ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『大追跡』#19―2

2018-10-28 12:00:16 | 刑事ドラマ'70年代









 
ちり紙交換業者の横光(丹古母鬼馬二)が富裕層の主婦たちから依頼を受け、その亭主たちを夜な夜な暗殺してるのは間違いないんだけど、残念ながら証拠が無い。

水原刑事(藤 竜也)は結城刑事(長谷直美)と組んで横光を尾行しますが、あまりに堂々とつけ回すもんだから横光にはバレバレです。

「ねぇ、こんなおおっぴらに尾行しちゃっていいの? こっち見てるわよ?」

「いいんだよ」

「水さん、警察学校行き直した方がいいんじゃない?」

「結城、穴の中のタヌキを追い出すにはどうしたらいいか分かるか?」

「ええ?」

「いぶり出すに限るんだよ」

例によってニヤリと笑う水原は、どうやら横光にわざと自分の存在をアピールしてる。横光が仕事帰りに居酒屋で安酒を呑めば、その隣に座って彼を挑発します。

「県警の水原ってんだ。あんたが殺し屋じゃねえかと思ってマークしてるんだけどさ」

「……冗談よして下さいよ。私は廃品回収業者ですよ」

「それは割れてるんだよ。割れてるんだけどさ、古雑誌や古新聞の他に人間も扱ってるんじゃねえかって、な」

「へっ、へへへ、なんの事だか私にゃサッパリ分かりませんよ」

「へへ、そうか、上等だよ。しらばっくれるのも今の内だな。娑婆でのんびり酒呑んでんのも今の内だぞこの野郎。呑み過ぎて先にくたばんなよ、おい」

去り際には横光のもじゃもじゃ頭を掻きむしり、わざと怒らせて自分に刃を向けさせようって寸法です。

挑発に乗った横光は翌日、食堂のトイレで水原を襲撃します。金属製っぽいワイヤーで、ロデオよろしく標的の首に引っ掛けて吊り上げるという、如何にも野人=横光らしい手口。

「き……貴様……そうやって絞め殺したんだろ……」

格闘や射撃なら百戦錬磨の水原だけど、予想外の野人攻撃になす術なく、あわや窒息死寸前のところに一般人がオシッコしに来てくれたお陰で、横光はトドメを刺せないままガラスを突き破って逃走します。

「……ついにいぶり出してやったぞ、この野郎……」

その頃、遊撃捜査班の刑事部屋では、新田班長(加山雄三)が失踪した宇津木社長の妻=章子(稲野和子)を取り調べ中。彼女の依頼で宇津木社長は横光に殺されたワケですが、当然ながら簡単には口を割りません。

真相は食事をしてから話すという章子に、一番若手の滝本刑事(柴田恭兵)が注文を伺います。今や俳優界の重鎮になりつつある恭兵さんが、このドラマじゃまだまだ新米で、パシり扱いなのが何だか新鮮です。

「奥さん、なに食うの? いや、奥様、何になさいましょうか? えっとね、カツ丼とかラーメンライスとか美味い店あるんスよ」

「レストラン・トゥーブルターニのシェフに電話して下さる? オードブルはペリゴルサンフォアグラニスモークサーモン、それとトリフのスープ、メインディッシュはラングースとアラポトス、ワインはル・モンラッシュお願いするわ」

「マングースのポテトチップとか何とか言ってるけど」

滝本のボケに、すかさず矢吹刑事(沖 雅也)がツッコミを、そして結城が合いの手を入れます。

「ポテトチップじゃない、ラングースとアラポトスだ」

「なんスか、それ」

「何だろうね?」

「ステーキでいいんじゃない?」

「ス・テ・キ!(拍手)」

実に下らないんだけどw、メンバーの息がピッタリで観てると楽しいんですよね。このノリが『俺たちは天使だ!』にも活かされ、更に『あぶない刑事』へと受け継がれて行く事になります。

「全てお話しますわ。主人は蒸発など致しておりません。わたくしが殺しました」

素敵なステーキを平らげた章子は、なぜか自分が夫殺しの犯人であると主張し始めます。どうやら守秘義務を破る事は横光に消される事を意味するようで、死ぬよりは刑務所の方がマシと判断したのでしょう。

