青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-36

2021-03-13 20:55:48 | コロナ 差別問題と民主化運動 中国の花


 
Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑮ (雲南省維西) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
 


サファイアオオルリシジミ雄
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17
 


サファイアオオルリシジミ雄
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17 
 


サファイアオオルリシジミ雌
雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17 
 
サファイアオオルリシジミCaerulea coeligenaは、小型リンドウを食草とするゴマシジ類(広義)の一種
 
前回の文に記したように、最初(1989年4月)は、陝西省周至県黒河(秦嶺山脈太白山南面)で観察・撮影し、その後も秦嶺の各地や、雲南省香格里拉県白水台などで出会った。2000年代に入って、四川省雅江と雲南省維西で、観察・撮影を行った。
 
いずれも小型リンドウに産卵することから、ここで取り上げる。チョウについては改めて別の機会に詳しく説明する予定だが(「青山潤三の世界・あや子版」でも既に何度か取り上げているので参照されたし)、概略を述べて置く。
 
春の日中(概ね正午前)の夏緑樹林に覆われた山腹の崩壊地で、雄は金属光沢を帯びた青白い翅を煌めかせながら、ゼフィルス(ミドリシジミ類)のように2~数頭が卍巴飛翔を行いながらものすごいスピードで目まぐるしく乱舞する。その時間帯は限られていて30分ほど、一瞬の饗宴である。その後は雌を探して単独で飛び続ける。雌は、その間、卵を産み付ける小型リンドウの花を探して、地表近くを飛び続けている
 
シジミチョウ科ヒメシジミ亜科ヒメシジミ族カバイロシジミ種群(Grauchpsyche-section)の一種で、同セクションの種としては、日本産にゴマシジミ、オオゴマシジミ、オオルリシジミ、カバイロシジミ、ジョウザンシジミ、台湾産にウスアオゴマダラシジミ、シロゴマダラシジミ、そして中国西南部で、ヒメオオルリシジミと本種が加わる。他に、ヨーロッパや北米大陸にも、多数の種が分布している。
 
僕は、これらのセクションに所属する各属(ゴマシジミ属を例外とし、概ね1属1~数種からなる)を一つの属に纏めても良いと考えるのだが、(研究者たちが)それを拒むのは、ゴマシジミ属の持つ特異な生態(幼虫が蟻の幼虫を食べて育つ)を考慮してのものだと思われる。
 
秋に咲く花(バラ科ワレモコウ属、シソ科アサギリ属、リンドウ科の秋咲種など)を食草とするゴマシジミ属各種は、それに合わせて成蝶の出現期が夏の後半になり、幼虫のまま冬を過ごす。その(越冬の)過程で、蟻の巣に入って暮らす、という選択肢を見つけ、更にその流れの中で、幼虫期の前半は植物を、後半は蟻の幼虫を食べて成長する、というシステムを採ったわけである。
 
一方、それ以外の種は、サファイアオオルリシジミにしろ、オオルリシジミ(食草:マメ科クララ属)にしろ、ヒメオオルリシジミ(食草:マメ科ゲンゲ属)にしろ、食草は春に咲く花である。幼虫は夏の間に成長を終え、蛹で冬越しをするため、蟻の巣中に入って越冬し蟻の幼虫を食べて育つというゴマシジミタイプの生態を採る必要はない。
 
ここで、2つの問題が示唆される。
 
元々、ヒメシジミ亜科の多くの種は、蟻との何らかの密接な関係を持っている。(おそらくベニシジミ族以外の)シジミチョウ科のほとんど全ての種が、蟻やその周辺の昆虫(アリマキなど)に蜜を与え、敵から身を守って貰っているのである(僕は昔、ムラサキシジミの幼虫を襲おうとしたアシナガバチに、アリが蟻酸をかけて撃退した一連写真を撮影したことがある)。
 
もう一つは、シジミチョウ科の多くの種の幼虫が、花の蕾や若い花や柔らかい葉を摂食しているということ。おそらく食感的には蟻の幼虫と似ているのだと思う。
 
どこで一線を越えて、アリの幼虫を食べるようになったのか、その辺りの鍵となるポイントが分かれば面白いと思う。誰か調べる人が出てきて欲しい。
 
*最初にこの蝶の小型リンドウへの産卵を撮影した秦嶺1989年の写真は、ポジフイルムしかないので紹介出来ない。ここでは2000年代に入ってから撮影した、四川と雲南の写真を紹介しておく。
 


