東京・七曲署捜査第一係の刑事部屋に、野崎太郎=長さん(下川辰平)が悲しいお知らせを持ち帰って来ます。現金輸送車襲撃事件の際、車に同乗していた銀行員の麻田(佐々木勝彦)が、責任を取って故郷の大阪に帰ったとの事。
「そうか……此処にも犠牲者がいるんだな……」
殿下(小野寺 昭)が気の毒そうに呟きますが、そういう立場の人間こそ怪しいってのが刑事ドラマの定石ですよねw
それはさておき沖縄にいるゴリさん(竜 雷太)は、襲撃グループの主犯=手島(森 大河)と拳銃密輸組織との縁が既に切れているとの情報に、疑問を抱きます。1億円もの現金を隠し持つ手島と、取引相手=金に汚い暴力団があっさり縁を切る筈がないってワケです。
「ロッキー。少し手荒い仕事になるかも知れんぞ」
そして七曲署名物・暴力団荒らしが始まりますw いきなり事務所に乗り込んで、とにかくヤクザどもに問答無用で体罰を与え、襟首をつかんで締め上げ、情報を拝聴するという、実に手っ取り早い捜査法ですw
昭和の刑事ドラマにおいて、ヤクザはチャンバラ時代劇の斬られ役みたいもんで、人権も何もあったもんじゃありませんw 私はこの世で極道が一番キライですから、彼らに関してだけは「駒扱い」大歓迎です。
それにしても今回の「駒扱い」は酷いもんで、ゴリさんとロッキー(木之元 亮)が事務所に入って来る場面すら省略されて、いきなり2人がヤクザどもに殴る蹴るの暴行を働いてる光景ですからねw もしかするとヤクザの皆さんは、自分がなんで殴られてるのか分かってないかも知れませんw
で、大乱闘の末に聞き出した情報が、手島は確かに事務所に来たけど金は持っていなかった、けど「金はすぐに届く」と言っていたという、その2点だけ。さんざん殴られてまで隠すようなネタとは思えませんw
金はすぐに届く……つまり手島は、1億もの現金を持ち歩くワケにもいかず、自ら宅配便で沖縄に送ったらしい……となると、宛先は何処なのか? 手島に殺された共犯者=沼沢の家としか考えられません。手島が沼沢の妹=妙子(沢田和美)に接近していたのは、彼女宛てに届けた金を強奪する目的だったワケです。
それを聞いたスニーカー(山下真司)が慌てて沼沢宅に駆けつけると、既にスコッチ(沖 雅也)が張り込んでました。しかし、家の様子がおかしい。
「勤めを持ってる娘が8時を回っても雨戸も開けず、物音ひとつ立てない。こりゃおかしいとは思わんか?」
「まさか!」
「1分後に行動開始だ!」
スニーカーにそう指示すると、スコッチはチェーン付きの懐中時計で時間を測ります。持ち物1つ1つに英国趣味が反映されており、彼が「スコッチ」と呼ばれる由縁です。
郵便局員を装って妙子を呼び出すと案の定、手島が中に潜んでました。どうやら昨夜の内に侵入したらしく、妙子が無事に一夜を過ごせた筈がないと思うんだけど、残念ながら裸じゃありませんでしたw
「動くな! 近づいたらこのオンナ殺すぞ」
手島は妙子を人質に取り、ナイフを彼女の首もとに突きつけます。こうなると刑事ドラマの刑事さんは大抵、拳銃を捨てるしかなくなるワケだけど、スコッチだけはひと味違います。彼にそんな脅しは通用しません。
「……3つ数える」
そう言うとスコッチは、拳銃を捨てるどころか銃口を手島に向けて構えます。Newスコッチの愛銃=コルト・トルーパーMkーIII・6インチ、初のお目見えです。
「その間にその女を離せ!」
全く想定外の対応に、スニーカーも手島も呆気に取られますw
「か、数えてみな。こいつが見えねえのか、こいつが!」
「ひとつ……」
「殺すぞ……ホントに殺すぞぉ?」
「やめろ! 奴は本当にやる気だ!」
スニーカーの制止を無視し、スコッチはトルーパーの撃鉄を起こします。
「ふた……」
「やめろっ!」
スニーカーがスコッチに飛びかかり、その隙に手島は妙子を突き飛ばして逃走します。
「バカモン!」
