1989年12月から’90年3月にかけて全15話が放映された、フジテレビ系列の刑事ドラマです。
放映枠は土曜夜8時、なんと『オレたちひょうきん族』の後番組です。フジテレビがフィルム撮りのアクションドラマに取り組むのは8年ぶりだったそうで(そして恐らく最後の作品)、勢いがあった当時のフジらしい大胆な編成ですね。
先行の『あきれた刑事』も『ベイシティ刑事』も『ゴリラ/警視庁捜査第8班』も視聴率は振るわず、その一方で人情系の『はぐれ刑事純情派』がヒットしてしまい、アクション系のドラマが枯れ果てつつある時期での登場ですから、私も含めて好き者どもは大注目でした。
しかも『スケバン刑事』出身の南野陽子と『太陽にほえろ!』出身の萩原健一がダブル主演!って事ですからね。
人気絶頂でありつつ相当なバッシングも受けてた当時のナンノさんは、初めての正統な刑事役だったし、ショーケンさんも「マカロニ」が殉職して以来17年ぶりの刑事役でした。
横浜・港街署に新設された「失踪人課」の、トラブルメーカーな課長=沖田淳一(部下たちは『代表』と呼ぶ)がショーケンさんで、トラブルメーカーな新米刑事=美咲令子がナンノさん。
さらに、まだカンチ君も青島刑事も演じてない新人時代の織田裕二、同じくデビューして間もない宍戸 開がイキのいい若手刑事として加わります。
ほか、沖田をフォローする署長に橋爪 功、目の敵にする刑事課課長に伊武雅刀、情報屋に寺田 農といった面子。あの頃はみんな若かった!
ちなみに第1話のゲストは又野誠治さん(マカロニとブルースの競演!)と相楽晴子さん(スケバン刑事コンビ再共演!)でした。
メインライターは『太陽~』出身の大川俊道さん。そして銃器特殊効果で『あぶない刑事』『ベイシティ刑事』のBIG SHOTさんが参加されてます。
横浜が舞台のアクション物と言えば『プロハンター』『あぶない刑事』等のセントラル・アーツ作品を連想しますが、本作はキティ・フィルム社の制作。セントラルの作品は作風が自由奔放すぎて、私の生理にはイマイチ合いません。その点、本作はユーモアを交えながらも決して脱線しないのが心地良いです。この辺りは人によって感じ方が違うと思いますが……
もしかすると一般的な眼で観れば本作は、シリアスさも弾けっぷりも適度に足らない、中途半端な印象だったかも知れません。視聴率は振るわず、途中からうじきつよし氏が投入される等のテコ入れがありました。
廃れつつあったアクション撮影にも手を抜かない姿勢や、マニアックな銃器描写はコアなファンの間で高く評価されたものの、大方の視聴者にはイマイチ響かなかった。
’80年代後半になってから『リーサル・ウェポン』や『ダイ・ハード』等、戦争映画並みに派手でリアルなアクションを取り入れた刑事物のアメリカ映画がヒットして、更にレンタルビデオが普及した影響もあって、視聴者の眼が肥えちゃったのかも知れません。
と同時にお笑いブームも経て、軽いノリやユーモアに対するハードルも上がった事でしょう。リアリティへの要求も厳しくなって、それまで通じてた作劇上の嘘も許されない空気になってたような気がします。
『あいつがトラブル』にせよ『ゴリラ』にせよ、生まれた時代が違ってたら、世間の評価もまた違ってたかも知れません。つくづく、ヒット作を生み出すってのは本当に難しい!
ところで今あらためて観ると、やっぱ南野陽子って人は可愛いです。自慢の髪をバッサリ切ったのはショーケンさんに勧められての事らしく、ご本人は後悔されてたみたいだけど、ショートカット好きの私としては萌えましたw
ショーケンさんが演じる「代表」こと沖田淳一は、「マカロニ」こと早見淳が殉職しないで、やがて管理職に就いたとしたら?っていう発想から生まれたキャラクターなんだそうです。
だから組織のしがらみやルールをたびたび無視して突っ走る困った上司で、名うてのトラブルメーカーである筈のナンノさんはじめ、若手らが逆に翻弄されちゃう場面もよく見られました。
それこそが本作の肝だと思うんだけど、トラブルメーカーどうしが互いにトラブルの起こし合いっこしてるみたいな様が、視聴者にはあまりにバカバカしい空騒ぎに見えちゃったのかも知れません。
それに『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』の頃の若いショーケンさんが演じる八方破れと、中年になったショーケンさんが演じるそれとは、やっぱ観る側の感じ方も違って来ちゃいます。
若い頃のショーケンさんは、どんなに突っ張って見せても少年の可愛さがあって、何となく儚さや切なさまで感じさせたもんだけど、中年になっちゃうと単なる怖いオジサンにしか見えないんですよねw(あくまで私感です)
黒澤映画に出た辺りからの「萩原健一」と、それ以前の「ショーケン」とは全くの別人である、みたいに表現されてた方がおられたけど、言い得て妙だと思います。
織田裕二さんはまだ無色な感じで、がむしゃらな芝居に好感が持てます。センスの点じゃ遠く及ばないものの、マカロニ刑事を彷彿させてくれます。
そのせいか、服装や小道具などのディテールにこだわる織田さんにショーケンさんが茶々を入れてからかい、一触即発のピリピリ感が撮影現場にあったんだとか。それを間に入ってなだめてたのが、世間からワガママ女優としてバッシングされてたナンノさんだと言うんだから、なかなかイイ話ではないですか。
なお、犯人役あるいはチョイ役で出演されたゲスト俳優陣の中には、内藤剛志、今井雅之、宇梶剛士、豊川悦司、萩原聖人、渡部篤郎、椎名桔平etcと、その後のTVドラマ界を支えて行く実力派が多数含まれてます。
あと『あいつがトラブル』っていうタイトルは、失踪人課はトラブルメーカー揃いなんだけど、当人達は自分がトラブルの元ではなく「あいつがトラブルなんだ」ってお互いに思ってる……てな意味だそうです。
現在なら『TROUBLE/警視庁特別失踪人課』みたいに無個性なタイトルになっちゃうだろうと思います。今どきのドラマ制作者さん達も、これ位は捻ったものを考えて頂きたいもんです。
もしgoogooさんが私と同世代の方だとすれば、社会人になったばかりでしんどい時期だったかも知れませんね。