公の父や伯父の巨額の献金が新聞記事にもなったということが書かれていました。(「鮮童」という言葉、短歌の世界ではそんなにふつうに使われていたのかな?)

 朝鮮には関係ないのですが、地元関係ということで目にとまったのが次の1首。
 
  秋の海浪おだしくてヒトラーユーゲント三笠艦上に萬歳を唱ふ 
          横須賀市 青野針太郎


 あら、そんなことがあったのか、と調べてみたら、たしかにありました。
 1938年(昭和13年)9月23日午前11時ヒットラーユーゲントが記念艦三笠を訪問したとのことで、その時の記念写真&説明を→コチラで見ることができます。

 いろんな本に、いろんな人たちの物語がぎっしりつまっています。
 「支那事変歌集」からは75年、朝鮮戦争勃発からは63年。「韓国発禁詩集」発行からも、もう35年経つのですね。
 時を隔てて見ると、リアルタイムでは見えなかったであろうことがいろいろ見えてきて、それが古書を読む楽しさのひとつです。
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韓国内の映画 Daumの人気順位 と 週末の興行成績[5月3日(金)~5日(日)]

2013-05-07 23:49:51 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 この1週間は映画を観に行けず。「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」とか、「塀の中のジュリアス・シーザー」等々、観る予定なんだけどなー。下高井戸シネマとかキネカ大森とかの映画館の存在はありがたい。シネマジャック&ベティはもちろんですが。

 さて、今回の<多様性映画>のランク第2位に「종착역(終着駅)」という文字が・・・。あのヴィットリオ・デ・シーカ監督の1953年の作品。ジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフト主演で・・・。どこかの映画館で特集上映でもやってるのかと思いつつ、ちょっとハングルで検索して探してみたら、→コチラの記事がヒット。<「森浦への道」「太陽がいっぱい」など昔の名画上映も客席占有率60%>という見出しで紹介されているのは、「ハリウッドクラシック」と改名された劇場。別名がシルバー映画館。あら、私ヌルボが昨年暮れのソウル旅行で知った楽園商街の建物内にある映画館ではないですか。(下の写真) 記事によると、シルバーの名の通り高齢者向きの映画館で、満55歳以上だと入場料2000ウォン! それ以下でも高齢者と一緒に来れば7000ウォンが2000ウォンになるとか。劇場スタッフ16人も全員が60歳以上だそうです。映画の上映前には、関節炎治療薬・失禁用パンツ(!)等々、映画館のスポンサー企業の宣伝広告が出てくる、とも。今度ソウルに行ったらぜひ入ってみなければ・・・。シルバー映画館の公式サイトは→コチラ

         
   【ポスターを見て、写真も撮ったものの入らずじまいてした。次の機会には入ってみよう。】

          ★★★ Daumの人気順位(5月7日現在上映中映画) ★★★

【ネチズンによる順位】

①レオン 9.4(582)
②シュガーマン 奇跡に愛された男  9.2(134)
③ファインディング・ニモ 3D  9.2(115)
④パパロッティ(韓国)  9.2(1636)
⑤アンコール!!  9.2(232)
⑥チスル – 終わらない歳月 2(韓国)  9.2(507)
⑦砂が流れる川(韓国)  9.1(22)
⑧カルテット!人生のオペラハウス  9.1(37)
⑨偽りなき者  9.0(184)
⑩7番房の贈り物(韓国)  8.9(3998)

 新登場は③「ファインディング・ニモ 3D」だけ。日本では昨年9月に公開されました。韓国題は「니모를 찾아서 3D(ニモを探しに)」。

【専門家による順位】

①チスル – 終わらない歳月 2(韓国)  9.0(5)
②愛、アムール  8.7(7)
③ホーリー・モーターズ  8.7(4)
④塀の中のジュリアス・シーザー  8.0(5)
⑤ジャンゴ 繋がれざる者 7.8(7)
⑤テイク・シェルター  7.8(7)
⑦リンカーン  7.7(8)
⑧シュガーマン 奇跡に愛された男  7.7(4)
⑨ストーカー  7.6(6)
⑩偽らざる者  7.6(3)