スニーカーを蹴り飛ばし、手島を追いかけるスコッチですが、時すでに遅し。手島は行方をくらまし、スコッチも再び単独捜査へと向かいます。
遅れて駆けつけたゴリさんとロッキーに、スコッチのあまりに常識外れなやり方を告げ口し、口汚く批判するスニーカー。あのまま放っておいたら、手島は妙子を刺し殺したに違いないとスニーカーは主張するのですが……
「スコッチは3つ数えるって言ったのか?」
「ええ、自信たっぷりにね!」
スコッチの事をよく知るゴリさんには、彼の真の狙いが読めたみたいです。
「スコッチは3つ数えたか?」
「は? いえ、2つ目ぐらいで俺が飛びつきましたから」
「……手島のやつ、命拾いしたな」
「はぁ?」
「スコッチは多分、2つ数えたところで撃っただろう」
「何ですって?」
大抵の人間は、3つ数えると言われれば、3つ目に掛かった所で行動を起こす。つまり、2つ目で撃たれたら何をする間もなくやられてしまう。スコッチは、手島を殺す気満々だったワケですw
「汚ねえ! それじゃ完全に騙し討ちじゃないスか!」
「確かに綺麗な手とは言えんさ。しかしな、相手が3人も殺した凶悪犯なら、それぐらいの事は平気でやる。そういう男だよ、スコッチって奴はな」
そう、この狡猾さと非情さこそが、七曲署のマジメ一直線刑事たちには無い、スコッチ最大の魅力なんです。そしてそれは、沖雅也という役者さんでなければサマにならないのです。
にも関わらずスニーカーに邪魔され、またもや手島に逃げられた事で、山田署におけるスコッチの立場はますます悪くなっちゃいます。上司は全ての責任をスコッチに、引いては彼の身柄を預かった七曲署に押しつける魂胆なのです。
「あくまでも責任逃れか……スコッチも辛かったろう……そういう署で、いつも白い眼で見られていたんでは……」
感傷的になる長さんに、七曲署捜査一係のナンバー2・山村精一=山さん(露口 茂)が、スコッチの上をいくクールさで言い放ちます。
「辛いだけで済めばいいが……」
「山さん……」
「今度の命令無視は、奴としてもかなり極端だ。恐らく、奴の胸の内は……」
その頃、スコッチは沖縄の真っ青な海を見つめながら、文字通り胸の内ポケットから1通の封書を取り出します。そう、辞表です。彼は今回の事件を最後に、刑事を辞める覚悟を決めているのでした。
(つづく)
本放映は1980年の春でした。人気者だった田口 良=ボン(宮内 淳)が殉職し、後任として五代 潤=スニーカー(山下真司)が華々しく登場するも辛気臭いエピソードばかりが続き、裏番組の『3年B組金八先生』に視聴率で苦戦を強いられてた、我々『太陽』フリークにとっては悪夢のような時期。
そのピンチを救うべくスコッチが呼び戻されるワケですが、当時の沖 雅也さんのコメントによると『太陽』復帰を打診されたのは、前年の秋だったとの事。つまり『金八』がブームを起こす以前から、スコッチの復帰は計画されてたみたいです。
その1年後に島 公之=殿下(小野寺 昭)が殉職する事が、ちょうどその時期に内定されてたそうですから、どうやらスコッチは本来、殿下の後釜として復帰する予定だった。
それが思いもよらないTBSの『金八』攻撃により、スコッチ復帰が前倒しされた結果、七曲署捜査第一係が初めて8人体制に、そして殿下の後釜は西條 昭=ドック(神田正輝)になりました。
スコッチのクールな勇姿が再び見られるのもさることながら、長らく見られなかったハードアクションが『太陽』に戻って来てくれたのが、私としては何よりも嬉しかったです。
そんなワケで、久しぶりにワクワクしながら放映を待った、私にとって非常に思い出深いエピソードです。400回記念作品で沖縄ロケ編だし、とても元気な沖雅也さんの姿が見られる点でも見逃せません。
☆第400話『スコッチ・イン・沖縄』
(1980.3.28.OA/脚本=長野 洋/監督=竹林 進)
