認知症と言えば「記憶障害」の印象が強いが、実在しない人や動物が見える「幻視」などが主な症状となる「レビー小体型認知症」というタイプもある。認知症の2割を占めるとの報告もあり、近年注目されるようになった。家族や介護者は、一般的な「アルツハイマー型」とは異なる特徴を踏まえたうえで、接し方を工夫したい。
幻視、否定せず会話
神奈川県内で長女一家と暮らすA子さん(78)は昨年夏、レビー小体型認知症と診断された。自室に1人でいると時々、黒い服の男性や子供たち、小動物などの幻を見る。「工事の人が床にドリルで穴を開けている」と騒いだり、「ベッドの上に犬がいる」とベッドの隅で窮屈そうに寝たりすることもあった。
当初、幻視の訴えに対し、長女は「そんなのいないよ」と否定していたが、納得しないA子さんが「私をだましているんでしょ」などと言い、口論になることもあった。「初めはどう対処すればよいか分からず悩んだ」と長女は振り返る。
症状の特徴
画像の拡大 レビー小体型認知症を発見した横浜市大医学部名誉教授、小阪憲司さんによると、主な症状は、〈1〉実在しない人や動物、虫などが見える「幻視」〈2〉体は休んでいるが脳は活動しているレム睡眠の最中に叫んだり暴れたりする「レム睡眠行動障害」〈3〉体がこわばり、歩幅が狭まるなどの「パーキンソン症状」――など。
そのほか、頭がぼんやりしたり、はっきりしたりと認知能力の変動が通常より大きくなるなどの特徴があり、物忘れの悪化が問題となるアルツハイマー型とは異なる点も多い。
診断は、問診のほか、脳血流や心臓の画像検査も併せて行う。小阪さんは「医師の認識もまだ不十分で、正しく診断されていない例もある」と話す。
治療では、アルツハイマー型認知症に使う薬や、漢方薬なども用いられる。
対処法
独特の症状を抱える患者に、介護者は、どう接するべきか。特に、幻視を訴えられたときの対応に悩む家族は多い。「レビー小体型認知症家族を支える会」(会員約400人)会長の宮田真由美さんは「どんな時に症状が表れるか記録すると、傾向がわかり、対応しやすくなる」と助言する。
幻視は、暗い所などで見えやすく、多くは部屋を明るくすれば消える。壁のしみを消したり、壁紙の模様をすっきりさせたりして、見間違いを誘発しない環境を作ることも大事だ。
接し方では、頭ごなしに「あり得ない」と否定するのは避けたい。関係悪化の恐れがあるほか、理解されない苦痛から、うつ傾向を強める人もいる。放置すると、幻視が妄想につながり、混乱を深める例もある。
幻視を怖がる場合は、まず何が見えるのかを十分に聞くことが大事だ。会話するうちに消える例も多い。追い払うような演技が有効なことも。怖がっていないケースでは、幻に近づかせれば、大抵は本人の意識から消える。介護者が「病気で実在しない物が見えている」と繰り返し説明することで、本人が幻視と認識でき、安心する場合もある。
A子さんも、長女から病気の本を見せられ、「病気で、私たちには見えない物が見えているの」と何度か説明されるうちに、幻視を認識した。「幻視の症状以外は、話もしっかりしているので、本人にも理解させた方がよいと思った」と長女は話す。現在は、不可解な物が見えると、幻と自覚し、自らその場を離れることもある。
また、レム睡眠行動障害は、短時間なら見守るだけでも構わないが、長く続くなら起こすのもよい。ただ、体を揺さぶるのは混乱させる恐れがある。照明や声かけで起こす方がよい。レム睡眠は約90分周期で起きるが、朝方に長くなる傾向があり、症状が出やすい。
また、この病気は薬に過敏に反応しやすい特徴もある。小阪さんは「こわばり、うつなど症状が多いからといって安易に薬を使うと、症状を悪化させる危険もあり注意が必要」と話す。
国が全国で展開する認知症サポーター養成講座でも、記憶障害などへの対応に関する講義が中心で、疾患の特徴を踏まえた取り組みが課題となっている。
◇
「レビー小体型認知症家族を支える会」のホームページ(http://www.dlbf.jp/)では、交流会や地方支部の連絡先、全国の専門医一覧などを紹介している。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型、脳血管性と並び、代表的な認知症の一つ。小阪憲司さんが1976年以降の一連の研究で発見した。記憶をつかさどる脳の海馬の萎縮が起きるアルツハイマー型と異なり、大脳皮質に「レビー小体」という特殊なたんぱく質の塊が多数現れ、神経細胞に障害を及ぼす。小阪さんらの調査では、認知症の約20%を占めるという。
