Feelin' Groovy 11

I have MY books.

『悪人』について

2008-07-08 | 
  佳乃さんを殺した人ですもんね。私を殺そうとした人ですもんね。
  世間で言われとる通りなんですよね?
  あの人は悪人やったんですよね?
  その悪人を、私が勝手に好きになってしもうただけなんです。
  ねぇ?そうなんですよね?
         (『悪人』吉田修一著 朝日新聞社 太字:groovy)


分厚い本だから何日かかけて楽しもうと思った目論見は崩れ、
またしても一気に読んでしまった。
いやー泣いた泣いた。。。

さてさて。
昨日装丁について幾分興奮さえして(?)お話しましたが、
装丁から想像していた話とはちょっと違いましたねー。

冒頭で引用した箇所は、
この本の終わりの部分。

最後に殺人者である祐一は「悪人」だったのか、という
疑問を投げかけている。

どんな理由があれど殺人はよくない。
罪は罪である。
けれども罪を犯したものだけが「悪人」なのではない。
表面化されない「悪人」は世の中にたくさんいて、
またそういう人こそ笑って暮らしていたりするのだ。
私たちはある1人を殺人者にしてしまう環境の一端を担っている。。。

と、ここまで考えて、
もっと考えると・・・・・
でも、でも・・・なのである。

読後、ほとんどの人が祐一のことを「悪人」とは言い切れないだろう。
そして大学生、増尾の方こそが「悪人」であると感じるに違いない。
しかし自分も祐一と同じ状況だったら
やっぱり殺人を犯してしまうよなぁとは思えない。

彼の言い分は、こうだ。

  どんなに嘘だって俺が言い張っても、
  誰も信じてくれんような気がしました。
  (中略)
  それが恐ろしゅうて、ついあんなことをしてしもうたんです。

分かるようで全く分からない。
これが、人を殺してしまうほどの強い動機になるのか・・・

自分の思考回路ではそういう結論にはならない。
誰も信じてくれなくて濡れ衣をきせられても、
真実を自分で言い続けるしかないのである。

少なくともこの祐一には、
信じてくれるであろう祖母までいたのに。。。

人を殺してはいけないことはみんな分かっている。
それでもなお、殺すというのはどういうことなのか、
今の私にはよく分からない。


*「しかし」あたりから
 どう考えても話がそれていってますがwお気になさらぬよう


以下、作中より。

  一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、
  ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、
  底辺の石が一個なくなることなんやなぁって。
           (『悪人』吉田修一著 朝日新聞社 )