重度疾患を抱える方がほとんどなので、短期間で劇的に変わるものではありませんが、それでも以前と比較すると、訪問しても部屋から出てくることさえ拒否されていた方と話ができるようになったり、外出が可能になったりなどお一人お一人、確実に前進しています。重度の精神疾患をお持ちの方も地域で生活ができるというエビデンスを出すことができていると思います。
地域住民の方々とのつながりも自然と増えてきました。地域活動をするNPO団体やボランティアの方などインフォーマルな関係が大変役立っています。例えば、地域の農家さんと仲良くなると、農作業の短期アルバイトに利用者の方をご紹介できたり。今後も医療福祉以外でたくさんの方々とつながっていくことが課題でもあります。
結局は、地域生活支援イコール、地域づくりにつながるんだと実感しています。われわれは、精神科の病気を持っている人が地域の中で暮らしやすい活動を行っているわけですが、それはたぶん、誰にとっても暮らしやすい仕組みのはず。ですから、どんな仕組みがあれば自分たちが心地よく暮らせるのか、楽しく暮らせるのか、そこを原点に考えるようになりました。
長い間引きこもっていた30代の自閉症の方で、家庭内暴力に悩む親御さんからの相談でわれわれとつながりました。数年にわたり、根気よく訪問して声がけを続けるうち、次第に心を開いてくれるように。思い切って一人暮らしをしてみないかと提案してみたところ、これが結果的にうまくいったんです。外出時の支援は必要ですが、現在も自立して生活ができています。
また、統合失調症で10年以上引きこもっていた母親と二人暮らしの50代の男性がいらっしゃいました。食事に毒が入っているという妄想から母親の食事を一切受け付けなかったんです。私たちが地道に訪問を続け少しずつ距離を縮めていくうちに変化が現れ、4年が経過するころ、初めて外出に応じてくれました。それをきっかけに病状も落ち着きご飯を食べてくれるようになって、お母さんが大変喜ばれ安心されていました。
患者ご本人だけでなく、その家族もまた孤立しているケースがほとんどなんですよ。ですから、家族への支援も不可欠で、医療が介入することで使える制度、例えば障害年金の受給や介護サービスなど、行政との橋渡しも行っています。当院の場合、孤立している方々が相談に至るケースは、口コミや取材の新聞記事、テレビ放送などがきっかけとして多いです。
支援を続けた末、一般就労まで回復されサービスを卒業された方とは、友人としてお互いの仕事の後にビールで乾杯したこともあり、本当にうれしかったですね。本来は誰でも自分自身で輝ける力を最初から持っているのだとあらためて思います。
その人が持っている力を信じて寄り添うというスタンスを大事にしています。薬を出すのは簡単ですが、リカバリーを邪魔することもある。そのさじ加減が難しいところです。残念ながら症状の悪化で入院に至る場合もあり、そんなときはどこまで地域で頑張るのか悩みます。患者さんが入院を拒否される場合はなおさらですし、時には地域がこれ以上無理だからなんとかしてくれということも。どんなケースでも貫いているのは、患者さんの意に反して何かをやることはなく、結果はどうであれとにかく対話を重ね、本人に決めさせるというわれわれのスタイルです。
少しずつですが感じています。例えば、アパートで独り暮らしを始めた患者さんで、病状が不安定で服薬も不規則な方がいらっしゃいました。病状の影響で夜間に大声を出されることが多く、管理会社や訪問スタッフへの苦情が多かったのですが、われわれが地域の現状を本人に丁寧に伝え、このままでは地域生活の維持が難しくなることを説明。何とか治療を受け入れてくれるよう説得しました。すると服薬を再開し病状も安定します。応対も穏やかとなり地域の方も徐々に温かく見守ってくれるようになりました。しかし治療の受け入れはムラがあり、服薬が途絶えることもしばしば。その度に大声が増えます。当初は苦情がすぐに入っていましたが、地域住民の方々とのつながりでできてからは、困り感はありながらも心配してくれ、訪問スタッフに近況を報告してくれたり、良い面もあることを伝えてくれるようになってきましたね。
最近、引きこもりの方が関連する事件が立て続けに起きたことで、相談や問い合わせが相次いでいます。しかしわれわれは全てに対応することはできません。アウトリーチ支援は柔軟性と機動力が重要ですから、活動エリアが限られ、エリア外まで対応していると今度はサービスの質が落ちてくるからです。潜在的な患者さんはたくさんいらっしゃるので、地域ごとにアウトリーチ支援の仕組みがないととても支えきれない。ACTに限らず、リカバリー志向のチーム医療ができる地域の仕組みをもっと整えていくべきだと思っています。
重い精神障害を抱え、社会との関係がうまく築けない患者を訪問し、在宅でケアする「SAGA-ACT(さがアクト)」。2015年の発足から5年目を迎えた。地域と積極的に交わりながら活動してきた先に見えてきたものとは――。(2019年6月18日インタビュー、計2回連載の2回目)
現在の佐賀県は、精神科の訪問診療を行うところが少なく、医療機関がもっと積極的に訪問診療にも取り組んでもらえたらと思います。ただし、安易に入院させるのではなく、地域でどうやって生活を支援していくのかという視点を大事にしてほしいですね。
現在、患者さんの病状の回復支援とともに就労支援事業所などへの紹介をサポートしていますが、できるだけ一般就労につなげていくことが目標です。最低賃金をきちんともらって、普通に働けるように。そのために、われわれ自身ももっと地域活動に参加したり、一緒にイベントを企画したりするなど、地域のネットワークを広げていく必要があると思っています。
そして、生まれ育った佐賀の町を、障害のある人もない人も同じように暮らしやすい地域にしていきたいと願っています。
「さが恵比須メンタルくりにっく」院長。1994年に佐賀大学医学部を卒業後、同大学精神科入局。1998年より(医財)嬉野温泉病院に勤務。児童思春期、一般精神科の急性期、慢性期で診療にあたる。2015年独立開業し、地域生活支援プログラム「SAGA-ACT(さがアクト)」を設立。
2019年9月30日 m3.com地域版
・ 川添夏来@パワーズ
・ 多文化共生なTOYAMA
日曜ひろば : あっぷっぷの会・川添夏来さん / 富山
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