安倍晋三首相が、大阪城にエレベーターを付けたことを「大きなミス」と発言したことに、名古屋市の障害者から懸念の声が上がった。名古屋では、名古屋城天守木造化を進める市と障害者団体が、エレベーター不設置を巡って激しく対立しているためだ。
安倍晋三首相が、大阪城にエレベーターを付けたことを「大きなミス」と発言したことに、名古屋市の障害者から懸念の声が上がった。名古屋では、名古屋城天守木造化を進める市と障害者団体が、エレベーター不設置を巡って激しく対立しているためだ。
安倍首相は6月28日の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の夕食会のあいさつで「明治維新の混乱で大阪城の大半は焼失したが、天守閣は今から約90年前に16世紀のものが忠実に復元されました」と述べ、「しかし一つだけ、大きなミスを犯してしまいました。エレベーターまで付けてしまいました」と続けた。
名古屋市の障害者らでつくる「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」の辻直哉事務局長(47)は6月30日、首相発言について「誤ったメッセージを発信すると、それに同調する人たちが出て『エレベーターはいらないんだ』と名古屋にも影響を与えかねない。非常に問題のある発言だ」と話した。
辻氏は20代の時に交通事故で車いすの生活になった。エレベーターを設置しないことは行政機関に障害者への合理的配慮を義務づける「障害者差別解消法」に反するなどと指摘する。2020年には東京五輪・パラリンピックを控えていることも挙げ、「首相には、誰でも公共施設を利用できる社会を実現していただきたい」と求めた。
実行委は2月、名古屋城新天守にエレベーターを設置しないとする市の決定を撤回するよう求める1万3674人分の署名を提出し、さらに署名を募る。
一方、河村たかし名古屋市長は「史実に忠実な復元」を掲げ、木造新天守にエレベーターを設置しない代わりに移動補助ロボットなどの「新技術」でバリアフリーを実現すると主張する。6月30日に同市内で朝日新聞の取材に応じ、「安倍さんは、伝統や文化を日本は大事にせないかんと。そういう気持ちで話したんでしょう」と一定の理解を示した。
河村氏は、名古屋城は焼失前の図面や写真が豊富にあることから、大阪城とは「(復元の)次元が違う」と強調。エレベーターを付けると、柱やはりを取り除いて鉄骨を使う必要があるとして、「未来永劫(えいごう)、本物を味わえない。こんな残虐な話はないですよ」と持論を述べた。
2019年6月30日