と、そこに水原が首にくっきりアザをこしらえて戻って来ます。

「横光がシッポ出したぞ」

その言葉を聞いて、章子は顔色を変えて叫びます。

「こ、殺したのは私です! 私が殺したんです!!」

その反応は逆に、横光が真犯人である事を裏付けてるようなもの。確信を得た遊撃捜査班は、例の仕切り場に宇津木社長の死体が隠されてると見込み、全員で捜索を開始します。

だだっ広い敷地に無数の廃品が散乱しており、此処で死体を見つけ出すのは至難の業と思いきや、プレハブ小屋の電気メーターが回っているのを結城が発見します。

ドアノブを拳銃で撃ち壊し、小屋に入った水原と結城は、地下室に巨大冷凍庫があるのに気づきます。

「おい、メーターがキ○ガイみたいにグルグル回ってたのはコイツのせいだぞ」

「仕切り場に冷凍庫っていうのはおかしいんじゃない?」

「おかし過ぎるよ」

「わぁ、涼しい」

冷凍庫に入って呑気な感想を述べる結城ですが、すぐに悲鳴を上げる羽目になります。庫内には、失踪した男たちの死体が無数に冷凍保存&展示されてるのでした。もちろん、水原が救えなかった宇津木社長も凍りついてます。

「宇津木さん……落とし前つけてやるからよ」

結城に呼ばれて、新田、矢吹、滝本も庫内に入って来ます。

「どういう事ですかね? 殺した死体を凍らせて、それを又こうやって保存しておくってのは……」

あまりにも異常な光景に疑問を抱く矢吹ですが、仏頂面の新田が事も無げに言います。

「ネコロフィリアだな、奥田という男は」

「何スか、そのネコ何とかって」

「死体愛好者の事だ。外国ではこのテの猟奇犯罪は珍しい事じゃない」

「へえ~、日本の犯罪もいよいよ世界レベルに近づいたというワケか」

滝本がトボケたこと言ってる間に、外側から何者かが冷凍庫の扉を閉めちゃいます。もちろん、内側から開く事は出来ません。

「しまった!」

「横光……アンニャロウだよ」

何とかして脱出しないと、遊撃捜査班のメンバーも全員アイス人形になっちゃいます。

「ダクトからの冷気が止まった時にサーモスタットを吹き飛ばせば、冷気は完全に止まるな。サーモスタットを探せ。滝本、拳銃の弾丸から火薬を集めろ」

さすが班長の新田、仏頂面をピクリとも動かさず指示を出します。言われるまま拳銃の弾丸から火薬を抜いて集める滝本は、寒さに震えながら隣で作業を手伝う結城に言い放ちます。

「結城さん、あんまり寒くないでしょ」

「なんでよ?」

「脂肪ついてるから」

「バカ」

明らかにこれも恭兵さんのアドリブで、直美さんのリアクションも手慣れたもんですw

『俺たちは天使だ!』でも恭兵さんは直美さんを「太ったゴキブリ」と形容するなど言いたい放題w あのアドリブ帝王の松田優作さんでさえ「恭兵にだけは適わないよ」と脱帽されてたそうです。

やがてサーモスタットが見つかり、冷気も収まって来ます。

「止まった。矢吹!」

矢吹がパイソン357マグナムでサーモスタットを吹き飛ばし、冷凍庫の冷却機能は完全に停止しました。

仕切り場の管理人で「ネコ何とか」の奥田(横森 久)が、冷凍庫の外側でうろたえます。

「し、死体が……私の死体が溶ける!」

さらに新田は、滝本が集めた火薬をハンカチでくるみ、扉の隙間に挟み込みます。それを再び矢吹がパイソンで撃ち、扉を吹き飛ばして脱出!

だったら別にサーモスタットはぶっ壊さなくて良かった気もしますがw、まぁあらゆる手を尽くすに越した事は無いって事でしょう。

慌てて逃げ出す奥田を、新田班長が背後から1発で射殺します。当時のアクション刑事ドラマじゃ犯人射殺は珍しい事じゃないんだけど、警告もせず無言で背後から撃っちゃう刑事は珍しいかも知れませんw

そんな冷酷非情な新田さんの使用拳銃は、コルト・トルーパーの銃身を2.5インチに切り詰めたオリジナルのカスタムプロップで、なかなかレアな代物です。

ほか、水原と滝本がトルーパーの4インチ、矢吹がパイソンの6インチ、そして紅一点の結城はベレッタM1934(電気発火式プロップ)という、これまた日本の刑事ドラマとしてはレアな拳銃を使っておられます。

さて、ここから5分以上に渡って、ノンストップで展開するアクションシークエンスが本当に素晴らしい!