オープニング曲は引き続き「太陽にほえろ!メインテーマ’79」が使用されてますが、タイトルバックがこの回から一新されました。非常にアクティブな映像のつるべ打ちで、番組スタッフの並々ならぬ意気込みが伝わって来ます。
特にスコッチは、爆発炎上をバックに車から飛び降りて発砲するというド派手演出(しかも2カット)で紹介されており、かなりスペシャルな扱い。
スニーカー登場時からのオープニングは僅か半年という短命だったのに、今回のはスコッチ殉職まで約2年間、一部を差し替えながら使用される事になります。
で、この第400話は第399話『廃墟の決闘』の続編だったりもします。「東亜銀行」の現金輸送車を襲撃し、約1億円を強奪したグループの主犯=手島(森 大河)を追って、スニーカーは故郷の沖縄へと飛ぶ。
手島は冷血かつ狡猾な凶悪犯で、現金輸送車襲撃の際には無抵抗のガードマンを射殺した上、追って来たスニーカーの目前で共犯者の沼沢(栗田八郎)をも射殺、さらに車で逃走中に通り掛かりの幼稚園児たちをはね飛ばすという残虐三昧。
手島に騙され利用された挙げ句に殺された沼沢が、沖縄出身者で自分とよく似た境遇だった事から、スニーカーは手島に対して憎悪を、そして元七曲署の刑事で現在は山田署にいるスコッチに対しても、強い怒りを抱いてる。
スコッチは以前から拳銃密輸の容疑で手島をマークしており、現金強奪の主犯も手島だと睨んでたにも関わらず、誰にも報告せずに単独捜査をしてた。スコッチが早く知らせてくれてたら、沼沢が殺される事も幼稚園児たちを巻き込む事も未然に防げたかも知れないワケです。
沖縄に着いたスニーカーは、まず現地に住む沼沢の妹=妙子(沢田和美)を訪ねます。沢田和美さんは’80年の旭化成キャンペーンガールで、ドラマ初出演。やっぱり芝居はヘタだったけどw、沖縄ロケ編で唯一の女性キャストとして、可憐な花を添えてくれました。
とにかくこの400回記念は打倒『金八』の切り札として大々的に宣伝されており、当時の番宣写真には水着姿で戯れる渚の沢田和美さんと刑事達という、本編とは全く関係ないショットも使われてましたw
沢田さんの白いビキニ姿がホントにセクスィ~で、股間を直撃された少年(当時)も多かった事でしょう。私は生まれてこのかた女性の身体には全く興味が無く、ヌード写真なんか一度も観た事がありません。
それはさておき、手島らしき長身の男が先刻、妙子を訪ねて来たばかりだと聞いたスニーカーは、周辺を探してそれらしき男を発見します。そして後を尾けるんだけど見失い……
「動くな!」
逆にその男がスニーカーの背後から牽制して来ました。おとなしく両手を挙げるフリをしたスニーカーは、振り向きざまに拳銃を抜き、銃口を男に向けます。
「!?」
そこにいたのは手島ではなく、スコッチ。ここで第399話は「つづく」となり、同じ場面から第400話がスタートします。そうです、今やっとドラマが始まったのですw
スコッチと初対面のスニーカーは、まだ顔を知らないもんだから銃を構えたまま固まっちゃいます。
「いつまで睨み合ってるつもりだ」
「貴様、一体……」
とりあえず相手のボディーチェックをしようとするスニーカーですが、すかさずスコッチに銃を奪われてしまいます。沖雅也さんの動きがとにかくシャープで、この人なら簡単に相手の武器を奪えるだろうと思わせる説得力がある。これがマイコン刑事やデューク刑事だと場面が成立しませんw
「人の身体を探る時は、もう少し慎重にやるもんだ」
奪ったものの、スコッチはすぐに拳銃を返却します。この時、スコッチは銃をクルッと回してグリップを差し出すんだけど、スニーカーの拳銃=コルト・トルーパーMkーIIIの4インチに、コルト・ローマン用の小ぶりなグリップが着けられてるのがハッキリ確認出来ます。
銃に興味が無い方には何の事やらサッパリ&全くどーでもいい話でしょうけどw、トルーパーというゴツゴツした銃にローマンの小さなグリップを着けると、見た目のバランスがおかしくなるんですよね。だけど握り心地はその方が良いと感じる人もいますから、これはもしかすると山下真司さんの要望だったのかも知れません。