雲南省維西栗鼠族自治県東南部alt.2500m付近 2010.5.17 (以下同じ)
小さなピンクの花が咲くツツジ属の一種が咲き競う、山腹の丘陵状草原が観察地。他の陝西省や四川省などに於ける観察地が急峻な渓谷の樹々の茂った急斜面だったのとは、やや環境的に異なる。
 


交尾を終えた雌は、産卵時以外は、(雄に見つからないように?)ツツジの株の根元に身を潜めている。
 


茎は地上部では分岐せず、ロゼットは(たぶん)なし、花冠はやや漏斗状に開き(個体差大)、雄蕊は退避型、ハルリンドウとも、フデリンドウとも、ハルカゼリンドウやセセラギリンドウやアオムラサキリンドウとも、一部共通し、一部相違する。ということで、種の特定は為さず、蝶との関連で、プライベートネームを「ユンナンサファイアリンドウ」としておく。
 


雄同士の卍巴飛翔を終えた後、雄は雌を求めて、小型リンドウの生える地面上を飛び続ける。
 


産卵中の雌に雄がチョッカイを出して来た。雌は戸惑っているのかも知れない。
 


この株には、左上の花冠に2卵、左下の花冠に1卵が産み付けられていた。
 





 








花の大きさ、色、開出状況などには個体変異が大きい。
 


 





撮影地は、維西の町(メコン川水系の栗鼠族自治県)の東、長江側の麗江玉龍納西族自治県との間の峠の西面。この一帯は、白族/彝族/栗鼠(左にイ)族/拉枯(枯の左はネ)族/納西族/チベット族および漢族が混在する、世界的にも稀有な多様民族集合地である。ちょうどサファイアオオルリシジミの出現期には、民家や畑全体が白く覆われるという、独特の風景が展開する(蝶のほうはより広い範囲に分布域を持つのでむろん偶然とは思うが)同じ配色であるのは興味深い)。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑯ (四川省雅江) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
 


四川省甘孜蔵族自治州雅江県alt.2800m付近 2010.5.24 (以下同じ)
サファイアオオルリシジミの小型リンドウへの産卵を、もう一か所紹介しておく。
 


四川省西部のチベット族の町・甘孜蔵族自治州南部の雅江は、東西を4500mを超える高山高原に挟まれて南北に流れる、長江の一大支流の雅砦江岸の急斜面に展開する。北緯30度。僕の中国の前のメイン・フィールドは屋久島である。中国に移ってからも屋久島のことはずっと気になり続けている。屋久島の緯度は、北緯30度13分~28分。と言う事は、街からほんの少し川を遡れば、屋久島南岸の緯度に達するわけだ。ちょうど、雅砦江が2つの川(本流と鮮水河)に分流する“両河口”という地点がそこに当たる。それで行ってみることにした。しかし、交通の便がない。歩くとしても“13分”の緯度分は、結構な距離である。徒歩とヒッチハイクを繰り返し、一日がかりで往復した。
 


途中、何か所も、巨大な橋げたの架橋工事が行われていた。成都とラサを結ぶ鉄道新幹線と高速道路である。この辺りの家並みは、全てチベット族様式。
 


両河口で合流する2つの川の色が異なっているのが分かる。
 


右の鮮水河沿いに一時間ほど上流に歩いて行った。
 


川岸の急斜面の新緑の温帯樹林で、サファイアオオルリシジミに出会った。
 


飛び交う雄の写真を撮影しようと、小一時間粘ったのだが、なかなか止まってくれない。
 


ふと足元を見ると、小型リンドウの花が咲いていた。
 


萼片や茎葉が反り返る、日本のコケリンドウに似た種(プライベートネーム「シセンサファイアリンドウ」)。
 


やがて、サファイアオオルリシジミの雌がやってきた。
 


始めは吸蜜していたのだが、おもむろに腹部を差し込んで、産卵を始めた。
 


三卵が産み付けられていた。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-35

2021-03-13 16:09:31 | コロナ 差別問題と民主化運動 中国の花



読者の方々に質問です(僕は頭が悪いので、教えて頂ければ幸いです)。

【Ⅰ】
マスクは、なぜ必要なのですか?

