せっかく追い詰めた銀行強盗犯を、新入り刑事=春日部(世良公則)のドジによって取り逃がした藤堂チームだけど、強奪された800万円の中に新札が含まれていたことが判明し、そのナンバーを手がかりに捜査を開始します。
引き続き春日部の「ヘイチ号」に同乗していたドック(神田正輝)は、捜査のイロハを厳しく指導するのかと思いきや、ラジオから聴こえるプロ野球のナイター中継に眼を輝かせるのでした。
「おいおい、巨人・広島戦じゃねえか」
春日部も嬉しそうに頷きます。
「広島・巨人戦ですね」
「……だから、巨人・広島だろ?」
「広島・巨人です」
広島出身の春日部は、どうやらバカがつくほどのカープ・ファン。捜査そっちのけでドックとの激しい口論が始まります。
「冗談じゃありませんよ、山本浩二に決まってます!」
「絶対に原だ!」
このブログを読まれてる読者さんの世代なら説明不要かと思いますが、山本浩二さんと原 辰徳さんは当時の両球団を代表する人気プレーヤー。お二方とも監督になられましたね。
「浩二です!」
「原!」
「俺がどうかしました?」
そこにわざとらしいタイミングで現れたのは、ジプシーこと原刑事(三田村邦彦)。「原 昌之」という役名はジャイアンツの原選手と「島 公之(殉職したデンカの本名)」を組み合わせたものと思われます。
「山本さんでしたっけ?」
「原だよ、俺は」
「山本さんならいいのに」
このシーンの会話は、これでおしまいw ジプシーがいったい何をしに現れたのか、不明のままですw
当時『必殺仕事人』シリーズとの掛け持ち出演で寝る間もなかった三田村邦彦さんが、こんな他愛ないギャグだけの為にスケジュールを割いて、わざわざ夜間撮影に参加してくれたのかと思うと涙が出ますw まぁ、三田村さんも駄洒落がお好きですからねw
翌日、例の新札が自動車販売店で使用されたことが判り、一括払いで新車を買った田上賢一(河合 宏)という若者に容疑が絞られます。コピーされた免許証の顔写真を見て、春日部はまたもや大声を張り上げます。
「あっ、こいつ! あいつだっ!!」
田上は、初出勤の道中で春日部が車を追突させ、乱闘騒ぎになったツッパリ三人組の一人なのでした。
暴走族連中から三人がよくタムロする場所を聞き出した春日部は、レストラン「パークサイド」で田上の仲間二人(中田譲治、長谷一馬)を見つけます。第1話で犯人(水谷 豊)たちの溜まり場として登場した店も同じ「パークサイド」でした。
しかし二人は、春日部が刑事を名乗っても信じようとしません。警察手帳を見せても「どこのオモチャ屋で買ったんだよ」と鼻で笑われ、怒った春日部はまたもや乱闘を始めw、駆けつけたゴリさん(竜 雷太)に叱られるのでした。
「俺もあいつと同じデカだが、信用出来んか?」
ゴリさんに睨まれ、途端に素直になるツッパリ二人組ですが、田上の居所は知らないと言います。自分の車を持たない田上を、彼らは正式なメンバーとして認めてないのでした。
「ま、見習いみたいなもんですね」
「なんで俺の顔見るんだよ!?」
「よせ!」
いちいちカッカする春日部に、田上が現れるまで店の表で張り込むことを命じたゴリさんは、二人組とコーヒーを飲みながら、巧みな尋問で田上の恋人の存在を聞き出すのでした。
一方、表で張り込む春日部は、ネクタイで汗を拭きながらw、ふと広島にいる姉=春日部正子に想いを巡らせます。その正子に扮する有吉ひとみさんは、かつて殿下(小野寺 昭)の最初の恋人を演じた女優さん。番組が10年以上も続くと複数回ゲスト出演する俳優さんも増えてくるワケだけど、レギュラー刑事の身内(すなわちセミレギュラー)キャラを二人も演じたのは、おそらく有吉さんだけです。
それはともかく春日部のネクタイは、交番巡査から刑事に昇格したお祝いに正子がプレゼントしてくれた物なのでした。それを汗拭きに使っちゃう春日部に悪意はありません。ただ単にガサツなだけなんですw
「姉ちゃん……俺、頑張るけぇの」
仕事中に感傷に浸ってた春日部は、尋問を終えたゴリさんに呼ばれ、慌てて立ち上がります。
「この通りを五百メートル行った所にラボンヌという喫茶店があるんだ」
「いや、コーヒーだったらこの店でいいじゃないですか」
「その店で田上の恋人が働いてるんだよ」
「恋人ですか? だってアイツまだ未成年じゃないですか!(怒)」
「未成年だって恋人ぐらいいるさ」
そりゃそうですよねw 田上の恋人=大島裕子を演じるのは、『太陽にほえろ!』常連ゲストの一人・立枝 歩さん。第1話で犯人=水谷 豊さんの恋人を演じた鹿沼えりさんと同じ役どころです。
喫茶「ラボンヌ」でバイト中の裕子を張り込むことになった春日部は、店の向かい側にある名画座でリバイバル上映中の映画『カサブランカ』の看板を見つけ、眼が釘付けになります。つくづく集中力のない男ですw
