ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『サロメ』―2

2018-09-16 05:55:06 | 多部未華子





 
滑った! 滑ったぞ、乳首ではないか! 悪い前兆だ。とても悪い前兆だぞ、これは。なぜここに乳首がある? その乳首は? なんでそんなところにまで乳首がある?

お前たちは、わしを、宵を催す度に、客人に乳首を見せねば気が済まぬ変態と勘違いしておるのか? わしは違うぞ。わしは断じて変態ではない。サロメ、早くここを踏んでくれ。

「あの日、新宿で…と仰いましたわね。新宿のどこへいらしたのかしら?」

ん? 何だって? 新宿のどこへだと? 新宿と言えば二丁目に決まっておるわ。誰だ、そんな分かりきった事を聞く愚かも… たわらば!? ヘロヘロヘロ、ヘロディア!? なぜ此処にいる!? ヘロディア、我が妻よ、我が王妃よ!

そなたは今、新宿と言ったのか? 新宿とは何のことだ? 地名なのか? 分からん。新宿など知らん。わしは新宿へなど一度も行ったことが無い。行ったかも知れないが、憶えておらんのだ。

わしが行ったのは、三つの県境にある大きな橋だ。ナベ卿に案内されて、タベリスト同盟の変態どもと一緒に橋を観に行った。正確に言えば、橋から見える風景を観に行った。とっておきの場所だ。

もっと正確に言えば、かつてサロメが座った場所に座るために行った。全員、1人残らず変態だからな。姫が尻をついたのと同じ場所に、その汚いケツを代わり番こに下ろしたのだ。鉄板だから太陽熱でケツが焼けそうになったわ!

証拠もあるぞ? 見ろ、ナベ卿が撮ってくれた写真だ。ヤマリン王、ゴンベ王、ディープ国のパープリン王子、そしてこのわしが写っておろう? 後ろ姿だが、間違いなくわしらだ。

なに? 4人とも後頭部が不自然だと? 言うな! それを言うでない! そなたにはナベ卿の思いやりが解らぬのか? それぞれが歳相応に変化しておるのだ。わし以外はな。

他にも、爽やかで出来た男と姫が出逢った学舎や墓地にも行った。駅も回ったぞ。新宿などとは違う、小さな駅だ。かつてサロメがアオチン姫に手を振ったホームで、わしらも同じように手を振った。変態そのものだ。

極めつけは川越だ。パパ卿に案内されて、変態4人が老体に鞭打って自転車を漕ぎ、汗だくになって町中を駆け巡ったのだ。死ぬかと思ったぞ。だが楽しかった。かけがえの無い思い出になった。ナベ卿とパパ卿には足を向けて寝ることは出来んのだ。

そんなワケで、わしは新宿へなど行っておらん。行っている暇などあるものか。新宿を去る者は、新宿を失う。それにカエサルは、わしの敵であるカッパドキアの王を、新宿に呼びつけることを約束してくれたのだ。あやつめ、新宿で身ぐるみ剥がされるかもしれぬ。つまり、いいか、彼こそが主なのだ。

「主は、来られた! 人の子は、来られた! 時は来た! ハリソンよ、さっさと本題に入れ!」

なんだ、ヨカナーン。まだ其処におったのか? お前はその貧弱な乳首でも洗っておれ。それに、わしはハリソンではない。ヘロデだ。王様だ。しかしハリソンは、素晴らしい男だ。まったく、ハリソンというのは、非の打ち所がないな。

おお! おお! 酒だ! わしは喉が渇いた。サロメ、サロメ、仲直りをしようではないか。とにかく、わかるであろう、……その、何を言おうとしてた? ん、何だった? ああ! 思い出した!

わしはあの日、新宿でプレイした後で、タベリスト同盟の連中と初めて顔を合わせたのだ。最初に、わしが新国立劇場の表で靴ひもを結んでいると、ゴンベ王が酒を呑みながら声を掛けて来た。

そしてイギリスのロックミュージシャンみたいな出で立ちをした、ちょっと若返った石橋蓮司が歩いて来たと思ったら、それがヤマリン王だった。

ディープ国のパープリン王子は、開演ギリギリまで身体を鍛えていたらしい。いつ何時、お前に踏んでもらえる機会が訪れるか分からないからな。

そうして変態4人組が集結し、なんと最前列で多部未華子の舞台を観ることが出来たのだ。すべてヤマリン王のお陰だ。初めて多部姫の舞台を観るわしは、たいそう緊張しながら隣を見たら、ゴンベ王が酒を呑んでいた。

舞台と客席の間は深い堀になっており、水が張ってあった。そこは地下の牢獄という設定で、開演前から成河という男がウロウロと歩きながら、観客に乳首を見せびらかしていた。

とにかく、奥田瑛二という役者が素晴らしかったな。いや、奥田瑛二の演じた役こそが素晴らしかった! あれは、男の中の男だ。世界一、いや、宇宙一の英雄だ。その妻を演じた麻実れいの存在感も凄かったぞ。他を圧倒しておった。

だが、なんと言っても輝いていたのは、多部未華子だ。よく通る美しい声、小さい身体で舞台中を駆け回る躍動感。延々と続く長台詞も淀みなくこなし、なんと危なげが無かった事か!

そして、純粋無垢な処女の清らかさと、淫靡な血を受け継いだ小悪魔の妖しさを同時に表現出来る才能は、演出の宮本亜門にして天才と言わしめた、多部姫ならではの本能的なものだ。

そんな多部姫が、わしら変態4人組の目の前まで迫って来た時、彼女は全身ずぶ濡れだったのだぞ? あの多部ちゃんが、未華子が、びしょびしょの濡れ濡れの状態で、しばらくわしらの目の前に立っておったのだ!

濡れている未華子を目の前にして、わしは一体どんな顔をして良いのやら分からず、目のやり場に困って隣を見たら、ゴンベ王が酒を呑んでいた。

(つづく)

 

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