自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆トップセールスの考察

2012年05月27日 | ⇒トピック往来
 世界農業遺産は通称で本来は世界重要農業資産システム(GIAHS:Globally Important Agricultural Heritage Systems)と呼ばれている。特筆すべき伝統的農業や文化風習・生物多様性の保全地域の持続可能な発展を目的に国連食糧農業機関(FAO)が2002年に定めた認定制度で、昨年6月に開催された北京での会議=写真・上=では、景観や祭礼文化などが複合的に評価された「能登の里山里海」と「佐渡のトキと共生する里山」が認定を受けた。

 北京の認定会議では、日本の2件のほか、中国・貴州省従江の案件(カモ・養魚・稲作の循環型農業)とインド・カシミールのサフラン農業も登録に追加された。この4件が加わり、GIAHS認定サイト(地域)は世界で12となった。中には、フィリピンのイフガオの棚田のようにユネスコの世界遺産と同時に認定を受けているサイトもある。認定会議は隔年ごとに開催され、次回2013年はアメリカ・カリフォルニアかアフリカで開催される予定と紹介された。

 ところが、一転して次回の認定会議「GIAHS国際フォーラム」は、石川県内で開催される見通しとなったという。新聞各紙によると、ヨーロッパ訪問中の谷本正憲・石川知事が今月23日午前(現地時間)にイタリア・ローマ市のFAO本部で、ホセ・グラツィアーノ・ダ・シルバ事務局長と会談し合意したと報じられている。認定会議はこれまでにローマ、ブエノスアイレス、北京で開かれ、石川開催は4回目となる。具体的な開催時期や場所はこれから決めるようだ。北京での会議では、EU関係者がスペインのイベリコ豚やイタリアのソレント半島のレモン園をぜひ登録させたいとGIAHS候補地を挙げていたので、ひょっとしてこれらの地区が今回エントリ-してくる可能性もある。スペインのイベリコ豚などは国際的に有名な農産ブランド品なので話題性があるかもしれない。

 それにしても、今回のGIAHS国際フォーラムなど石川県は国際会議の誘致に熱心だ。「国連生物多様性の10年」国際キックオフ記念式典(2011年12月17日-19日)、「国際生物多様性年」クロージングイベント(2010年12月18日-20日)など。この「国際生物多様性年」クロージングイベントはGIAHS会議と同様に、2008年5月、谷本知事が生物多様性条約第9回締約国会議が開催されていたドイツのボン市に自ら乗り込み、条約事務局長だったアフメド・ジョグラフ氏と直接交渉し=写真・下=、「第10回締約国会議は2010年に名古屋市で開催させると聞いている。ぜひその一連の国際会議を石川県で開催していほしい」と口説いて誘致した会議だった。実際、ジョグラフ氏はその後、石川県を「下見」に2度訪れ、能登半島や兼六園を巡っている。

 知事のトップセールスについては、「生物多様性の関連の会議ばかり」といぶかる声もあるにはあるが、逆に言えば、環境関連の国際会議、それも生物多様性や里山イニシアティブ(生物多様性条約第10回締約国会議=COP10で採択)に特化して国際会議のノウハウと人脈を築くことも石川オリジナルなのだろう。知事の戦略はそこらあたりが見えてくる。ただ、国際会議を誘致するといっても、国際学術学会などとは異なり、省庁の図式がある。たとえば、世界農業遺産は農林水産省、生物多様性条約は環境省と一本筋ではない。国際会議を誘致するにしても事前に日本政府とのやりとり(根回し)を経なければ、政府の来賓の挨拶もままならなくなる。トップセールスといっても県行政の総合力ではある。

⇒27日(日)朝・金沢の天気   はれ

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