Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑮ (雲南省維西) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
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サファイアオオルリシジミ雄
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17
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サファイアオオルリシジミ雄
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17
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サファイアオオルリシジミ雌
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17
サファイアオオルリシジミCaerulea coeligenaは、小型リンドウを食草とするゴマシジ類(広義)の一種
前回の文に記したように、最初(1989年4月)は、陝西省周至県黒河(秦嶺山脈太白山南面)で観察・撮影し、その後も秦嶺の各地や、雲南省香格里拉県白水台などで出会った。2000年代に入って、四川省雅江と雲南省維西で、観察・撮影を行った。
いずれも小型リンドウに産卵することから、ここで取り上げる。チョウについては改めて別の機会に詳しく説明する予定だが(「青山潤三の世界・あや子版」でも既に何度か取り上げているので参照されたし)、概略を述べて置く。
春の日中(概ね正午前)の夏緑樹林に覆われた山腹の崩壊地で、雄は金属光沢を帯びた青白い翅を煌めかせながら、ゼフィルス(ミドリシジミ類)のように2~数頭が卍巴飛翔を行いながらものすごいスピードで目まぐるしく乱舞する。その時間帯は限られていて30分ほど、一瞬の饗宴である。その後は雌を探して単独で飛び続ける。雌は、その間、卵を産み付ける小型リンドウの花を探して、地表近くを飛び続けている
シジミチョウ科ヒメシジミ亜科ヒメシジミ族カバイロシジミ種群(Grauchpsyche-section)の一種で、同セクションの種としては、日本産にゴマシジミ、オオゴマシジミ、オオルリシジミ、カバイロシジミ、ジョウザンシジミ、台湾産にウスアオゴマダラシジミ、シロゴマダラシジミ、そして中国西南部で、ヒメオオルリシジミと本種が加わる。他に、ヨーロッパや北米大陸にも、多数の種が分布している。
僕は、これらのセクションに所属する各属(ゴマシジミ属を例外とし、概ね1属1~数種からなる)を一つの属に纏めても良いと考えるのだが、(研究者たちが)それを拒むのは、ゴマシジミ属の持つ特異な生態(幼虫が蟻の幼虫を食べて育つ)を考慮してのものだと思われる。
秋に咲く花(バラ科ワレモコウ属、シソ科アサギリ属、リンドウ科の秋咲種など)を食草とするゴマシジミ属各種は、それに合わせて成蝶の出現期が夏の後半になり、幼虫のまま冬を過ごす。その(越冬の)過程で、蟻の巣に入って暮らす、という選択肢を見つけ、更にその流れの中で、幼虫期の前半は植物を、後半は蟻の幼虫を食べて成長する、というシステムを採ったわけである。
一方、それ以外の種は、サファイアオオルリシジミにしろ、オオルリシジミ(食草:マメ科クララ属)にしろ、ヒメオオルリシジミ(食草:マメ科ゲンゲ属)にしろ、食草は春に咲く花である。幼虫は夏の間に成長を終え、蛹で冬越しをするため、蟻の巣中に入って越冬し蟻の幼虫を食べて育つというゴマシジミタイプの生態を採る必要はない。
ここで、2つの問題が示唆される。
元々、ヒメシジミ亜科の多くの種は、蟻との何らかの密接な関係を持っている。(おそらくベニシジミ族以外の)シジミチョウ科のほとんど全ての種が、蟻やその周辺の昆虫(アリマキなど)に蜜を与え、敵から身を守って貰っているのである(僕は昔、ムラサキシジミの幼虫を襲おうとしたアシナガバチに、アリが蟻酸をかけて撃退した一連写真を撮影したことがある)。
もう一つは、シジミチョウ科の多くの種の幼虫が、花の蕾や若い花や柔らかい葉を摂食しているということ。おそらく食感的には蟻の幼虫と似ているのだと思う。
どこで一線を越えて、アリの幼虫を食べるようになったのか、その辺りの鍵となるポイントが分かれば面白いと思う。誰か調べる人が出てきて欲しい。
*最初にこの蝶の小型リンドウへの産卵を撮影した秦嶺1989年の写真は、ポジフイルムしかないので紹介出来ない。ここでは2000年代に入ってから撮影した、四川と雲南の写真を紹介しておく。
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雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17 (以下同じ)
小さなピンクの花が咲くツツジ属の一種が咲き競う、山腹の丘陵状草原が観察地。他の陝西省や四川省などに於ける観察地が急峻な渓谷の樹々の茂った急斜面だったのとは、やや環境的に異なる。
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交尾を終えた雌は、産卵時以外は、(雄に見つからないように?)ツツジの株の根元に身を潜めている。