スニーカーに銃を返すと、スコッチはさっさと立ち去ろうとします。
「待て! 貴様いったい誰だ!?」
「山田署刑事課勤務、滝 隆一だ」
「滝 隆一……あいつがスコッチ」
初登場時(’76年)のスコッチは、まさに氷のようなクールさが強調されてたもんですが、今回のスコッチはやや劇画チックなハードボイルドさで、ネクタイの色も初登場時は冷たいブルー、今回はホットな赤に変化してます。
それはスコッチの人間的な成長を示す側面もありつつ、転勤~復帰の間に沖さんが出演された『大追跡』や『俺たちは天使だ!』で好評だった、ホットかつコミカルなキャラクターも取り入れた結果のNewスコッチなんだろうと思います。
ところがその頃、東京の山田署では、スコッチの度重なる命令無視&単独捜査に上司がハイパー激怒中。実はスコッチ、ちっとも成長してない?w
見かねた七曲署の藤堂俊介係長=我らがボス(石原裕次郎)は、スコッチの身柄をしばし七曲署で預かる事を提案し、山田署側のハイパー激怒を鎮めます。
一方、沖縄に到着した石塚 誠=ゴリさん(竜 雷太)は、先に現地入りした岩城 創=ロッキー(木之元亮)に出迎えられ、ホテルでスニーカーと合流します。
「おっ、スコッチ!」
スニーカーの知らない間に、スコッチもホテルに待機してました。やる事がいちいちキザで、スニーカーはますます気に入りません。
「何か手がかりは?」
ゴリさんの質問にスコッチが答える前に、スニーカーが割って入ります。
「あったって教えてくれやしませんよ。この人はね、何だって1人でやらなきゃ気が済まない人らしいから!」
「スニーカー!」
かつてスコッチに拳銃恐怖症を(荒療治で)克服してもらった恩があるロッキーが、後輩スニーカーをたしなめます。
「スニーカー?」
「ええ、ニックネームなんですよ」
「運動靴か」
「おいっ!」
漫才的な掛け合いですが、スニーカーは真剣に怒ってますw かつてスコッチの初登場時も、ボンがよくこんな風に突っかかってました。
スニーカーは、ボンとの出逢いがきっかけで刑事になり、ボンを殺した犯人を殺しに来たのがきっかけで、七曲署の一員になった男です。そんなスニーカーが、かつてのボンと同じようにスコッチと接してる姿には、ちょっと感慨深いものがあります。
スコッチは、手島が沖縄に拳銃密輸のアジトを持っていた事や、今回の事件で3人も殺した手島に二の足を踏んだ取引相手が、既に手島と縁を切ったらしい事をゴリさんに報告します。
「さすがだな。よくここまで調べ上げたし、読みも見事だ。だが俺は気に入らんぞ。お前、その話をこっちの警察か山田署の上司に報告したのか? してないだろう。してりゃこっちの耳にも届いてる筈だからな」
「ゴリさんには話しました。たった今」
「スコッチ!」
「捜査を続けます」
スコッチは、またもや単独で捜査すべくホテルから出て行きます。やっぱ、ちっとも成長してませんw だけど、それでこそ我らがスコッチです。
ベテラン化し、すっかり人格者になっちゃったゴリさんにこんな態度が取れる若手刑事は、もはやスコッチ以外にいませんからね。そういう人がいないとメリハリが無くて、ドラマはつまんなくなっちゃいます。
「何ですか、あれ!」
「あいつはどうしても、自分の手で手島を捕まえるつもりだ」
山田署でスコッチがマークしていたにも関わらず、その目が届かない七曲署管内で、手島はまんまと現金強奪に成功し、その挙げ句に殺人三昧。スコッチの怒りたるや計り知れません。
だけどスニーカーも、スコッチに負けない位の怒りを手島に抱いてる。
「冗談じゃない、俺が手島を逮捕する!」
すぐに発砲する一匹狼のハードボイルドと、やたら血の気の多い沖縄出身の運動靴。こんなデンジャラスな大男2人の怒りを買っちゃって、手島の運命やいかに!?w
(つづく)
#364 スニーカー刑事登場!
