自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆屋下に屋を架す

2008年10月19日 | ⇒キャンパス見聞

 金沢大学では地域連携推進センターのコーディネーターという仕事を頂いている。この仕事の前例やマニュアルはないので、すべて手探り、自らイマジネーションを膨らませて行動に移している。では地域連携とは何かを考えてみる。

   2004年の国立大学法人化をきっかけに、大学の役割はこれまでの教育と研究に社会貢献が加わった。大学によっては、「地域連携」と称したりもする。金沢大学もその担当セクションの名称を地域貢献推進室(02-04年度)、社会貢献室(05-07年度)、地域連携推進センター(08年度~)と組織再編に伴い変えてきた。民間企業だと、さしあたりCSR推進部といったセクション名になるだろう。CSRは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)をいい、企業が利益を追求するのみならず、社会へ与える影響に責任を持ち、社会活動にも参加するという意味合い。しかし、よく考えてみれば、大学はもともと利益を追求しておらず、本来の使命は教育と研究であり、そのものが社会貢献である。金沢大学でも社会貢献セクションの設立に際して、「大学の使命そのものが社会貢献であり、さらに社会貢献を掲げ一体何をするのか」といった意見もあったようだ。

  同じことを旧知の新聞記者からも聞いた。「新聞社にはCSRや社会貢献という発想は希薄だと思う。もともと社会の木鐸(ぼくたく)であれ、というのが新聞の使命なので、仕事をきっちりやることがすなわち社会貢献」と。この意味で大学が社会貢献を標榜することは「屋下に屋を架す」の例えのようにも聞こえ、それより何より個人的には気恥ずかしさを感じる。むしろ、地域連携とうたった方がシンプルで分りやすいと思っている。

  他の国立大学を見渡すと、社会貢献あるいは地域連携にはまなざまなカタチがある。大別して2パターン。多くの場合は、地域から大学に持ち込まれた課題を専門の研究者に橋渡しすること。たとえば、金沢大学でも「砂浜が細った。よい手立ては」「特産の野菜は昔から糖尿病によいといわれてきたが、医学的な見地から分析してください」「過疎高齢化の地域の交通問題を解決したい。大学の教授に諮問委員になってもらいたい」などいろいろな課題が地域のNPOや自治体から持ち込まれる。橋渡し、あるいはマッチングで解決できない大きな問題もある。それは地域再生だ。地域全体を浮揚させる策である。もう一つのパターンはこれにがっぷり四つになって取り組むことだ。

  事例を紹介しよう。北海道のある工業大学は、国の公共事業が先細りになって土木建設業者が喘いでいるのを何とかしようと、ある提案を地域に投げた。土木機械の優れた操作技術を持った人材を農業人材に振り向けようという提案だ。現場監督クラスに農業の基本を教え、その機械と操作技術を農業に生かす試みである。試行錯誤を繰り返しながらこのプログラムは成功している。土木にはないと悲観していた若手が飛びついた。農業という新しい分野に進出できるチャンスがめぐってきたからだ。

  2パターンのうち前者をインドア型とすれば、後者は積極的に地域に打って出るアウトドア型である。では、金沢大学は何をしているのか。それは次回述べる。

 ⇒19日(日)午前・金沢の天気   はれ

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