令和の刑事ドラマ『MIU404』を観てて、主人公たちが所属する「四機捜」って部署名を耳にするたび、なんだか懐かしい気分になるのは何故だろう?って思ってたんだけど、久々に『大捜査線』を観て理由が判りました。
そう、主人公の加納主任(杉 良太郎)や沢木刑事(神田正輝)が所属してたのが警視庁刑事部第四機動捜査隊、すなわち「四機捜」なんですよね! まさか野木亜紀子さん、この渋すぎる昭和ドラマにまでオマージュを?
『大捜査線』は1980年の1月から12月までの1年間(9月からのリニューアル版『大捜査線シリーズ/追跡』含む)、全42話がフジテレビ系列の木曜8時枠で放映されました。『あさひが丘の大統領』と同じユニオン映画の制作です。
時代背景やリアリティーの差違は置いといて、同じ四機捜が活躍するドラマでも『MIU404』と決定的に違うのは、『大捜査線』はひたすら杉良太郎さんのワンマンショーに徹してる点。オープニングのタイトルバックも杉サマ1人しか画面に出て来ませんw
すでにレビュー済みの第1話は、ショットガンを持って銀行に立て籠った凶悪犯を、元射撃のオリンピアだった加納主任=杉サマが1人で射殺するミッションがじっくり描かれた後、死んだ犯人の姉による罵倒を1人で受け止め、彼女を食い物にしようとしたヤクザどもを1人でフルボッコにし、気がつけば彼女に慕われ、ついでに部下の都築刑事(本阿弥周子)にも慕われてる加納主任のオンステージが延々と続き、片腕の沢木刑事=神田正輝さんはその周りをただウロチョロしてるだけでした。
その沢木刑事が壮絶な殉職を遂げる第26話(これもレビュー済み)ですら、ストーリーはさすがに沢木メインで展開されたものの、アクションの見せ場はしっかり杉サマが独占しちゃいましたw
それは杉サマが欲張りだからじゃなくて、たぶん「主役のオレが活躍しなきゃ視聴者が納得しない」っていう思い込み、いや責任感によるものだろうとは思うけど、定評ある神田さんの拳銃さばきをもっと見たい私からすれば「おっさん、ええ加減にしなはれ」ってw、苦笑を禁じ得ません。
さて、この第2話はどうだったか? 画像をご覧の通り、メインゲストの小野進也さんと絡んでるのは神田さんであり、パッと見は沢木刑事メインの話なのですが……
☆第2話『男たちの挽歌』(1980.1.17.OA/脚本=白井更生/監督=林 伸憲)
とある深夜、岡島という若いパトロール警官が殉職します。住宅地で暴走族が騒音を撒き散らしてるのを放っておけず、本部からの待機指令に逆らって注意しに行った挙げ句、牽き殺されたのでした。
四機捜の大滝隊長(山内 明)が会議でそれを「無用の死」と表現し、加納主任は思わず立ち上がります。
「ひとつお聞きしますが」
「なんだ?」
「無用の死とは一体なんですか?」
「加納はそう思わないのか? やむを得ざる死以外は、無用と言うしかない」
「…………」
大人だからそれ以上はツッコまない加納だけど、その眼は静かに燃えてます。他の刑事たちのリアクションは描かれず、すでにオンステージが始まってますw
ところで、死んだ岡島巡査は事件当夜、先輩の佐藤巡査(織田あきら)とコンビで動いてました。通夜の席で「どうしてあの子を止めて下さらなかったの!?」と岡島の母親に責められた佐藤は、自宅で謹慎しながら酒に溺れてました。
「酒を呑み、酔っぱらう理由はなんだ? そうやって何を誤魔化しているんだ?」
岡島巡査が暴走族に殺された時の状況を聞き出すため、佐藤の自宅を訪れた加納主任はあえて厳しい言葉を投げかけます。
「オレもあの時、無線指令を聞いていた。もしオレがあの時、現場に駆けつけていたら、同じように暴走族のところに行っただろう……それで死んでも、後悔はしない」
死んだ岡島巡査は、通報して来た主婦に病気の子供がいることを知っており、その安眠を妨害する暴走族が許せなかった。たぶん佐藤も同じ気持ちだった事でしょう。
「人間らしい、ただそれだけの行動が、時として死に繋がる……死んだ岡島巡査には酷な言い方かも知れないが、それも警察官の、甘んじて受けるべき宿命ではないだろうか」
「…………」
警察官としては誤った判断だったとしても、人間としては絶対に正しかった。それは岡島を止めなかった佐藤も同じこと。加納はそう言いたかったんでしょう。
気持ちを切り替えた佐藤は、あの時、パトカーに戻りかけた岡島巡査に向かって「イキがるな税金泥棒!」と叫んで走っていくバイクがいたことを証言します。
そのバイクに乗っていたのは辺見(小野進也)という暴走族メンバーであることが判明し、当夜検問で彼と顔を合わせていた沢木刑事が尋問を引き受けます。
独りで海辺に佇む辺見に、沢木も独りで語りかけます。
「海はいいよな……1日じゅう車の中ばっかりじゃ、まったくイヤになっちまうよな。いいなあ、海は」