【Ⅱ】
「沖縄に対する日本」
「台湾・チベット・ウイグルに対する中国」
の違いを教えて下さい。

*毎回(リンドウの項目奇数回)のブログ記事の冒頭に、この質問を繰り返し続けることにします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昨日の(奇数回)第33回のラストで、「熟果」「乾果」という語について書いたのですけれど、(この語でも間違ってはいないと思いますが、野生植物に対する用語としては)、正しくは「液果」「朔(要・草冠)果←パソコンの文字こっちこそ完全に出てこない」というべきでしょうね。

第34回のラストに記した「サクラソウリンドウ(Gentiana primuliflor报春花龙胆)」、これも訂正というか、幾つかの訳注が必要です。

「ベニバナリンドウ(紅花竜胆Gentiana rodantha)と同じsectionに含められることは有り得ない」
「ミドリヒメリンドウ(プライベート・ネーム)との間に(花の形質の)共通点は見出し得ない」
従って、サクラソウリンドウはベニバナリンドウと同一sectionに入る可能性ほぼ無く、ミドリヒメリンドウは(僅かだとしても)その可能性が残されている、旨を記しました。 
しかし、両方共に間違っている(というか必ずしもそうとは限らない)のかも知れません。

「ミドリヒメリンドウ」の写真を見て戴ければ分かると思いますが、大半の個体で雌蕊が片側に寄っているように思います。そして「中国植物図像庫」に示されている「サクラソウリンドウ」も、(確認できる限りの個体に置いて)雌蕊が片側に寄っている。これは「狭芯組Stenogyne」を特徴付ける指標形質ではないでしょうか。(「小型リンドウ」を終えたあと紹介する予定の)大型種のベニバナリンドウやアオバナリンドウ(Gentiana pterocalyx 翼萼竜胆)も、その特徴を有しています。

ということは、その形質に注目するならば、「サクラソウリンドウ」「ミドリヒメリンドウ」ともに「ベニバナリンドウ」と同一sectionの狭芯組に含めることも成り立つわけです。あくまで「可能性」としてですが。

因みに、「中国植物志」の解説や検索表には(中国語版・英語版とも)、この「雌蕊の片寄り」については記されていず、代わりに「雄蕊の先が曲がっている」ことが記されています。確かにベニバナリンドウやアオバナリンドウにはその傾向が見られますが、組sectionを分けるほどの重要形質なのでしょうか?

あと「ミドリヒメリンドウ」の花の拡大写真、子房が2つあるように見えませんか?(後方に立っているのは2本の雄蕊の花糸が接して太く見えているだけ?) 一応、解説書には、「リンドウ科の子房は基本一室だが稀に二室のこともある」となっているので、気になります。

・・・・・・・・・・・・・

今回は、イジメ、差別についての話題を(自分の体験を基に)書くつもりでいました。次の「サファイアリンドウ2種/サファイアルリシジミ」の関連として。

イジメや差別は、当事者は気が付かないのですね(加害者側はむろん、時には被害者側も)。僕も、読者の方々も、気付かぬうちに誰かをいじめたり、差別していたりする可能性があるわけです。

虐められたり、差別されたりするのは、される側に何らかの理由があります。それは良し悪しとは関係なく、存在するものです。「女だから」「人種が違うから」「考え方が違うから」「バカでノロマだから」云々。それは現実なわけで、それ自体は素直に受け入れたとしても何ら問題がないわけです。しかしそこに「力関係」とか「空気」とかが関わってくると、イジメや差別に至ります。

上に「被害者側も」と書いたのは、そういうことです。なぜ差別やいじめを受けているのか、(客観的に見て)自分がどのような状況に置かれているのかを、改めて俯瞰的に考えても良いのだと思います。

たまたまちょうどいま、ドイツにおける日本への差別表現「寿司の国」というのが話題になっている、というネットニュースを目にしました(発言したドイツ人が解雇された由)。差別されている側の日本人にとっては、「何でこれが差別なの?」と思うわけですが、このこと一つをとっても、「差別」や「イジメ」の問題はデリケートで、ある時は(「加害者側」も「被害者側」も気付かぬまま)全く無関心に事が進み、ある場合は関係者(むろん主に被害者側、稀に加害者側)の自死に至るなど、とてつもなく大きな問題になり得るのです。

差別やいじめの問題は、皆が思っているよりも、はるかに巨大で、複雑で、取り組みが限りなく困難な対象です。

一般論に戻りますが、イジメは、暴力とか嫌がらせとかの、目に見える現象だけではありません。むしろ、それらはごく一部でしかない。

イジメの本質は、「無視」ひいては「排除」にあります。個人による排除や無視は、どうってことありません。我慢しときゃ良いのです。「空気」を媒体として、社会全体が関わってきたとき、それは巨大な手が付けることの出来ないほどの 絶対的な力となって、襲い掛かってきます。個人では、(被害者側は無論、加害者側も)コントロールしようがないのです。