城南署の新米刑事・五代潤(山下真司)は沖縄出身で、米兵のトラックによる轢き逃げで両親を亡くした過去があり、妹の早苗(山下幹子)と2人、肩を寄せ合って不遇な少年時代を過ごして来ました。
それでグレちゃって街のチンピラ達と喧嘩になった時、仲裁に入って事態を丸く収めてくれたのが、在りし日の田口刑事=ボン(宮内 淳)。
新しいスニーカーを買い与えて「人生、もっと大事にしろよな」と声をかけてくれたボンが刑事である事を知って、五代は自分もボンみたいな刑事になる事を決意。
そしてそれを実行した矢先にボンの殉職を知り、他署の刑事なのに仇討ちをしにやって来る。さんざん暴れたせいでクビになっちゃうところを、そういう厄介者が大好きなボス(石原裕次郎)に拾われるワケです。
前任の刑事と新加入の刑事に直接の繋がりがあるのは初めてで、番組にとってボンの存在がいかに大きかったかが伺えます。視聴率も新刑事の登場編としては最高記録となる、40%をマークしました。
また、この回からOPテーマが新アレンジの「太陽にほえろ!メインテーマ’79」に変更されます。私には音楽を語るボキャブラリーが無いもので、アレンジの違いをどう説明すればいいか分からないのですが、グアムで録音されたとにかくカッコイイ曲です。
でも、音楽としてのクオリティーは格段に上がったにも関わらず、この変更に対して視聴者の反応は賛否両論、どちらかと言えば否定的に捉えた人が多かったみたいで、3年後には元のバージョン(厳密に言えば微妙に違うけど)に戻されました。
長らく馴染んで来たものと違うというだけで、新しいものを否定しちゃうのは日本人ならではの気質でしょうか? 私は逆に新鮮な刺激を欲してましたから、新テーマの採用には大賛成だったのですが……
さて、そのメインテーマの変更も影響したのかどうか分かりませんが、長年に渡って民放ドラマのトップを走り続けて来た『太陽』の視聴率が、ここでにわかに下がり始めます。
いや、下がったと言っても20%台、最低でも15%位ですから、現在の基準なら充分にヒット番組なんだけど、『太陽』が初めて裏番組に並ばれ、何度か数字で負けちゃったのが一大事なんです。
その裏番組とは、TBSの『3年B組金八先生』。田原・野村・近藤の「たのきんトリオ」を輩出し、現在まで続くジャニーズ帝国の礎を築いたモンスター番組です。
一般的には『金八』が大ヒットしたせいで『太陽』の人気が下がった、と認識されてるみたいですが、私はむしろ逆じゃないかと思ってます。
『太陽』がすっかりマンネリ化し、つまらなくなった時に、絶妙なタイミングで『金八』という斬新な学園ドラマが現れた。これまで金曜夜8時はチャンネルを日テレに合わせてた人々も、評判を聞いてTBSに乗り換えちゃった。
つまり、7年かけて『太陽』が集めて来たお客の数が上乗せされたお陰で、『金八』は大ヒットしたワケです。運が良かったんですよw
いやホントに、作品の質がいくら良くても、それが順当にヒットするとは限りません。偶然も含めた色んな要素が奇跡的に重なった時にこそ、大ヒット番組が生まれる。『太陽』もそうだった筈です。
『金八』にとって非常にラッキーな事に、この時期の『太陽』はつまらなかった。だって、こんなに『太陽』にのめり込んでる私でさえ、1年以上前からマンネリを感じてた位なんです。
「つまらない」と言っても、作品の質が落ちたワケではありません。むしろ、より深い人間ドラマが描かれてクオリティーは上がってました。でも『太陽』ファンは… 少なくとも私は、『太陽』にそこまで深い人間ドラマは求めてなかったですよ。
いや、深いのは良いんだけど、話がシリアスになり過ぎて辛気臭くなるのが頂けない。どれくらい辛気臭いか、この時期の主なサブタイトルを列挙してみますと……
『秋深く』『やさしい棘』『ともしび』『甘ったれ』『命』『死』『信頼』『雨の中の女』『心の重荷』……
重いよ! 暗いよ! 地味だよ! 真面目すぎるよ! 8時だヨ! 特に『命』→『死』の2連発はキツかったw いやホントに、予告編を観て心底ゲンナリしたのを、まるで昨日の事みたいに憶えてます。
1本1本の内容は良いんです。観れば感動するし、そんな作品を毎週創り上げてたスタッフ&キャストの皆さんを心からリスペクトします。だけど毎週このトーンで来られると、私はキツい。
『太陽』って、もっと熱くてアクティブで楽しいドラマだった筈です。『太陽にほえろ!』っていう意味不明なタイトルが象徴するように、そもそも型破りでアグレッシブな番組だった筈なのに、なんでこんなNHK教育テレビみたいに堅苦しくなっちゃったの?
