皆さんとっくにお気づきかと思いますが、このところメディアで'80年代のポップカルチャーが懐古される機会が増えてます。
先日レビューしたアメリカ映画『ブリグズビー・ベア』の中で、マーク・ハミル扮する誘拐犯が子供のために自主製作してたテレビ番組も、実は'80年代の子供向けドラマをモチーフにしたもので、撮影にもわざわざ'80年代の機材を使ったというこだわりよう。
映画の企画自体、恐らく'80年代の子供番組を再現したい!っていう願望からスタートしたんじゃないかと推察します。今、'80年代に多感な時期を過ごした(つまり私より一回り下の世代)がメディアの中心で活躍してるんですよね。
ちょっと前までは私ら世代(昭和40年前後の生まれ)がメディアの中心にいましたから、'60~'70年代を懐古する作品が多かったけど、これからしばらくは'80年代ブームが続くことでしょう。
私自身はやっぱり'70年代への愛着が強いんだけど、好きな映画を挙げて行くと'80年代の作品が圧倒的に多いんですよね。『リーサル・ウェポン』や『インディアナ・ジョーンズ』等の各シリーズ、大林さんの尾道三部作なんかも全部'80年代に生まれてるし、私のそっくりさん(ハリソン・フォード)も'80年代を代表する映画スターと言えましょう。
『太陽にほえろ!』だって実は'70年代より'80年代のエピソードを観返す方が多いし、『西部警察』も『あぶない刑事』も'80年代、あの時代じゃないと生まれ得なかったBIGタイトルです。
昭和最後の10年間でもあった'80年代は、軽薄だとか中身が無いみたいに言われがちだけど、こうして考えると相当なものを残してますよね。
また10年も経てば'90年代のブームが順当にやって来るんでしょうか? いや、そんなことはもう起きないような気がしてなりません。
'90年代の刑事ドラマと言えば『踊る大捜査線』だけど、あれが『太陽にほえろ!』や『西部警察』『あぶない刑事』みたいに懐古されたり新作が創られたりするような光景が、私には全く想像できません。
2000年以降に至っては、そういうBIGタイトル自体が生まれてないですからね。『刑事ゆがみ』や『MIU404』がいくら面白くたって、10年後には間違いなく忘却の彼方。現時点ですでに「言われてみればそんな番組もあったね」てなもんでしょう。
AKB48やEXILEや『君の名は。』や『鬼滅の刃』等が将来レジェンドになり得るんでしょうか? みんなピコ太郎をちゃんと憶えてますか? 記憶に残るのはイチロー選手や大谷翔平くんみたいなアスリートだけでは?
そうなった理由は、メディアが多種多様になって誰もが知ってるスターや作品が生まれにくい、っていうのも確かに大きいけど、それより何より、映画も音楽も何もかも、コンピューターを使うようになって無味乾燥になっちゃったのが一番じゃないかと私は思ってます。
『ブリグズビー・ベア』の誘拐犯がこつこつ創ったニセのTV番組が、もしCGだったら私は号泣したりしなかったはず。作者がいくら想いをこめてもデジタルの映像からは伝わりにくい。アナログだからこそ子供への愛情が滲み出て泣いちゃうワケです。
あれって何かに似てるなあと思ったら、私の大好きな大林宣彦監督の映画と同じ感触なんですよねw まさに『ねらわれた学園』とか『ハウス』と通じ合う世界で、人間の温かみに溢れてるワケです。
もしかしたら、幼い頃からデジタルに慣れ親しんだ世代は、デジタルにこそ懐かしさを感じるようになるのかも知れないけど、アナログの温かみを知ってる我々には到底ムリなこと。
だから、急速にデジタルが台頭した'90年代以降のポップカルチャーを懐かしく思うことは、少なくとも我々世代にはあり得ないんじゃないでしょうか?
刑事ドラマにデジタルはあまり関係ないかも知れないけど、『踊る大捜査線』の映画シリーズにはやっぱり温かみが感じられません。ヒットさせることだけを計算して作った、作者たちの姿勢にデジタルを感じるワケです。
いま現在のエンタメの大半がそうなってるからこそ、我々はアナログ時代の作品をつい懐かしんでしまう。そういう事なんじゃないでしょうか?