 新登場は④「塀の中のジュリアス・シーザー」だけ。日本では今年1月公開。韓国題は「시저는 죽어야 한다(シーザーは死ななければならない)」です。
このところ、あまり変動がありません。

         ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績[5月3日(金)~5日(日)] ★★★

         「アイアンマン3」が依然独走

【全体】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(1)・・アイアンマン3 ・・・・・・・・・・・・・・・4/25・・・・・・・・・・・・1,865,094 ・・・・・・・・・5,873,740 ・・・・・・・47,132 ・・・・・1,389
2(14)・・全国のど自慢(韓国) ・・・・・・・・5/01 ・・・・・・・・・・・・・306,179・・・・・・・・・・・457,599・・・・・・・・・3,193・・・・・・・582
3(4)・・映画クレヨンしんちゃん ・・・・・・・4/25 ・・・・・・・・・・・・・・95,528 ・・・・・・・・・・・187,832 ・・・・・・・・1,239・・・・・・・328
         嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス(日本)
4(33)・・ファインディング・ニモ 3D・・・・・5/01 ・・・・・・・・・・・・・・52,187・・・・・・・・・・・・・60,923・・・・・・・・・・632・・・・・・・212
5(2)・・伝説の拳(韓国) ・・・・・・・・・・・・・4/10 ・・・・・・・・・・・・・・50,651・・・・・・・・・・1,684,135 ・・・・・・・12,349・・・・・・・303
6(新)・・あらしのよるに~ひみつのともだち~・・5/01 ・・・・・・26,381・・・・・・・・・・・・・32,142・・・・・・・・・・215・・・・・・・231
         シアターセレクション 出会い編(日本)
7(3)・・オブリビオン・・・・・・・・・・・・・・・・・4/11 ・・・・・・・・・・・・・・22,355・・・・・・・・・・1,495,843 ・・・・・・・11,030・・・・・・・164
8(6)・・ピノキオ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4/25 ・・・・・・・・・・・・・・17,669・・・・・・・・・・・・・63,028・・・・・・・・・・402・・・・・・・153
9(5)・・ランニングマン(韓国) ・・・・・・・・・4/04 ・・・・・・・・・・・・・・14,074・・・・・・・・・・1,412,727 ・・・・・・・・9,993・・・・・・・・99
10(9)・・ローマでアモーレ ・・・・・・・・・・・4/18・・・・・・・・・・・・・・・13,513 ・・・・・・・・・・・146,511 ・・・・・・・・1,074・・・・・・・・68
       ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 1位「アイアンマン3」が先週に続いて他を圧倒。先週の約220万人から減ったとはいえ、2位に6倍近い大差で連続トップです。
 今回の新登場は2・4・6位の3作品です。
 2位「全国のど自慢」は原題は「전국노래자랑」。直訳だと「全国歌自慢」。1980年に始まったKBSの長寿番組です。この番組出演にそれぞれの思いをかける人たち・・・。主人公は妻(リュ・ヒョンギョン)が美容師という文字通りの「髪結いの亭主」(キム・イングォン)。韓国では「シャッターマン」と言います。歌に自信の彼は国民歌手を夢見て妻に内緒で金海市での予選に出場します。2人目は金海の女性市長(キム・スミ)。彼女も自信だけはあるのですが、あいにく音痴。イチゴエキスの広報のためという仕事に愛との一挙両得をねらう男女職員、孫娘との最後の思い出作りを期すおじいさん。はたして彼らの挑戦はどう展開していくのか・・・。司会の宋海(ソン・ヘ)氏も自分の役(?)で出演。
 4位「ファインディング・ニモ 3D」は上述しました。
 6位「あらしのよるに~ひみつのともだち」は昨年11月日本公開。韓国題は「폭풍우 치는 밤에: 비밀 친구」。

