Dr.K の日記

日々の出来事を中心に、時々、好きな古伊万里について語ります。

伊万里 色絵 花果実文輪花皿

2020年12月30日 17時22分48秒 | 古伊万里

 今回は、「伊万里 色絵 花果実文輪花皿」の紹介です。

 これも、昭和60年に(今から35年前に)、東京で買ったものです。

 

表面

 

 

裏面

 

 この皿の口縁には、鋭い鎬(しのぎ)が施されています。

 このように、口縁に鋭い鎬を施す皿の造形は、寛文(1661~72)・延宝(1673~80)期の特徴です。

 確かに、口縁の造形の特徴だけから見れば、この皿は、寛文・延宝期に作られたものだろうと思わせます。しかし、描かれた文様を見ますと、あまりにも上手に多くを描き過ぎているように感じられます。見込み面に描かれた絵の下側には琵琶が描かれているのは分かりますが、絵の真ん中は、アザミなのか栗なのか分かりません。また、絵の上側に赤を多く使って描かれているものは花なのか果実なのか分かりません。それで、この皿の全体の文様としては「花果実文」としたようなしだいです。このように、全体的には、コチャコチャと描かれていて迫力を感じません(><) 寛文・延宝期の力強さを感じさせないんですよね。皿の造形と皿に描かれた絵との間に時代の不一致を感じさせるわけです(~_~;)

 そこで、この皿の製作年代について、私なりの考察を加えてみることにしました。

 この皿の高台内に描かれた「銘款」をヒントに考察してみたいと思います。

 

 「銘款」につきましては、佐賀県立九州陶磁文化館発行の「柴田コレクションⅣ」の巻末に、鈴田由紀夫氏(現:佐賀県立九州陶磁文化館館長)が「17世紀末から19世紀中葉の銘款と見込み文様」という論文を寄せていますが、その中で、鈴田氏は、次のように書いています。

 

「1670年代から80年代には、草書体の「福」字銘が現れる。古窯跡の出土例では、長吉谷窯の陶片にある。草書体の特殊な事例はそれ以前にもあるが、このころから福の「田」の部分が渦を巻き始める。当初は渦が一重か二重であるが、①になると三重となり、典型的な通称「渦福」が出来上がる。柿右衛門窯や南川原窯ノ辻窯で①のような銘の作品が作られるが、その後肥前各地の窯で用いられる銘である。②から④は、①が流行するにつれて変容してゆく過程を示している。描き方は粗雑になり、渦が四重にまで増える。また④になると福の書体が崩れ過ぎて、原字が判断しにくくなっている。渦を巻くタイプの「福」字銘としては最終段階であり、・・・」

 

 

 ところで、この皿の「銘款」を拡大してみますと、次のようになります。

 この「銘款」は、上の①の典型的な通称「渦福」に近いと言えるのではないでしょうか。

 ということは、この皿は、①の「1690~1710年代」に作られた可能性が高いということになります。

 

 以上のことから、この皿は、造形的には「寛文(1661~72)・延宝(1673~80)期」の特徴を残しながらも、銘款の特徴から見て、それより少し遅い時期の「1690~1710年代」に、つまり、「元禄(1688~1703)~享保(1716~1735)期」に作られたものと思われます。

 

製作年代: 江戸時代中期(1690~1710年代)

サ イ ズ : 口径;16.0cm  底径;9.7cm 

 

 

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追記(令和2年12月31日)

 この皿をインスタグラムで紹介しましたところ、越前屋平太さんから、次のようなコメントをいただきました。

 

   「典型的な大聖寺伊万里の高台、裏行きですね。」

 

 このコメントに接し、私は「なるほど!」と思いました。

 何か、伊万里にしては、腑に落ちないというか、腹に入らないところがあったからです。

 ちょっと違和感を覚えていたんですよね。ボデイは「延宝・寛文期」の名品にみられる造形、そして、絵付けは柿右衛門の優品ですものね。両者の良いとこををミックスさせているんですよね。伊万里写しをした大聖寺ですが、これでは、伊万里を超えていますよね。

 このようなことで、多分、この皿は、大聖寺伊万里なのかもしれません。

 越前屋平太さん、貴重なコメントをありがとうございます(^-^*)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
酒田の人さんへ (Dr.K)
2020-12-31 10:01:03
この皿について、越前屋平太さんから、「典型的な大聖寺伊万里の高台、裏行きですね。」とのコメントが寄せられました。
私は、何となく違和感を覚えていたんですが、そう言われればそうかなと思うようになりました。
そのことにつきましては、「追記」しました。
伊万里もなかなか難しいですね(><)
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Dr.kさんへ (酒田の人)
2020-12-30 23:15:14
この鋭い捻じり縁はまごうとこなき古九谷ですよね!
それに対して見込みの絵付けは典型的な古九谷様式ではないという、実に興味深い品です。
可能性は低いと思われますが、もともとは寛文期の染付の品だったものに
元禄~享保期に色絵を加飾した(いわゆる後絵)こともあり得るんでしょうか。
こういった品を見ると、骨董としての伊万里の奥深さを感じます。
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遅生さんへ (Dr.K)
2020-12-30 20:34:21
渦福の渦の巻き方から年代がわかるようですね。
是非、調べてみてください。

ホント、この皿の絵は不思議ですよね。粗略に描いてあるわけではないんですが、よくみると、何を何種類描いたのかよく分かりません。
何か、意味があるのかもしれませんね。

葉を緑釉で塗りこめるのも案外少ないかもしれませんね。伊万里の場合は、写実的な色使いをしないことが多いですものね。
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Dr.Kさんへ (遅生)
2020-12-30 20:01:32
渦福の渦の巻き方から年代がわかるのですね。どこかに渦福の皿があったと思うので、調べてみます。
この皿の絵は不思議ですね。実のなる木が3種類も。サービス精神が旺盛なのか、作者の好みか?(^^;
葉を緑釉で塗りこめるのも案外少ないと思いますがいかがでしょうか、特にこの時代は。
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