障害者自立支援法 声が聞こえますか(1)
「重度障害者の声を国政に届けたい」と、2005年の衆院選に愛知3区から立候補した名古屋市緑区の藤本栄さん(48)。でも、声は届かなかった。今回の総選挙では、インターネットなどで情報を集めながら、文字通り自分の命と生活を託すことができる候補は誰なのかを考えている。
訪問介護事業所を営む藤本さんは、1997年、36歳のとき筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)を発症した。8年前からは自発呼吸が難しくなり、人工呼吸器を着けている。会話は五十音の文字盤を目で追って相手に意思を伝える。4年前に立候補したときは、藤本さんの“声”を、妻の友香さん(47)が代弁した。
立候補したのは、国政に重度障害者の思いが届いていないと感じたから。障害者自立支援法が当時、議論されていた。障害が重い人ほど負担が増す制度に憤りを感じ、成立を止めようと思った。結果は落選。あれから4年。藤本さんの耳には苦しむ障害者の声が届く。
「娘は授産施設で働き、月に数千円の賃金を得ていた。それが、法の施行で施設利用料の方が高く、同じことをしていても逆にお金を払うことになった」(知的障害を持つ娘の母)。
藤本さん自身、子どもの通学支援を求められても引き受けられなかった。移動支援の単価が低く、障害者宅にヘルパーが出向く交通費などを考えると、赤字になってしまうからだ。
「自立支援法は障害者の自立を助ける法になっていない」と言う。介護を必要とする者として、また介護を提供する側として、自己負担の見直しやヘルパー報酬改正への願いは切実だ。
各党はマニフェストなどで同法について、自民は見直し、民主、共産、社民は廃案を掲げる。公明は言及していない。
藤本さん宅には今月に入って、郵送による投票の申込書が届いた。手が動かず字が書けない藤本さんは、友香さんの代筆で自宅から一票を投じる。この方法は04年の参院選から認められた。「ヘルパーを利用して生きている。命にかかわる制度を決める政治に無関心ではいられない」と、藤本さんは目で力強く語った。
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衆院選本番が近づいた。各政党はマニフェストを掲げ、政策を競い合っている。だが、地域の課題に目は向いているだろうか。有権者の声は聞こえているのか。切実な声を拾った。
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障害者自立支援法 障害者の地域での自立を目指し2006年4月に一部施行された。身体、知的、精神障害に分かれていた支援制度を一元化し、利用者が福祉サービスを利用しやすくするとともに、利用料の原則1割の自己負担を求めた。先の国会に負担軽減策を盛り込んだ改正案が提出されたが、解散により廃案となった。