セツナイ出来事 (風は下流から吹いて吹いて。。。)

2018年06月17日 | サトヤマ,サトヤマ
 少し前のことを忘れないうちに書き記しておく。それは1ヶ月ほど前に当盆地において発生した,ごくごくローカルな事件の話である。盆地の東部に連なる低山地,ハイキングコースとしても巷間よく知られている弘法山の界隈に,ある日突如として一頭のツキノワグマが出没し,そして不運にもそのクマは,付近に仕掛けられていたワナに掛かってしまい,挙句の果てに,それを見つけた地元猟友会により即刻射殺されたという顛末であった。まことにイマイマシイ,もといイタマシイ出来事だ。

 私がその事件のことを人伝に聞いて最初に思ったのは,その不運なクマさんは,弘法山から馬場道の尾根筋を経て南西方面に連なる権現山の山麓地域,そこらあたり一帯は私が時折ウォーキングやサイクリングで通り過ぎる,農耕地や灌木や樹林などが入り交じったノドカナ丘陵の小径なのであるが,そこの樹林地の一隅にだいぶ以前からまるで放置されているかのように鉄柵製の動物捕獲器,いわゆる「箱罠」が置かれていて,それにタマタマ運悪く入り込んで出られなくなってしまったのかなぁ?と単純に推察したのだが,どうやらそれは当方の見込み違いであって,そことは別の場所に仕掛けられていたイノシシ・シカ用の「くくり罠」にかかったようだ。いずれにしても,当のクマさんにしてみれば,まさに青天の霹靂,何というアンラッキー! そして,直ちに殺処分だと!! 何ともイタマシイ,もといイマイマシイ出来事であることに変わりない。

 私がインターネット等を通じて本件の情報を直接確認できたのは,神奈川新聞毎日新聞東京新聞の3紙に限られる。それら各紙の報道記事を以下に全面転載する。

◆秦野でツキノワグマ捕獲◆ [神奈川/無署名 2018.5.15]
 県は14日,秦野市名古木の弘法山周辺のハイキングコース近くに仕掛けたわなで雄のツキノワグマ1頭(体長142センチ,体重45.5キロ)を捕獲し,殺処分した,と発表した。
 県によると,同日午前11時ごろ,ハイキング中のハイカーが発見し,通報。県と市で合同パトロールをしていた。同日午後3時ごろ,わなに掛かったツキノワグマを見つけた。住民やハイカーを襲う恐れもあることから殺処分に踏み切ったという。
 丹沢のツキノワグマは1997年の調査で約30頭しか確認されていないため,県から絶滅危惧種に指定されている。


◆ツキノワグマ 秦野・弘法山に142センチ、捕殺◆ [毎日/国本愛 2018.5.15]
 県は14日、秦野市の弘法山のハイキングコースでツキノワグマが見つかり、秦野市が委託したハンターが捕殺したと発表した。体長142センチ、体重45.5キロのオスで、14日、目撃情報を受けて市の職員が警戒していると、イノシシや鹿を仕留めるため山中に仕掛けたワナに掛かっていた。今後は学術研究のため県立生命の星・地球博物館(小田原市)に搬送する予定。


◆秦野でツキノワグマ殺処分 弘法山ハイキングコース近くのやぶ◆ [東京/西岡聖雄 2018.5.16]
 秦野市名古木(ながぬき)の弘法山ハイキングコースの近くで14日、雄のツキノワグマ一頭(体長142センチ、体重45.5キロ)がイノシシやシカ用のわなにかかり、県が殺処分した。通常は麻酔で眠らせ山奥に放つところ、クマ用のわなではないため麻酔銃を手配するまでに逃げ出す恐れがあり、緊急対応で射殺した。
 ハイカーの目撃情報で現場に駆け付けた市農産課の井上和久さん(54)が同日午後、コースから20メートル離れたやぶにいるクマを確認。クマはその後、わなに前脚がかかり、動けなくなった。
 市内のハイキングコース近くでの目撃は本年度初めて。市によると、クマは出没する年としない年が交互に訪れ、今年は出没年に当たる。井上さんは「遭遇時は背中を見せず、クマに向き合ったままゆっくり後退してほしい」と呼び掛けている。
 丹沢山地のツキノワグマは推定30~40頭おり、県は絶滅危惧種に指定。2008年度以降、3件の人身被害がある。死亡者はいない。