それは、来る日も来る日もパトロールに明け暮れる我が身の境遇を、最近ちょっと疑問に思ってる沢木の本音でした。
そんな刑事らしくない沢木に気を許したのか、辺見はかつて放り込まれた少年院を逃げ出したのに、結局は自分の意思で戻った経験を語り始めます。
「歩きながらオレは何をしてるんだろうって思った。わざわざ逃げ出して、また帰っていく……後で考えると理由は簡単だったよ。少年院へ帰り、施設へ帰るしか生きようが無かったんだ」
境遇は違えど、なんだかんだ愚痴りながら結局は刑事を辞められない沢木と、根っこの部分で辺見は似てるのかも知れません。
「なあ、辺見よ。オレたちは税金泥棒なんかじゃないよ。税金泥棒っていうのは、地位を利用してゴルフに行ったり、赤坂の料亭で遊んだりするヤツらにいる。車の中から世間様はいつも素通りだ。同じ車に乗ってたってオレたちとは月とスッポンさ」
「…………」
「車を降りる時は犯人と100メートル競走だ。勝ったって何もくれやしない、負けたらそれっきり……ホトケ様になる時だってある」
「…………」
威圧感がハンパない加納主任と違ってw、相手と同じ目線の高さで対話できる沢木は、意外と名刑事になれる器なのかも知れません。辺見は正直な気持ちを吐露します。
「警官ってヤツは、いつもオレを捕まえに来た。施設にいる時もそうだった……ヤツが来る時はオレが捕まる時だ。オレは警官を憎んでた。だが、やったのはオレじゃない」
その言葉を信じた沢木は、辺見を連行しない道を選択します。が、他に有力な容疑者が浮かばず、捜査本部はいよいよ辺見に容疑を絞ろうとしてる。辺見が本当に無実ならば、自ら潔白を証明するのが一番だと考えた沢木は、再び彼を訪ねて出頭を促すのですが……
「やっぱりお前もオレを捕まえに来たのか!」
染み付いた警察不信により誤解し、暴れ始めた辺見を、沢木は結局力ずくで連行することになるのでした。
「いま考えるとヤツは、逃げるためにオレに突っかかって来たんじゃない気がします。きっと、オレが憎らしかったんです。人を見たら犯人としか思えない……そんな自分がイヤになりました」
また愚痴を言い始める沢木を、加納主任がたしなめます。
「今度のことでは、すでに警察官が1人死んでいる。それを忘れるな」
「分かってます! ヤツらにはいつも憎しみを掻き立てろ、オレは警察官だ、自分は警察官だと思ってます!」
「違う! 殉職とはなんだ? 警察官の死ではない、1人の人間が死ぬことだ。そのやりきれなさを考えろ! その意味を考えろ!」
「…………」
なんだか会話が噛み合ってない気もするけどw、つまり自分たちは刑事である前に人間なんだっていう考え方において、加納主任も沢木と同じなんだって事でしょう。ただ顔と態度があまりに威圧的なだけでw
そんな折り、いよいよ辞職を決意した佐藤巡査が、挨拶しに加納を訪れて来ます。待機命令に従わない岡島を止められなかっただけで、彼自身は何もミスは犯してないんだけど。
「1人の部下を死なせた……だが、1人の病気で苦しむ子供に、安らかな夜を与えた。それでいい……残酷なようだが、警察官はそれで満足すべきだろう。オレはそう信じてる。負け犬が尻尾を巻くのでなければ、辞めればいい」
内心は辞めて欲しくないんだろうけど、加納は佐藤の決意を尊重します。そんな彼に、佐藤の妻が無邪気に言います。
「正直言って、主人が警察官を辞めると決めて、ホッとしています」
刑事としてしか生きて行けない、全身刑事マシーンの加納は独り暮らしの自宅に戻ると、やるせない想いを噛み締めながら、なぜか牛乳をがぶ飲みするのでしたw
ところで所轄署に連行された辺見は、無実を主張することもせず、頑なに黙秘を続けてました。
見かねた加納主任は、自ら取り調べを引き受け、辺見を威圧しますw
「無実なら無実と言ったらどうだ? 戦っても無実を認めさせる、それが本当だろう? 黙ってるのは拗ねているだけだ。甘ったれているに過ぎん」
「…………」
「何とか言ったらどうだ! お前の無実を信じてるヤツがいる。それに何と応えてやるんだ!? もう1人、お前たちのために死んでいった若者がいる。お前たちのために苦しんで、警官を辞めていった若者がいる。それに応えてやるのが人間じゃないのか!?」
「…………」
もちろん、警察不信のアウトローが威圧に屈する筈がありません。あるいは、暴走族仲間の中にいるであろう真犯人を彼は庇ってるのかも知れません。
ところが! 証拠不充分で釈放された辺見を取り囲み、人目につかない草むらに連れ込んだのは、仲間だったはずの暴走族でした。彼を殺し、全ての罪をなすりつけようとするド外道野郎たちです。
「辺見! 乗れ!」
そこに覆面パトカーで駆けつけたのは、加納主任の指示で辺見をマークしていた沢木刑事。どうやら今回は沢木の活躍エピソードで、いよいよ神田さんの華麗なガンプレイが見られそうです!
