ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『サロメ』―1

2018-09-15 23:17:07 | 多部未華子





 
サロメはどこだ? 姫はどこにおる? おお、そこにおったか!

お前が踊る姿を新国立劇場で直に観てから、もう2年にもなる。そろそろまた観たくなって来たのだが、わしの乳首はお前にやらんからな。乳首だけはお前にやらん。それだけは先に言っておく。

2年という月日は、短いようで長い。お前も随分と変わってしまった。違うか? 隠さんでも良いのだぞ? 捨蔵の件はヤマリン王から聞いておる。めでたい話ではないか。わしは心から嬉しく思っている。ゴンベ王は泣いていたが、わしは違う。

このままお前が捨蔵と契りを交わしたとしても、わしは泣いたりはしない。たぶん泣かないと思う。泣かないんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟はしておけ。

わしが初めてお前の踊る姿を観た時、お前は20歳を過ぎたというのにフリフリの子供服を着て、変な顔をしながら犬の真似をしていたのだぞ? あれは可愛らしいなんてものではなかった。あれでゴンベ王はお前の虜になったのだからな。

わしか? わしはこれと言って別に、何も感じなかった。聞き慣れた音楽が流れていたから、たまたま観ていただけの話だ。ゴンベと一緒にするな。

ただ、お前の顔があまりに面白かったものだから、もっと他の顔も見てやろうと思って、お前が大勢の若者たちと徹夜で歩くだけの活動写真を借りて来た。

そしてそれを観たら、お前はまるで別人のように淑やかで、憂いのある顔をしておった。活動写真の中身はさっぱり忘れてしまったが、お前には興味が深まるばかりだった。

言っておくが、わしは珍しい生きものを観察するのが好きなだけであって、お前に対して特別な感情は何も持っていないのだからな。ゴンベと一緒にするな。

その次に観た活動写真に、やけに声の高い美少年が出ているなと思ったら、それがお前だったのには驚いた。死んだら驚いた!

お前は髪を切るのが嫌だから、その活動写真には出たくなかった筈なのに、画面の中では少年になり切っていた。完璧だった。わしは、ますますお前が他人になりすます姿を見たくなった。

だが、わしはゴンベ王と違って用心深い男だ。思慮も深いし掘りも深い。お前のような少女に心を奪われる事など、普通なら断じて有り得ないのだ。

なのに、わしはヤマリン王の罠に嵌められた。ディープ国のパープリン王子と共謀したヤマリンは、瓢箪外伝に記されたお前の語録などを使って、わしとゴンベ王を巧みに洗脳したのだ。ゴンベはその前に自ら進んでお前のしもべとなっていたが、わしは奴らの攻撃に耐え続けた。

奴らは、お前が弟と一緒に別世界に迷い込む活動写真を観るよう、わしに強要した。あの弟はちっともお前と似ておらんが、お前の罵詈雑言によく耐えていた。お前は本当に口が悪いし足癖も悪い。気に入らない相手をすぐに蹴るのは、決して誉められた事ではない。蹴ってはならぬ。わしを除いてはな。

わしは他の軟弱な男どもと違って、お前の蹴りなど屁でもない。だからいつでも好きな時に蹴れば良い。試してみるか? 遠慮はいらん。蹴ってみなさい。何をためらっている? ほら、蹴るんだ。頼む、蹴ってくれ。ふっ、踏んでくれっ!

お前は鹿に乗っては日本を救い、シャトルに乗っては地球まで救ったというのに、わしの事は救ってくれないのか? 大富豪との結婚を夢見ながら大貧民ファミリーの長男に恋をしたり、元暴走族の総長だった兄を放っておけなかったり、お前が足癖の悪さとは裏腹に優しい心を持っている事を、わしはよく知っている。さぁ、踏んでくれ。

サロメ、サロメ、わしのために踏んでくれ。頼むから、わしのここを踏んでくれ。今宵は陰鬱な気分だ。もりあ亭に入っていく時、わしは乳首で足を滑らせたが、あれこそは悪い前兆だった。

お前が口を半開きにした男と恋に落ちた時、あやつをタベリスト同盟軍の連中は乳首野郎と呼んで蔑んだ。その時、人を乳首扱いするべきじゃないと強く反対したのは誰あろう、このわしだ。

嘘じゃない。わしは、嘘というものを知らぬ。わしは、自らの言葉の奴隷だ。いいか、わしの言葉は、王の言葉なのだ。

あの時、半開き男に味方したのは、わしともう1人、サントラ王だけだ。わしは根っから良い人間だが、サントラ王もなかなか良い人間だ。サントラも良い。サントラもいいぞ!