【多様性映画】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(新)・・君と歩く世界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5/02・・・・・・・・・・・・・6,547 ・・・・・・・・・・・・・・・9,856 ・・・・・・・・・・51・・・・・・・・・・34
2(新)・・終着駅・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5/03・・・・・・・・・・・・・1,635 ・・・・・・・・・・・・・・・4,006 ・・・・・・・・・・・3・・・・・・・・・・・1
3(1)・・チスル - 終わらない歳月 2(韓国) ・・3/21 ・・・・・・・・・・・・1,406・・・・・・・・・・・・・135,444 ・・・・・・・・・・・9・・・・・・・・・・19
4(11)・・ローマ法王の休日 ・・・・・・・・・・・・・・5/02・・・・・・・・・・・・・・・913 ・・・・・・・・・・・・・・・1,593 ・・・・・・・・・・・6・・・・・・・・・・19
5(2)・・公正な社会(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・4/18・・・・・・・・・・・・・・・876 ・・・・・・・・・・・・・・12,627 ・・・・・・・・・・・6・・・・・・・・・・13

 新登場は3作品。
 1位「君と歩く世界」は日本では4月6日に公開されています。韓国題は原題(「Rust and Bone」)そのままの「러스트 앤 본」です。
 2位「終着駅」については冒頭で書きました。
 4位「ローマ法王の休日」は、日本では昨年7月公開。韓国題は「우리에겐 교황이 있다(われわれには教皇がいる)」です。
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「親日派」小説、読まずに排斥すべからず!① 「日本植民地文学精選集」に注目

2013-05-06 23:48:05 | 韓国の小説・詩・エッセイ
 わりと最近知ったのですが、ゆまに書房という出版社から「日本植民地文学精選集」というすごい全集が出ています。
 2000年9月刊行の第1期分が全20巻で定価262,500円、2001年9月刊行の第2期分が全27巻で定価340,200円です。
 「満洲・朝鮮・台湾・南洋群島・樺太―植民地とその周辺の文学の基礎文献を集成」したというもので、計47冊の内訳は、満洲編=12巻、朝鮮編=13巻、台湾編=14巻、・南洋群島編=4巻・樺太編=4巻 となっています。

 その収録作品は、第1期分は→コチラ、第2期分は→コチラのリストを参照のこと。

 「すごい全集」と書いたのは、1冊平均約1万3千円というそのお値段! 中には約1万9千円というのもあります。(汗笑)
 そしてもうひとつは、読んでみたくなる収録作品の数々!
 ゆまに書房の宣伝文によると、
 日本「内地」中心の文学史から抜け落ちた植民地の文学、待望の復刻。歴史的価値が高く、研究者から復刻を強く望まれていた作品を厳選。日本人以外の作家によって書かれた日本語文学作品も多数収録。図書館などにもほとんど所蔵されていない、閲覧困難な幻の稀覯本です。・・・ということです。

 私ヌルボ、リストに目を通してみると、たとえば・・・
・[台湾編13]に『船中の殺人』(1943年)・『龍山寺の曹老人』(1945年)という林熊生(りん・ゆうせい)こと、実は人類学者の碩学金関丈夫の探偵小説がある! これはおもしろそう。
・佐藤春夫が『霧社』(1936年)という作品を書いてたのか。([台湾編6])
 この他にも、台湾編には興味をそそられる作品がとくに多いです。
・[満洲編8]には、日本名で日本語の小説を書いた在満朝鮮人作家の今村栄治の作品を収録、って、この作家は知りませんでしたが興味を覚えます。ちょっと検索してみたら「「臣民」と「不逞鮮人」:今村栄治「同行者」に見る民族・移民・帝国」と題した論文がありましたが・・・。
 「翌朝までにコプラを十トン集めなければ、島の若者五人が貿易船に徴用される―。酋長の苦悩を描く」なんて、そんな事実があったのか、・・・というのは[南洋群島編4]の大久保康雄『孤独の海』(1948年)。あの『風と共に去りぬ』の翻訳家がこういう本も書いていたんですね。
 「おもしろそう」というより、なるほど、資料として貴重な作品をそろえています。 

