建築基準法やハートビル法に違反し、さらに障害者差別発言を繰り返した東横インは、全国ビジネスホテルチェーンと名乗っている。とすれば、利用者は民間会社に勤務している従業員が大半であろう。東横インが障害者差別であることはすでにこのページでも触れてきた(「2006.02.12 東横インの違反事件を日本の企業社会改革の視点から見直す」や「2006.04.23 障害者市民を差別してきた東横インに対する地域の取り組み」など)。このたび、多くの従業員が利用しているのであろう民間企業の対応について、社会福祉法人大阪ボランティア協会が、ボランティア協会と関係がある企業にアンケートを実施した。その概要が社会福祉法人大阪ボランティア協会の機関誌「Volo(ウォロ)」(第416号、2006年06月)に掲載されている。興味深い点を紹介する。
■ CSR報告書は公表しつつも企業の差別問題に鈍い感性
調査は大阪ボランティア協会がCSR(企業の社会的責任)報告書を受領している企業を対象に行った。CSR報告書を発行している企業だから、企業の社会的な役割について敏感な企業であると思う。
調査は2006年02月15日から02月28日にかけて、質問紙によるアンケート方式で実施された。対象企業数はCSR報告書を大阪ボランティア協会に贈っている会社248社である。ところが回答した企業数は47社、回収率は18.9%である。2割未満である。この回収率をどう評価したらいいのだろうか?低いと思う。
CSRに取り組んでいる企業は、実際には少ない。数少ない企業を対象にしていたにもかかわらず、20%未満の回収率である。回答期間が2週間と短かったとはいえ、東横インの不正事件が大きな問題になっていた時期であるだけに、企業は高い関心を寄せていると思いこんでいたが。
多分、マスコミや投資会社などのCSR調査やSRI(社会的責任投資)の調査であれば、もっと多くの企業の実務担当者は、「忙しい時期に、こんなアンケートに答える時間はない」とか言いながら対応するはずである。調査依頼を放置しておけば、その会社がCSRに積極的に取組んでいない証拠と評価されるのを恐れて、であったとしても。
CSRに取組んでいると自賛している民間企業も、この件については動きが鈍かった。会社が掲げているCSRを社員の行動で示すという発想は少なかったといえる。なぁんだ、日本のCSRは環境や人権とか立派な建前を掲げながらも、実際の企業行動や社員の問題として具体的に考えていなかったのだと決めつけたくなる。
■ 社員の出張時に東横インの利用を認めない企業は数社
不正改造も問題だが、障害者差別を起こした東横インホテルを、社員が出張で利用することを規制する企業は、わずか数社でしかなかった。事件を起こした東横インについて「社員の利用を認めないことを決め、通知した」企業は回答社47社中で4%、「利用を控えるよう通知した」企業も4%である。出張時の利用を認めない決定をした企業はあわせて8%しかない。これにくわえて「利用規制の検討を始めている」が2%ある。
回答を寄せた企業のうち10%が、社員の利用を規制しているか、検討しているという。CSR報告書を公表している企業を対象とした調査であっても、この程度の低い数値である。日本の企業社会では、この数値をどう評価するのだろうか。もっと広く一般の企業を対象にした調査では、さらに低い数値がでるであろう。
大阪ボランティア協会の機関誌の記事は、明確な評価を下していない。企業の社会貢献活動とつながりの強いはずの大阪ボランティア協会であるからこそ、判断結果を示してほしかった。回答を寄せた企業の中で「とくに利用規制などはしていない」という回答が74%にものぼったことは、私にはかなりさびしい結果と思える。
■ 東横インの法令違反ビジネスを放置している日本の企業社会
このデータは2006年05月16日に大阪NPOプラザで開かれたCSRを応援するNPOネットが主催した「これからの『CSR購入』について考える――組織の<社会的責任>と個人(社員)との関わりを考える――」と題したシンポジウムで発表されたそうだ。企業の社会的責任と東横インの法令違反事件とを結びつけて考える催しは、貴重だ。こうした調査も他に類がない。主催者の問題意識は鋭い。
しかし、対する企業は、社会的責任について鈍感だということだろうか。企業がうたい文句として流行させているCSRと、実際に社会的な役割を企業が果たすかどうかの間には、かなり高い壁がそびえていると受け取った。
こうした懸念は大阪ボランティア協会の機関誌「Volo(ウォロ)」の記事からも伺えると思う。記事の最後には「法令違反の状態にあるホテルを『便利だから』『安いから』といった理由で利用することは、積極的にバリアフリー化を進めるホテルなどの利用が減ることにもつながる。これでは、社会的なCSR向上の意欲を削いでしまいかねない」と書いている。記事を書いた筆者の危機感というか、残念な気持ちが滲み出ている。
