自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登の旋風(かぜ)-4-

2008年09月24日 | ⇒トピック往来

「能登エコ・スタジム2008」では3つのシンポジウム、6つのイベント、1つのツアーが行われた。そのツアーとはシニアコースと銘打ったスタディ・ツアーのこと。日本旅行の関連会社とタイアップし、50歳以上のシニアを対象に全国から募集して集まった11人がツアーに参加した。正式な旅行の募集名は「金沢大学シニア短期留学」で、旅行代金は1週間で19万円余り。9月11日に金沢で集合し、金沢城の石垣や建築を勉強。14日から能登に入った。能登エコ・スタジムのイベント全体の中で、個人的に一番苦心したのがこのツアーだった。何しろ人生の甘いも酸いもかみ分け、目と舌が肥えている人たち。論客が多く、ごまかし、まやかしは一切通用しない。しかも最高齢は84歳で、ツアーの主催者側に相当なホスピタリティ(もてなし)精神がないと相手は満足しない。この人たちに納得いくスタディ・ツアーとしてのサービスを提供するにはどうしたらよいか。

         そこにある観光資源              

  参加者の構成は東京都3人、兵庫県3人、大阪府2人、滋賀県1人、京都府1人、神奈川県1人である。年齢は60歳から84歳。男女比は女性7人、男性4人の構成。11日に開講式があり、懇親会があった。さっそく「シニア短期留学を研究する協議会をつくってはどうか」「金沢人、不親切論」なども飛び出して、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の状態となった。「論客が多すぎる」。これが第一印象だった。反省もあった。参加者には予めパンフレットで講義内容を簡単に説明してあったが、金沢大学がどのような学習サービスを提供してくれるのか、イメージとしてはインプットされていなかったのだろう。要は、説明不足。だから、懇親会での話が講義内容に集中するのではなく、ベクトルがバラバラな方向に展開したのだった。出だしはこんなふうだった。

  参加者11人のベクトルが合ってきたのは14日の夕方だったろうか。能登半島の先端、珠洲市寺家(じけ)地区のキリコ祭りを見学したときだった。地元の若い衆がせっかく東京や大阪から来てくれたのだからと、高さ12㍍もあるキリコを引き回してくれたのだった。そして、区長さんがキリコのことについて説明してれた。この一件で参加者たちの心はぐっと能登に引き寄せられたようだった。「能登半島の最果てに、エネルギッシュで気持ちのいい若者がいるね」「あの輪島塗のキリコの修理に1000万円もかけたんですって。心意気が違う」など。能登のキリコ祭りという共通の話題ができた。この夜、国民宿舎「のと路荘」で夕食の後、だれかれとなく誘い合ってカラオケ大会が催された。十五夜の月が見附島(通称「軍艦島」)に浮かんでいた。

  15日、地元の古老からトキが能登の空に舞っていたころの話や、鳥類の若手研究者から、最近飛来したコウノトリの生態観測の調査の講義を受けた。私は古老に質問をした。「なぜ、トキは絶滅したと思いますか」「土地の人たちが捕って食べたのではないですか」と刺激的に。古老は「そうです。私も食べた経験があります。当時、産後の滋養によいと言い伝えられていました。サギのような臭みはなく、あっさりとした肉です」「トキは早苗を踏み荒らすとされ、農家の人たちはトキに対してよい感情を持っていなかった」。息の詰まるような緊張したやり取りだった。古老には申し訳なかったが、トキの絶滅の背景を知る上で貴重な証言だった。その後、堰を切ったように参加者からさまざま質問が飛び出した。

  古民家の庭に獅子舞が舞い=写真=、祭りゴッツォをいただく。ゴッツォとは当地ではご馳走のこと。この土地ならでは料理に舌鼓を打つ。ツアーのフィーナーレが近づいた16日のこと。獅子舞だけでも正直、感動ものだった。「ひょっとこ」が獅子の頭を尻で踏んで、獅子を怒らせる。それを天狗が諌(いさ)めるのだが、獅子が治まらない。天狗がひょっとこをきつくしかりつけて、獅子は納得したか、ようやく治まる。そんなストーリーである。獅子舞を見物した後、古民家でいただいた料理の中で昆布巻きが妙に旅情を誘った。相当な時間煮込んだのだろう、昆布が軟らかくニシンに昆布の旨みが十分に浸み込んでいた。

  17日の最終日、金沢大学の能登学舎で修了証書の授与式、そして校庭で記念植樹をした。植樹したのはノトキリシマツツジ。能登の固有種で5月のゴールデンウイークには真紅の花びらをつける。ノトキリシマツツジは長寿木で現存するのは350年ほど。6本植え、傍らに11人全員の氏名を記したプレやート(プラスチック)をかけた。

  ツアーの期間中、祭りの季節に素顔の能登を見ていただいた。地域の人々との対話、郷土料理、土地の歴史や自然といったものがすべて学びの対象となり観光資源となるものだ。能登にはそんな観光資源がふんだんにある。ただ、それをどう手際よく提供することができるか。感動や発見は案外、タイミングかもしれない。小手先のサプライズや演出はシニアの人たちには通用しない。

 ⇒24日(水)夜・金沢の天気    はれ

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