僕の言う、教育(合法的な洗脳)で形作られた「空気」。

僕が虐められだしたのは、中学に入ってから。でも、リアルタイムではイジメられているとは思わなかった。漠然と「弄られキャラ」と思っていたのでしょう。

中学2年で不登校児になり、20歳を過ぎてからは(今に至るまで)、それはもう悲惨なものです。まあ、社会から背を向けてしまった僕自身が悪い(という部分もある)のですが。

僕が50年間携わってきたのは、一応、「自然科学」なのですね。「学」が付きます。でも僕は結果として「学」を否定しているわけです。「学」の世界にある側からすれば、「排除」「無視」せねばならぬ存在です。

その金太郎飴的な排除のされ方、徹底無視され続けてきた例は、このブログにも、もう何度も書いてきました。

或る研究者の論文中に、「この事実を最初に発表したのは青山潤三氏である、しかし彼は正規の研究者でないので(正しい手続きを経ていないので)、無視をしてよい、最初の発表者は私である」とか、記されていたりします。ここまで明確に言われると、少しはスッキリしますね。まあ、このような(大したことのない)人達は、こちらから無視しときゃ良いのです。分かってくれている人たちがいるだけで良い。

もっとも、現実には「分かってくれる人たち」の大半は僕よりずっと年長で皆鬼籍に入っているし、「大したことない人たち」が大量に存在しているわけで、、、、、。

次回(第36回)は、小型リンドウに産卵する「Caerulea coeligenaサファイアルリシジミ」の話題です。1989年4月、陝西省太白山の渓谷で最初に出会って(その後、スパイ容疑で逮捕されてひと月近く軟禁)以来、幾つもの地で観察してきました。

1998年に刊行した「中国のチョウ」に於いても、かなりのページを割いて、この蝶の紹介をしています。(雄交尾器を図示し)この種が、間違いなくGlaucopsyche-sectionカバイロシジミ節に入る事(すでにエリオットが指摘)や、ゴマシジミやオオルリシジミなどとは属を一括しても良いほど近縁な関係にあること(ただし雄交尾器の一か所に、より祖先的形質が残されていること)、雄の卍巴乱舞や、雌の小型リンドウへの産卵等々、成虫の行動を詳しく記述しました。

また、2000年代になってからは(今回紹介した写真などを含めて)「青山潤三の世界・あや子版」に繰り返し発表し続けて来ました。しかし、一切無視されていますね(笑)。

むろん日本語であることが一要因ではありますが、マニアックな世界で発表された場合は、日本語であろうがなかろうが、ちゃんと世界に伝わります。しかし、アカデミックな世界にもマニアックな世界にも背を向けている僕の場合は、どうにもしようがないわけです。

比較的最近、このGlaucopsyche-sectionの総説が、インターネット上にも挙げられています(確か欧米人の研究者たちによる)。DNAの解析に基づく系統論と、それぞれの種の食草との対応関係の考察です。

「サファイアルリシジミ」については「不詳」のまま。

(せめて写真ぐらいはチェックしておいてほしかったな、と)ガッカリもします。 



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-34

2021-03-13 08:18:56 | コロナ 差別問題と民主化運動 中国の花


★3月12日の記事に、いいね!その他ありがとうございます。

Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑩ (甘粛省天水市) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕



甘粛省天水市麦積山alt.800m付近 2010.4.21 

これは、フデリンドウ Gentiana zollingeri筆竜胆で、ほぼ間違いないだろう。「中国植物志」におけるフデリンドウの中国での分布は、東北地方から華中地方を経て、東部の浙江省に至ると記されていて、甘粛省は含まれていない。しかし、撮影地は、(分布が示されている)陝西省との境の秦嶺山地の一角なので、分布域的に見ても当て嵌まると考えて良いだろう(注:英語版のほうは“Gansu”で載っている)。

秦嶺山脈は、陝西省の太白山を最高峰とし、長江中流域と黄河中流域に挟まれて、東は河南省、西は甘粛省に至りチベット高原北部に収斂する。西安の南の秦嶺中心部には、日本のギフチョウ近縁種や次項に紹介するサファイアルリシジミの探索に、1980年代末から2000年代はじめにかけ、春に何度も訪れた。ハルリンドウやフデリンドウの仲間も多数撮影している。しかし、手元に写真が残っていない。ここで紹介するのは、秦嶺西端付近の、甘粛省天水市麦積山付近での撮影個体。峠道に至る渓流に沿った、典型的な早春の天然雑木林の林縁草地の落ち葉の中から、数種のスミレ類やアズマイチゲなどと共に、可憐な草花が咲き始めていた。



