自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登の旋風(かぜ)-2-

2008年09月21日 | ⇒トピック往来

  おそらく今回のイベントで一番のVIPとも言える生物多様性条約事務局のアハメド・ジョグラフ事務局長が9月16から1泊2日で能登を訪問した。2010年の国際生物多様性年の「仕掛け人」である。この年、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10、名古屋市)が開催される。その関連会議を石川県に誘致するために、金沢大学、石川県、国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(金沢市)などが条約事務局に働きかけている。

      カメラを構えたジョグラフ氏

  実は今回のイベント「能登エコ・スタジアム2008」もその関連会議のシュミレーションとしての意味合いで金沢セッション、能登エクスカーションが構成された。ジョグラフ氏の能登訪問は2010年の能登エクスカーションの「下見」との意義付けもある。もし、ジョグラフ氏がここで「能登で見るべきもの、学ぶべきものはない」と感じれば、2010年の能登エクスカーションは沙汰やみになる。迎えるスタッフもプラン段階から気を遣った。では、ジョグラフ氏の反応はどうだったのか。

  まずジョグラフ氏のコースを紹介しよう。15日午後に金沢入りし、16日午後から能登訪問。キノコ山の保全活動などをツーリズムにしている「春蘭の里」(能登町)を訪ねた。その後、輪島の千枚田を経由して17時には金沢大学「能登学舎」(珠洲市)に到着。この時点で能登を150㌔走行し、疲労の様子もうかがえた。しかし、ジョグラフ氏が初めて自らのカメラを構えたのは能登学舎の近くにあるビオトープでのこと。広々とした水田地帯の山側に接した休耕田を生物の生息環境に配慮した湿地にしてある。ジョグラフ氏の目がくりくりと動いたのは、案内人のK氏が説明したとき。K氏は地元の小学校の校長で、ビオトープで育む生き物について熱心に教えている。「このビオトープは学校の教育の一環で子供たちが利用している」と説明した。ジョグラフ氏も環境問題を子供たちの教育に生かすことに力を注いでいて、途上国の小学校に木を植える運動を進めている。「グリーン・ウエーブ」運動と呼んで、日本でもその輪は広がりつつある。ジョグラフ氏とK氏、互いに共感するところがあったようだ。

  17日は、海の生き物を調査している「のと海洋ふれあいセンター」(能登町)で足を止めた。次に、輪島市の山中にある金蔵を訪れた。日本の里山の原風景とも言える棚田がなだらかに広がる。限界集落とも呼ばれる高齢化した地域。それでも人々は律儀に田を耕し、その収穫時に稲はざを立てる。ジョグラフ氏は「日本の里山の精神がここに生きている」と感想を述べた。

  私は部分的にしか同行できなかったが、「夢にも描けなかった光景が現実となった」との思いを抱いた。水稲栽培では一枚の田の面積が小さく生産性は低い。機械化の効率が悪い分、手がかかる。ため池の管理にも骨が折れる。それでも祖先から受け継いだ農地を「もったいない」と人々は律儀に耕してきた。結果、里山環境は保たれ多種多様な生き物が生息する環境になっている。その里山の人々をジョグラフ氏が評価してくれたのである。

 里山で大切なことは、情緒的な側面も大切なのだが、新たな価値評価を与えて、求心力をつけることだと考える。SATOYAMAはすでに生態学の研究者の間では国際的な認知を受けつつあり、国連大学高等研究所が中心となって研究を進める「里山里海サブ・グローバルアセスメント」も具体的に動き始めている。こうした研究が科学的な裏づけをもって、世界に情報発信できれば、日本人が見る里山の風景もまた一変する。里山の国際評価が加速する。そんな旋風(かぜ)をジョグラフ氏の訪問で感じた。(写真:珠洲市粟津のビオトープでカメラを構えるジョグラフ氏)

 ⇒21日(日)夜・神戸の天気   くもり

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