☆見なくなった白いわんこ
相変わらずのシェラの食欲である。原因は、どうやらステロイドの副作用らしい。欲しがるままに食べ物を与えていれば、当然、太らせてしまう。この年齢でまた太らせてしまえば、寿命を劇的に縮めてしまいかねない。心を鬼にしてでも肥満から守ってやるべきだ。
老化が原因の食欲――つまり、食べたことを忘れて、また欲しがっているわけではないらしいというだけでもホッとする。
この春まで、散歩のときに会っていた老犬の姿が、夏ごろからぱったり途絶えた。朝は二十代の娘さんが、夕方は奥さんが散歩をさせていた。
散歩といっても、ほとんど歩けず、また、歩いてもまっすぐに歩けないので、よく、娘さんが押してやっている姿を目にしていたものだ。家人が奥さんから聞いた話によると、歩こうとするとぐるぐるまわってしまってしまうそうだ。
年齢はシェラと同じ16歳、同じ雑種だが毛並は白く、身体の大きさも似たようなものだった。違いといえば、シェラがやや太り気味なのに引き換え、シロ(本当の名前は知らない)は正しくスレンダーだった。
妙に親しみが湧く子で、会うたびに、「がんばろうね」と無言のエールを送っていた。
☆短い生涯だからなおさらに
夕方、家人がシロの家の奥さんと、何か月ぶりかで会ってシロの消息を訊ねたところ、やっぱり亡くなっていた。9月だったそうだ。散歩で出会わなくなったのはむぎが旅発つ前だから、きっと、もう外へ出ることもできなくなって、家の中で臥せっていたのだろう。
奥さんからもシロが亡くなるまで娘さんの部屋で過ごしていたと聞かされたという。シロが死んでしまったとき、娘さんの慟哭があまりに激しいので、どうにかなってしまうのではないかと心配したほどったという。
老いて、身体の自由がきかなくなったあとも世話をすれば、想いはなおさら深まる。黄泉への旅発ちを見送ったあとの悲しみもまた深い。
この夏以来、とんと消息が伝わってこない姫路にいるキャンプ仲間の愛犬・柴犬のサクラが気になる。やはり、シェラと同じ16歳、目がほとんど見えていないし、耳も聞こえていない。皮膚のアレルギーに、サクラも飼主も苦しんでいた。
シロの娘さんもサクラの友人も、それぞれに苦労を背負いこみながら、苦労すればするほどに愛しさを募らせているのがよくわかる。わんこの限られた短い生涯を思うと、その終わりが近づく辛さを振り払うためにも想いを深めてしまうだろう。
ぼくもまた、「きみと出逢えて幸せだったよ」と繰り返し語りかけながら、シェラの残り少ない日々をともに歩んでいきたい。