魚のアトリエ”うおとりえ”

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 「魚っ食いの365日

魚は肉に比べて高いか、安いか?・・・2 「安くて美味しい魚の条件」

2015年02月23日 | 主夫の台所考

                              魚 vs 肉 

「安くて美味しい魚の条件」

肉でも魚でもだいたい高いものの方が美味い。家計が許せば美味い方を食べたい。肉は値段と美味さとがだいたい比例するから、美味いものを食べたいときには高い方を買えば間違いない。魚はどうかというと高いからと言って必ずしもうまいとは限らない。安い魚でも美味いときは美味い。肉は同じ店なら季節に関係なく品質が安定しているから、値段相当のうまさが期待できる。魚は必ずしもそれが一致しない。だから魚を買う主婦はだいたい魚をにらんでじっと考え込んでいることが多い。魚は種類も多いし、買うと決めてからだってどの程度にうまいのか不安がつきまとう。結局食べてみないとわからないし、美味かったからといって次も同じように美味いとは限らない。つまり値段とうまさの期待値とが一致しないのだ。店頭に並ぶ魚の品質が一定していないことと、価格も相場によって変動するからである。魚を買うのは肉よりも難しい。だから魚が敬遠されるゆえんかもしれない。だが、逆に魚の「特性」が分れば安くて美味しい魚を食べることができる。魚の「特性」について考えてみよう。

魚の値段はイコール相場と言い換えることができる。相場は需要と供給のバランスで決まるから、豊漁ならば安く不漁ならば高いのが普通だ。もう一つは、魚種固有の流通価値というのがある。サンマはサンマの需要層があり、タイにはタイの需要層があから、それによって市場価値が決まってくる。サンマは缶詰などの加工用を除けば、鮮魚としての需要は家庭用が多く、飲食店などの業務用は少ない。一方、鯛は家庭需要よりも業務用の方が多い。サンマは獲れなければ代わりのものを食べればよいが、料理屋さん向けの鯛はメニューに載っているから一定量は確保しなければならない。そういった需要を反映して価値観が変わってくる。相場は高下しても、サンマにはサンマの、タイには鯛の相場があり、一般的にはサンマが安く鯛の方が高い。うまさでは鯛よりもサンマのほうが美味いと思う人があっても、一般的にはサンマは大衆魚、鯛は高級魚と評価され、その価値観の中で相場は変動する。このことは「安くて美味しい魚」を選ぶ時の重要な要件となるから覚えておいてほしい。

美味しい魚の条件を考えてみよう。その第一は鮮度だろう。第二が。第三が個体差。鮮魚はその文字が示す通り「鮮度」が命だ。旬に多少外れていても鮮度がよければ美味い。旬を感じさせる魚は、たとえば秋のサンマ、初夏のカツオは誰もが知っている。桜のころの鯛、梅雨時のアナゴ、夏のアジ、秋のサバ、冬のブリなど、これもよく知られている。それぞれ桜鯛、梅雨アナゴ、夏アジ、秋サバ、寒ブリなど、季節の表現を冠した魚は旬を表している。魚偏に春の鰆、秋刀魚、鱈はやはり旬を表している。このように旬の魚は美味いが、鮮度が悪ければ美味くないから鮮度が第一で、旬は第二の条件と言えるだろう。第三の個体差はややわかりにくい。太った人と痩せた人がいるように体格の良い魚もあれば、痩せこけた魚もいる。魚の場合は体格の良いものが美味い。本マグロと呼ばれる「クロマグロ」の例がわかりやすい。マグロは、尾の付け根を切り取って魚の値打ちを評価する。築地のセリ場で品定めをしている光景は写真などでご覧の方も多いだろう。まさしくあれは個体差を見極めている姿だ。一本のマグロでも、2倍3倍、いや10倍20倍の値段の違いとなることもある。しかし、10倍、20倍美味いかというとそれはわからない。市場価値の差であってうまさの差ではない。アジやイワシのように群れている魚にだって個体差はあるが、マグロほどには重視されない。

