テレビ業界が最も元気だったのは1970年代だと思いますが、その勢いを維持しつつ予算的な余裕もあった(つまりクリエイター達にまだ冒険が許された)'80年代には、あの時期にしか生まれ得なかったであろう個性的な作品がいくつも誕生しました。
刑事ドラマがそろそろ飽きられ始め、ブームが下火になったせいもあって低視聴率にあえいだ『大激闘/マッドポリス'80』でさえ、タイトルを『特命刑事』に変更させられ無理やりテコ入れされる憂き目には遭ったものの、それでも2クール(半年)放映されたのは業界に余裕があればこそでしょう。
そんなマッドポリスの後を受け、'80年10月に日テレ火9枠でスタートしたのが、勝新太郎さんが主演し、自ら大半のエピソードを監督された、勝プロダクション制作による異色の……いや、あまりに異色すぎる刑事ドラマ『警視―K』でした。
ストーリーは、あって無いようなもの。脚本は一応用意されるんだけど、役者たちには渡さず、リハーサルもさせずに即興で芝居させる。それでストーリーがどんどん変わってしまい、真犯人が予定と違う人物になっちゃうことも日常茶飯事w
それは勝新さんが刑事ドラマの嘘っぽさや型に嵌まった芝居を嫌い、リアリティーを徹底的に追求した結果の演出方で、これは究極のアンチ『太陽にほえろ!』番組とも言えましょう。
そのお陰で、確かにストーリーの予測が出来ない、登場人物が次に何を言って何をしでかすか全く分からない、緊張感と臨場感に満ちた作品に仕上がったワケだけど、テレビ番組の過剰な解り易さに慣らされた大半の視聴者はついて来れず、マッドポリス以上の低視聴率とクレームの嵐に見舞われたという顛末は、以前の記事にも書いた通りです。
それでも日テレは予定通り2クール放映する気でいたんだけど、妥協を許さない勝監督が撮影に時間をかけ過ぎ、スケジュールが押しまくっていよいよ放映に間に合わなくなり、涙を呑んで1クール(全13話)で打ち切りにしたという顛末も、以前に書いた通り。
だから、いっさいの冒険が許されなくなった現在のテレビ業界じゃ、絶対に生まれ得ない作品なんですね。たぶん今後も二度と、こんなドラマ創りは出来ないだろうと思います。
☆第2話『コルトガバメントM1911』
(1980.10.14.OA/脚本=柏原寛司&勝新太郎/監督=勝新太郎)
幸いなことに、この回は殺人に使用された拳銃=COLTガバメントの出所を辿って行くだけのシンプルなお話なので、この番組でよく見られる「破綻」は起きてませんw
けど、それでも「説明」がほとんど省かれた上に話が「脱線」しまくるのでw、ちゃんと集中して観ないと途中で何をやってるのか分からなくなります。そこが今観ると新鮮で面白い!
とにかく普通にレビュー出来るような作品じゃないのでw、私の印象に残ったセリフをいくつかピックアップし、このドラマの魅力を少しでも伝えられればと思います。
「ブクブク太った豚野郎!」
↑ これは、連続殺人鬼役の堀内正美さんが、主人公「ガッツ」こと賀津警視と初めて対面するなり言い放ったセリフですw 勝さんご自身が言わせないと絶対に出ないセリフですよねw 当然、脚本にも書かれてなかった筈です。
で、犯人が逃げるワケでもなく殺害動機らしきものを語り始めるんだけど、これが何を言ってるのか意味がサッパリ解んないw
「子供の頃ね、クモ……女郎グモの巣に引っ掛かったの。あんまり血を吸われたもんだから、私、返してもらったの。母親面して……自分の子供の血まで吸うんだから。朝も……昼も……夜も……汚ならしい!」
たぶん、母親が売春をして稼いだ金で生きて来た、特殊な生い立ちを語ってるんだろうと思うけど、それが連続殺人にどう繋がったのか全然解んないw
勝新さんはきっと、ここで「あいつ、俺のことを笑いやがったんだ。だから……」とか「殺すつもりは無かったんだよう、本当だよ!」なんて犯人が釈明(解説)を始めちゃう『太陽にほえろ!』式の作劇をとにかく避けたかったんでしょう。
今宿署捜査一課に勤務する賀津警視を取り巻くレギュラー陣は、本庁から毎回派遣されてエリート風を吹かせる辺見刑事(金子研三)、今宿署捜査一課長の藤枝(北見治一)、そして賀津を「親分」と呼んで慕う(割りにはバカにもしてるw)若手刑事の谷(谷崎弘一)と水口(水口晴幸)。
リアルな芝居を追求してた割りに、エリートの辺見刑事が1人だけオーバーアクションで浮きまくってるんだけどw、これも既製のドラマに出てくる刑事たち(の分かり易すぎる芝居)を皮肉るための演出だろうと思います。
ただし、勝監督はけっこうベタなギャグも随所に挟んで来るので、実は単に面白いと思ってやらせてるだけかも?w
ちなみに若手刑事コンビ役に日テレは『俺たちは天使だ!』でブレイクした柴田恭兵さんと渡辺篤史さんを推薦したんだけど、売れっ子を嫌う(リアリティー追及のため撮影以外でも一緒にいたい)勝監督は却下。『あさひが丘の大統領』を終えた宮内淳さんも勝さんとお見合いしたけど破談になったんだそうです。
「フライドチキンだなんてこの野郎、英語なんか使いやがって。鶏の天ぷらじゃねえか」
↑ これはセミレギュラーの川谷拓三さん扮する情報屋=尾張が、賀津と一緒に重要参考人を尋問する際に言ったセリフ。川谷さんのアドリブかも知れないけど、いかにも勝新さんらしいセンスですw
ちなみに『警視―K』のDVDには日本語字幕の表示機能がついてます。勝監督が自然体を追求するあまり役者たちに声を張らせなかった為、当時「セリフが聞き取れない!」とのクレームが殺到したことを受けての対処でしょう。
「東京で手に入らない物ないもんね。だから人のやらない事やりたくなっちゃうんじゃないかな? ね、これからもっとおかしな人間増えちゃう」
↑ これも川谷さんのセリフで、前述の犯人自身の独白より事件の本質をよく表してると思います。
「そこを歩いてる2人! 肩を組んで歩いてる若い2人! 離れて歩く! 離れる!」
↑ 本作のヒロインで賀津の愛娘=正美(奥村真粧美)がボーイフレンドと肩を組んで歩いてるのを、パトロール中にたまたま見かけた賀津が覆面パトカーのスピーカーで呼び掛けたセリフw
こういうお茶目さがあるから、何をやらかしても勝新さんって許されちゃうんですよねw
「パパは煙草をよく吸うんだから、おみおつけを飲まなきゃダメ」
↑ 奥村真粧美さんは現実でも勝新さんの愛娘で、二人の会話はほとんど全てアドリブ、ふだんの関係をそのままカメラに収めてる感じ。親子というより歳の離れた愛人にも見えちゃうんですよね。
「もしこのオムレツが世界中で1つしか無いと思ったら、もっと美味しく食べられるかもね」
「……なんて言うんだろうな。明日幸せが来る、って思ってる時が一番幸せかも分かんないな」
「そうそう、その言葉がぴったり」
賀津は妻の玉美(中村玉緒w)と離婚し、正美とキャンピングカーで二人暮らししてる設定。ファーストシーンやラストシーンは父娘の何げない会話で始まったり終わったりすることが多いです。
ほんとに何げない日常会話(もちろんアドリブ)で、事件の内容といっさいリンクしてないのがまた斬新ですw