CSRといいながらも、企業はやはり自社の利益だけを基準に考えて行動している。社員にも主張旅費を節約するように迫っている。こうした行動が続いた結果、社員やその家族も、自分の選択基準を「安い」という価格だけに固定している。社員の選択範囲を狭めている。こうした企業社会であれば、東横インなどの社会的な基準に違反した企業も、今後も企業活動を続けるであろうし、より大きな収益をあげ続ける結果にもなる。
社会的には縮小につづくさらなる縮小が社会の主流になる。その集大成は「小さな政府論」であろう。支援が必要な未知の人への出資や拠出、寄付金であっても、あるいはボランティアとしての労力提供であっても、利益として評価されない限り、すべてムダと切り捨てる。そうした個人営利主義的な私人を育成している企業社会が見える。企業の営利行動の強さと市民社会性の弱さが、明確である。NPOも事業規模は大きくはなったが、こうした企業社会のあり方に手をつけられない社会的力量の弱さとも関連していると、私は思う。
■ CSR定着に向けてメリハリのある対応を
バイコットが推奨されている。ボイコット(boycott)、つまりCSRに反する行動をとった企業の製品やサービスを買わない不買運動と対比する言葉として、使われている。CSRに熱心な企業の製品やサービスを積極的に購入(buy バイ)して、その企業を支援する消費者や市民社会の行動である。
現在の人々の不正を憎む感情は、企業の不正を警察や検察などの強権力による取り締まり強化に委ねる危険性がある。そうではなくて、市民社会が社会的基準を守り、より水準を高め育てていく自主性を強調する問題意識から生み出されたものであろう。
アメリカの運送業界の場合、保険の掛け金と事業評価とが連動し、インセンティブを図っていると言われる。事業者のリスクが大きいほど、保険料を高く設定する仕組みだという。リスクが限界を超えると運賃収入と見合わないほどに保険料も高くなるという(運輸労連委員長・片山康夫さんの発言『月刊自治研』自治労中央本部、2006年06月号)。リスクを下げる努力を実施している企業に対しては、低い保険料というインセンティブが働く。逆に、リスクを放置していれば、企業運営ができないほどの高額保険料になる。事実上のボイコットである。
ここから広げると、事業運営を不可能にするほどの厳しいボイコットと、優良企業の商品やサービスをより多く購入して支援するバイコットとは、両輪だと思う。そうしたメリハリのある市民社会の行動によって、CSRや社会的標準を実現している企業をより伸ばしていく必要があると思う。
■ CSR報告書は公表しつつも企業の差別問題に鈍い感性
調査は大阪ボランティア協会がCSR(企業の社会的責任)報告書を受領している企業を対象に行った。CSR報告書を発行している企業だから、企業の社会的な役割について敏感な企業であると思う。
調査は2006年02月15日から02月28日にかけて、質問紙によるアンケート方式で実施された。対象企業数はCSR報告書を大阪ボランティア協会に贈っている会社248社である。ところが回答した企業数は47社、回収率は18.9%である。2割未満である。この回収率をどう評価したらいいのだろうか?低いと思う。
CSRに取り組んでいる企業は、実際には少ない。数少ない企業を対象にしていたにもかかわらず、20%未満の回収率である。回答期間が2週間と短かったとはいえ、東横インの不正事件が大きな問題になっていた時期であるだけに、企業は高い関心を寄せていると思いこんでいたが。
多分、マスコミや投資会社などのCSR調査やSRI(社会的責任投資)の調査であれば、もっと多くの企業の実務担当者は、「忙しい時期に、こんなアンケートに答える時間はない」とか言いながら対応するはずである。調査依頼を放置しておけば、その会社がCSRに積極的に取組んでいない証拠と評価されるのを恐れて、であったとしても。
CSRに取組んでいると自賛している民間企業も、この件については動きが鈍かった。会社が掲げているCSRを社員の行動で示すという発想は少なかったといえる。なぁんだ、日本のCSRは環境や人権とか立派な建前を掲げながらも、実際の企業行動や社員の問題として具体的に考えていなかったのだと決めつけたくなる。
■ 社員の出張時に東横インの利用を認めない企業は数社