同上

Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑪ (広西壮族自治区龍勝県) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕


広西壮族自治区龍勝県芙蓉村alt.500m付近 2009.5.20

長江の北、黄河との間に東西に連なる「秦嶺」と対になるのが、長江の南、珠江との間に東西に延びる (標高やや低く明瞭な山脈にはならないけれど)「南嶺」だ。北の秦嶺ともども、西の端は「世界の屋根」に収斂し、東は日本列島に続いて行く、「東アジアの回廊」的な地域である。

その中央付近に位置する桂林は、僕の第二の故郷とも言ってよい町である。20年近くに亘り、累計数年間滞在している計算になるが、この地に来る観光客のほぼ100%が訪れる陽朔には、行ったことがない(通り過ぎたことは何度もあるけれど)。僕のフィールドは、陽朔とは反対方向の、湖南省との境にある山岳地帯。観光的には、全く無名の地である(ちなみに湖南省には“芙蓉鎮”という有名な映画上の架空の村がある)。やはり手元に、一つだけリンドウの写真があった。今のところ種を特定できないでいるが、色以外はフデリンドウに良く似ている。プライベート・ネームは「ウスシロリンドウ」。








白い小さな花は、サクラソウ科(トチナイソウ属の一種?)。




Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑫ (雲南省麗江) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕


雲南省玉龍雪山alt.3100m付近 2008.7.23 

この10~15年間は、雲南での目的地は、香格里拉から北の地域である。それ以前には、大理や麗江、それとミャンマー国境近くの町・謄沖が中心だった。麗江は玉龍雪山の麓の草原。そこでの撮影写真の大半は、中国に置いてきたDVDや段ボール箱のポジフィルムなので紹介が叶わないのだが、なぜか手元に一枚だけ、花だけをトリミング した写真が残っていた。最も一般的な小型リンドウのように思うが、この写真だけでは種の特定はできない。

Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑬ (雲南省香格里拉) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕


雲南省香格里拉(中甸~碧塔海) alt.3600m付近 2005.6.19

Gentiana linoides亜麻状竜胆と同定して良いだろう(プライベート・ネーム「アオムラサキリンドウ」)。セセラギリンドウ(大理竜胆Gentiana taliensis)と共に、フデリンドウと同じ箒枝系Fastigiataeに含められている。フデリンドウに似るが、萼片がより大きく、花筒を深く包み込む。フデリンドウは、中国西南部(四川・雲南)では分布を欠くことになっているので、その代置的存在と見做して良いのかも知れない。諸形質から見てフデリンドウよりもハルリンドウに近いと思われる「ハルカゼリンドウ(Gentiana chungtiensis中旬竜胆)」同様に、香格里拉郊外の湿性草地に見られるが、(偶然だとは思うけれど)ここで示した2個体とも、ハルカゼリンドウ撮影地とは異なる、香格里拉の町と碧塔海の中間地点辺りで撮影している。生育環境がやや異なるのかも知れない(本種のほうがやや湿地性?)。



雲南省香格里拉(中甸~碧塔海) alt.3600m付近 2015.7.29 (以下同じ)










右は「ミドリヒメリンドウ」



香格里拉西郊外の碧塔海との間の湿性草原に隣接した小さな丘に「大小」の小型リンドウ2種が咲いていた。





アオムラサキリンドウの花径(12㎜前後)は、ミドリヒメリンドウ(6㎜前後)の倍ぐらい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑭ (雲南省香格里拉) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组???〕


雲南省香格里拉(中甸~碧塔海) alt.3600m付近 2015.7.29 (以下同じ)
















今回、丸一日アップを停滞してしまったのは、前回述べたような幾つかの理由もあるのだが、最も大きな原因は、この「大小2種」の小型リンドウの、白く小さなほうの種の帰属分類群の特定に手間取っていたことに因る。結局特定することは出来ずに、とりあえずギブアップである(分かり次第付け加える予定)。

最初は、別seriesの狭芯組Stenogyneに所属する、Gentiana primuliflora报春花龙胆(サクラソウリンドウ)だと思っていた。茎や葉の姿は「中国植物図像庫」に図示された各個体に似ているし、解説文の記述とも、さほど相違はない(種子などの内部構造は写真では調べようがない)。   

