成田為三先生、岡本敏明先生

 今日は恩師であるT先生にお目にかかり、先生が現在指導されている合唱団の役員の皆さんと11月に予定されている演奏会についての打ち合わせをさせていただきました。今日の本題はこちらでありましたが、本題は2時間弱で終わり、その後のお話し。まだ明るいうちでしたので目立たぬ某所でこっそりと麦酒やら葡萄酒を飲み、更に河岸を変えてからお聞きしたお話。

「浜辺の歌」で知られる成田為三先生は、1945年(昭和20年)4月13日に空襲で滝野川の自宅が罹災し秋田県の実兄宅に疎開し半年を過ごした後、10月28日に上京し玉川学園に音楽教師として着任。東京町田の同校キャンパス内の教員宿舎に落ちついたが、翌29日、脳溢血により逝去された(享年51)。葬儀は玉川学園の講堂(郷秋<Gauche>注:礼拝堂の事と思われる)で行われ、国立音楽学校と玉川学園の生徒によって「浜辺の歌」が捧げられた。玉川学園教員就任は、作曲で師事していた岡本敏明の働きによるものであった。

注:初出時に「玉川学園就任は、国立音楽学校時代の教え子である岡本敏明の働きがあったものと推測される」と書いたが、岡本敏明は1929(昭和4)年に国立音楽学校を卒業しており、成田の国立音楽学校教授就任が1941(昭和16)年であること、岡本が玉川学園奉職後の1930(昭和5)年の末頃に作曲の勉強を継続したい欲望抑えがたく、当時ドイツ留学から帰国されて評判の良かった成田の門を紹介状もないままたたいた事が判明したので訂正した。

 ここまでは知られているところですが、今日T先生からお聞きしたのは成田為三先生が亡くなった後のお話しで、T先生が国立音楽大学在学当時のこと。

 岡本敏明先生から、自分がしばらく家を留守にするので用心棒として自宅に泊まり込んで欲しいと云われ伺ったことがあったのだそうです。仰せの通りに玉川学園の東の丘の上にあった岡本邸に伺った時に迎えてくださったのが、故成田為三先生の奥様であったとの事。つまり、成田為三先生亡きあと、奥様は岡本敏明先生のお宅に寄宿されていたようなのであります。

 T先生が岡本敏明先生宅に用心棒として泊まり込まれたのは恐らく1960年頃の事と思われますので、成田為三先生逝去後15年程経っているはずです。岡本先生は恩師の奥様を少なくともその頃まで丁重にご自宅に住まわせていたことになります。その岡本敏明先生は1977年10月に亡くなりました(享年70)。長くオルガニストを務められた日本キリスト教団弓町本郷教会で葬儀が営まれ、T先生が率いる玉川大学合唱団が聖歌隊として前夜式と葬儀に参加しています(郷秋<Gauche>は残念なことに学園祭の実行委員をつてめていた関係で参加できませんでした)。

 その数か月前のことであったと記憶しておりますが、郷秋<Gauche>は玉川学園町内を散歩中の岡本先生をお見かけし、「先生のお弟子であるT先生にご指導頂いております」と、声をお掛けしました。岡本先生は顔をくずされ「そうか、T君に習っているか」とおっしゃったのをつい昨日のことにように思い出します。今日お目にかかったT先生は既に岡本先生の歳を越えられていますが、ますますお元気。先生の指揮でたくさん歌いたい思いは勿論ですが、もはやT先生しかご存じではない、戦前・戦後の音楽界・合唱界をけん引された音楽家、音楽教育家の方々の貴重なお話しをもっとたくさんお聞きしたいと思った次第でありました。

追記:前後の音楽界、音楽教育界にご興味をお持ちの方のために成田為三先生、岡本敏明先生に関する情報(リンク)を下記に掲載いたします。(2018年2月)
【浜辺の歌と成田のおばさま】2001年
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/8741/es1308.htm

【成田為三夫人、文子様逝去の情報】2000年
http://www10.plala.or.jp/kasuga3/wadai/19.htm

【成田為三先生と「浜辺の歌」】2010年
http://www.keiogakuyukai.com/Forum-06-ozasa.htm

【岡本敏明先生を偲んで】2005-2006年
http://www003.upp.so-net.ne.jp/ai520/koyama0.html

【玉川学園と岡本敏明先生】玉川大学・玉川学園
http://www.tamagawa.jp/introduction/enkaku/history/detail_6075.html 

【「どじょっこふなっこ」「蛙の合唱」の誕生秘話】玉川大学・玉川学園
http://www.tamagawa.jp/social/useful/tamagawa_trivia/tamagawa_trivia-22.html

コメント ( 3 ) | Trackback (  )