第四の条件にふれておきたい。一般には知られていないことだが「漁獲方法と管理」のことがある。魚を獲るには大きく分けて「釣り漁」と「網漁」とがある。釣りものは網ものよりも品質が良い。つまり美味い。それは刺身にしたときにはっきりとわかる。くらべものにならない差があることもある。釣りものは、1尾、Ⅰ尾釣り上げられるから魚が傷まない。網漁のものは一網打尽ということば通り、網の中で押し合い圧し合いされるから、水揚げされるまでに打ち身だらけなってしまうのだ。これが身質と鮮度に大きくかかわってくる。たとえてみるならば、満員電車で通勤するのと、グリーン車で通勤するとの違いだ。会社に着いたとき、満員電車ではくたびれ果ててしまう。この筋肉疲労は魚の場合、鮮度の違いとなって表れる。鮮度というのは魚の筋肉(タンパク質)の変化の過程だからである。このことは科学的にも証明されているが、生半可な知識では説明し切れないので話を先に進めよう。一見獲れたてのぴちぴちの魚も、網漁の魚は筋肉疲労をしているから鮮度劣化の進行が早い。早く鮮度が落ちてしまう。釣りものは鮮度落ちが遅いから日持ちがする。この差は、味わいの差・うまさの差となると同時に値段に反映されてくる。釣りアジは、網ものよりも2,3割かた高いのが普通だ。釣りものはその後の管理もよい。エリート扱いされるのだ。まさにグリーン車通勤と満員電車通勤の差、処遇が違うということなのだ。釣りものはエリート魚であり、うまさの保証と考えてよい。魚を選ぶときのポイントといってよい。美味しい魚は2、3割高くても食べ残しなく、時には骨や内臓までも安心して食べられるからむしろ安いと言える。「安くて美味しい魚」の買い方と言える。このほか、美味しい魚の条件には漁獲場所や、捕食している餌の違いということもあるが、一般的ではないのでここでは触れないことにする。

魚の目利きとは単に魚の鮮度や身質を魚の見た目で評価することではなく、魚のトレサビリティ情報を的確に確かめた上の評価なのだ。よく、テレビの築地情報などで新鮮な魚の選び方が紹介されているが、見た目だけで簡単に見極められるものではない。よく、目玉の透き通っているもの、魚体に張りのあるものがよいと言われるが、そればかりでは本当のところはわからない。まして切り身やサク取りされたものからは判断のしようがない。切り身の場合、血合いが鮮やかなものがよく、黒ずんだものはよくないと言われるが、それば切り下してからの時間経過であって、魚の持っている鮮度そのものではない。

「安くて美味しい魚」とは、相場が安いことと質の良いこと、この2つの条件を同時に満たしていることである。紙の上に、上下に2本のヨコの直線を描いてみよう。上の線は鮮度の良さを表し、下の線は鮮度が悪いことを表す線としよう。その上下の直線の間に、波型の線を描いてみる。上の直線に接する山を2か所、下の直線に接する谷を2か所描いてみる。これが「旬」を表す波線で横軸は1年を表す時間軸とする。波の高いところ<山>は旬で魚がおいしい時期、谷は旬を外れた時期としよう。さらにもう1本の波線を描く。その線は大波小波で波長の長さも適当(いい加減)でよく、これは価格を表す線としよう。もうお分かりのとおり、上の鮮度直線と旬の波線の山が接したところが鮮度の良い旬の魚を表している。その時、価格線の波が低ければまさに「安くて美味しい魚」の時である。さらに「鮮度直線」を上下の中間にもう1本描いてみよう。この線に接したところが、鮮度がまあまあ、旬のピークから少し外れて、値段もそこそこ、普通の時ということになる。図表に表せば簡単なことだが、文字で説明するとややこしい。*文書表現力が試されているようで落ち着かない。ご理解いただけただろうか。

