二週続けての大雪だった。今年は首都圏に在住する多くの人々がソレナリニ貴重な体験をしたのではないでしょうか。自然を侮ってはいけません。
昨日,所用のため電車で県央部の大和市方面に出掛けたのであるが,小田急線の車窓から眺める沿線の積雪状況がなかなかに興味深かった。当盆地内はほとんど雪が積もっていないのだけれども,鶴巻温泉駅を過ぎたあたりから徐々に雪が多く見られるようになり(より具体的に申せば,金目川の支流である鈴川・大根川の低地にはまだ雪が少ないのに対して,伊勢原駅を過ぎて同じく金目川支流の渋田川沿いの低地になると積雪は大分多くなる),そして厚木駅に着くとそれこそ街中は雪だらけ。さらに相模川の鉄橋を渡って海老名に入れば,もうそこは一面の銀世界となっているのでありました。繰り返すが,自然の気紛れをゆめゆめ侮ってはなりませぬ。
ところで,当盆地内ではなぜ積雪量が少ないのかといえば,それはやはり盆地の北側に控える丹沢山地の方で降雪の多くを「取られて」しまうためだろうと思われる。それでも,先々週の雪は拙宅周辺でも20cm近くは積もって難儀したものだったが,先週はせいぜい5cmかそこらの積雪で,それもすぐ後の雨であらかた融けてしまった。そのせいか,近隣の住民におかれては今回の第二波における県央地域の皆様の御苦労(こっちの方が更にヒドかったという)なぞ,言葉は悪いがまるで「対岸の火事」のごとく感じているようにも見受けられる。人心かくのごとし。ここはひとつ,豊富な気象データを利用して詳細な「積雪量図」でも作れないものか,などと個人的には思ってしまう。それが何になるノダ?と問われても返答に窮してしまうが。。。 当地でゆいいつ困るのは,場所によっては路肩部分にまだまだ雪が多く残っていることだ。幹線道路を自転車で走っているときなど,大型トラックに追い抜かれる際に路肩部に寄って回避することが困難になる。ま,無理をしないで走っておりますが。
現在,盆地のすぐ北に連なる丹沢表尾根は真っ白に雪化粧してとても見事である。私ども家族がこの地に移り住んでから約20年になるが,こんな冠雪ぶりを見たのは初めてのことだ。特に表尾根の盟主たる塔ノ岳の姿は実に立派で堂々としており,まるで松本盆地から眺める常念岳に比してもよいくらいだ,などといったら少々言い過ぎになるだろうか。その山並みの彼方(裏側)はどんな風になっているんだろう? んなわけで,本日は自転車でちょいと山方面へ出掛けて積雪の状態などを確認してきたわけであります(^_^;) いやいや,そりゃもう本当にスゴイことになっておりました。いくつかの特筆すべき生物学的知見も得ることができた。なお,MTBによる踏査ルートの詳細については,いわゆる情報の秘匿性という観点からここでは詳らかにいたしませんので,アシカラズ。
山から降りて家に戻ってきたとき,拙宅のすぐ近くの路傍に,近所のオバアサンがボンヤリ立っていた。軽く会釈して挨拶すると,急に小声で何か話しかけられたので少々驚いた。実は,そのオバアサンは,今から二年ほど前からだろうか,徐々にボケだしてきたようで,今では押しも押されぬアルツハイマー老婆なのである。年齢は80を少し過ぎたくらいだと思う。
いわゆる在の方で,由緒ある地主の家柄である。その一族に連なる家にウチの子供の知り合いがいることなどから,ずっと以前は道端などで会うと短い時候の挨拶や時にはちょっとした世間話などを交わしていた。どちらから嫁いで来られたのかは存じ上げないが,その話しぶりにはイナカ特有のガサツなところもなく,話の内容も含めてなかなか品の良いオバアサンだった。それが最近では,その御姿や行動などが傍から見ていてもあまりに痛々しい様子なので,たまにすれ違ってもただ軽い会釈をするだけになっていた。こちらから挨拶をしても,それに対する反応はかなり曖昧で,ときには全く無表情・無反応なことさえあった。「老いる」というのはまことに苛酷なものである。
ところが昨日は,ハッキリと向こうから私に対して声を掛けてきたのだ。
-あれ,カナザワさんとこの息子さんでしょ? 最近どうですか?
どうも,私のことをウチの息子と間違えているようだった。ただし! 私の名前は「カナザワさん」ではありません。また,この近所で「金沢」という姓の方は,少なくとも私の知る限りでは居ないと思う(以前自治会の役員を勤めたことがあるので,界隈の住人は概ね把握しているつもりだ)。 さて,こういう場合どう答えたらいいのだろうか。ちょっと苦笑いするように言葉を返した。
-こんにちは。今日は暖かでいいですねぇ。
-カナザワさんはどうですか?
-はぁ。。。 最近,足の方は大丈夫ですか?
-カナザワさんでしょ?
話がゼンゼンかみ合わない。そのうちにオバアサンの御主人がやってきて,当方に対して困ったような顔で笑いながら挨拶し,それから老妻の手を引いて家に連れて帰ろうとした。すると,オバアサンは,何やらとても不満らしく,怒ったような口調でこちらに向かって言い放った。
- いえ,別に,変なことしないですよ!
- 。。。お大事になさって下さい。
御主人に半ば無理矢理手を引かれてノロノロと立ち去ってゆくその後ろ姿に,当方としてはそう言葉をかけるのがせいいっぱいだった。老夫婦の緩慢な歩行のその先遠くには,雪を被った相州大山の美しい稜線がくっきりと望まれた。暖かな冬の日の午後である。季節は巡り,やがて山々の雪も融けて春が訪れるだろう。さよう,老いるというのも,それはそれで自然な営みなのだ。明日ハ我ガ身,というわけですかネ。