自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ワクチン囲い込み、WHOの思惑

2021年01月09日 | ⇒トピック往来

   けさWHOの公式ホームページをチェックした。直近8日(ジュネーブ現地時間)の記者会見(リモート)の模様が動画で掲載されている。その中で、テドロス事務局長は「The time to deliver vaccines equitably is now! 」(ワクチンを公平に届ける時が来た!)と語気を強めていた=写真=。会見のキーワードは「COVAX」だ。

   COVAXは、新型コロナスウイルスのワクチンを世界各国で共同購入して分配する国際的な枠組みで、WHOや途上国でのワクチン接種を支援する国際機関「Gavi」などが昨年7月に立ち上げた。日本やヨーロッパなどの高所得国などに拠出金を要請し、2021年末までに20億回分のワクチン確保を目指す。

   ところが、ワクチンの分配は現実に進んでいない。当日の会見で明かされたことは、ワクチンの接種や準備が42か国で始まり、このうち36ヵ国は経済的に豊かな高所得国、6ヵ国は中所得国で、低所得国には行き渡っていないというのが現実だ。

   テドロス氏は、高所得国によるワクチンの囲い込みの動きを牽制し、こう発言した。「Iurge countries that have contracted more vaccines than they will need, and are controlling the global supply, to also donate and release them to COVAX immediately, which is ready TODAY to rollout quickly.」(意訳:必要以上に多くのワクチンを契約し、世界の供給を管理している国々にも、すぐにCOVAXに寄付してリリースしてもらいたい。COVAXはきょうからすぐに展開できるようになっている)。そして冒頭の「The time to deliver vaccines equitably is now! 」となった。

   テドロス氏の発言はアメリカを強く意識したものとも読める。アメリカはこのCOVAXに参加していないのだ。自国の感染者2100万人、死亡者36万人(ジョンズ・ホプキンス大学ダッシュボード)という状況では、ワクチンを最優先で確保することがコロナ対策の課題だろう。アメリカのトランプ大統領は「WHOや中国の影響を受ける多国間組織の制約は受けない」と不信感を募らせ不参加を表明した経緯もある。

   おそらくアメリカのこうした態度に不満を抱いている。テドロス氏はこうも述べている。「This is a very dangerous time in the course of the pandemic and I do not want to see people become complacent as vaccines are starting to rollout.」(意訳:これはパンデミックの過程で非常に危険な時期であり、ワクチンが普及し始めていることに人々が満足するのを見たくはない)。

   パンデミックを終わらせるにはすべての国で一定の人々にワクチンを接種することであり、高所得国の全国民に接種することではない、ということだろう。ただ、テドロス氏の理想通りに低所得国にワクチンが持ち込まれたとして、はたして国民に公平な分配ができるのだろうか。国民同士の争奪戦になりかねない。

⇒9日(土)午前・金沢の天気    ゆき

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