そう言えば韓国から来た少年も、強そうに見えないからという理不尽な理由で、タベリスト同盟の連中は乳首呼ばわりしようとした。それを説得して止めたのも、このわしだ。人は人であって乳首ではないのだと諭してやった。

踊る医者がいる病院の看護師まで乳首呼ばわりするタベリスト同盟の連中は、まったく酷いもんだ。残念なことだ。なんとも、つくづく残念だ。酒を注げ。

サロメ、こっちへ来て、わしと一緒に少し飲まぬか。ゴンベ王の寝室から無断で拝借した、上等の酒だ。その赤い、小さな口唇をほんの少し潤すだけでいい。その後で、わしのここを踏んでくれ。

ディープ国のパープリン王子はやたら身体を鍛えておったが、あれはお前に踏まれても壊れない肉体を得るためだ。だが、そんな身体を踏んでも面白くないであろう?

ゴンベ王は酔いつぶれ、ヤマリン王はつんく国のモーニング娘に気を取られている。いま踏んで面白いのは、このわしだけだ。

おおっ! そうか、踏む気になったか! 月を見ろ! 赤くなったぞ! まるで乳首のように赤くなった。月が乳首のように赤くなった。そなたには見えぬのか? 果物を持って来い!

おお! お前は裸足で踏もうというのか。それはいい! いいぞ! お前の可愛い足は、きっと白い鳩のようであろう。素晴らしい、素晴らしいぞ! ……あっ! いかん。あれは、乳首の上で踏むことになってしまう! 床一面、乳首だらけだ。まったく不吉な前兆だ。

ん、何が欲しいんだった? 分からん。ああ! ああ! 思い出したぞ! わしは新国立劇場でお前を観るより前に、布施の商店街で踊るお前を、間近で見たのだった! あの時、わしはお前に声を掛けたのだぞ? 憶えておらぬのか?

お前は驚いた顔をしてわしを見ながら、黙って通り過ぎたではないか。わしは嬉しかったぞ? 嬉しかったのだ、お前に放置されて。踏まれる以上に嬉しかったのだ。

お前の周りは変態だらけだ。わしを除いてな。変態どもは、お前に蹴られたり踏まれたり放置されたりしたくて、お前に声を掛けて来る。その時にお前は決して「は~い」なんて、返事するべきではない。は~い、なんて。特にパープリン王子にはな!

「おお、淫婦よ! 娼婦よ! 愚かなハリソンよ! さっさと本題に入るがよい!」

ん? なに? なんだと? わしはハリソンではないぞ? 淫婦でもない。ヘロデだ。王様だ。ハリソンは高貴な男だ。「ふ、踏んでくれ」などと情けない事は言わん。たまに「す、吸ってくれ」とは言うが。

誰なんだ、お前さんは? なに? ヨカナーン? おおっ、そうか。お前がヨカナーンか。いつから其処におったのだ? ん? 最初からいた? それは気づかなんだぞ。最初からずっと、そんな風に首を洗って待っていたのか?

すまないが、姫はもう、お前の首には興味が無いらしい。今は捨蔵の乳首に夢中なのだ。本題に、とはどういう意味だ? ん? おおっ、そうか! そうだったな! 多部未華子の舞台について、わしは語るつもりだったのだ!

よし、語るぞ。大いに語り尽くすぞ! あの日、わしは新宿で…… あっ! 滑った! 滑ったぞ! 乳首ではないか! なぜここに乳首がある? 床一面、乳首だらけだぞ!?

(つづく)
 

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