藤沢市で活動を続けるNPO法人「耳から聞く図書館」(通称・耳図書)が設立から今年で40周年を迎える。視覚障害者向けに始まったボランティア活動だったが、読む側も高齢化し、代表は「次の若い世代にうまくバトンタッチして活動を継続させたい」と話している。
藤沢駅からほど近い雑居ビルの一室。壁一面が“本棚”だ。この40年間で計1560作品。ボランティアスタッフが、一冊一冊ページを繰りながら朗読し、カセットテープに吹き込んできた。
代表を務めるのは、水野節彦(さだひこ)さん(71)。現役のころは、NHKアナウンサーとして活躍し、2009年までNHKラジオ深夜便のアンカーを務めていた。今も同番組の「あすへの言葉」でディレクターを担当している。まさに、読むプロとして歩んできた。
耳図書を1972年に立ち上げたのは、水野さんの母・ミツヱさん(故人)。65歳のとき「子どもが成人し、福祉の仕事に就きたかった夢を実現したい」と活動に取り組み始めたという。
耳図書では、当初から朗読テープの無料貸し出しだけでなく、ボランティアスタッフと視覚障害のある利用者が、お茶会や宿泊旅行、勉強会などの交流会を開いていたという。「母は、幅広い知識を持ってもらいたいということに加えて、家に閉じこもりがちな視覚障害者20+ 件に、外へ目を向けるきっかけをつくりたい、と活動していたようです」と水野さん。いまでも年2回、ボランティアスタッフと利用者による恒例の交流会が開かれている。
朗読する作品の選考では利用者の要望も受け入れ、「最新の平積みやベストセラーもどんどん読む。人気作家のサスペンスものも人気のジャンル」。蔵書にはしないが、週刊誌や月刊誌も毎週、毎月読む。
ここ数年でテープからCD(視覚障害者向けの録音図書=DAISY)へ変化した。このCDが利用者の手に届くまでの過程は、単に読んで録音すればいいという生易しいものではない。
ボランティアの読み手はまず、下読みとして作品を通しで音読し、大まかな時間を計る。次に、黙読し、読めない漢字や地名・人名の読み方を徹底的に調べ上げる。「基本的に図書館に足を運び、専門的な辞典をめくり確認する」という。次に本番だが、読み間違えたりするたびに録音を止めては読み直す。
これで終わりではない。朗読を計2回、別々のボランティアスタッフが本を横に置き、聞き直す。読み間違いがあれば、再び読み手に戻され、部分的に読み直すという。
「聞いた利用者は、『この本を読んだ』って話し、感想を語り合うんです。僕らがやっていることはそういう思いが込められていることなんです」
読み手や事務担当を含め、スタッフは現在50人ほど。「いまや、60歳代でも若手。スタッフの憩いの場になっている。僕自身も年を取った。いい形で次の世代へ活動をつなげていきたい」。母の思い、100人近い利用者の思いを、今後の活動にどう吹き込んでいけるか。40周年という節目に、新たな一ページの読み手が求められている。
壁一面に収められた録音図書と水野さん=藤沢市朝日町
カナロコ(神奈川新聞) -2012年1月30日