☆第411話『長さんが人を撃った』
(1980.6.20.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=山本迪夫)
長さん(下川辰平)とスニーカー(山下真司)が覆面車で移動中、郵便局の様子がおかしい事に気づき、入ってみたら拳銃を持った強盗がいるもんだから驚いた!
その男=中山(氏家 修)が、金庫から出した現金書留の山にすぐさま放火し、逃げようとする女子店員に銃口を向けて、今にも発砲しそうになったもんだから、長さんは咄嗟にCOLTローマンの引金を引きます。
お陰で女子店員は助かり、郵便局の被害も最小限で済んだものの、人を撃った代償は大きかった。『西部警察』の刑事たちが撃つ弾丸100発分の重さが『太陽にほえろ!』の1発にはあるんですw
長さんが放った弾丸は中山の両腎臓を破壊し、彼は死ななかったものの人工透析なしでは生きていけない身体になっちゃいました。
過去にも強盗をやらかした前科者の中山には、看病してくれるような身内もおらず、長さんは泊まり込みで彼の面倒を見ようとします。
「長さん……長さんの責任じゃありませんよ! 人質、放火、それに拳銃……緊急措置としては当然の発砲じゃないですか!」
現場で一緒にいたスニーカーがそう言っても、長さんは意志を曲げません。
「当然とは言えんよ。あの場合、発砲するにしても拳銃か利き腕を撃つべきだ。しかし俺には、それだけのゆとりが無かった……」
「無理ですよ、あんな一瞬にそんな。長さんが撃たなかったら俺が撃ってました。それこそ、射殺してたかも知れません」
「しかし、撃ったのは俺だ」
「長さん……」
しかも長さんは、中山の自供が取れた時点で辞職する決意まで固めてしまい、スニーカーはじめ藤堂チームの仲間たちを大いに動揺させるのでした。
しかしそれにしても、なぜ中山はあの時、現金書留の山に火を点けたのか? 刑事たちの捜査により、どうやら中山はある一通の封書に現金と一緒に入っていた、何かの書類を処分しようとしていた事、それは何かの犯罪計画を記したメモらしいという事が判って来ます。
共犯者が複数いる事も判明し、恐らく中山が抜けても計画は実行されてしまう。それを阻止するため、長さんは中山を看病しながら自供を促すのですが……
「あんた、俺を撃った口実が欲しいんだろ?」
「いや、私は……」
「そうはいかないぜ。俺はただカネが欲しかっただけだからな。拳銃だって脅かしで持っていただけだ。それをテメエは撃ちやがったんだ!」
「…………」
「二度と来んな。テメエの顔見てると治る傷も治らねえや!」
中山はこれまでの人生で親兄弟を裏切り、友達を騙し、ただ自らの欲望の為にだけ生きて来た。今回もどうやら、計画から抜けようとした仲間を殺し、そいつが証拠として残そうとしたメモを処分する為に郵便局を襲った。
「長さん、あいつは悪党なんですよ! どうしようもない悪党なんですよ!」
「悪党ならどうだと言うんだ? 俺はな、スニーカー。銃で撃ってもいい人間なんてどこにもいないと信じてるんだ。いや、そう信じたいんだよ」
そんなこと言ったら『西部警察』の立つ瀬が無くなるし、悪党は全員ぶっ殺せ!っていつも書いてる私も困るんだけどw、まぁどう考えても長さんが正しい。圧倒的に正しい。この人は『太陽にほえろ!』の良心そのものなんです。
さて藤堂チームの捜査により、中山たちの犯罪計画の正体が、競艇場の売り上げ金を強奪する事であると判明。藤堂チームは先手を打って現金輸送車のコースを変更させ、本来のコースにはオトリの車を走らせる作戦を決行。その車は長さんが運転する事になりました。
一方、中山の病室に張り付いてたスニーカーは、彼の腎臓移植手術に長さんがドナーを買って出たという事実を知り、愕然とします。そう、だから長さんは……
「中山! 長さんはお前のために、刑事まで辞める気になってるんだ!」
さすがの中山も動揺するんだけど、それでも彼は態度を変えません。
「そんなこと知るかよ。ま、大して有り難くもないけど、せっかくだから貰ってやるか」
そう言ってせせら笑う中山に、長さんが職を捨ててまで腎臓をくれてやる価値が果たしてあるのか?
