自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆静かなる年末年始(11)「賀状に浮かぶジレンマ」

2021年01月03日 | ⇒トレンド探査

   前回ブログの続き。僧侶の方からいただいた賀状。ドイツ人僧侶。丑年ということで、ホルスタインをイメージした賀状のデザインが面白い。ドイツの大学で日本語を学んでいて「Zen」(禅宗)に興味を持った。2011年に能登半島にある曹洞宗の總持寺祖院で修行に入り、もう10年。自坊を持つまでになった。3年前に立ち話で、「信仰ではない無我の境地、好き嫌いは言わない、与えられたものを素直にいただく」と。禅宗のきびしい修行を耐え抜いた言葉が重く、そして心に透き通る。寺には、ドイツほかヨーロッパ、南米ブラジルなどからのZenを求めてやってくる。

   賀状を読んでいてふと思いついた。彼が3年前に述べた言葉はまさにコロナ後の世界観であり社会観、人生観ではないだろうか。飽くなき欲求から脱する人生設計や、独占ではなく分け合う(シェアリング経済)社会、成長を前提としなくてもよい社会システムを求める、いわゆる「ポスト資本主義」と呼ばれる動きが胎動している。コロナ禍を経験した人類が心のレジリエンス(復元力)を探してZenの思想に共鳴し、教えを求める時代がやってくるに違いない。そのときに彼の果たす役割は大きいのではないか。

   県会議員や市長をつとめたベテランの政治家の方からいただいた賀状は実にストレ-トな内容だった。昨年11月、加賀海岸(加賀市塩屋‐片野)は国の重要文化的景観に認定された。海岸沿いの砂防林は江戸時代から昭和初期にかけ、人々の手によって植栽が行われ、沿岸集落の懸案だった飛砂被害が抑えられ、生活の安定や現在の土地利用に大きな役割を果たしてきたと評価された。認定に当たっては、文化的景観を訴えるために各方面に呼びかけ、現地でのガイドを買って出るなどリーダー的な存在だった。

   ところが、その加賀海岸に隣接する別の市が洋上風力発電の計画を打ち上げている。高さが最大で260㍍もある風車が沿岸に沿って20基から37基並べる構想で、賀状では「いさりび、夕日等が見えず障害になります。これには断固反対なのです。風力発電には反対ではないのです。この景観を害する行為には反対なのです」と呼びかけている。隣接市とすれば、1昨年も前から計画を進めていた。菅内閣は温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げ、再生可能エネルギーに注目が集まっている。

   国の重要文化的景観の認定にこぎつけた地元とすると、次はユネスコの「世界遺産の可能性」(賀状)を追求することに目標を定めている。歴史と景観の地域資源を守り高めることで国際評価につなげたいという想いが滲む。賀状に鋭く浮かぶ時代のジレンマではある。

⇒3日(日)午前・金沢の天気  くもり時々ゆき

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