熊本地震の影響で心身に後遺症が残り、新たに障害者手帳を取得した「震災障害者」が少なくとも15人いることが、毎日新聞の取材で分かった。熊本地震で震災障害者の存在が明らかになったのは初めて。震災障害者は、住居や仕事を同時に失うなど困難な状況に直面する例が多いとみられる。しかし、国の福祉制度の中に震災障害者という分類はなく、障害者手帳の申請時に添付する診断書の書式にも障害の原因が自然災害と分かる項目がないなど、その実態はつかめていない。【吉川雄策】
熊本地震発生後に新たに障害者手帳を申請したケースについて、毎日新聞が熊本県と熊本市、大分県に照会。添付された医師の診断書のうち、障害の原因が地震と分かる記述があったものを抽出してもらい、3月末に回答を得た。15人中9人が熊本市、他は益城(ましき)町など熊本県内で、大分県内はいなかった。
障害の内訳は、身体障害8人、精神障害7人。身体障害のうち、肢体不自由と内臓機能が低下する「内部障害」が各4人で、精神障害は6人がうつ病などの気分障害、1人は地震を機に広汎(こうはん)性発達障害と認められたケースだった。
原因では「(建物の下敷きで)クラッシュ症候群になり、腎機能が低下した」とする直接的な要因のほか「車中泊生活でエコノミークラス症候群を発症し、心臓機能が低下した」「不眠になり、不安感で自宅に入れなくなった」など避難生活が原因で精神などに後遺症を負う例もあった。
熊本地震の熊本県内の重傷者は25日現在、1141人に上る。手帳申請時の診断書で、障害の原因について医師が「地震」と記していない例や、リハビリの途中で障害の程度が確定していない人もいるとみられ、熊本県の担当者は「さらに多くの震災障害者がいるとみられる」と指摘する。
また、手帳申請とは別に、自然災害で身体や精神に重い障害が残った人は災害障害見舞金の受給を申請でき、熊本市では29人が申し込んでいる。担当者は「地震が原因で後遺症が残った人が他にも一定数いるのは確かだ」と話している。
「自然災害」診断書の原因欄に 実態把握へ自治体に通知 厚労省
「震災障害者」の存在は阪神大震災(1995年)を機に注目された。
神戸市北区の城戸洋子さん(37)は中学3年の時、阪神大震災で倒れてきたピアノで頭を打って一時重体となり、記憶力や認知力が著しく低下する「高次脳機能障害」と診断された。家族は住まい探しと洋子さんのリハビリに追われる日々を送った。母美智子さん(64)は「家族も大きなストレスを抱え、相談先も分からなかった」と語る。
災害で住居や仕事を同時に失ったうえ障害が残った場合、障害者手帳の交付によって受けられる手当や減税だけでは生活を支えられない窮状がある。しかし、手帳申請時に添付する医師の診断書には原因欄に災害と分かる項目がなく、実態把握が進んでこなかった。
被災自治体が独自調査を進めた例はあり、阪神大震災では兵庫県と神戸市で少なくとも349人、東日本大震災でも岩手、宮城、福島の3県で72人の存在が判明している。
その後の熊本地震などを受け、阪神大震災の震災障害者らが今年2月、厚生労働省に診断書の原因欄に項目追加を要望。それを受けて、厚労省は3月末、診断書の書式ガイドラインに、自然災害と分かるような選択肢を原因欄に追加するよう関係自治体に通知した。
阪神大震災の震災障害者支援などに取り組んできた神戸市のNPO法人「よろず相談室」の牧秀一理事長(67)は項目追加について「今後の災害で実態を把握する大きな一歩だ」と評価する。そして「国や自治体が当事者から直接悩みを聞き取り、必要な支援を進めるべきだ」と求めている。【吉川雄策】
熊本地震の「震災障害者」15人
身体障害 8人 精神障害 7人
肢体不自由 4人 うつ病など気分障害 6人
内部障害 4人 広汎性発達障害 1人
毎日新聞 2017年4月28日