しかし、雰囲気は相当に異なる(印象的には「サクラソウ」というよりも「ハコベ」を思い浮かべる)。

何度も繰り返し言うけれど、僕はリンドウについては(ヘツカリンドウは別として)何の知識もないわけで、殊に膨大な種数からなる「小型リンドウ(概ね小竜胆組)」各種については手が付けようがなく、最初から「ギブアップ」を宣言していた。でも、結局はいちいち調べる羽目になって、その結果途方に暮れているのである。

まあ、一から勉強しながら、と思えば良いので、無駄な作業というわけでもないだろう。僕の写真の該当種が、「小竜胆組」に入るのかどうか、日本産のどの種に対応しているのか、等々、少しづつ分かってきたような気もする。

同定は、“例えば「中国植物志」に従えば”、ということでの暫定処置であって、種を特定するつもりは最初からない。

「中国植物志」自体、どこまで信用できるのだろうか? 混乱の原因は、必ずしも僕が無知だからだけではない。参考にすべき「中国植物志」の出鱈目さにも、大いに責任がある。

例えば、「小竜胆」という種speciesがある。「小竜胆系」というseriesがある。しかし、「小竜胆」は「小竜胆組」に入らない。“手続き”にばかり注意を向けて、本来の目的が置き去りにされてしまっている。

「中国植物志」が凄いスケールの素晴らしい仕事(国家事業)であることは認める。僕なんかが太刀打ちできる存在ではない。

しかし、どこか“マ”が抜けているのである。

ついこの間のことだが、ニュージーランドに住む(僕の二番弟子)ルイスから久しぶりにメールが来た。彼の中国人友人の若い研究者が、中国の蛾の新種記載をする、しかし論文が受け入れられない、どこにその原因があるのかをチェックしてくれないか、というのである。

論文を読むに、彼が凄い能力を持った、凄い努力家であることが分かる。

で、交尾器に関わる記述や図を子細にチェックしてみた。(具体的な説明は省くが)どうやら、一番肝心な、最もベーシックな部分に対する考察が、最初から抜け落ちている。これでは、いくら力を注いで細部の考察を重ねても、砂上の楼閣である。いかにも「中国人」なのである(必ずしも貶しているのではない)。

それはともかく、この「小さいほうの小型竜胆」に相当する可能性がある「Gentiana primuliflor报春花龙胆(サクラソウリンドウ)」を、改めて「中国植物志」と(それに付随されている)「中国植物図像庫」でチェックしてみた。

「昆明」産の、数個体(20数カット)が掲載されている。それを見るに、どの個体も、花冠裂片の基部に、顕著な蜜腺が認められる。あれれ、リンドウ属の特徴は、子房の基部に密線があることではなかったっけ? 花被弁内側に蜜腺を持つのは、センブリ属の種だと思う。

もっとも、(seriesを分けるぐらいだから)リンドウ属の中でも特殊な存在なのかも知れない、と思って本文記述を読んだのだけれど、(中国語版にも英語版にも)何処にもそのような指摘は為されていない。種の解説でも、系の解説でも、検索表でも、同様である。

因みに、「サクラソウリンドウ」が所属するとされる「狭芯組Stenogyne」には、後に紹介予定をしている大型のリンドウ属の種「Gentiana rodantha 紅花竜胆(ベニバナリンドウ)」や「Gentiana pterocalyx 翼萼竜胆(アオバナリンドウ)」も含まれている。どう考えても、写真の「サクラソウリンドウ」との共通要素は見出し得ないように思われる。

それで、とりあえず現時点で分かったのは、この、アオムラサキリンドウ(Gentiana linoides亜麻状竜胆)と共に生える、白く小さいほうの小型竜胆(以降「ミドリヒメリンドウ」のプライベート・ネームで呼ぶ)は、(少なくとも「中国植物図像庫」ではその名で紹介されている)「サクラソウリンドウ」とは、全く異なる存在で(むろん花冠裂片には蜜腺を持たない)、従って、「中国植物図像庫」に紹介されている対象が、真の「サクラソウリンドウ」であるとすれば、(このミドリヒメリンドウは)「サクラソウリンドウ」ではない、ということである。

と共に、「中国植物図像庫」の個体が真のサクラソウリンドウではない、とするならば、「ミドリヒメリンドウ」が真の「サクラソウリンドウ」に相当する可能性も残されていることになる(しかし、特徴的な緑の蕾の事にも触れられていないので、その可能性は極めて低いものと思われる)。

ということで、「ミドリヒメリンドウ」の所属分類群の特定については、保留しておかざるを得ないわけである。









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする