「奥能登国際芸術祭2020+」では海の環境問題をテーマにした作品を鑑賞した。大陸と向き合う能登半島の海沿いは「外浦(そとうら)」と呼ばれる。その外浦の笹波海岸にインドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真・上=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。
日本海の海洋ごみ問題を訴える「Think about me」
前回(2017年)の奥能登国際芸術祭でも同じ海岸で、深澤孝史氏が「神話の続き」と題する作品=で、この地域に流れ着いた海洋ごみを用いて、神社の鳥居を模倣して創作した=写真・下=。古来より、強い偏西風と荒波に見舞われる外浦の海岸には、大陸から流れ出たものを含めさまざまな漂流物が流れ着く。大昔は仏像なども流れてきて、「寄り神」として祀られたこともあるが、現在ではそのほとんどが対岸の国で発生したプラスチックごみや漁船から投棄された漁具類だ。
データがある。石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)によると、県内の加賀市から珠洲市までの14の市町の海岸で合計962個のポリタンクが漂着していた。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上あった。
漂着物は目に見える。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックではないだろうか。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。マイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いとされる。
ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。「地中海の汚染防止条約」とも呼ばれるバルセロナ条約は21ヵ国とEUが締約国として名を連ね、1978年に発効した。条約化を主導したのは国連環境計画(UNEP)だった。UNEPの研究員アルフォンス・カンブ氏と能登の外浦で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも汚染防止条約が必要だ、と。あれから15年余り経つが、汚染はさらに深刻になっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。スボード・グプタ氏の作品は海洋汚染を「自分事」として考えることが必要だと訴えているのではないか。「Think about me」と。
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