不正改造も問題だが、障害者差別を起こした東横インホテルを、社員が出張で利用することを規制する企業は、わずか数社でしかなかった。事件を起こした東横インについて「社員の利用を認めないことを決め、通知した」企業は回答社47社中で4%、「利用を控えるよう通知した」企業も4%である。出張時の利用を認めない決定をした企業はあわせて8%しかない。これにくわえて「利用規制の検討を始めている」が2%ある。
回答を寄せた企業のうち10%が、社員の利用を規制しているか、検討しているという。CSR報告書を公表している企業を対象とした調査であっても、この程度の低い数値である。日本の企業社会では、この数値をどう評価するのだろうか。もっと広く一般の企業を対象にした調査では、さらに低い数値がでるであろう。
大阪ボランティア協会の機関誌の記事は、明確な評価を下していない。企業の社会貢献活動とつながりの強いはずの大阪ボランティア協会であるからこそ、判断結果を示してほしかった。回答を寄せた企業の中で「とくに利用規制などはしていない」という回答が74%にものぼったことは、私にはかなりさびしい結果と思える。
■ 東横インの法令違反ビジネスを放置している日本の企業社会
このデータは2006年05月16日に大阪NPOプラザで開かれたCSRを応援するNPOネットが主催した「これからの『CSR購入』について考える――組織の<社会的責任>と個人(社員)との関わりを考える――」と題したシンポジウムで発表されたそうだ。企業の社会的責任と東横インの法令違反事件とを結びつけて考える催しは、貴重だ。こうした調査も他に類がない。主催者の問題意識は鋭い。
しかし、対する企業は、社会的責任について鈍感だということだろうか。企業がうたい文句として流行させているCSRと、実際に社会的な役割を企業が果たすかどうかの間には、かなり高い壁がそびえていると受け取った。
こうした懸念は大阪ボランティア協会の機関誌「Volo(ウォロ)」の記事からも伺えると思う。記事の最後には「法令違反の状態にあるホテルを『便利だから』『安いから』といった理由で利用することは、積極的にバリアフリー化を進めるホテルなどの利用が減ることにもつながる。これでは、社会的なCSR向上の意欲を削いでしまいかねない」と書いている。記事を書いた筆者の危機感というか、残念な気持ちが滲み出ている。
CSRといいながらも、企業はやはり自社の利益だけを基準に考えて行動している。社員にも主張旅費を節約するように迫っている。こうした行動が続いた結果、社員やその家族も、自分の選択基準を「安い」という価格だけに固定している。社員の選択範囲を狭めている。こうした企業社会であれば、東横インなどの社会的な基準に違反した企業も、今後も企業活動を続けるであろうし、より大きな収益をあげ続ける結果にもなる。
社会的には縮小につづくさらなる縮小が社会の主流になる。その集大成は「小さな政府論」であろう。支援が必要な未知の人への出資や拠出、寄付金であっても、あるいはボランティアとしての労力提供であっても、利益として評価されない限り、すべてムダと切り捨てる。そうした個人営利主義的な私人を育成している企業社会が見える。企業の営利行動の強さと市民社会性の弱さが、明確である。NPOも事業規模は大きくはなったが、こうした企業社会のあり方に手をつけられない社会的力量の弱さとも関連していると、私は思う。
■ CSR定着に向けてメリハリのある対応を
バイコットが推奨されている。ボイコット(boycott)、つまりCSRに反する行動をとった企業の製品やサービスを買わない不買運動と対比する言葉として、使われている。CSRに熱心な企業の製品やサービスを積極的に購入(buy バイ)して、その企業を支援する消費者や市民社会の行動である。
現在の人々の不正を憎む感情は、企業の不正を警察や検察などの強権力による取り締まり強化に委ねる危険性がある。そうではなくて、市民社会が社会的基準を守り、より水準を高め育てていく自主性を強調する問題意識から生み出されたものであろう。
アメリカの運送業界の場合、保険の掛け金と事業評価とが連動し、インセンティブを図っていると言われる。事業者のリスクが大きいほど、保険料を高く設定する仕組みだという。リスクが限界を超えると運賃収入と見合わないほどに保険料も高くなるという(運輸労連委員長・片山康夫さんの発言『月刊自治研』自治労中央本部、2006年06月号)。リスクを下げる努力を実施している企業に対しては、低い保険料というインセンティブが働く。逆に、リスクを放置していれば、企業運営ができないほどの高額保険料になる。事実上のボイコットである。
ここから広げると、事業運営を不可能にするほどの厳しいボイコットと、優良企業の商品やサービスをより多く購入して支援するバイコットとは、両輪だと思う。そうしたメリハリのある市民社会の行動によって、CSRや社会的標準を実現している企業をより伸ばしていく必要があると思う。