 ・・・で、本ブログの主旨に沿って[朝鮮編]の中身を見てみると・・・、
 湯浅克衛・田中英光・李光洙・張赫宙・兪鎭午等のヌルボ既読の作家と、鄭人沢のような名前だけ知っている作家を合わせたよりも、名前も知らなかった作家がはるかに多い・・・。まあしかたないでしょ。日本でも忘れ去られ、韓国でも日本語で書いた「親日」作家とその作品に関心を示すのは、日韓ともにごく一握りの研究者(orヌルボのようなオタク)くらいのものでしょうから。

 さて、その[朝鮮編]13巻の中で私ヌルボがさっそく読んでみようと思ったのは次の2冊。

 [朝鮮編2]青木洪『耕す人々の群』(1941年)
 父の過ちによって没落し、言語を絶する困苦の放浪生活を送る農民一家。朝鮮半島の土の香りを、生々しい現実感とたくましい生活感をもって描き上げた自伝長篇小説。
 ・・・ということですが、著者の紹介に心ひかれました。
 本名・洪鐘羽(1908~?)。朝鮮黄海道黄州に農家の長男として生れる。十歳で父を失い、小学校を二年で中退、極貧の農民生活を送る。その後間島に移住し、子守、商店の小僧、領事館の給仕などの職を転々とする。やがて渡日し、左官業の傍ら、文学修業を行う。自己の体験に根ざしたリアリズムの作風で、自伝的長篇『耕す人々の群』(農民文学懇話会有馬賞)のほか、『ミインメヌリ』などの作品がある。

 そしてもう1冊は[朝鮮編10] 金聖『緑旗聯盟』(1940年) 
 東京と京城を舞台に、日本人と朝鮮人の二組の兄妹の恋愛模様を描く青春風俗小説。その清新なストーリーの一方で、朝鮮社会における反日感情についても透徹した目で見据えた傑作。
 ・・・この青春風俗小説という内容自体がなんとなくおもしろそうではないですか。
 幸いなことに、高価なこの全集を横浜市立図書館はヌルボのため(であるかのように)そろえてくれていました。ラッキー!! さっそく『緑旗聯盟』を借りて読んでみました。
 そして2日間でイッキ読み。いやー、これは正解だったですねー。1937年当時の「内地人」と「半島人」の生活や物の考え方、あるいは両者間のもろもろについていろいろ知識を得ました。そして東京(とくに銀座)や京城の街のようす等についても。
 この小説については、少し後に記事にします。

         
   【約400ページで1万6千円。ということは、1ページが40円、1行が3円か。うーむ・・・。】

 続きは→コチラ
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[昔の韓国の習慣] 他家を訪問したら、門前で「こちらに出て来い!」と叫ぶ

2013-05-05 23:29:50 | 韓国・朝鮮関係の知識教養(歴史・地理・社会等)
 誰かが門前で、「こちらに出て来い!」と大声で呼ばわったら、家の中の者たちは、いったい何ごとかと色めきたつでしょう。
 ところがこの「こちらに出て来い!」、韓国語で「이리 오너라(イリ オノラ)」は、「両班が他家を訪ねたときに、訪問先の使用人を呼ぶ時に使う言葉」として昔はふつうに用いられた言葉で、時代劇などではよく出てくるので、韓ドラファンの皆さんはおなじみかもしれません。
 <韓国時代劇歴史ドラマ事典>というサイトの中にも載っています。それには「帯同している自身の使用人に言わせることも多い。この言葉自体が命令形であるため、決して訪問先の主人に対して直接使うことはない。」とも書かれています。
 時代劇ドラマの日本語字幕では「後免!」と訳しているのがふつう、かな。「誰かいないか!」とか「門を開けろ!」とかもあるようですが・・・。

