☆第3話『自白への道』(1980.10.21.OA/脚本・監督=勝 新太郎)
この第3話は佐木隆三さんの小説(ノンフィクション?)『殺人百科』より「何処へ行ったの?」というエピソードをピックアップし、脚色した作品らしいです。いや、脚色したというより粗筋だけ拝借し、例によって全て即興の演出&演技で創り上げたんでしょう。
いつものベタなユーモアは控えめに話は淡々と進み、全編BGMもSEもいっさい使わない!という徹底したドキュメントタッチ。
それでも全く退屈せず正味45分があっという間に過ぎますから、勝新太郎さんが役者としてだけじゃなく映画監督としても非常に優れておられたことがよく分かります。
そう、サイズは小さくてもこれはれっきとした「映画」で、劇場公開されても遜色ない作品だと私は思います。
2人の若い女性が失踪し、その両方と交際してたらしいチャラ男=池山(市道浩高)を、賀津警視(勝 新太郎)は重要参考人として今宿署に連行します。
証拠はなく、池山自身も半笑いで無実を主張するんだけど、こいつが2人を殺して遺体を遺棄したと確信する賀津は、執拗に取り調べを繰り返して地道な捜査で外堀を固め、徐々に池山を追い詰めていきます。
で、2人目の被害者である英子が生前、池山に聴かせたくてカセットテープに吹き込んだラブソングの歌声を聴かされ、情にほだされた様子の池山は、ついに殺害を認めるのですが……
池山が遺体を埋めたと自白した山をいくら掘り起こしても、なにも出てこない。焦燥する賀津をせせら笑いながら、池山はこう言います。
「英子の歌聴いとったら可哀想になってもうてな。どうせ誰かに殺されたんやったら、俺が殺した言うた方が喜ぶ思うてな!」
万策尽きた賀津は、池山がただひとり心を許す祖父(今福正雄)に泣きつき、説得を依頼します。「もし罪を犯したなら、責任を取らなあかん。おじいちゃんも一緒に責任取るさかい」と優しく祖父に諭された池山は、今度こそ本当に遺体を埋めた場所を自白するのでした。
で、賀津に遺体捜索現場の立ち会いを依頼され、祖父は「お供します」と答えたのですが……
当日、捜索が始まる1時間前に池山の祖父が自殺を遂げたという報告を受け、賀津は呟きます。
「お供しますっていうのは、そういう意味だったのか……」
そして賀津から「お前のじいちゃん、責任を取って死んだぞ」と聞かされた池山は、初めて人間らしく涙を流すのでした。
淡々とした演出だからこそ、このエピソードは見応えがありました。自殺の報告を受けた時の賀津の呟きも、普通の役者はありったけの感情を込めるもんだけど、勝さんはあえて棒読み。どっちをリアルと感じるかは人によるにせよ、「さあ、ここ! 泣くところでっせ!」ってな演出をされるより、どう受け止めるか観客自身に判断させる演出の方が絶対に正しい!と私は思うワケです。
とかく変人扱いされがちだった勝新さんだけど、こうした演技といい演出といい、そして妥協を許さないばかりに撮影が放映日に間に合わなくなっちゃったっていうクリエイターとしての姿勢といい、何もかも人一倍「正しい」んですよね!
正しく生きようとすればするほど、この世の中じゃ「ヘンな人」「迷惑な人」と見なされちゃう。まあ、麻薬をパンツに隠すのは正しくなかったかも知れないけどw、あの時の名言「もうパンツは穿かないよ」はエンターテイナーとして実に正しい!w いやホント、昨今の有名人は見習った方がいいです。
「言っとくぞ。ヒゲは絶対生やすなよ。大嫌いなんだから」
↑ これは本庁のエリート刑事=辺見(金子研三)が、エリート風を吹かせながら所轄の刑事たちに言ったセリフ。
その理由は勿論、いつも結果的に辺見をコケにしちゃう天敵=賀津がヒゲを生やしてるから。辺見は(立場的には格下の)賀津が嫌いというより、怖いんでしょうねw
聞き込んだ情報を(ライバル意識から)2人同時に報告しようとする若手刑事コンビ(谷崎弘一&水口晴幸)が、賀津に「ややこしいじゃないか!」と叱られ、どっちが報告するかジャンケンで決めようとする場面。
「ジャンケンじゃなくてどっちかが喋れよ、バカ野郎」
「……どっちがいいですか?」
「どっちがいいですかってお前、ジャンケンで勝った方が喋ればいいじゃないか」
「…………」
勝新さんは普段から、そんなことばっか仰ってたんでしょうねw
ラストシーン、いつものようにキャンピングカーで食事しながら、ちょっと落ち込んでる賀津を元気づけようと、愛娘の正美(奥村真粧美)がアメリカのスタンダップ・コメディみたいな下らないジョークを語って聞かせるんだけど、賀津はオチがついて5秒ぐらい経ってから、ふと思い出したように笑うんですよねw
「私が話してる時に笑わないで黙ってる時に笑うの、どうしてなんだろう?」
賀津は……というより勝新さんは、多分そのジョークが面白くて笑ったんじゃなく、そんな下らない話を我が娘から聞かされてる状況が、ふと可笑しくなって笑っちゃったんでしょうw
勿論このやり取りも脚本には無くて、たぶん勝監督は真粧美さんに「何を喋ってもいいからとにかく賀津を笑わせてくれ」とだけ指示してた。それで飛び出した話があまりに下らなくてw……と、そんな顛末だったんじゃないでしょうか。
ステキな親子関係ですよねw いやホントに、毎回癒されるし羨ましいです。