この図表を「買いどき診断表」と名付けることにしよう。鮮度の評価は、上の線が超鮮度、中間線が良好、下の線が不良としよう。超鮮度は活けもの・活〆・朝どれ・空輸便など。良好は並みもの一般品。鮮度不良は前日の売れ残り品(止めもの)、あるいは出荷地での浜止め品などが原因のことが多い。は魚によって年に1~2回あるから、曲線のピークは一山か二山ある。谷も深いもの浅いものなど、魚種によってさまざまな波形を描く。魚の旬は、初ガツオ・戻りガツオ、梅雨アナゴ、秋サバ、寒ブリ、寒サワラなど、魚種ごとにわかりやすい表現がある。旬を外れて特に評価の低いのが「夏ビラ目」、猫跨ぎなどと酷評される。ヒラメは高級魚であるが故の要注意!警告だといえる。魚の相場は、1kgあたりの価格で表す。100円/1kgから5000円/1kgくらいまでの幅がある。高級魚は高値圏で上下し、大衆魚は低値圏で上下する。旬を迎えて極端に高くなるサバや、初物が高く脂の乗った旬を迎えて安くなるサンマなど、相場は魚種ごとに様々な線を描く。天候や漁・不漁で日々変動する。

「安くて美味しい魚」を探しに魚市場に行ってみよう。中央卸市場には毎日、全国各地からいろいろな魚が入荷する。残念ながら、ふだん買い物に行くスーパーや量販系の大型鮮魚店ではない。何故かというと、その店の仕入れ方針にそってすでに魚が選別されていて選択の余地がないからである。漁港に近い地方都市には地場の魚を扱う鮮魚店があって、店は小さくても安くて鮮度の良い魚を売っているところがある。そういうところに住んでいる人はその点しあわせだ。大都市にはないといってよい。

中央卸売市場というところ  市場には「仲卸店」という店が何十店も軒を連ねている(横浜中央卸売り市場の場合)。東京の築地には何百店もの鮮魚仲卸店があり、同じような店構えでも品ぞろえが違うので比較検討ができる。これが市場の最大の利点だ。この店の中から、品ぞろえ・商品情報・売り方が自分の好みに合う店を探すことになる。よほどの時化でないかぎり、季節の旬の魚があるから、その中から気に入った魚を買えばよい。値段はその時の相場だから、自分の懐・予算と相談すればよい。

買いたい魚を決めて行かないことだ魚市場に行ってから魚を選ぶ。魚は天然の産物だから、昨日獲れても今日獲れないことだってある。だから、魚種を決めて行くと鮮度の多少悪いものでも妥協して買ってしまうからだ。美味しい魚を食べる最大の秘訣はそこにある。買うときにはどのように食べるか、あらかたの算段を決めておく方がよい。卸市場の難点もある。卸市場は小売店ではないから、切り身の魚は置いていない。カツオやブリなど大型の魚でも1尾丸ごと買うことになる。朝早く行かねばならない(横浜の場合午前6時~8時くらい)。自宅の近くにあればよいが概ね遠い。下ろしてくれないから、自分でさばかなければならない。これらの難点はあるが、行くだけの価値がそこにはある。魚が美味いということだ。同じ魚なのにどうしてこんなに違うのかと思うくらい違う。それは魚の”質が違う”からだ。どこが違うかについてはすでに述べてきた。小稿の言いたいところはそこにある。実は、そこに我が国の「魚食の問題点」があるのだが、そのことは後としよう。

毎週1回曜日を決めて定期的に買いに行くことにしている。魚のさばきは見よう見まねで覚えた。大きな魚は2,3世帯で分け合っているのので安心して買うことができる。また、たくさん買ったものは常備菜として「保存食」に加工することを覚えた。家族は2人だが週1回の買い物で、一年中美味しい魚を食べている。こうした「魚っ喰いの知恵」を得るまでには10年近い年月を要した。そうしなければ美味しい魚が食べられない状況にあるから、この程度の努力は致し方ない。

まとめ買いにはメリットがある。まとめ買いをすれば1回の買い物で済み、時間の節約となる。節約した時間は調理に時間をかける。自分で調理すれば、食の安全と健康に役立つ。今では調理済みの加工食品を一切食べずにすませるようになった。家計が楽になったことは言うまでもない。市場通いの効用である。

「魚には美味さの保証がないから・・・」に続く。

 

 

 

 

 

        

 

 


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