「ボギー……」
『カサブランカ』の主演スターは、言わずと知れたボギーことハンフリー・ボガード。どうやら春日部は、大のカープ・ファンであると同時に熱狂的なボギー・ファン。ポケットからダサい帽子を取りだし、其処に来た目的も忘れてボギーの物真似を始める春日部は、通りがかりの女子高生たちに鼻で笑われるのでしたw
さて、バイトを終えた裕子は一人で公園へと向かいます。どうやら田上と待ち合わせているようで、春日部はジプシーと合流して様子を伺います。
するとタイミングの悪いことにナンパなチンピラたちが裕子に絡み始め、放っておけなくなった春日部はジプシーの制止を振り切り、またもや乱闘をおっ始めるのでしたw
すぐ近くまで来ていた田上は、それを見て逃走。またもや春日部の純情・熱血キャラが裏目に出ちゃいました。
でも、ピンチを救ってくれた春日部に心を許した裕子は、田上が強盗に走った理由はたぶん車が欲しかったからだと打ち明けます。
「バカヤロウ! たかが車の為に銀行強盗までやるこたねえだろうがっ!!」
「私に怒ったってしょうがないじゃない!」
「あっ、わりぃ、ごめん」
「……でもね、彼の気持ちも解るような気がするの。だってさ、私たち何にもないんだもん」
「何にもない?」
「そう。田舎から出てきて、安いお給料であくせく働いて、自分をすり減らしていくだけだもん。たまんないわよ」
貧乏で車も持てないせいで、暴走族にさえ正式に入れてもらえなかった田上に、春日部はシンパシーを抱き始めます。
「せめて、暴走族の仲間内ぐらいでは一人前の顔がしたかったのよ」
「……俺だって、広島の田舎から出てきたんだよ。大学受験に失敗した年にオヤジが死んでね。今さら田舎にも帰りたくなかったし……ま、一つ間違えば俺だって、あんたの彼氏みたいになってたかも知れないな」
「でも、あなたはお巡りさんになったわ」
「そう。いや正直言うとな、俺が警官になったのは白バイやパトカーに乗れると思ったからなんだよ」
「うそ」
「ホントさ。でも間違って刑事になっちゃったよ、俺」
「ふふ、バカみたい」
この辺りも、拳銃を撃ってみたかった第1話の犯人と、拳銃を持ちたくて刑事になったマカロニ(萩原健一)との関係を彷彿させます。「一歩間違えれば俺だって……」っていうのが『太陽にほえろ!』の基本スピリットであり、'72年当時としては画期的な作劇だったんですよね。
さて、すっかり春日部と打ち解けた裕子は、田上が訪れるかも知れない自分のアパートへと案内しますが、いざ実際にアパート前で裕子を待ってる田上を見つけると、反射的に叫んでしまいます。
「賢ちゃん、逃げてっ!!」
「バカヤロウ、なんちゅうこと言うんじゃお前はっ!!」
広島弁で裕子を怒鳴ってから、今度こそ逃がすまじと田上を追いかける春日部。すると今度は、例の田上の仲間二人組が拳銃を持って田上に襲いかかります。その目的は、田上が銀行で強奪した現金の詰まったバッグ。
「テメエら、それでも田上の仲間かっ!? 汚ねえっ!」
怒った春日部は、田上を追うことも忘れて二人と乱闘を始めますw そして春日部も拳銃を取り出しますが、逆さまに持ってグリップを突き出す例の持ち方で、これじゃ撃つことは出来ません。
そう、春日部にとって拳銃は撃つものではなく、悪党を殴る為の道具なのでしたw
そのグリップの形状から、春日部が使うコルト・NEWローマンMk-III 2インチは、お馴染みのMGC製ではなくコクサイ製であることが判ります。MGC製に比べて故障しやすいコクサイ製ローマンは撮影に不向きなんだけど、外見だけはMGC製よりリアルに出来てるもんで、アップで写る時だけコクサイ製が使われたみたいです。
そんなマニアックな話は置いといて、この乱闘中にチンピラが持ってたブローニングの拳銃が弾き飛ばされ、それを田上が拾ってしまいます。
市民の通報によりゴリさんたちが駆けつけた時には、すでに田上の姿は無く、チンピラ二人に夢中でパンチを浴びせる春日部の、満足そうな姿だけが残ってました。
「バカもんっ! 肝心のホシを取り逃がして、お前それでもデカかっ!?」
ゴリさんに怒鳴られ、春日部はようやく我に返ります。この「お前、それでもデカかっ!?」っていう台詞も、第1話でマカロニがボスに怒鳴られるシーンの再現ですね。
それでマカロニはやる気を無くし、刑事を辞めようとしてゴリパンチ第1号を食らうワケだけど、そこは'80年代の今回。あまりウェットにはならず、暴走の方向へと向かう春日部に、一係の重鎮・山さん(露口 茂)が言葉のパンチを浴びせる運びとなります。
(つづく)
レイボール前の国家斉唱のセレモニーに登場してくれますね。