あと、これは贔屓目で言うワケでも何でもなく、ボンが抜けた穴も大きかったと思います。人気の面もさる事ながら、ムードメーカーとしてのボンの存在がいかに貴重だったか、いなくなってあらためて痛感しました。
純朴で生真面目なロッキー(木之元 亮)は、ボンみたいなツッコミ上手が脇にいると良い味が出るんだけど、ナイーブでストイックなスニーカーが相手だと、2人してどんどん重くなる一方です。
番組初期はマカロニ(萩原健一)と一緒にバカやってたゴリさん(竜 雷太)や殿下(小野寺 昭)も、今やすっかりベテラン然と落ち着いちゃって、画面が弾まない事この上なし。そんなメンバーに合わせて脚本が創られるワケですから、話が重くなるのも必然なんですよね。
そして、これは私の勝手な憶測なんだけど、岡田プロデューサーは『特捜最前線』の超シリアス路線に、ちょっと触発されてたのかも知れません。
そう思うのは、私自身が数ある刑事ドラマの中で「ひょっとすると『太陽』より面白いかも?」って、初めて脅威に感じたのが『特捜最前線』だったりするからです。(ちゃんと観たのは最近になってからですが)
アクションでも謎解きでもなく、レギュラー刑事達の熱い心意気こそを真摯に描いてる点で、最も『太陽』に近い刑事ドラマが『特捜』だったんですよね。
何にせよ、マカロニやジーパン(松田優作)に比べて、ロッキーもスニーカーも躍動感が足りない、明るさが足りない、サプライズが足りない。若手がこれでは画面も弾まず、重くなる一方です。
このクソマジメ集団に、風穴を開ける人物が必要です。パターン化され硬直化した世界観をぶっ壊す人物が必要です。沈みかけた太陽を再び浮上させられるのは、そんな型破りな人物しかいません。
救世主は、もうちょい後になってから七曲署にやって来ます。
#365 その一瞬…!
ボンが殉職して以来、自分が撃たれて死ぬ夢ばかり見てしまうゴリさんの苦悩。冒頭いきなりゴリさんの悪夢……すなわち「ゴリさん殉職」のシーンが映像化されてて、私は度肝を抜かれました。
何と言えば良いか、この番組にとって「殉職」は卒業セレモニーみたいなもんですから、事前にその予行練習を見せられたようなバツの悪さを感じちゃったんですね。
ただ、この時点ではゴリさんまで殉職させるつもりは毛頭無かったでしょうから、ちょっとしたファンサービス程度の意識で創られた場面なのかも知れません。
# 366 真夜中の殺意
この回ではロッキーがボンの死を引きずる姿が描かれます。殉職刑事の存在感がこれほど長く引っ張られるのは異例の事で、ボンがいなくなって視聴を継続するか否か迷ってた私は、まんまと『太陽』地獄に足止めを食らう羽目になりますw
エピソード自体は地味な内容でほとんど憶えてないんだけど、深夜にロッキーがあのヒゲ面で、線路の上を「シュッシュッ」とか言いながら延々と走り続ける、悪夢のような光景だけが脳裏に焼き付いてますw
あんな真夜中にロッキーは、何のつもりで汽車ポッポしてたんだろう……?
#367 跳べ!スニーカー
やたら人懐っこい情報屋のオジサン(今福正雄)をゴリさんがあんまり冷たくあしらうもんだから、同情したスニーカーが仲良く接したばかりに、嬉しくなったオジサンが張り切り過ぎて危険な事件に首を突っ込み、殺されてしまう。
オジサンに冷たくする理由を最初にゴリさんがハッキリ言えば済む話なのに……っていうツッコミ所はあるものの、自暴自棄になったスニーカーが暴力団の事務所に単身で乗り込み大暴れする等、新人刑事のアクティブな活躍がしっかり描かれた名編です。
ところが、これを最後に’79年の秋から年末にかけては、地味で暗くて辛気くさいエピソードばかりが続く事になります。若い視聴者はどんどん『太陽』から離れ、裏番組の『金八』へと流れて行っちゃうのでした。
#375 護送
殿下が千葉県に出張して東京まで護送する犯人の役で、平泉 成さんが第17話以来7年ぶりのご登場。以後、番組終盤まで何度となくゲスト出演される事になります。
『ルパン三世/カリオストロの城』や『刑事コロンボ』等で声優としても知られる石田太郎さんも、地方のベテラン刑事役で出演されてました。
この回、私は中学の修学旅行で本放映が観られなかったという思い出があります。まだビデオデッキも無かったんで家族に頼んで録音しといてもらったんだけど、これがまた事のほか静かな回で、音だけ聴いても何が起こってるのやらサッパリ分かりませんでしたw
