縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

クリムト『接吻』

2013-02-15 23:56:09 | 芸術をひとかけら
 昨年、ウィーンでクリムトの『接吻』を見た。クリムトの代表作であるこの絵は、ベルヴェデーレ上宮にある。ここは世界最大のクリムトのコレクションを誇る美術館である。
 クリムトというと女性ばかり描いているイメージがあるが、『接吻』は男女がキスをする姿が描かれている。男はクリムト自身、女性は彼の生涯の恋人であったエミーリエ・フレーゲがモデルと言われる。
 ふんだんに金箔が使用されたきらびやかな雰囲気の中、まさに口づけを交わそうとしている男と女。女性は恍惚の表情を浮かべ、男性に包まれ、そして二人は一つになっている。が、二人が立っているのは崖の上。愛のもろさやはかなさを現しているのだろう。

 もう随分昔になるが、この絵を、といってもポスターであるが、女性に贈ったことがある。別に色恋の話ではない。当時の僕の上司が、いつも頑張ってくれている子会社の女性に、誕生日プレゼントに絵を贈ろうと言いだしたのである。上司は、彼が1万円出すから残りを僕が出し、気の利いた絵を買うようにと言った。
 僕は困ってしまった。まず金額。二人合わせて精々2万円では、なかなか気の利いた絵は買えない。版画か、複製、あるいはポスターがいいところだろう。次に彼女の趣味がわからない。彼女は40代後半で子供が二人。何年か前に離婚したと聞いている。一方、当時の僕はまだ30前の独身。正直、おばさん(失礼!)の趣味はわからない。

 が、突然、僕は閃いた。
 「そうだ、クリムトにしよう。『接吻』がいい。ポスターなら値段も大丈夫だ。」

 なぜクリムトか?それは、彼女がよく大きな金のネックレスをしていたからであった。彼女が古代エジプト風のジャラジャラ系のネックレスをしているのを何度も見たことがある。黄金、幾何学模様、よし、きっと彼女はクリムトが好きに違いない。というわけで、僕は三越にポスターを買いに走った。
 案の定、彼女はクリムトが好きだった。特に『接吻』は大のお気に入りだと言う。僕はほっとした。

 ところで、昨年はクリムトの生誕150周年でベルヴェデーレではクリムトの特別展が開催されていた。そこでクリムトの説明を見て僕は驚いてしまった。なんと彼には14人もの子供がいたという。因みに彼は生涯独身。つまり、皆、私生児なのである。母親が何人かは書いていなかったが、クリムトがシングルマザーを何人も作ったことは間違いない。
 これを知って、「あのとき、あの絵を選んだのはまずかったかな。」と思った。そもそも、離婚した女性に男女のキス・シーンはどうかと思うし、ましてや女性の敵といえる、ふしだらな男の描いた絵である。彼女がこの事実を知らないと良いが。

 しかし、絵も私生活も、この現実離れしたところがクリムトの魅力の一つなのだろう。真面目で小心者の芸術家などつまらないと思う。