……と、思いきやw 車がぬかるみに突っ込んで身動きが取れなくなり、あっという間に取り囲まれボコボコにされちゃいます。
「ヤツらにオレを引き渡せ! それで済む!」
「そんなこと出来るか!」
「このままじゃアンタも殺されるぜ!」
「余計なこと言うな!」
ここで沢木がようやく愛銃COLTガバメントを抜き、スライドを引きます。待ってました!
「やめろ! やめんと撃つぞ!」
そうだ、撃て! ここが見せ場だ、ぶっ殺せ!
ところが! そこに颯爽とマツダ・サバンナRX-7に乗って、加納主任がやっぱり駆けつけてしまうのでしたw
ゆっくりと降り立ち、黙ってコートを脱ぎ捨て、わざわざサングラスをかけ、愛銃COLTパイソン6インチを引き抜いた加納は、向かって来る暴走族のバイクに片っ端から357マグナム弾をぶち込みます。ああ、やっぱりカッコいい! いつもアンタだけがカッコいい!w
「岡島巡査殺害容疑、並びに公務執行妨害で全員逮捕する!」
ぶっ殺しこそしなかったものの、20人以上はいた暴走族を全員、加納主任がたった1人で制圧。結局1発も撃てずに終わった沢木刑事は、やっぱり今回も良太郎オンステージの前座を務めただけでした。
というワケで、例によって加納主任の活躍により全てが解決。真犯人逮捕の報告を受けた岡島巡査の母親が、刑事たちに向かって叫びます。
「返して……あの子を返して!」
そりゃそうですよね。お母さんにとっては誰が真犯人だろうと関係ない。それより息子を見殺しにした警察組織の方がよっぽど憎いって事でしょう。
帰りの車を運転しながら、沢木がまた愚痴をこぼします。
「オレが死んだら、クニのお袋が悲しむだろうな……やだなあ」
助手席に鎮座する全身刑事マシーン=加納主任がそれを聞き、苦虫を噛み潰したような顔で煙草を吸い始めたところで、あの名珍曲『君は人のために死ねるか』が流れてドラマは幕を下ろします。
このラストシーン、後に沢木が殉職しちゃうことを踏まえて観ると、非常に味わい深いものがあります。この時点じゃまだ、彼を死なせるプランは無かったと思われますが。
いずれにせよ警察官の殉職はこのドラマのメインテーマとも言えるもので、主題歌のタイトルがストレートにそれを物語ってます。第1話では加納主任が「人のために」命を捨てようとし、今回は岡島巡査が、そして後に沢木刑事が……
そういうドラマはやっぱり見応えあります。『MIU404』では最初の24時間しか捜査を担当せず、あとは所轄に全てを引き継ぐ機動捜査隊の現実が描かれ、事件解決まで何日でも活躍しちゃう『大捜査線』の四機捜はあり得ないことが暴露されたけど、357マグナムを撃ちまくってる時点でファンタジーなんだから別にいいんですw
今回の加納はまだ大人しい方で、許せない悪に対する容赦ない彼の暴力制裁は、ふだん「いけ! ぶっ殺せ!」とか言ってる私ですら目を覆うほど凄まじくw、いろんな意味で現在のテレビ番組じゃ見られないものです。
だけど、世の中の悪に対する創り手の怒り、すなわち熱い魂がこもってる点でも『MIU404』は『大捜査線』とよく似てた気がします。野木亜紀子さん、マジで意識されてたのかも???
ちなみに『大捜査線シリーズ/追跡』の後番組は、宮内淳さんが実質の主役を演じられたキャンパス・アクションコメディー『探偵同盟』でした。
現代劇の杉さん、違和感があるなぁ😅
しかしオープニングなど完全に杉サマですよね。杉サマのための番組みたいですw。
この方は若い頃から慰問活動など色々なボランティアをしていると聞きます。「売名行為ですよね?」と聞かれて「そうですよ。じゃあ同じことをやってみて下さい」と答えたり、運転免許を返納されたりと格好良い人です。
とても見応えある作品で、これでもう少しだけ見せ場を部下に譲ってくれたら言うこと無しなのですがw
…何かどっかで聞いた話だと思ったら漫画「ワイルド7」の飛葉!そして、辺見役の小野進也氏は実写版飛葉!ついでに(Twitterで調べてみたら)実写版オヤブン(永井政春氏)も出演!
狙いすぎでしょ(笑)
…「ワイルド7」読んだり見たりしてないと分かりづらい笑いで、すみません…