☆1980年
#388 ゴリラ
新年第1弾って事で、本当に久しぶりの明るいエピソード。スニーカーの後輩としてセミレギュラー入りした、交番勤務の吉野巡査(横谷雄二)がお茶汲み係のナーコ(友 直子)にデートの申し込みをするという、ほんわか展開。そういうの、大事だと思います。
ゴリラっていうのは、横谷さんが刑事役(勝野 洋さんの部下)でレギュラー出演した『俺たちは天使だ!』の中で、探偵の沖 雅也さん達からゴリラ呼ばわりされてた事を受けての楽屋オチですね。
ちなみに『太陽』のゴリさんは「ゴリ押しで捜査する」から「ゴリさん」なのであって、ゴリラのゴリではありません。今さらですが、念のためw
#393 密偵
警察の捜査機密を暴力団に横流しする内通者を突き止める為に、山さん(露口 茂)が密偵の任務を命じられます。
あの山さんがハードアクションに挑戦!ってな事で話題になり、久々にワクワクしながら放映を待った作品ですが、ただちょっと走ってジャンプしながら拳銃を撃つだけの淡白なアクションで、正直ガッカリしましたw
まぁ、山さんにいきなりマッチョな格闘技を披露されたらビックリするけどw、内容自体が重かったのも残念でしたね。この時期の『太陽』は、誰が何をやっても何だか重苦しくて、ちっともカタルシスが得られませんでした。
#394 鮫やんの受験戦争
そんな重い空気を吹き飛ばすかのように、セミレギュラーの鮫やん(藤岡琢也)が約3年振りに登場してくれました。マカロニ時代に市川森一さんが生み出したキャラクターで、あまりに八方破れなもんで刑事をクビになり、それ以降は探偵、結婚相談所、モデル事務所など、自分で事業を起こしては倒産の繰り返し。
今回の事業「受験コンサルタント」は、明らかに『金八』を意識した設定ですねw ずっと王座にあぐらをかいてた『太陽』が、他局のヒット作を意識するなんて!
それはともかく、鮫やんの明るさとムチャクチャぶり、その型破りな痛快さこそが当時の『太陽』に必要であった事を、製作陣も薄々分かっておられたのでしょう。実際、ホントに久しぶりに心底楽しめるエピソードでした。
#400 スコッチ・イン・沖縄
これまでの『太陽』には全く無縁の言葉だった、「テコ入れ」。『俺たちは天使だ!』をヒットさせて更なる人気を得た沖雅也さんが、沖縄ロケ編でいよいよレギュラーとして本格復帰される事になりました。
嬉しかったです。私も『俺天』にハマって沖さんの大ファンになってたし、スコッチのハードさとスマートさは当時の『太陽』に著しく欠けてる魅力でしたから。
オープニングの映像も実にアクティブなものに一新され、久しく見られなかった派手なアクションシーンも復活しました。私はねぇ、ホントに涙が出るほど嬉しかったですよw
だから『金八』には感謝すべきかも知れません。あのまま『太陽』が勘違いしてシリアス路線を突き進んでたら、私はファンをやめてたと思います。その方がより健康的な人生を送れたかも知れないけどw
#401 紙飛行機
余命僅かな幼い息子を、夢だったセスナ機に乗せてやろうとする逃走犯を、黙認しようとするスニーカーと、あくまで阻止する姿勢を崩さないスコッチとの激しい対立。
思いつめたスニーカーはいったん刑事を辞めちゃうんだけど、スコッチの非情さの裏に隠された、本当の意味での優しさを知って……
こういった刑事どうしのぶつかり合いも長らく見られなかった要素で、スコッチの復帰によってドラマもアクションもにわかに熱を帯びて来ました。
だけど、一度落ちた視聴率はそう簡単には戻りません。以前より人間味を増したとは言え、スコッチも基本的にはシリアスなキャラクターですから、重苦しい空気を払拭したとはまだ言えませんでした。
#402 島刑事よ、安らかに
殿下が正体不明の敵に襲撃され、追い詰められて行くハードアクション編。実は映画マニア達の犯行で、「スナッフフィルム(殺人ドキュメンタリー)」の主役に殿下を選び、カメラが回る前で公開処刑しようという過激な計画。
その殺人映画のタイトルが『島刑事よ、安らかに』だったというオチで、直前に殉職がアナウンスされたばかりの殿下が、この回で死ぬものと思い込んでた視聴者は全員ズッコケたのでしたw