そうとも知らずに長さんは、刑事として最後の仕事を全うすべく、ダミーの現金輸送車を運転し、ライフルで武装した悪党どもの襲撃を受け、勝てる見込みのない戦いに挑みます。
ダンプカーに体当たりされて車は横転し、利き腕を撃たれて反撃も出来ず、いよいよ長さん絶体絶命! 辞職する前に殉職しちゃうのか?!
と、その時! 一台のセダン車が、ダンプカーの反対側から猛スピードで走って来ます。運転してるのはなんと、病室から脱走した中山!
「よし、挟み撃ちだ」
悪党どもがニンマリ笑い、ダンプカーも長さんに向かって突進します。もはや逃げ場なし! さよなら長さん!
と、思いきや! 横転したダミー車を踏み台にして、中山の車が大ジャンプ! 見事ダンプカーの運転席に体当たりし、長さんを悪党どもから救ったのでした。
「中山! 中山! おいっ、しっかりしろ!」
グシャグシャに潰れたセダン車に駆け込んだ長さんは、血まみれになった中山を抱き起こそうとしますが、もはや虫の息。
「……野崎さん……無事かい?」
「ああ、すぐに救急車が来るからな!」
「……刑事、辞めないでくれよ……俺みたいに、馬鹿なヤツのためにさ……」
「中山……」
「辞めないで……くれ……」
「中山?! 中山ぁーっ!!」
思わぬ展開に、私は不覚にも泣きました。銃で撃ってもいい人間なんてどこにもいない……そんな長さんの信念が、最後の最後に中山をダークサイドから帰還させたワケです。長さんの命を救ったことで、彼の魂も救われた事でしょう。
だけど長さんは、刑事を辞めることをやめようとせず、ボス(石原裕次郎)を困らせます。
「結局、中山は死なせてしまったワケですし……あいつをそんな羽目に追い込んだのも……やはり私のせいですから」
「……だがな、長さん。その中山が死ぬ時に、一番望んでいた事くらい、俺も叶えてやりたいと思うよ」
「そうですよ、長さん!」
「俺もそう思うよ、長さん」
スニーカーや山さん(露口 茂)、あのスコッチ(沖 雅也)にまで説得され、ようやく辞表を取り下げる長さんなのでした。
「まったく世話が焼けんだよな。いくらトシ取っても」
「は?」
ボスの余計な一言に、温厚な長さんがムッとしたところでジ・エンドw
今回は数ある「長さん試練編」の中でも、たぶん1、2を争うハードな内容。相手の両腎臓を破壊しちゃうという展開は、射殺以上にショッキングだし、重いです。
けど、それを陰鬱になり過ぎず、これまた屈指のハードアクションでクライマックスを盛り上げ、我々の心を揺さぶってくれました。例えば中山が長さんをかばって撃たれるみたいな、地味なアクションだと私は泣かなかっただろうと思います。ハードアクションにはそんな効果もあるワケです。
また『あさひが丘の大統領』#25でも存分に発揮された、下川辰平さんの哀愁オーラがじわじわ効いて来るし、中山を演じた氏家修さんの独特な暗さ、まるでナイーブが服を着て歩いてるみたいな佇まいも抜群にマッチしてました。これは名作だと思います。
アクションあり、人情ありの良いお話でした。今どきの刑事物でこれほどメリハリのある(見せ場のある)ものはないのでは?
しかしボスの余計な一言は石原裕次郎のアドリブでしょうか…w。
恒例のコントめいたラストシーンには賛否両論ありますが、どこまで台本通りでどこからアドリブなのか、探りながら観るのも一興ですよねw
私はどっちか言うと「刑事ドラマで撃ち殺される悪党」みたく(ネット上で)悪さしてきた人間なんで…。
しかし、この頃の「太陽~」ってカースタントが「西部~」並みか下手するとそれ以上ですね。
トラックの運転台にダイブなんて、「西部~」でも見ないです。