自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★世界農業遺産の潮流=2=

2012年08月30日 | ⇒トピック往来

 世界農業遺産(GIAHS)の国際ワークショップが開催されている紹興市は中国・浙工省の江南水郷を代表する都市とされる。市内には川や運河が流れ、 その水路には大小の船が行き交っている。歴史を感じさせる建造物や石橋などと共に見える風景は「東洋のベニス」だろうか。人口60万人の水の都だ。

     「国策」としてGIAHSを推進する中国の思惑

 紹興と言えば「紹興酒」、中国を代表する酒だ。ワークショップが開催され、われわれの宿泊場所ともなっている「咸亨酒店(Xianheng Hotel)」は、「酒店」の名の通り、紹興酒の造り酒屋がルーツ。『阿Q正伝』を表した文豪、魯迅の叔父が1894年に開業した酒屋として中国では知られる。その咸亨酒店が出しているのが紹興酒「太雕酒(たいちょうしゅ)」。8年間貯蔵し熟成された上質の紹興酒は琥珀色、さらに熟成18年ものとなると赤黒くふくよかな味わいなのだ。これが浙江料理と呼ばれるラインナップに合う。とくに豆腐料理。浙江の豆腐は独特のにおいがする。「豆腐」の意味がなとなく理解できる。このにおいはすぐ慣れる。

 前回のブログで中国にいることを知った友人からメールが届いた。「こんなややこしい時期に中国に行って大丈夫か」との助言である。28日と29日の両日の街の様子など見た限りでは、テレビのニュースにあるような政治的なスローガンを掲げた喧騒は見当たらない。また、現地の浙江日報(28日付)を広げても、日本関係の記事は国際面に「日否決東京都登島申請」などと通常の記事扱いである。宿泊しているホテルの1階に「日本料理」の店もあるが、客は入っている。

 話を世界農業遺産のワークショップに戻す。国連の食料農業機関(FAO)はGIAHSサイトを100から150ヵ所で認定したいと述べている。このGIAHS認定で一番熱心なのは中国だろう。すでに世界で12件が認定されているが、このうち中国は4件。「Rice-Fish Agriculture(水田養魚農業)」(浙江省青田県)、「Hani Rice Terraces System(ハニ族の棚田群のシステム)」(雲南省ハニ族イ族自治州など)、「Wannian traditional rice culture system(万年の伝統的な稲作文化の仕組み)」(江西省万年県)、「Dong’s Rice Fish Duck System(トン族の稲作・養魚・養鴨システム)」(貴州省従エ県)である。これに、昨日の中国側の発表によると、来月(9月)に雲南省の「プーアル茶」の産地と内モンゴルの「乾燥地農業」が認定され、2件加わる。さらに、浙江省のカヤの林「会稽山の古香榧林」を準備中だ。広大で農業の歴史がある中国は有利だ。ここれほどまでになぜ中国はGIAHSに積極的なのだろうか。

 中国側の参加者のスピーチだ。「山に住んでいると、その山の景観や価値というものは分からない。下りて振り返って眺める、他の山から自分の山を眺めて初めて自分の山の価値が分かるものだ」と。GIAHS認定では、日本の場合(佐渡と能登)は地域の自治体が名乗りを上げて、申請書きを行う。中国は政府が主導している。農業振興という面もあるが、ハニ族やイ族、トン族といった少数民族への配慮もあるだろう。少数民族が守ってきた伝統の農業に国際評価をつける、その「山の価値」を見直してもらい、プライドを持たせるという明確な意図があるように思える。日本の地域活性化というレベルを超えた「国策」という勢いを感じたのは自分だけだろうか。 ※写真は、水郷の都・紹興をイメージした咸亨酒店の中庭

⇒30日(木)朝・中国の紹興市の天気  はれ 

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