 「朝鮮を知る事典」(平凡社)の「あいさつ」の項目には、次のような説明があります。
 訪問するときには、<ケェシムニカ>(いられますか)とか<シルリェハムニダ>(失礼します)とまず声をかける。かつては両班は<イリオノラー>(ここに出て来い)と、まず召使か下男を呼んだものだが、今どきこんなことは言わない。

 私ヌルボは、10年くらい前(?)にある古本(今行方不明)を読んでこの言葉を知ったのですが、それには、李朝の時代が終わってからもかなり長く用いられていたと書かれていまた、と記憶しています。
 また、没落した両班でもう使用人がいなくなっていても、「こちらに出て来い!」という客に対しては、たとえばその家の奥さんが「どうぞお上がり下さい」という言い方はしないで、「「中に入れ」とのことです」と、使用人が主人の言葉を伝えるという形式で客を招き入れるのだ、とも。

 今このようなことを思い起こしたのは、たまたま最近韓国近代小説史上の記念碑的作品とされる李光洙「無情」の最初のあたりを読んでいたら、次のような場面があったからです。

 主人公の青年教師李亨植(イ・ヒョンシク)は、教会の金長老から娘の英語の個人教授を頼まれ、ソウル安洞(現在の安国洞)にある彼の屋敷を訪ねる場面から始まっています。(1916年6月27日という設定)
 金長老は「ソウルのキリスト教会でも両班の資産家として三本の指に入る人物」で、大きな屋敷で「数十人の使用人を使って」います。
 金光鉉という表札がついたその屋敷の門前に着いた李亨植は・・・・というところで原文。

 형식은 지위와 재산의 압박을 받는 듯 한, 일변 무섭기도 하고 불쾌하기도 하면서 소리를 가다듬어, "이리 오너라"하였다. 그러나 그 목소리는 아무리 하여도 뚝 자리가 잡히지 못하고, 시골 사람이 처음 서울 와서 부르는 소리와 같이 어리고 떨리는 맛이 있다.
 "안으로 들어오시랍니다"하는 어멈의 말을 따라 새삼스럽게 가슴을 두근거리면서 중문을  지나 안대청에 오르다.전 같으면 외객이 중문 안에를 들어설 리가 없건마는 그만하여도 옛날 습관을 많이 고친 것이라.

 ※「無情」(平凡社.波田野節子:訳  
 地位と財産に威圧されるような気がして、亨植は畏怖と反感を同時に覚えながら声を整え、
 「ごめんください」と言った。だが、その声はしかにも場違いで、初めてソウルに来た田舎者のようにおずおずとして、どことなく震えていた。
 「お通しせよとのことでございます」
という女中の言葉で、あらためて胸をドキドキさせながら中門を通り、母屋の大庁[母屋にある広い板の間]に上がる。
以前なら外来客が中門より先に入れるはずがなかったが、これだけ見ても昔の習慣は大いに改まったのである。


 李亨植が、はるかに格上の金光鉉元老の屋敷の前でも「이리 오너라」ですからねー。そして中から「안으로 들어오시랍니다」と伝聞形で女中が主人の意を伝えています。
 1916年。「昔の習慣は大いに改まった」というその当時も、この時代劇調のやりとりはまだ続いていたということですねー。
 では、いつ頃まで存続したのか、という点については今後の課題ということにしておきます。

付記:「이리 오너라(イリ オノラ)」という看板を掲げているレストランとかネットショップがあるのは、文字通り「この店に来い!」という意味なんでしょうね。

★ぬんと、→コチラで李光洙「無情」(韓国語)の全文を読むことができます!
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