 いずれもごく短い三面記事ながら,その記述の精粗さ,筆致の巧拙さ,文脈の論理的整合性等々においては各紙各様,だいぶバラツキがある。情報伝達トップランナーとしてのシンブン記者なるものの個々の力量かくの如し,というわけか。ま,そのこと自体はドーデモイイ。そもそも所詮ゴミムシのごとき私としては,シンブン・ジャーナリズムなんぞハナッから信じちゃいなモンで。

 なお,老婆心ながら余計を申しておけば,三紙の書きっぷりを比較すると,記事のマットウさという点では,東京新聞(西岡聖雄)には何とか及第点をあげられようが,他の二紙はダメ,特に毎日新聞(国本愛)はダメダメでありましょう。どこいら辺りが,って? いや,具体的に逐一指摘するのもヤボってもんだ(作文添削教室じゃあるまいし)。とにかくダメなものはダメ! ちなみに,天下の朝日新聞には当該事件のことは全く掲載されなかったようだ。わざわざ取り上げるに値しない些細な出来事,一過性のローカル日常エピソード程度と見做したのかどうか。いずれにしろ毎度の得意技「報道しない自由」(エヘン!)を行使したのだろう。

 ジャーナリズム側の報道の善し悪し,行政側の現場対応の是非はさておき,当のクマさん側にしてみれば,何ともヒサンでヤリキレナイ事件であることは厳然たる事実であって,彼ら少数民族としての悲哀を改めて強く感じたに違いない。上野の森の大熊猫などとはえらい違いだ。ひどい差別だ。そりゃ,月に向かって一声吠えたくもなりますわな。そしてそんなクマさんたちの辛く悲しい心持ちがいっとき憑依したかのように,その日からしばらくのあいだ,私の心は痛んだ。いや決して動物愛護精神なんたらとか生態系保全かんたらを憂いた訳ではなく,それは単なるメソメソ・ジジイの軟弱な嘆き節に過ぎない。それも,自らをつかのま「淵沢小十郎」に擬して,世の中のムジュンをトコトン感じてしまったという次第なのであります(クマだってニンゲンだぃ!)


[追記]

 上記の悲惨な事件から10日程が過ぎたのち,新聞に次のような関連記事が小さく報じられた。

◆登山道でクマ目撃情報◆ [神奈川/無署名 2018.5.26]
 24日午前11時ごろ,秦野市のヤビツ峠と伊勢原市の大山を結ぶ登山道の市境付近で,登山中の秦野市の女性(31)がクマ1頭を発見,秦野署に届け出た。女性は夫(40),息子(2)と登山中で走って逃げたという。3人にけがはなかった。
 女性と署によると,クマは登山道から1,2メートル離れた草むらに座っていたという。女性は狩猟の免許を持ち,「夫も目撃している。大型でクマに間違いないだろう」と話している。
 秦野市内では今月14日,名古木の弘法山周辺のハイキングコース近くに仕掛けたわなで雄のツキノワグマ1頭(体長142センチ,体重45.5キロ)が捕獲され,殺処分されている。市はホームページに目撃情報を掲載し,登山客に注意喚起している。


 何と,これはしたり! 恐らく,彼(ないし彼女)は,少し前に行方不明になってしまった親兄弟か仲間か恋人かを探しに,遠くの地から山中を歩いてハルバルやって来たクマさんなのだろう。けれども,この盆地周辺サトヤマ一帯のあちらこちらを丹念に探しても探しても一向に彼の姿は見つからなくて(もちろん既に殺されてしまったなんてことは当人は知る由もない),そして探して探して探しつくして疲れ果てたその挙句,ヤブのなかでヘナヘナとしゃがみ込んでしまい,サテ,これからドウシタモンジャロカ?などと,空虚な心のまま一寸思案中であったに相違ない。その気持ち,痛いほど判ります。愛する者を失った悲しみと孤独。時まさに季節は春タケナワなわけで,山中の樹々は思う存分に芽吹き,花咲き乱れ,たくさんの鳥たちがカシマシク囀り,さまざまな虫たちはブンブン飛び交い,またモゾモゾ蠢き這い回り,新緑の鮮やかさが否が応でも眼に眩しく映じる,そんなメクルメク命の営み,生の饗宴のただ中にあって,自分はたった一人,この地に取り残されてしまった! いまの私にとって,世界は絶望的なまでに暗く冷たい存在以外のなにものでもない。言葉に表すこともできずに,その辛さと虚しさとを抱えたまま。。。 そりゃ,ガルルル~ッと泣きたくもなりますわな。

 クマだってニンゲンだぃ!(こればっか)


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