(2011年11月29日 読売新聞)
幻視、否定せず会話
神奈川県内で長女一家と暮らすA子さん(78)は昨年夏、レビー小体型認知症と診断された。自室に1人でいると時々、黒い服の男性や子供たち、小動物などの幻を見る。「工事の人が床にドリルで穴を開けている」と騒いだり、「ベッドの上に犬がいる」とベッドの隅で窮屈そうに寝たりすることもあった。
当初、幻視の訴えに対し、長女は「そんなのいないよ」と否定していたが、納得しないA子さんが「私をだましているんでしょ」などと言い、口論になることもあった。「初めはどう対処すればよいか分からず悩んだ」と長女は振り返る。
症状の特徴
画像の拡大 レビー小体型認知症を発見した横浜市大医学部名誉教授、小阪憲司さんによると、主な症状は、〈1〉実在しない人や動物、虫などが見える「幻視」〈2〉体は休んでいるが脳は活動しているレム睡眠の最中に叫んだり暴れたりする「レム睡眠行動障害」〈3〉体がこわばり、歩幅が狭まるなどの「パーキンソン症状」――など。
そのほか、頭がぼんやりしたり、はっきりしたりと認知能力の変動が通常より大きくなるなどの特徴があり、物忘れの悪化が問題となるアルツハイマー型とは異なる点も多い。
診断は、問診のほか、脳血流や心臓の画像検査も併せて行う。小阪さんは「医師の認識もまだ不十分で、正しく診断されていない例もある」と話す。
治療では、アルツハイマー型認知症に使う薬や、漢方薬なども用いられる。
対処法
独特の症状を抱える患者に、介護者は、どう接するべきか。特に、幻視を訴えられたときの対応に悩む家族は多い。「レビー小体型認知症家族を支える会」(会員約400人)会長の宮田真由美さんは「どんな時に症状が表れるか記録すると、傾向がわかり、対応しやすくなる」と助言する。
幻視は、暗い所などで見えやすく、多くは部屋を明るくすれば消える。壁のしみを消したり、壁紙の模様をすっきりさせたりして、見間違いを誘発しない環境を作ることも大事だ。
接し方では、頭ごなしに「あり得ない」と否定するのは避けたい。関係悪化の恐れがあるほか、理解されない苦痛から、うつ傾向を強める人もいる。放置すると、幻視が妄想につながり、混乱を深める例もある。
幻視を怖がる場合は、まず何が見えるのかを十分に聞くことが大事だ。会話するうちに消える例も多い。追い払うような演技が有効なことも。怖がっていないケースでは、幻に近づかせれば、大抵は本人の意識から消える。介護者が「病気で実在しない物が見えている」と繰り返し説明することで、本人が幻視と認識でき、安心する場合もある。
A子さんも、長女から病気の本を見せられ、「病気で、私たちには見えない物が見えているの」と何度か説明されるうちに、幻視を認識した。「幻視の症状以外は、話もしっかりしているので、本人にも理解させた方がよいと思った」と長女は話す。現在は、不可解な物が見えると、幻と自覚し、自らその場を離れることもある。
また、レム睡眠行動障害は、短時間なら見守るだけでも構わないが、長く続くなら起こすのもよい。ただ、体を揺さぶるのは混乱させる恐れがある。照明や声かけで起こす方がよい。レム睡眠は約90分周期で起きるが、朝方に長くなる傾向があり、症状が出やすい。
また、この病気は薬に過敏に反応しやすい特徴もある。小阪さんは「こわばり、うつなど症状が多いからといって安易に薬を使うと、症状を悪化させる危険もあり注意が必要」と話す。
国が全国で展開する認知症サポーター養成講座でも、記憶障害などへの対応に関する講義が中心で、疾患の特徴を踏まえた取り組みが課題となっている。
◇
「レビー小体型認知症家族を支える会」のホームページ(http://www.dlbf.jp/)では、交流会や地方支部の連絡先、全国の専門医一覧などを紹介している。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型、脳血管性と並び、代表的な認知症の一つ。小阪憲司さんが1976年以降の一連の研究で発見した。記憶をつかさどる脳の海馬の萎縮が起きるアルツハイマー型と異なり、大脳皮質に「レビー小体」という特殊なたんぱく質の塊が多数現れ、神経細胞に障害を及ぼす。小阪さんらの調査では、認知症の約20%を占めるという。
(2011年11月29日 読売新聞)