更に第406話は『島刑事よ、さようなら』というサブタイトルで、当時中学生になったばかりの名子役・斉藤こず恵さんと殿下の出逢い、そして別れが描かれました。
やや荒唐無稽なストーリーといい、あからさまに戦略的なサブタイトルといい、ちょっと前まで紳士ぶってた『太陽にほえろ!』も、いよいよ必死な姿を見せるようになって来ました。
それで良いのだと私は思います。落ち着いちゃったらテレビ番組はお終いです。惰性で続いたとしても朽ち果てて行くだけです。格好つけずに、どんどんアグレッシブに仕掛けるべきなんです。
巨人戦であろうが野球中継を入れなかった『太陽』の放送枠にも、この頃から時折ナイター中継が入るようになりました。チャンピオンの座を逐われた『太陽』は心機一転、チャレンジャーとして新たなスタートを切って行くのでした。
#407 都会の潮騒
ボンはロッキーが加入して先輩の立場になってから、みるみる頼もしく成長して格好良くなりました。
そして最初は熊オジサンみたいだったロッキーも、スニーカーの先輩になってからヒゲの量が減って精悍な顔つきになり、身体は程良くマッチョになってどんどん格好良くなって来ました。
その甲斐あって(?)後のマミー刑事=交通課の早瀬婦警(長谷直美)がロッキーと急接近します。二人を結婚させる事を、プロデューサーが急きょ思いついたのでしょうw
#408 スコッチ誘拐
スコッチが凶悪な誘拐犯(石橋蓮司)の一味に囚われるも、それは人質の女子高生(白石まるみ)を救う為の、捨て身の作戦だった……
意外と活劇的なエピソードが少ないスコッチの、華麗なアクションがたっぷり堪能出来る貴重な作品です。走行中のトラックから砂利の山に飛び降りる等、けっこう無茶なスタントにも好んでチャレンジする、沖雅也さんの役者魂に乾杯!
女子高生が解放され、人質がスコッチ1人になった時、「こいつは危険だな」って、スコッチじゃなくて犯人たちの生命を心配するボスと山さんが笑えますw
#414 島刑事よ、永遠に
「ついにベテラン刑事までもが犠牲に!」みたいな報道もされた、殿下の殉職編です。でも、別に戦力外だから降ろされたワケじゃなくて、小野寺昭さんは「早く私を殺して下さい」って、何年も前からプロデューサーに切願されてたんだそうです。
ゴリさんも山さんも、長さん(下川辰平)までもがw、みんな早く死にたくて死にたくて仕方がなかった。そりゃそうかも知れません。7年も8年も同じキャラクターを演じ続けるのって、その立場になってみないと想像もつかない、色んな苦労と葛藤があるのでしょう。
だけどベテラン刑事まで「殉職」にしなくても、転勤とか退職で良かったのでは?って、思いますよね。たぶん製作陣も、ボンの翌年にまた殉職ってのは避けたかった筈です。
ただ、小野寺さんの8年間にも及ぶ『太陽』への貢献を思えば、殉職という花道で送り出してあげたくなるのが人情、って事なんだろうと思います。
俳優さんご自身にとっても、すっかり染み付いた役のイメージを拭い去ってリセットする意味で、中途半端な転勤とかよりも、すっきり後腐れ無く「殉職」するのが望ましいみたいです。
小野寺さんのリクエストは「あっけなく」そして「殿下らしく、あえて死に顔は見せない」って事で、交通事故死という幕切れになりました。治療を終えてアメリカから帰国する婚約者=恵子(香野百合子)を、空港まで迎えに行く道中での悲劇。
すっかり元気な姿で空港に降り立った恵子を待っていたのは、神妙な面持ちで立ち尽くす藤堂係長=ボス。言葉を発する事が出来ないボスを見て、全てを察する恵子。
このラストシーンはジーパン殉職編における、ボスとシンコ(高橋惠子)の電話を介した無言のやり取りによく似てます。初めて殉職編を執筆された畑嶺明さんの、先輩ライターへの敬意を込めたオマージュなのかも知れません。
それにしても、番組スタート時からのレギュラー刑事が次回からいなくなるってのは、新人刑事の降板劇とはまた違う、とても非日常的で不思議な感覚がありました。
でも、この時の『太陽』は古い殻を脱ぎ捨て、あらためてゼロから再出発する必要がありました。私はこれで大正解だったと思ってます。
殿下の殉職劇は久々に視聴率30%をマークしましたが、全体的にはまだ低調なまま。救世主はいよいよ、この翌週に現れるのでした。
(つづく)