廃品回収のトラックで仕切り場内を逃げ回る横光を、遊撃捜査班のメンバー全員が全力疾走で、延々と追いかける。刑事をやたら走らせる事で知られる『太陽にほえろ!』でさえ、これだけの長時間をノンストップで全力疾走させた例は無かったように記憶します。

藤さんも沖さんも恭兵さんも、走る姿が本当に画になるし、実際かなり足が速いんですよね。

とにかく走って走って、廃品の上を飛び回り、拳銃を撃ちまくってまた走る。恭兵さんは高所から走るトラックの荷台に飛び降り、トラックは恭兵さんを荷台に乗せたまま掘っ建て小屋に突っ込む!

ヤケになった横光は、卑劣にも紅一点の結城をひき殺そうとしつこく追い回す! 怒りに燃える男たちの銃弾が横光めがけて一斉に降り注ぎ、最後は水原がボンネットに飛び乗ってトドメの1発!

至近距離から眉間を撃ち抜かれ、さすがの野人もついに陥落、廃品の山に突っ込んでようやくトラックは停止、耳に馴染んだアナウンスが虚しく鳴り響きます。

「毎度お騒がせしております。こちらは、お馴染みのちり紙交換車でございます。ご家庭でご不要になった……」

野人の最期を見届けた遊撃捜査班メンバー5人が、無言のままGメン歩きで去って行く後ろ姿が、実にハードボイルドで格好いい! けど、野人の死体は誰が回収するんでしょうか?w

さて後日、横光に亭主の暗殺を依頼した妻たちが、続々と神奈川県警に連行されて来ます。そのメンツがやけに豪華で、伊佐山ひろ子さん、山口美也子さん、田口久美さんといった、普段はメインゲストで呼ばれる女優さん達が、このワンシーンだけの出演で一堂に集結!

「電話の取り次ぎも満足に出来ないのか……主人はそう言ってわたくしを怒鳴ったんです」

「あの人は、わたくしの帰宅時間が少しでも遅れると凄く怒るんです。わたくし、主人の所有物ではありませんから」

「イビキと歯軋りが酷いんですの、ウチの主人は」

「主人が3年前、私に向かって言ったんです。ブスだって」

「主人の食事の仕方って、とっても下品ですの」

「お前は俺が食わしてやってるんだって、そんな主人の思い上がりがイヤでイヤで……」

「一言で言えば、性的不一致ですわ」

……というのが、妻たちが夫を抹殺しようとした動機なのでした。

ウクレレで加山雄三の歌を弾き語りしながらw、滝本が刑事部屋でぼそりと呟きます。

「俺さ……結婚なんかしないんだ」

元より女性が苦手な矢吹も同調します。

「女ってのはやっぱり、怖いよな……」

メンバー達の視線が、自然と紅一点の結城に注がれます。

「なによ? 私はね、そんな女じゃありませんからね」

すると素晴らしいタイミングで外から聞こえて来る、あのアナウンス。

「こちらは、お馴染みのちり紙交換車でございます……」

「おっと、ちょうどいい」

動き出した結城を見て、男たちが慌てます。

「おい結城!」

「待て、早まるな!」

「滝本、お前いつも結城のこと傷つけるだろ、女らしくないとかさ!」

「そんな事は言わないでしょ!」

「キミたち2人が悪いんだよ!」

「何を言ってんのよ? 貯まってる新聞紙を持ってってもらうのよ!」

「オットットーッ!!」

こうして文字に起こすとホント下らないんだけどw、毎週観てるとこのノリがクセになって来るんですよね。「オットー!」もやはり恭兵さん発信によるお約束フレーズなんだけど、今回は最後の最後に登場しました。

男から見てもセクシーな男たちが、全力で走って跳んで撃って、大真面目にフザケてる。こういうドラマ、すっかり観られなくなっちゃいましたね。ホント素晴らしい時代でした。
 

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