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茎は地上部では分岐せず、ロゼットは(たぶん)なし、花冠はやや漏斗状に開き(個体差大)、雄蕊は退避型、ハルリンドウとも、フデリンドウとも、ハルカゼリンドウやセセラギリンドウやアオムラサキリンドウとも、一部共通し、一部相違する。ということで、種の特定は為さず、蝶との関連で、プライベートネームを「ユンナンサファイアリンドウ」としておく。
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雄同士の卍巴飛翔を終えた後、雄は雌を求めて、小型リンドウの生える地面上を飛び続ける。
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産卵中の雌に雄がチョッカイを出して来た。雌は戸惑っているのかも知れない。
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この株には、左上の花冠に2卵、左下の花冠に1卵が産み付けられていた。
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花の大きさ、色、開出状況などには個体変異が大きい。
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撮影地は、維西の町(メコン川水系の栗鼠族自治県)の東、長江側の麗江玉龍納西族自治県との間の峠の西面。この一帯は、白族/彝族/栗鼠(左にイ)族/拉枯(枯の左はネ)族/納西族/チベット族および漢族が混在する、世界的にも稀有な多様民族集合地である。ちょうどサファイアオオルリシジミの出現期には、民家や畑全体が白く覆われるという、独特の風景が展開する(蝶のほうはより広い範囲に分布域を持つのでむろん偶然とは思うが)同じ配色であるのは興味深い)。
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Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑯ (四川省雅江) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
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四川省甘孜蔵族自治州雅江県alt.2800m付近 2010.5.24 (以下同じ)
サファイアオオルリシジミの小型リンドウへの産卵を、もう一か所紹介しておく。
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四川省西部のチベット族の町・甘孜蔵族自治州南部の雅江は、東西を4500mを超える高山高原に挟まれて南北に流れる、長江の一大支流の雅砦江岸の急斜面に展開する。北緯30度。僕の中国の前のメイン・フィールドは屋久島である。中国に移ってからも屋久島のことはずっと気になり続けている。屋久島の緯度は、北緯30度13分~28分。と言う事は、街からほんの少し川を遡れば、屋久島南岸の緯度に達するわけだ。ちょうど、雅砦江が2つの川(本流と鮮水河)に分流する“両河口”という地点がそこに当たる。それで行ってみることにした。しかし、交通の便がない。歩くとしても“13分”の緯度分は、結構な距離である。徒歩とヒッチハイクを繰り返し、一日がかりで往復した。
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途中、何か所も、巨大な橋げたの架橋工事が行われていた。成都とラサを結ぶ鉄道新幹線と高速道路である。この辺りの家並みは、全てチベット族様式。
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両河口で合流する2つの川の色が異なっているのが分かる。
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右の鮮水河沿いに一時間ほど上流に歩いて行った。
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川岸の急斜面の新緑の温帯樹林で、サファイアオオルリシジミに出会った。
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飛び交う雄の写真を撮影しようと、小一時間粘ったのだが、なかなか止まってくれない。
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ふと足元を見ると、小型リンドウの花が咲いていた。
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萼片や茎葉が反り返る、日本のコケリンドウに似た種(プライベートネーム「シセンサファイアリンドウ」)。
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やがて、サファイアオオルリシジミの雌がやってきた。
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始めは吸蜜していたのだが、おもむろに腹部を差し込んで、産卵を始めた。
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三卵が産み付けられていた。