道内初の震度7を観測した胆振東部地震をはじめ、今年は数々の自然災害が日本列島を襲った。
1993年の北海道南西沖地震、95年の阪神大震災、2011年の東日本大震災。振り返れば、地震と津波だけでも、これらの大災害が「平成」の間に起きている。
平成最後の年末を締めくくる「今年の漢字」には「災」が選ばれた。無理もなかろう。
多難な時代こそ、熟議の政治が求められる。なのに、安倍晋三政権の国会を軽んじる姿勢はむしろ強まっている。重要な法案を数の力に物を言わせ、押し通す乱暴な手法が常態化してしまった。
海外に目を転じれば、今年もトランプ米大統領の場当たり的な言動に世界が振り回された。国際秩序の守り手たるべき超大国の指導者本人が、先行きを読めなくする波乱要因になっている。
国内、外で分断と混迷が深まった1年と言えよう。
■防災の盲点をなくす
9月6日未明に発生した胆振東部地震による大規模な土砂崩れなどで41人が犠牲となり、多数の負傷者が出た。加えて、道内全域が停電する前代未聞のブラックアウトが道民を不安に陥れた。
積雪で交通や移動が制限される厳冬期に起きたらどうなるか、と懸念する人も多いだろう。
決して杞憂(きゆう)ではない。
実際、札幌市は、震度7の直下型地震に見舞われた場合、2時間以内に救助できなければ6千人余りが凍死し、避難者は20万人を超えると予想している。
異常気象により、台風や豪雨も過去の常識や経験がそのまま通用しなくなっている。
情報伝達、避難路の確認など防災態勢について、行政でも家庭でも入念に点検し、盲点をなくしていく努力が欠かせない。
光明は、阪神大震災以来、被災地に駆けつけるボランティアの活動が定着したことだ。胆振東部地震の復旧も後押してくれた。
道内の約半分の電力を供給していた北海道電力苫東厚真火力発電所が地震で停止したために起きたブラックアウトは、電源一極集中のもろさを突きつけた。
苫東厚真火発や泊原発といった大型電源への依存を続ける北電の姿勢は、時代に逆行する。
地産地消の分散型電源である再生可能エネルギーの普及は地域振興にもつながる。北電にも積極的な導入への協力を求めたい。
■審議の形骸化極まる
安倍政権は今年も、問題の多い数々の法案を強引に成立させた。安倍1強の下で、こうした横暴が繰り返されるうちに、国会審議の形骸化も極まった感がある。
政府・与党は、野党と合意を形成する努力を最初から放棄したかのようだ。端的に表れたのが、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法である。
社会の姿を大きく変える政策転換であるにもかかわらず、根幹部分が政省令に丸投げされ、短い審議でも問題が噴出した。
特に、新制度とつながる技能実習生の人権侵害状況は深刻だ。
3年間で69人の実習生が自殺などで死亡した事例について、首相は「今初めて聞いたので答えようがない」と耳を疑う発言をした。
外国人を「労働力」ではなく、共に暮らす隣人として気遣う感覚があまりに希薄ではないか。
米軍普天間飛行場の移設問題で、政府が名護市辺野古の沿岸部へ土砂投入を強行したのも、沖縄県民の思いを踏みにじる暴挙だ。
米中間選挙で与党共和党が下院の過半数を失ったが、トランプ大統領の態度は変わらないどころか一層かたくなになった。
異論に全く耳を貸さず、マティス国防長官ら意見の合わない閣僚を次々に交代させるのは危険な兆候と言わざるを得ない。
史上初の米朝首脳会談を実現させたものの、北朝鮮の非核化には進展がない。独善的な外交は、中国との貿易摩擦をはじめ、国際情勢を揺るがしている。
■じっと耳を傾けたい
天皇陛下は最後の記者会見で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに心から安堵(あんど)している」と振り返り、戦争の犠牲者、災害の被災者や障害者に寄せてきた思いを語った。
会見が共感を呼んだのは、戦地や被災地で陛下が相手の言葉にじっと耳を傾ける真摯(しんし)で穏やかな姿が思い出されたからだろう。
自力では避難もままならない災害弱者、目の前の美しい海が埋められるのを怒りを持って見つめる沖縄県民、同じ社会で過酷な労働を強いられる外国人―。
私たちは、こうした人たちの声を聞き、伝える努力を続けたい。不条理な出来事をわが身にふりかかったこととしてとらえたい。
それが多様性を認める寛容な社会につながると信じるからだ。
12/30 北海道新聞