恩師のご著書「講演集」より
講演集、 三
癌を克服し、悟って死を迎えた方の話
先の続き・・・
人間は生まれますと、その人その人の器があるそうです。
ものすごく心の広い方、反対にすごく心の小さい方がありますが、
器以上にどれほど欲を盛っても入ることはできないのです。
一旦は自分のものにしましても、一合の容器なら一合しか入りません。
どんなに欲呆けして、一旦手に入れましても、残るのは自分の心の器の量だけです。
「叔父さんはあなたの財産を売って、それを持っていられますか」と尋ねますと、
「全部使って贅沢三昧をして、今は何も残っていない」と言われますから、
「叔父さんは兄貴のものを取ってしまっても、
その方の心の器分だけしか残っていないはずです。
気の毒ですが、
又あなたもお父さんの財産を受け継ぐだけの心の器を持っていなかったのです。
心の器が広ければ、必ず自分に入っていたはずです」と、話したのです。
そして、「叔父さんが財産を取ってしまったという恨みや憎しみを持つよりも、
自分が幼い頃から叔父さんにしてもらったこと、自分がお返しできたことに
ついて、一度反省なさってみられたらどうですか。
されたことよりも、自分がしてもらったことに心を向けたら如何ですか。
そして、幼い頃、お母さんからしてもらったこと、自分がお母さんにお返しできたこと、
又、心配をかけなかったか、口答えしなかったか、
或いは親に嘘をつかなかったかなどを反省の出発点として、
生まれた時から十歳頃までのことを振り返ってみて下さい。
そして自分がお母さんに対してどれだけのお返しができたかを、
思い出せる限りずっと振り返って下さい。
お母さん、お父さん、次にご兄弟、成長したら夫婦の愛について徹底的に、
今は時間があるはずだから、養生しながら一度振り返ってみて下さい」と話し、
この高橋信次先生の「心行」を一冊差し上げまして、読んでいただいて、
過去を徹底的に振り返っていただきました。
その方は法のご縁、救いがあったのでしょう。
まことに真剣に取り組んで下さいました。
この「心行」を読んで大声でワンワン泣いておられました。
奥さんは何のことか分かりませんから、「お父さん、
その本を読んでそんなに悲しいのだったら、読むのを一服さらたらどうですか」と、
止めたそうです。
ご主人は、「今まで、私はこういうことを知らなかったけれど、
自分を振り返った時、私ほど罪の深い者はいないということが分かってきた。
よく今日まで罰も当たらず生きさせてもらったことだった。
申し訳ないことだった」と泣き続けておられて、一週間もお目にかからないと、
「主人が会いたがっていますから、一度来てやって下さい」と、奥さんから
電話がかかってくるのです。
それでハイハイと自転車で走っていくのですね。
「如何ですか」とききますと、「先生に会いたかった―――」と言われて、
私もいろいろ話をさせてもらって帰ってくるのです。
~ 感謝・合掌 ~