自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆世界農業遺産の潮流=1=

2012年08月29日 | ⇒トピック往来

 中国・雲南省のプーアル茶は世界に愛飲家がいる。加熱によって酸化発酵を止めた緑茶をコウジカビで発酵させる熟茶と、経年により熟成させた生茶があり、高いミネラル濃度によって飲むと血圧が下がり、血液循環が良くなると日本でもファンが多い。そのプーアル茶の産地が新たに世界農業遺産(GIAHS)に認定され、来月(9月)にFAOから認定を受けることになったようだ。

                       GIAHSを活用する日本と中国の期待

 きょう29日から中国・浙江省紹興市で開催されている「世界農業遺産の保全と管理に関する国際ワークショップ」(主催:中国政府農業部、国連食糧農業機関、中国科学院)の席上で中国側から披露された。昨年6月、国連食糧農業遺産(FAO、本部ローマ)が制定する世界農業遺産に「能登の里山里海」と佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」が認定された。この国際的な評価をどう維持、発展させたらよいか、ワークショップでは中国と日本のGIAHS関係者120人が集まり、GIAHSに認定されたサイト(地域)の現状や環境保全、将来に向けての運営管理など意見交換するものだ。日本から農林水産省、東京大学、国連大学、石川県、佐渡市の関係者17人が参加した。石川県から泉谷満寿裕・能登地域GIAHS推進協議会会長(珠洲市長)、金沢大学の中村浩二教授、渡辺泰輔・石川県環境部里山創成室長らが出席している。

 ワークショップで泉谷会長は「能登は過疎・高齢化による耕作放棄地や後継者不足などに問題を抱えているが、世界農業遺産の認定によって、環境に配慮した農業やグリーンツーリズムへの関心が高まっている」と現状を説明。また、来年5月ごろに、石川県でFAO主催のGIAHS国際フォーラムが開催されることを報告した。中村教授は「能登の里山里海を未来につなぐため人材養成を行っている」と大学の取り組みを説明した。

 佐渡市の山本雅明生物多様性推進室長はこう佐渡の取り組みを紹介した。かつて、佐渡の水田は経済性や効率性を優先した土地改良が進み、大規模化、低コスト化が進む中、ため池がダムに変わり、土の水路がコンクリートへと変化し、カエルやドジョウなどトキの餌となる生きものたちの多様性が失われつつあった。また、かつてはトキを育んだ小規模な水田は効率性や農家の高齢化等を理由として、耕作放棄となり、トキの野生復帰とその餌場となりうる水田の保全にも危機が訪れていた。水田を餌場として活用する新たな農業への挑戦は、「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」から始まった。これは水田を餌場とするトキを守るため、生きものを育む農法を農業技術として同市が認証するシステム。水田に江(え)という「深み」を設置したり、冬期湛水、魚道の設置などの実施は、水田に棲むドジョウやカエルなどの小さな生きものの命を守り、生態系の再生を促し、トキの生息環境の向上につながると考えた。そして、農薬・化学肥料を大幅に削減することを加え、佐渡から新しい生物多様性保全型農業を創出した。

 中国では、積極的にGIAHSサイト(地域)を増やそうとしている。少数民族や農家に誇りを持たせ、生産の意欲や新たなツーリズムを開発しようというのだ。農村から大都市へ出稼ぎが相次ぎ、農村が空洞化する懸念があるからだ。双方が知恵を出し合い、手のかかる、高品質の農産物をつくり、世界のあすの農業を切り拓く。日本と中国のそんな思惑が交差する会議の印象だった。

⇒29日(水)夕・中国の紹興市の天気  はれ
 

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